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あなたが食べてる中国「汚染野菜」 業者が悪質手口を実名告白 あぶない品目リスト付き

「週刊文春」編集部

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山東省の玉ネギ畑に農薬をまく農家
山東省の玉ネギ畑に農薬をまく農家

 かつて“毒菜”と呼ばれた中国からの輸入野菜。今も中国野菜はわが国の輸入量の過半数を占めている。残留農薬、カビ毒……現在の状況はどうか。取材の先に見えたのは相変わらず違反を繰り返す中国企業の巧妙な手口。あなたが口にする中国野菜は本当に大丈夫か。

「一昨年の11月、国内の取引先の1社が、中国企業から納入したニンジン80ケースを開けたんです。すると、ネズミがかじって黒く変色したものや、ビニール片、髪の毛のようなゴミが入っていた。現地農家と栽培契約した野菜を入れていたら、こんな品質の野菜が、検疫をすり抜けて日本に来ることはありません。

 私は輸出した中国企業をよく知っていますが、品質の悪い野菜を日本へ入れる行為は許せない」

ネズミがかじり、異物の混入したニンジン。後ろは中国側の検疫書類の例
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 そう怒りを込めて語るのは、20年以上、中国産野菜の輸入を手がける食品会社「LIU」(長崎県)の伊藤龍行社長(59)だ。

 2000年代初頭、「中国野菜の47%に残留農薬」というショッキングな報道がされ、「毒菜(ドクチョイ)」とまで呼ばれた。

 それゆえ日本人は中国産野菜の品質に敏感だが、現在の状況はどうなのか。

 今も、日本に輸入される中国野菜は多い。

 日本は、国内で消費される野菜の、おおむね2割を輸入に頼っている。農林水産省の統計によれば、輸入野菜(生鮮、冷凍)の総量は約1800万トン(19年)。うち約998万トンが中国産で、数量ベースで53.4%のシェアを誇る。

 ただ、違反も後を絶たない。

 日本に輸入される食品は、食品衛生法に基づいて検疫検査され、基準を超える残留農薬やカビ毒が検出されれば「積戻し」や「全量廃棄」などの処分を受ける。野菜・豆類について、過去3年間の中国産の違反は232件。第1位である。

 下の表をご覧いただきたい。厚労省の「輸入食品違反事例」をもとに過去3年間の中国産野菜の違反事例を集計。違反が多かった上位10品目について、使用される代表的なメニューや商品、違反企業の名をまとめたものだ。

 

 最近はどんな野菜で違反が多いのか。昨年にかぎると、最も多かったのが、「生鮮玉ネギ」と「生鮮ニンジン」で、共に11件あった。

 

 

伊藤社長が語る。

「昨年は日本の天候不順の影響で、価格が上昇した国産野菜が多かったのですが、そのひとつがニンジンです。もともと流通する8割が国産ですが、豪雨だった昨年7月は国産の値段が平年の2倍に跳ね上がりました。

 弁当の煮物やスーパーのお惣菜のかき揚げ、カットサラダ、外食チェーンのスープに使う出汁、サラダなど、業務用のニンジンは安価な中国産を使うことが多いので、需要が高まった。

 輸出する中国企業も、急に日本から通常より多いニンジンを求められ、農薬管理をきちんとしている契約栽培農家以外の野菜を入れてしまった結果、検疫で引っかかったのです」

 だが、この表は氷山の一角である可能性が高い。そもそも食品輸入の際、検疫所で無作為に行われる「モニタリング検査」の対象はごく一部にすぎないのだ。食品問題に詳しいジャーナリストの小倉正行氏が指摘する。

「日本の検疫所における輸入食品の検査率は8.5%にすぎません。9割以上は検査を受けず、国内へ流通しているのです」

 だが本来、日本への輸出権を持つような中国企業は、現地の生産農家と使用する農薬の量などを決め、栽培契約を結ぶ。輸出の際は中国の検疫所で積荷の検査も行っているはずである。

 にもかかわらず、日本側での検査で違反が発覚する事例が後を絶たない。

 そこには“検査逃れ”の手口が隠されている。伊藤社長が解説する。

「ニンジンや玉ネギなどを輸出する際、積荷を入れるコンテナの奥に、契約していない農家から集めた、農薬管理していない品質の悪い商品を並べます。そして、コンテナの入口付近には契約業者の質の良い商品を置いておく。中国から輸出する際、検疫でチェックするのは入口近くにある商品なので、それで検査をくぐり抜けることができるのです」

 伊藤社長はこの手口を、山東省の「濰坊得潤食品有限公司」(以下、得潤食品)という中国企業から直接聞いたという。冒頭の、ネズミがかじったニンジンを輸出した企業である。

 検査逃れの手法だけではない。今回の取材で明らかになったのは、中国側や日本側で違反した中国企業が、会社の名前を変え、問題のある野菜の輸出を繰り返している実態である。

社名を変えて、また基準超え

 得潤食品はその典型だ。

 同社のHPには「専門生鮮野菜栽培、加工、輸出企業」とある。代表者は張明興氏。所在地は山東省濰坊市安丘市。取扱商品は、玉ネギ、ショウガ、ゴボウなどで、年間輸出量は6万トン。職員は300人を超え、2つの生産加工工場と中国各地に栽培基地を持つと記載されている。

 

「安丘市の公表資料では、輸出額は約20億円。同市第3位の大手企業です」(中国の食品会社社長)

 伊藤社長は、この会社と11年から取引をしていたが、やがて同社の送り出す野菜の品質に疑問を持ち、決別に至った。

「得潤食品は、以前は『金馬食品有限公司』という会社でした。08年にネギで違反を繰り返し、中国当局から輸出停止の処分を下されました」(伊藤社長)

 08年の違反理由は、生鮮白ネギの「登録地以外での原料生産」。中国では、あらかじめ登録した場所で生産物を管理する制度があり、それ以外の場所で作る場合は新たに申告しないと違反になるのである。

 

「そこで張氏は、その年に金馬食品を閉鎖し、得潤食品に吸収させたのです。そして今も玉ネギやニンジン、ショウガなどを日本の大手外食チェーンやスーパーへ卸している」

 なぜ別の会社にしたのか。中国では、違反事例が出ると、その会社に対し輸出の際の検査が厳しくなる。そのため会社の名前を変えたり、あるいは関連会社を使って商品を輸出する手口があるという。いわば“社名ロンダリング”だ。

 問題は、得潤食品に名を変えてからも、15年に日本側で、生鮮玉ネギから基準値を超える残留農薬が検出されたことだ。

 中国産玉ネギは大手牛丼チェーンの牛丼の具やファミレスのオニオンサラダ、レトルト食品のカレーやハンバーグなどに使われる。ニンジンは、サラダやスープの出汁を取るために使用され、筑前煮など弁当にも入っている。甘味も強いので野菜ジュースにもよく使われる。

 どれも、普段から我々がよく食べている商品だ。

 張氏には、得潤食品以外にも、役員や株主として入っている食品会社が7社ある。その中のひとつが福建省の「漳浦县丰瑞园蔬菜有限公司」(ハーベストガーデン)だ。張氏は同社の役員であり、株も25%保有している。

 だが、昨年、この会社が日本に輸出した17トンの生鮮ニンジンからもまた、基準値の10倍の「トリアジメノール」が検出され、一部が流通した。

 トリアジメノールは野菜の病気を防ぐ、含窒素系農薬と呼ばれる殺菌剤だ。食品の残留農薬検査などを行う「食環境衛生研究所」の岸田拓也氏が解説する。

「ニンジンのトリアジメノール残留基準値が0.1ppmなので、10倍だと1ppm。1回食べた程度では問題ありませんが、日常的に口に入ると健康への影響が懸念されるでしょう」

“ロンダリング”の事例は、他にもある。

 18年に、玉ネギで4回違反した山東省青島の食品企業「夢興諾食品有限公司」。今年になって江蘇省の別工場が、「塩蔵レンコン」で違反している。つまり、別の地域から輸出したのだ。

 同社の仕入れ担当者に訊くと、こう答えた。

「18年は確かに問題があったが、(同時期なので)1回だけだと認識している。原因は仕入れの際にきちんと検査しなかったから。その後はきちんとしている。今年も(レンコンで)あったが、工場の従業員が誤って不純なものを入れたから」

 以前、違反があったから別の省から輸出したのか、と問うと、「他の会社はしているかもしれないが、うちは(それを意図しては)やっていない」。

張社長はどう答えるか

 違反事例を追っていくと、違反を複数回繰り返す企業の中には、別会社を持っていて、そこでも違反事例のある会社が山東省で3社、遼寧省で1社見つかった。得潤食品のような事例は氷山の一角でしかなく、中国側も輸出が止まらないように画策しているのだ。

得潤食品の段ボール箱

 得潤食品の張社長を電話で直撃した。

――19年にビニール片や動物が齧ったニンジンを日本へ納入した?

「我々の商品は品質がすべて素晴らしく、顧客の好評を得ていました。あなたが言っていることなんて一切起こっていません」

――08年に「金馬食品」を閉鎖したのは、違反を繰り返したから?

「ネギはもともと管理が難しかったのです。それで我々はネギをやめて、玉ネギに変えたのです。ネギの残留農薬基準を超えた業者はいっぱいあります。社名は、食品を扱う会社としてあまりよくないという顧客の意見があり、変えただけ」

――15年に玉ネギで違反。あなたが役員を務めるハーベストガーデン社のニンジンからも、基準値を10倍も超えた違反が出た。

「そんなことはありません。事実ではありません。我々を中傷しようとする人間は何も知らないんだ!」

――違反したら別の会社で商品を輸出させている?

「何の違反もしていない。あなたが言ったやり方とは何も関係ない!」

――コンテナの奥に質の悪い商品を並べて検査をくぐり抜けている?

「そのようなデマを流した人物こそ、そういう手口をしている。でたらめな密告者の嘘ばかり信じている」

 電話を切った直後、再び入電があり、

「先ほどは怒ってすいません。競争が激しいから足を引っ張る人間がいるのです」

 と言った張社長。後日、ハーベストガーデン社に電話すると、社長が得潤食品との資本関係は認めた上で、違反は「うちは関係ない」と答えた。だがその後、同社のHPは閲覧できなくなってしまった。

 中国に悪質な企業が存在し、水際での検査も限定的である以上、彼らの送り出す野菜が日本国内に流通する可能性は常にある。

 それらは、どんな形で我々の口に入るのか。

 過去3年で最も違反の多かった野菜は玉ネギだが、2位はブロッコリーだ。

 最大の輸入国は米国で78%のシェアを誇る。対して中国産は約8%だが、昨年の違反は10件。違反理由は農薬「プロシミドン」の検出。作物の病気や予防に効果のある殺菌剤だ。

「業務用スーパーなどで売られる冷凍ブロッコリーや外食チェーンでハンバーグやステーキの付け合わせに使われます。ファミレスのサラダバーなどにも使われます」(輸入食品会社役員)

 本誌記者が3年前、取材先の山東省寿光市の市場で目撃したのは、濡れた地面に無造作に置かれたブロッコリー。商品の野菜に腰かけた作業員が、トラックに積み込んでいた。

記者が目撃した出荷前のブロッコリー(山東省・2018年)

 ブロッコリーは「大腸菌」の検出も多く、不衛生な環境で扱われた結果、細菌が繁殖するケースもあった。

 ショウガも違反が多かった食材だ。代表的な商品は、うどんチェーンの無料のおろしショウガだ。回転寿司チェーンのガリも中国産のことが多いという。

「牛丼チェーンのお持ち帰り用の紅ショウガも中国産です。小さな袋に入れるのは手作業。容器に入れられ、カウンターに置いてあるものは国産を使っているお店もある。回転寿司のガリは、ショウガの値段が高くなると、中国産の安い大根を混ぜる。甘酢につけると区別はつきません」(回転寿司チェーン関係者)

 違反理由の多くは「チアメトキサム」の残留。これは、ネオニコチノイド系農薬と呼ばれる殺虫剤だ。

「神経に作用する農薬で、主に昆虫の神経伝達をかく乱することで殺虫効果をもちます」(岸田氏)

 ヒトには毒性が低いといわれる一方、フランスでは禁止されている。

「最強の発がん物質」も検出

 チアメトキサムは玉ネギの違反事例でも検出されている。中国の食品会社輸出担当者が明かす。

「チアメトキサムを玉ネギに散布すると、皮が変色しないのです。だから、中国の農家はよく使います」

 他の農薬だと、皮が黄色く変色する場合もあり、少しでも出荷量を増やすために多く撒くという。

「ニンニクの茎」は日本では「ニンニクの芽」と呼ばれる。国産のニンニクは「福地ホワイト」が代表品種で、茎が生えないため、中国からの輸入に頼っている。代表的なメニューは「肉とニンニクの芽炒め」だ。スーパーの総菜売り場でもよく見かける。

 過去3年の違反事例で最も目立つのは、厳密には野菜ではないが、落花生や炒ったピーナッツといった豆類だ。過去3年の違反は合計で50回と断トツ。

 

 スーパーに置かれているバターピーナッツなど安価な菓子のピーナッツは、大半が中国産だ。

 違反理由の大半は、「アフラトキシン」の検出。これはカビ毒の一種で「最強の発がん物質」とも呼ばれる猛毒だ。千葉大学真菌医学研究センターの亀井克彦教授が解説する。

「このカビで食品が汚染された場合、一番怖いのは、食べ続けると肝臓がんになる恐れがあることです」

 11年から今年まで、計9回アフラトキシンで違反した山東省の輸出会社社長はこう語る。

「うちは30年以上、日本へ輸出を続けているが、ある程度カビは出てしまうのです。200万元かけて日本製の検査機器を4台導入したが、防ぎきれない場合がある」

 前出の伊藤社長が嘆く。

「私は中国出身で、1984年に来日。その後、生鮮野菜の業界で働き、日本に帰化しました。08年の“毒餃子”のような事件もあって、この10年以上、中国の食品に対するイメージが悪い。ちゃんと農薬管理をした商品を日本に輸入すれば、みんなが応援してくれるのに。真面目にやれ、と言いたいのです」

 検査数の少なさに、巧妙な輸入の手口。“毒菜”は今も日本を跋扈している。ではどうすればいいのか。前出の小倉氏は指摘する。

「検疫所の検査官を今の422人から3000人程度に増やすことです。そうすれば、検査率が50%くらいにはなるでしょう。日本人は食の安全への関心が高いですから、検疫体制の問題にも、もっと声を上げるべきではないでしょうか」

 汚染野菜を日本に送り込む業者がいる以上、今は水際でせき止めるしかない。

中国の習近平国家主席

source : 週刊文春 2021年6月17日号

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