やはり仮想現実でも俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:鮑旭
第53層。主街区。風の街《ルーラン》
フロアの外縁から北へと伸びる長大な3つの山稜が一点に交わり、一際高くなった峰にその街は存在する。風の街という名の通り、頑強な石造りの街壁の上には何の用途なのかよくわからない巨大な風車がいくつも配置してあり、西からの風を受けて悠然とその羽を廻らせていた。
フロア全体が山岳地帯と渓谷からなるこの第53層には常に嵐のように風が吹き荒んでいたが、プレイヤーに対するプログラマーたちの配慮なのか、街の中では緩やかな風が頬を撫ぜるだけだ。しかしそれでも2月も下旬に差し掛かったこの寒空の下では地味に体に堪える。こんな日は家に引きこもって炬燵でぬくぬくと撮り溜めたプリキュアでも視聴して過ごすに限るのだが……と、そんなふざけた妄想をしつつ、広場のベンチに1人腰掛けていた俺はコートの襟に首を埋める。
時刻は午後4時過ぎ。いつもよりかなり早い時間だが、今日はアイテムの消費が予想以上に早かったために俺とキリトの2人はフロアの探索を切り上げて街に戻ってきていた。ジャンケンに負けたキリトに消耗品の補充を押し付け、特にすることもなかった俺は宿でのんびりと過ごそうかと思っていたのだが、そんな矢先にある人物から呼び出しを受けたのだった。
具体的な用件は聞いていない。受け取ったメッセージには「本日午後4時15分。第53層。ルーランの街の中央広場」とだけ書いてあった。あまりに雑すぎる呼び出しに正直シカトしてやろうかとも思ったのだが「無視したらハチの黒歴史を全プレイヤーに向けて暴露するヨ」と追加でメッセージが届いたのでそういう訳にもいかなかった。ていうか何でこいつ俺の黒歴史知ってるの? ストーカーなの? つーかそもそもいつもだったらまだ迷宮探索してる時間帯なのに、よくこのピンポイントに暇なタイミングで連絡取ってきたよなこいつ……。ちょっとストーカー説が現実味を帯びて来た気がする。
そんな益体もないことを考えながら、俺は手に持った茶色の紙袋を開く。入っているのは白い湯気を立ち昇らせた熱々の中華まんだ。小腹の空いた俺が先ほどそこの露店で購入したもので、最近は時節的にも温かいものが欲しくなってよく買い食いをしている。直径20センチにも達する巨大な肉まんで価格も安く、コスパは中々だ。
巨大中華まんを紙袋から取り出し、一口頬張る。大味で如何にもなB級グルメだが、それがいい。ジャンクフードって定期的に食べたくなるよな。これでマッ缶もあれば最高なんだけど……。
そんな感想を抱きつつ、俺はもさもさとそれを咀嚼して飲み下す。そして広場を行き交うプレイヤーたちを何とはなしに観察しながらさらに二口目を頬張ろうとした俺だったが、不意に背後に人の気配を感じて手を止めた。振り返ると、冬仕様なのかいつもより若干もこもこしたブラウンのフードケープに身を包んだそいつと視線が交わる。
「不景気そうな顔してるナ。目が死んでるゾ、ハチ」
「……ほっとけ。目はデフォルトだ」
どこかコミカルなマスコットキャラクターのような雰囲気を纏いつつも、よく見ると端正な容姿が目を引く小柄な女プレイヤー。両頬にペイントされた鼠のような3本髭が特徴の情報屋《鼠のアルゴ》がそこに立っていた。今日の俺の待ち合わせの相手である。
こちらの軽口にアルゴは「確かにナ」とくつくつ笑いながら頷くと、俺と背中を合わせるように背後に立った。……いや、納得されちゃうのもちょっと悲しいんですけど。
「つーか何だよこの位置取り。後ろに立たれると落ち着かないんだけど……」
「人混みの中で背中越しにやり取りトカ、プロっぽくてチョット憧れないカ?」
「わからんでもないが、ゴルゴ相手だったら殺されてるぞ」
まあ確かにスパイ映画とかでたまにそういう演出あるよな。周りに関係を悟られないようにという配慮なんだろうが、逆にあれって凄い怪しく見える気がするのは俺だけなんだろうか。
「……で、わざわざ呼び出したってことは、何かわかったのか?」
「まあ、そう急かすなヨ。せっかちな男は嫌われるヨ」
ふざけたやり取りから一転、俺は真面目な表情を作って問いかけた。しかしそれをはぐらかすようにアルゴは再び軽口を返す。
今日の呼び出しに関する具体的な話は何も聞いていなかったが、俺は何となく用件について当たりが付いていた。あの事件から4ヵ月、継続してアルゴに出し続けていた依頼である。場合によっては、それはゲーム攻略よりも優先して解決に当たらなければいけない問題であると俺は認識している。
「お、ウマそうな物食べてるナ。一口くれヨ」
俺の真面目な思考を遮って、アルゴがそんなことを口走る。気付くとそいつはいつの間にか俺の背後から身を乗り出して手元の中華まんを凝視していた。下手をするとお互いの吐息のかかりそうなその距離感に俺はかなりキョドりつつも、身を捩ってそれを拒絶する。落ち着け、勘違いしてはいけない。そう自分に言い聞かせながら、俺は努めて冷静に口を開いた。
「い、いや、自分で買えばいいだろ……」
「なんだヨ。ケチ臭い奴だナ」
「否定はしないが、お前にだけは言われたくない」
「随分な言い草ダナー。オネーサン、ハチには結構サービスしてる方なんだケド――はむっ」
「んなっ!?」
会話の中、さらにこちらに身を乗り出したアルゴが俺の手にする中華まんに勝手に齧り付いた。その瞬間、女子特有の柔らかさやら甘い香りやらが俺の理性を襲う。この野郎、顔とか背とかまんま子供のくせに意外と育つところは育ちやがって――って、いや今考えるべきはそこじゃないだろ俺。
そうして突然の事態に身を強張らせる俺のことなどは意に介した様子もなく、アルゴはもぐもぐと口を動かし「まあまあダナー」などとふてぶてしく呟く。そしてそれをゆっくりと飲み込むと、次いでベンチの背もたれを飛び越して俺の隣に腰を下ろした。
こいつには恥じらいというものがないのか……。いや、多分気にしたら負けなのだろう。そう思いながら、俺は大きくため息をついて手に持った中華まんをアルゴに差し出す。
「はあ……もういい、あと全部やる」
「何ダ? 間接キスでも気にしてるのカ? 意外と初心なんだナ。オネーサンは全然気にしないヨ」
「……用がないならもう帰るぞ」
「ハチは冗談が通じないナア……」
呆れた様子でそう呟くアルゴ。いや、呆れたいのはこっちだっつーの。
5分にも満たない会話で精神力をごっそりと削られた俺は、せめてもの抵抗として心の中でそう突っ込む。もう帰りたい……。割と真面目に俺がそう思い始めた頃、受け取った中華まんに口を付けていたアルゴが、ぼそりと呟いた。
「ラフコフの尻尾を掴んダ」
その一言に、悪ふざけしていた空気から一転、俺たちの間にピリピリとした緊張が走った。頭を切り替え、俺は黙ってアルゴへと視線を送る。
ラフコフ――
エストックを携えた撃剣使い《赤目のザザ》
刀スキルによる抜刀術を得意とする《辻風のジョー》
そしてそんなメンバーたちの頂点に立つ、刺青の男《PoH》。噂によると最近では
……余談だが、噂ではPoHという名前は《Prince of Hell》の頭文字をとったものらしく、《狂皇子》というあだ名もそこから来ているとか。最近ではキリトにも《黒の剣士》とか恥ずかしい通り名がつけられてるみたいだし、この世界中二病患者多すぎるだろ。それについてキリトをからかってやろうと思ったら本人も満更でもない反応してたし……そう言えばキリトってまだ中学生だったな。うん。
話が逸れた。まあ詰まる所、俺は4ヵ月前に十字の丘で奴らに接触してから、その動向を調べるためにアルゴに依頼を出していたのだ。今日この時まで有益な情報を得ることは出来ていなかったのだが、アルゴによるとようやくその尻尾をつかんだらしい。
「やっぱり、補給とか雑用のために幾つかの下部組織が存在するみたいダ。そこから探っていけば、奴らに辿りつけるかもしれなイ」
俺が黙って視線を送っていると、こちらには目を合わせず、隣に座るアルゴは淡々とそう告げた。会話の途中で巨大な中華まんを一気に頬張りそれを平らげると、指先をぺろりと舐めながら言葉を続ける。
「それで1つ、当たりをつけてるギルドがあるんダ。でも、ここからはオレっち1人じゃちょっと手詰まり気味でネ。ハチと、それとキー坊にも、手を貸して欲しいのサ」
そこでようやく、アルゴと俺の目があった。いつもの人を食ったような笑みではなく、アルゴは至極真摯な表情を浮かべている。柄ではないなと思いつつ、対する俺も二つ返事でそれを了承したのだった。
アルゴの言う「キー坊」というのはキリトのことだ。こいつは大体の人間に対してそう言ったあだ名を勝手につけて呼んでいる。アスナは「アーちゃん」クラインは「クラ坊」とか呼ばれていたはずだ。そして何故だか俺だけ普通に名前呼びなのだが……深く考えてはいけない気がする。
アルゴがわざわざ俺たちに手を貸してほしいと言うことは、十中八九荒事に関することだろう。こいつはレベル自体は高い方だが、敏捷性極振りという偏ったステータスのせいであまり純粋な戦闘には向いていないのだ。今までにも何度か護衛などの頼みごとをされたことがあったし、今回もその類かもしれない。気乗りはしないが、元はと言えばこちらから依頼した件でもあるのだ。キリトの了解は取っていないが、まああいつが誰かの頼みを断ることはそうないだろう。
その後はキリトが帰って来るのを待って、宿でアルゴから詳しい話を聞く流れになった。……あれ、これって俺たち外で待ち合わせする意味あったの? とそんな疑問も過ったが、呼び出した張本人であるアルゴは「デート気分が味わえて得したダロ? オネーサンからのサービスダヨ」などと戯けたことをぬかしていた。そんなアルゴの台詞を適当に受け流しつつ、キリトにメッセージを送った俺たちは広場を後にしたのだった。
◆
アルゴは今、そいつらを追っているらしい。
多くの
そして件のタイタンズハンドというギルドも、主にプレイヤーからアイテムを奪うことを目的としたオレンジギルドだ。しかしこの連中はオレンジギルドの中でも過激な部類に入り、目的を達成するなら殺しも厭わないという話だった。構成メンバー8名と小規模ながら、中層で活動するプレイヤーとしてはレベルが高く、計画的な犯行で多くの被害者を出しているらしい。先日もその標的とされた《シルバーフラグス》というギルドがギルドマスターを除いて皆殺しにされたという話を聞いた。
アルゴが言うには、このタイタンズハンドのバックにラフコフが付いている可能性があるらしい。ヤンキーとヤ○ザが繋がってるみたいなものだろうか。その詳しい関係性までは俺にはわからなかったが、アルゴがそう言うのならばそうなのだろう。苦手な人種ではあるが、情報屋としてのこいつには一応信用を置いている。
「それで、あの赤い髪の女プレイヤーがそのタイタンズハンドってギルドのリーダーなのか?」
第35層《迷いの森》
その入口手前に鎮座する大きな岩の影に身を顰め、キリトがアルゴに向かってそう問いかける。俺たちの視線の先には、何やら話し込んでいる5人組のプレイヤーの姿があった。男3人、女2人のパーティだ。
おそらくフィールドダンジョンである迷いの森に入る前に、パーティ戦闘での打ち合わせでもしているのだろう。会話を交えながら、隊列などについて確認している。野良でパーティを組む時にはよくある光景だ。ちなみに野良のパーティというのは、一時的な狩りのために即席で結成されるパーティのことだ。ぼっちの俺には縁のない概念である。
キリトの言葉を受けて、俺はまじまじとその集団を観察する。3人の男のうち2人は身に着けている重そうな鎧から見て壁役だろう。緑のケープを羽織った小柄な男は見るからに軽装備で、腰には短剣を佩いていた。その隣にいる小柄な女プレイヤーも、身軽な軽装備に短剣と似たような恰好をしている。
そして残りの1人。キリトが口にした、赤髪の女プレイヤー。肩や胸などを局部的に保護する軽鎧を身に纏い、背には穂先が十字になった槍――十文字槍とか言うらしい――を担いだ典型的な中衛プレイヤーだ。鎧もインナーも腰巻のような下衣装備も全体的に黒を基調とした色合いで、結い上げた赤い髪と相まって妙な艶めかしさがある。あれは確実にビッチだな。
そんなことを考えていた俺の隣で、アルゴがキリトの問いかけに対して無言で頷く。次いで補足するように口を開いた。
「プレイヤーネームはロザリア。レベル48の槍使いダ。グリーンカーソルのアイツが野良のパーティをまわって標的を決めテ、機を見て他のギルドメンバーたちが襲うって寸法サ」
「……つまり、あいつは今獲物を物色中ってわけか」
「そうゆうことダ。だから今日すぐに行動に出るってことはないと思うケド……万が一ってこともあるからナ。その時は手筈通りに頼むヨ」
「了解」
そんなやり取りを交わし、俺は再び前方のプレイヤーたちに目を向ける。
今日俺たちがここに来た目的は、
「……ん? なあ、あの女の子の周りに飛んでるのって、もしかしてテイムモンスターか?」
何かに気付いた様子のキリトが、そんなことを口にした。その言葉につられて、俺もキリトが指差す女の子に視線を移す。先ほどはただの小柄な女プレイヤーだと思ったのだが、よく見るとまだ幼さの残る小学生くらいの女子のようだった。その年齢と性別だけでもSAOのなかでは珍しい部類に入るのだが、特に俺の目を引いたのはその周りをひらひらと浮遊するモンスターの存在だ。目測およそ全長1メートル弱の、水色の肌をした小さな飛龍型モンスター。遠目にそれをまじまじと観察していると、そいつはまるでちょっと休憩とでも言うように少女の頭へと着陸し、そこにへたり込んだ。
キリトが言っていたように、あれはテイムモンスターというものだろう。特定のモブとの遭遇時、ある一定の条件をクリアすれば超低確率で対象を
「竜使いシリカとか呼ばれてるプレイヤーダナ。中層だとちょっとした有名人で、結構な人気があるみたいダヨ」
「……まあ、あれは人気になるだろうな」
言いながら、件のプレイヤーをよくよく観察する。
淡いブラウンの頭髪、セミロングのその髪を耳の上あたりで2つ結いにし、活発な印象を与えながらもあざとく可愛らしさをアピールしている。顔もまあ小町には及ばないながらもかなりの美少女と呼べるだろう。ロリコン受けしそうな容姿だ。そして俺調べではSAOをやっているような男ゲーマーたちはその半分以上がロリコンである。それは人気も出るだろう。
一応釈明しておくと、俺はロリコンではない。……いや、ホントに。
「へェ。意外ダナ。ハチはああゆうちびっ子が好みなのカ?」
「一般論で言っただけだ。俺はシスコンだがロリコンではない」
「どっちにしろ胸張って言うようなことじゃないゾ、ソレ」
そんなやり取りを交わしていると、向こうのプレイヤーたちも事前の打ち合わせが終了したようで、ロザリアを先頭に迷いの森へと向かって歩き出した。アルゴ、キリトと視線を交わして頷き合い、俺たちは息を殺してそれに続く。
「目立つ動きをしなけりゃタブン俺っちたちの
先を歩くアルゴが、小さな声で囁く。俺たちは無言でそれに頷き、ロザリアたちを追って森の中へと足を踏み入れたのだった。
フィールドダンジョン《迷いの森》
中層に存在するものの中では、中々厄介な部類に入るダンジョンだ。それほど強力なモブが生息するわけではなく、しっかりと安全マージンが取れていればソロでも攻略可能ではあるのだが、ダンジョンのギミックがその難易度を数段跳ね上げている。
迷いの森と称されるように、この森はただの森ではない。無数に分けられたダンジョンの区画が一定時間ごとにその位置関係を変化させ、道順を変える。あるクエストの報酬品として手に入るガイドマップが無ければ迷うことは必至だ。一応道の入れ替わりには規則性があるらしいのだが、それを初見で看破出来るような奴は滅多にいないだろう。
ならばガイドマップさえあれば簡単なダンジョンなのかと言われれば、そうでもなかったりする。ガイドマップがあれば迷うことはないが、それでも1度足を踏み入れればその複雑な構造のせいですぐに出られるようなダンジョンではないし、長時間の戦いに耐えられるようなレベルと準備が必要になるのだ。
もちろん、今日俺たちは十分な準備を以ってここに訪れている。前にキリトと一緒に来た時にはガイドマップを宿に忘れたせいで1日中迷いの森を歩き回ることになったが、もう同じ轍は踏まん。あの時は冗談抜きで死ぬかと思った。
前方を歩くロザリアたちも当然入念な準備をしているようで、モブとの戦闘を繰り返しながら森の深部へと順調に歩を進めていく。俺たちの方は極力戦闘は避けながら、付かず離れずの距離でそれに付いていった。
今のところロザリアの動きに特に不審なものはなく、周りには俺たち以外にプレイヤーの存在もない。狩り自体も順調に進んでいるようだし、今日のところは特に何事もなく終わりそうだな、と俺が思い始めたころだった。
既に開始からは1時間半ほどの時間が経過していた。この狩りも中盤を過ぎたということで――集中力の問題もあるので1度の狩りは基本3時間程度、長くとも4時間程が一般的――彼らは一旦アイテム分配の話をしだしたようだった。戦利品にはすぐに使用できる消費アイテムも多いので、狩りの途中で分配の話になるのも珍しいことではない。しかし遠目にそれを伺っていると何やらトラブルが発生したようで、徐々に言い争うような会話がこちらにまで聞こえてきた。騒動の中心に居るのはロザリアと例のロリっ子ビーストテイマーのようだ。
「なーに言ってんだか。あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒールクリスタルは分配しなくていいでしょう?」
「そういう貴女こそ、ろくに前衛に出ないのにクリスタルが必要なんですかっ!」
「もちろんよ。お子ちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに、男たちが回復してくれるわけじゃないもの」
ロザリアは挑発するようにそう言いながら、長く垂れた前髪を指先で弄っている。シリカと呼ばれた少女も負けじと声を張り上げ、それに応戦していた。呼応するように少女の頭に乗った飛龍もキィキィと声を上げているが……あれって意志疎通とか出来るのだろうか。意外と高性能だ。
しかし、やはり女というのは怖い生き物だな。そんな感想を抱きながら、息を顰めてそいつらを観察する。他の男たちも剣幕な雰囲気の女2人に若干引き気味だ。それでも勇気を振り絞った男が1人場を収めようとしていたが、少女は怒気の籠った声でそれを遮る。
「わかりました、アイテムなんて要りませんっ! 貴方とはもう絶対に組まない! 私を欲しいっていうパーティは、他にも山ほどあるんですからねっ!」
そう捲し立てたロリっ子は、分配のために開いていたであろうシステムウインドウを手早く弄った。おそらくパーティから脱退しているのだろう。そしてそれを済ませると再びロザリアを睨み付け、他の男プレイヤーたちの制止を振り切って、1人歩き出す。男たちはその背中に声を掛けながらも、隣のロザリアが恐ろしいのか、追いかける奴は居なかった。
おい。これちょっと不味くないか? そう思いながら、俺はアルゴに視線を送った。目が合ったアルゴは少しだけ考える表情をした後、黙ったまま右手でキリトと自分を指さし、そのままロザリアに親指を向ける。そして次は俺のことを指差した後、さらに1人木々の間へ消えてゆくロリっ子の背中へと指を向けた。
……まあ、そう言うことだよな。さすがにこの場ではぐだぐだと話し合っている余裕もない。そう判断した俺は黙って頷いて、アルゴの指示通りに1人別行動を取り始めた少女の後を追うことになったのだった。