2021年06月05日

続 昭和20年代初頭の同人誌

 他の同人誌を見ていこう。

Osaka これは大阪鉄道同好会が発行していた「快速度」である。編集者は佐々 武氏であったり、前田一夫氏であったりする。汽車会社の寮が住所になっていたことがある。新しく作られたC62の情報が、異常に詳しく載っている。どのD52から作られたかなど、普通には分かりにくいことを詳報している。


Tsujisaka 辻阪信一郎氏のComet Roadである。これはどちらかと言うと模型を中心にしている。辻阪氏は当時三重県津市に住んでいたようだ。Sゲージを始めている。当初から、椙山氏とは親交があり、椙山氏の祝辞を兼ねたかなりの長文が掲載されている。
 辻阪氏は後に、筆者の仮住まいのすぐ近くに住まれたので、親しくお付き合いしていたが、こんな同人誌を発行していたとは知らなかった。腕の立つ鉄道模型人であった。

Kita 富山の北氏が松本正二氏を訪ねたときの様子が書かれている。この時代はまだ 35 mmゲージがあったのだ。  

2021年06月03日

昭和20年代初頭の同人誌

 椙山氏の書庫の整理をK氏と行った。

 古い海外の雑誌を約100 kg運び出した。それらの大半はすでにあるので、保存状態の良い方を博物館で並べ、良くない方は書庫に収めた。日本の雑誌の大半はすでにあり、残りは防カビ処理をして気密箱に入れた。
 
 ボロボロのファイルが見つかった。その場では判読が難しいものばかりだったが、自宅に持ち帰って明るい光の下で拡大鏡で見ると、昭和21年あたりからの、全国各地の同人誌であった。TMSの発刊前の時代に、実物、鉄道模型に関する同人誌が、全国各地でこんなにたくさんあったことなど、現代の誰も知らないことであろう。

ShiraiToyama 発行者は著名人が多く、名鉄出身で大井川鐵道副社長だった白井 昭氏、富山の北龍一氏らが、それぞれ自ら編集して発送している事がわかった。白井氏、北氏には直接お目にかかった事もあったが、このようなことは一切お話にならなかった。白井氏は、最近このブログによく登場する伊藤禮太郎氏(国鉄)とは同級生であり、伊藤氏は印刷を担当したとある。また、白井氏は伊藤剛氏の後輩で、親しかった。東京モノレールは白井氏が中心になって作られた。

Shirai2 貴重な原稿がたくさんあり、これを保存し、部分的には公開したいが、紙、インクの劣化が甚だしく、かなり難儀しそうだ。白井氏はご存命であるので、許可を得ることも可能だろう。また、このアーカイブに入れて戴くことも考えている。 

2021年06月01日

Tenshodo のレオスタット

 しばらく前に扱った天賞堂製の最高級パワーパックの記事中、Marn-o-Statと書いたが、それは誤りであった。この記事はTMS105号(1957年3月)からコピィをさせて戴いている。この(F)という執筆者が誰なのかはわからないが、的確な記事を書いている。

Tenshodo 40 Ωの”テーパーワインディング”とある。若い方は意味がわからないだろうと思うので、簡単に説明しよう。モータの回転数が低いときに細かな速度制御ができるように、そのあたりの巻線が細い。中高速域では電流が増え、大まかな調整で良いので線は太い。大抵は、3段階になっている。もうすでに過去の遺物で、現在の低電流で動かす模型には使えない。
 40 Ω とあるので、初期短絡電流は 0.3 Aだ。当時としてはかなり優秀なモータ搭載した機関車を想定していたのだろう。実際には半分近く廻して、1 A弱でスタートしたものと思われる。

 可変抵抗による電流制御であり、本来は直巻電動機の制御に適する。現在使われているマグネットモータは分巻特性であるから、電圧制御でなければうまくコントロールできない。

 この記事によると日本製のようだ。アメリカでの特許が切れているのを承知して作ったのだろうが、それにしてもよく似ている。現代なら文句を付けられそうだ。

 日本では、この種のスロットルを縦に動かす電源は、殆ど見ることがなかった。固定されたレイアウトの存在があまりにも少なかったからだろう。ともかく、このスロットルは日本のどこかに眠っているものと思う。現物を拝見したいものだ。
 taper-wound の発音は、昔のTMSで議論されていたが、正しいものがなかったように思う。 ウーンドというのは意味が違う言葉だ。windの過去分詞だからワウンドである。この件についてTMS記事を調査中だが、見つからない。お教え願いたい。 

2021年05月30日

車輛の高さを揃える

 3軸台車の客車を整備したが、背の高さがおかしいことに気が付いた。床が高いのだ。ボルスタが厚い。サイドベアラが接触するまで下げねばならない。70年前からこうなっていたらしい。 たくさんつなぐと高さの不揃いはすぐわかる。
 早速、ボルスタを沈め、他の車輛とつないで、不自然さがないことを確認した。



 120輛編成の貨物列車を動かす。おかしなところがないか、目を配る。最近は殆ど脱線しないから、機能的にまずいところはなさそうだが、外見上の欠点を探し出している。

 間違った台車をつけていないか、は大きな問題だ。最近見つけたのは、Full Cushion台車をつけているはずの貨車がBettendorfであったことだ。予備を用意してあったので、早速取り替えた。

beforeafter 次に問題となるのは貨車の高さだ。特に冷蔵車の高さは気になる。他所から来た車輛の台車を振り替えたものは、気を付けねばならない。特にアメリカの友人からお土産としてもらったものは、要注意だ。その模型の製造工場(Atlasなど)で取り付けられた台車の心皿高さは、NMRAの基準から外れているものもある。そこにLow-D化した標準台車(Athearn)を付けるものだから、高さが狂う。大抵は高くなっている。右の銀色の貨車の高さを低くした。

correct height 冷蔵車は、氷を積み込むプラットフォームの高さで高さが統一されている。1 mmでも高いとおかしい、とわかる。キングピン(台車の中心軸)のあたりをフライスで削り、低くする。大抵は0.8 mm(1/32インチ)削れば用は足りる。こうして冷蔵車数十輛の高さが揃えば壮観だ。

Hershey's 中には大幅に狂ったものもある。これはLaBelle社の木製品である。よくできたキットなのだが、背が高い。本物の図面をあたってみると2 mm以上も高いことがわかる。組んだときに連結器座の高さを誤ったので、キングピンにワッシャを噛ませて車体を持ち上げている。そうすると、許せない不揃いだ。標準より低いことはありうる。積荷が重いとか、車輪が減っているなどの場合だ。ところが高いというのはありえない。

 本当は、床を構成する骨組みの中に連結器の中心が来る設計であったのだが、図面にそれが描いてなかった。その高さになるように、Kadeeの連結器座の形にフライスで彫り込んだ。新しい刃物を使えば、すぐ終わる。連結器をエポキシ接着剤で取り付け、絶対に取れないようにする。台車を取り付けると、腰が低くて実感的である(写真は修正後)。アメリカでも、この貨車の高さは大半が間違っている。図面に正しいことが一行書いてあれば、こんなことにはならなかったはずなのだが、知らずに骨組の下面にKadeeを取り付けてしまって、具合が悪くなったのだ。よく考えてみれば、draft gear(連結器座)のボルトに剪断力が掛かるような取り付け法など、ある訳がない。連結器中心は骨組みの中にあるはずだ。


2021年05月28日

M10000 のエンジン

 M10000のエンジンはガソリン機関ではない。たまたまこの記事のシティ オブ サライナを確認していたところ、筆者は書いた覚えがないのに、ガソリンと書いてある。誰かが書き加えたのかもしれない。著者が消すことが出来ないので、訂正までに時間がかかるだろう。

 UPは意外とケチな会社で、燃料費を節約することには熱心だった。ガソリンは当時から高かった。その近辺で安いのはナフサ(精度の良くない蒸留装置で作ったガソリンに近いもの)であった。ガソリンはキャブレタで霧化蒸発させねばならないので、沸点範囲が厳しく決められていた。優秀な精留装置がないと出来なかったのだ。ナフサはかなりいい加減で、様々な沸点のものが入っていたが、価格ははるかに安かった。現在の製品で言えば、油性ペンキの薄め液のようなものだ。

 ただし、エンジンが冷えていると着火が難しく、ガソリンで着火してエンジンが温まるまで待つ必要があった。回転中に、燃料を切り替えて運転を持続する。
 ガソリンエンジンであれば、スパークプラグは1本であるが、このエンジンは4本も取り付けてある。航空エンジンは2本が標準であるが、これはその2倍である。更に電圧も2倍を掛けていたそうだ。また、燃料タンクは、起動用のガソリンもあるので2系統必要となり、面倒であった。
 当時はディーゼルエンジンの信頼性がなかったのだ。ディーゼルエンジンの信頼性が確立されたのは、1960年頃である。

 サライナは当時急速に発展中で、シカゴ以西ではかなり大きな街であった。椙山氏の話を聞いて、50年前から一度行ってみたかったところである。 3年前にその街に行ったが、穀物倉庫が並ぶ静かなところであった。 

2021年05月26日

続 UP M10000 を整備する

 走らなかった原因は、すぐ分かった。トレーラの車輪径が17.5 mmであるのに、内側軸受の軸径が4.5 mmもある。つまり、車輪径の1/4以上あるのだ。半径比の理解がない。これでは損失が多すぎる。軸を細くして、内側軸受を細く作り替えるべきだ。最大Φ3、できればΦ2にしたい。今回は牽かれるものが3輛以下だが、細ければよく走るはずである。
 たとえボールベアリングを使うとしても、径の大きなものは感心しない。グリースをかき回す損失は、バカに出来ないからだ。

 あるいは、この台車と車輪セットを捨てて、Low-Dのピヴォット軸で外側軸受にするのが、最も簡単な方法である。この台車は外側に流線型のカヴァがあるので、そこに軸受を仕込めば良い。しかし、筆者はカヴァがないほうが好きである。

power truck1 前後の動力台車は実に無駄な設計で、ドライブシャフトが中央で折れるようになっている。折れても何の利益もないが、それによって起きる不都合はたくさんある。
 一本の曲がらないドライヴ・シャフトを通しておくだけで、問題は解決する。ギヤボックスを分解すると、径の大きなウォームで、歯の切削は極めて粗い。何もかもが悪い方向に行っている。少しは考えろよ、と言いたい。しかし、考えた結果こうなったのだろう。困ったものだ。

power truck2 ギヤボックスは、反トルクで倒れるような、救いのない構造だ。作用・反作用の法則を知らないらしい。左右の傾きと同時に、前後の傾きも生じる。これでは走らないのも当たり前である。またユニヴァーサル・ジョイントの位相は、もちろん間違っている。(筆者がアジンのところに行ったのは、この発売後2,3年経った頃である。)

 分解検査の結果は、零点である。どこにも正しい部分がない。元の持ち主は怒っていた。
 実は、アジンの工場にこの列車が飾ってあったのを見た。社長にあれを譲ってくれないかと聞いてみたことがある。彼は顔をしかめて、「走らない」と言った。「じゃあ、私が直して動くようにしてあげよう。満足したら、その動力を売れば良い。」と申し出たことがある。
 その気になったようだったが、その後うやむやになった。そのチャンスが30年以上経ってから巡ってきたわけだ。

 ギヤを取り替えてトレーラの車輪を改良すれば、なめらかに走るはずだ。全ブラス製で重いから、素晴らしい惰行を見せてくれるはずである。当時、韓国には鉄道模型を嗜む人がいなかったのは、明白である。アマチュアでも、中学校の理科を100%理解していれば、こんなおかしなものは作らない。

2021年05月24日

UP M10000 を整備する

M10000 有名な列車である。剣道の面にも似た流線型の前頭部は、様々なメディア紹介された。子供向けの絵本「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」にも登場する。地上を走る飛行機として設計された。
 1935年、シカゴとその西南200マイル弱のSalinaの間に就役し、”City of Salina”として運行された。このサライナという発音は日本の鉄道趣味界では浸透していない。とれいん誌の記事などには、サリナと書いてあったのが原因だろう。ヒッチコックの映画にVertigo(日本では「めまい」として封切られた)がある。その中でKim Novak演じる女性が、出身地を聞かれて”カンサス州サライナ”と2回言う場面があった。 


UP M10000 (2)UP M10000 (1) この列車は3輛の固定編成(連接車だから当然である)である。1985年ころの韓国アジンの製品だ。極めて出来が悪い。どうするとこんな設計ができるのかわからないほど、ひどい設計である。ギヤボックスのダイキャストはヒビが入っている。いずれ粉になる運命だ。
 たったの3輛編成なのに、1台のモータでは動かず、最後尾に2台目の動力台車を付けている。前方と車輪径が異なるのに、同じモータ、ギヤ比である。要するに、ほとんどまともには動かなかったらしい。
 30年前、改良を諦めた友人から安く買い取った。塗装は彼がした。前面のグリルをアルミ色にしている。聞くと、見た車輛はアルミ色だったと言う。たくさんの写真を見ても銀色のは見つからないが、現車を見た人だから、深く追求しないことにした。

 動力を入れ替えればよく走るようにできる自信があったが、面倒で手を付けなかった。
 最近、これと同じものを手に入れた人から連絡があって、車輪を入手したいとのことである。どんな車輪が必要なのかわからないので、分解して調べている。動力車部分は36インチ、付随車は33インチだということは分かった。開けるとボロボロと壊れてくる。これはどうしょうもない模型だ。ハンダ付けが下手すぎる。車体にはあまり手を触れないようにして、下廻りを新製することにしたい 。直せそうもないのだ。

2021年05月22日

EF58の再生計画

Nickel Plated 動輪のめっきが出来た。厚い硬質ニッケルめっきだから、スティール製のレイルの上を走っても、そう簡単には剥げることはない。台枠をどうやって作るかを思案中だ。
 オリジナルのダイキャスト製軸箱は、一つも使えるものがなかった。ブラスのロストワックス鋳物に取り替える。Φ3の穴を座ぐってΦ5にし、内径 2 mmのボールベアリングを入れる。機関車であるからΦ2が限度で、細いジャーナルでは折れてしまうだろう。

 板バネは、新たにリン青銅の板から切り出す準備が整った。イコライザは正しく動くように作り直す。リンクは作り直すべきか、調べている。バネ座を正確に作らないとバネが水平にならない。できる限り機械加工して、精度を高めることにする。

 先台車上部のフレイムは、剛性を高めた設計にする。主台枠同士は連結棒で結び、ボディには引張力が掛からないようにする。すなわち、主台枠が回転すると、片方のデッキ部分が、少し中心に引き込まれることになる。
 片方の台車のセンタピン穴は長穴にする。そうしておかないと車体が引き伸ばされたり、押し込まれたりして疲労し、ハンダが外れる。列車を加減速するときの衝撃は小さくない。

 先台車は3Dプリントにする。現在のものはあまりにも出来が悪いので、直すのは断念した 。非金属製であれば、ショートから逃れられるし、梯子に当たっても問題ない。梯子はハネ上げ式にする。
 車体には床板を付けるが、ひねりが効くような構造にするアイデアがある。床上に両軸モータを取り付けて、全軸連動させる。軽いが強力な機関車になるだろう。 

 この座グリドリルはあと数本残っているので、御希望の方はコメントを通じてお知らせ願う。コメント本文にメイルアドレスを書かれたい。  

2021年05月20日

続 EF58の分解

EF58 lead weights 台車が外れたので、次は車内だ。ウェイトを取り付けている帯金を外した。その状態で車体を掴むと、凹みそうである。ウェイトは一つ 1.5 kgもある。これが各3本の 3 mmネジで車体に付いている。というよりもウェイトに車体がついていると言ったほうが正しいだろう。鉛だけで 3 kgもあるのだ。起動電流が 5 Aを超えるのも無理はない。 

 重いけれども堅いウェイトが車体に密着しているので、車体を握っても凹まない。ウェイトが構造部材となっているわけだ。これはなかなか良い方法かもしれない。ウェイトの角の凹みは、テイルライトを避けたものだ。稲葉氏は木で型を作って鉛を流し込んでいる。ウェイトの側面が直立しているのが素晴らしい。普通は上の方がすぼまってしまう。おそらく、それを経験して鋳型を上広がりにしたのであろう。鋳放しではなく、少しヤスリを掛けて、平面を出したようだ。
 3面(運転台面と左右)は暗い青に塗ってある。車内色はこの色だったのだろう。モータに当たるところはタガネで彫ってある。

 こんな重い機関車なので、ウォームは磨り減り、歯型が変形している。もう少しで丸坊主だ。鋼製のウォームを用いると同時に、ギヤボックスに入れてあれば、グリースが保たれてもう少し長持ちしたであろう。同時代に祖父江氏が作って輸出した機関車は、そうなっている。それに比べるのも酷だが、この機関車の設計者は工学的な知識がほとんど無いことが明白だ。

 とりあえず下廻りの塗料を剥がして、工法を考える。先台車の台枠は、ソリッドのT字型のものを作って銀ハンダで付けることにする。先台車で一点、台車側枠で二点の三点支持が2つできるわけだ。車体が柔かければ、側受を付けて四点支持で良いが、堅いのならば弾性支持にする。機関車の質量は1.5 kgにする。軽いから壊れにくくなる。


2021年05月18日

EF58の分解

 EF58の分解に取り掛かった。とにかく重い。5 kg以上だ。作業台にひっくり返して置くと、パンタグラフはもちろん、屋根上のモニタが潰れる可能性がある。車体は厚さ0.4mmである。本物のようにふにゃふにゃだ。

EF58 trucks (3) 横向きに置いてネジを20本ほど抜くと台車が外れた。ACモータが集電ブラシから直接配線されている。界磁のポラライズはしていない。ということは、前進のみで後退できない。おそらく、電流が大き過ぎてセレン整流器が入れられなかったのだろう。特急用であれば、それで良かったのかもしれない。台車からモータ、車輪、ギヤをひとまとめで引き抜く。

 台車の構造は全く感心しない。本物の構造を知らない人が設計している。梁に相当する部分の剛性が全く足らない。重い車体が載っているのだから、かなり無理をしていて、台車ボルスタはすでに曲がっている。

EF58 trucks (1) 2つの台車も結合していないから、牽引力は車体を介していることになる。(HO以下の模型ではそれが普通だ。)
 デッキ部分の骨は、主台枠に強固に結合していなければならないのに、上下にフラフラしている。側枠の連結器に近い方の表面にはたくさんのネジが有る。そのネジが何のためなのかを考えれば、こんなひどい設計はしない。本物はここが鋳鋼でできていて、相当の厚さがあるのだ。ところが、1 mmの板にデッキの台枠が 2 mmネジ2本で留まっているだけであるから、バネのように上下に振れるのは当然だ。写真の手前を見ると、その部分が撓むのを見越して逆反りにしているのがわかる。これではだめだ。

axle box 全体を作り替える予定であったが、側枠が意外と良い出来で、残すことにした。軸箱のダイキャストは膨れて動かない。ペンチではさむと粉砕された。ブラスのロストワックス鋳物があるから、それと振り替える。数えたら11個しかないので、一つは自作し、速度計部分とすることにした。板バネは作り替える。例のシァはそのために購入したのだ。 

2021年05月16日

四日市のクラブ

O scale (1)O scale (2) 当時Oゲージのスケールモデルは人気があり、運転会では各種の模型が走っていた。この2枚の写真は1956年8月26日の四日市工業高校での催しである。橋(伊藤禮太郎氏製作・東海道本線揖斐川橋梁)もある大規模なレイアウト(稲葉氏設計)であり、C53(益田 昌氏作)が走っているのが見える。益田氏はTTゲージを広めようとされた方だ。TMS111号に記事がある。  

 この時期のNMRC名古屋模型鉄道クラブやYRFC四日市レールファンクラブの会報を読むと、その熱気が伝わってくる。この2つのクラブは姉妹クラブで、記事原稿のやり取りをしていた。
 特に椙山氏の文章は、創作意欲を湧き立たせる、リズム感のある筆致で素晴らしい。それに答えて伊藤剛氏の軽妙な、かつ工学的な素養を含む記事が毎月発表されていた。当時のTMSを比較して読むと、4分の1近くが、この2つのクラブの会報に端を発した記事であることがわかる。

慶応三田会レイアウトOct.18,1955 YRFCの機関紙には、慶応の鉄道研究部 文蔵正弘氏からの投稿もある。先のC53を含めてかなり長い記事だ。  
 1955年10月18日三田祭におけるレイアウト(図参照)で、稲葉氏のC62、EF58による特急編成、益田氏のC53による戦前の特急編成、生川氏のモハ42編成の併走の様子などが書かれている。
 電流の事も書いてあり、C62は 2 A、EF58は 5 Aとある。C53はDCモータが2個付いているとも書いてあり、電流は 1~2 Aだそうだ。セレンは中古の3Aで、パンクを恐れて1輛ずつ運転していたが、しまいには2列車走らせても壊れなかったとある。 
 またC53は、最初は4輛しか牽かなかったが、当たりがつくと調子が良くなって7輛牽き、騒音も小さくなった。後半には電車顔負けの猛スピードで走ったとある。精度の無い歯車しかなかった時代なのだ。 

 この時代の記事を読むと分かるのは、誰もがよく走る模型を目指していたことだ。外観にこだわる人は少数であった。


2021年05月14日

続 稲葉氏の言葉

 稲葉氏は、HOには手を染めなかったらしい。Oゲージの時代が過ぎると、模型はやめてしまわれたようだ。筆者が初めて会ったのは1960年代後半で、筆者の作ったOゲージのコンソリをご覧になって、細かい批評を激励と共に戴いた。

 そのコンソリは手に入れた動輪径から計算して図面を描いて作った自由形でアメリカ型であった。椙山氏のところで見せて戴いた本の写真と図面から作った。動輪は3点支持のイコライザ懸架で先輪は復元を利かせていた。九割方出来たところで放置されていたが、引越しの際に派手に壊してしまい、処分した。板が薄くて、剛性がなかったからだ。その後の筆者が作る模型は、厚い板で構成し、十分な剛性を持たせるようになった。探せば動輪だけは見つかるはずだ。動輪やロッドは銀メッキをしたので、後には真っ黒になってしまった。銀は錆びやすいのだ。

 その時稲葉氏は、
「おや、まだOゲージの新作を見ることができるとは思わなかったな。これはいい形をしているね。椙山先生に見せたかい?彼の好きな形だ。」
と褒めてくれ、さらにこう述べた。 
「Oゲージは、模型として正しい大きさだと思う。大きさ、重さが良いのだ。Oゲージが斜陽化したのはメーカの努力が足りなかったからだ。良い製品、パーツを出してくれれば、我々も作リ続けたのだ。最近はHOが盛んになっているが、それは部屋が狭いからという制約だけから来ている。その大きさが素晴らしいというわけではないんだ。大きな部屋があれば問題はない。田舎なら土地はふんだんにある。君たちが頑張って、いつの日か再興してほしい。」

 それについては、椙山氏も同じことをおっしゃった。
「Oゲージはすばらしい模型の大きさなのですけど、今や子供の玩具(三線式)に成り下がってしまいましたね。Oゲージでスケールの車輛を作ろう、走らせようとしても、キットや部品がなくなってしまったのです。もっと素晴らしいものを提供してくれれば、我々はOゲージのままでいただろうと思いますよ。」

 その後も稲葉氏とは、椙山邸で何度もお会いしているが、模型は作っていないとのことだった。   
 その後、数十年が経った。稲葉氏の作品が走る日が近づいてきた。


2021年05月12日

稲葉氏の言葉

 稲葉氏の写真は意外と少ない。K氏のアルバムを見せて戴いたが、数枚しかない。それを複写させてもらった。

Mr.Inaba (3) この写真は1951年撮影だそうだ。左端の人が稲葉氏だ。一人おいてK氏、下の左端が椙山満氏である。右端は、東京藝大のピアノ科の先生になられたKb氏である。昨年お会いした。とてもお元気であった。博物館にいらっしゃるであろう。

Mr.Inaba (2) 稲葉氏はK氏を誘ってサイクリングによく出かけたそうで、その一コマである。遠く、熊野の方まで遠征したという。



Mr.Inaba (1) この写真は四日市のクラブでは伝説となっていた有名な場面である。日永のジュニア模型店の座敷で、Oゲージの運転会をした後、
「次回からは2線式でないと走らせない
と宣言し、中央三線式の中央線(既にこの時は銅線になっていた)を引きはがしている様子である。引きはがしている本人が稲葉氏である。後ろは伊藤禮太郎氏だ。撮影は椙山氏である。

 高校の大先輩である稲葉氏とは、よくお話をさせて戴いた。               

2021年05月10日

スシ37

Mr.Inaba's (1) もう一つの3軸台車を履いた客車は、この食堂車である。厨房付近は壁を作って見通しをなくした。石炭レンジの煙突が出ている。
 窓ガラスは全て本物のガラス板であり、稲葉氏自身がガラス切りで切っている。それを角棒で作った溝に落とし込んで、セメダインCで接着してある。徐々に接着剤の劣化が進み、はがれてきたものがある。ガラスを外し、窓枠を削って段をなくし、洗ったガラス板を嵌め込んだ。接着はもちろんスーパーXである。こうすれば二度と外れることが無い。

 幸か不幸か、この食堂車の窓ガラスはまだ外れていない。窓掃除が行き届いていないのはお恥ずかしい限りだ。外さなくても綿棒とマイクロブラシできれいにできることが分かったので、就役時までには綺麗になるだろう。

 整備の終わった3軸台車の性能はすこぶる良く、ナイロン製台車と優劣が付けがたい。もちろん後者は軽負荷(軸重100 gw程度)の時である。重い車輛であれば、ボールベアリング装荷の勝ちである。 

 床下にはカビが生えているものが2輛あったので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液をブラシで塗って、直ちに水洗いした。カビ止め塗料を塗る必要があるかもしれない。 

2021年05月08日

優等客車群

hand lettered3hand lettered2o-yu (1)o-yu (2)




 稲葉氏の作られた車輛の残りを受け取って来た。スユニ、スロ、カシ、マイロネフ、マイネ、スロネなどである。すべての文字が手書きである。字体が美しい。
 改造してLow-D化する。また3Dで台車を作らねばならない。車輪の在庫がかなりの勢いで減った。

ma-i-nesu-ro-ne 博物館にある客車関係の本と、当時の雑誌(初期の鉄道ピクトリアル)をくまなく見ている。作られた時代が分かると、ありうる編成も少しずつ読めて来た。星晃氏の著作を読むと、当時の工夫も理解できる。戦後の連合軍による接収が解けた頃の話だ。いのうえ・こーいち氏の本も面白い。客車の連結方向もある程度判って来た。稲葉氏宅の蔵に入れてもらって、当時の製作日記などを拝見できれば確実なのだが、それがすぐ見つかるかはわからない。

 この優等客車群は、東海道のいわゆる名士列車を編成していたのではないかと推測する。特急「かもめ」のテイルサイン(いわゆるアンドン)も出てきた。山陽線の2・3等特急だが、その編成用ではない。

 3軸台車の改良も終わり、連結器の破損も修理した。床下器具の更新も進み、多少見られるようになってきた。運転用であるから、細かい細工はしないことにしている。横から見て美しく、滑らかな運転ができればそれでよい。 

Mr.Inaba's (2) マイロネフ38を作るつもりだったが、スイロネフ37の完成品が来てしまった。TR73の新たな行き先を考えねばならない。こうなったら、新規に展望車を作る、というのも一案である。

「はと」編成は、貨物列車の最後尾につけて試運転している。非常に調子良く走り、脱線しないが、毎日連結器がぽろぽろと割れる。本物のようにナックルが欠ける。連結器は、ナイロンで3Dプリントするのが賢明だろう。 

2021年05月06日

続 C62

C6229C6229 (1) この機関車をK氏宅で棚から降ろす時、左手首を捻挫しそうになった。それほど重いのである。
 一瞬目を疑うような状態だ。ここまで重くしないと、12輌牽けなかったのだ。この機関車のボイラ内は全て鉛で埋め尽くされているのは当然であるが、シリンダブロック、主台枠下も全て鉛の塊を後付けしている。横から見えているが、なりふり構わず、補重しているのだ。機関車だけで6 kg以上ある。 
 

 当時の客車の車輪は Φ3 のブラス製ジャーナルで、ブラス製軸箱である。いくら注油しても摩擦は大きい。せめて鋼製の Φ2 にしていれば、かなり違ったであろう。そのころ、メルクリンでは熱処理した鋼製のΦ1 を使っていた。それを使えば、ずいぶん違った走りを示したに違いない。

 このC62のロッド、クランクピンは、外れそうになるくらい磨り減っている。また、軸はガタガタで、すでに限界に来ている。タイヤを含めて動輪はブラス製であるから、かなり磨り減って、フランジは薄くなり、また相対的に高くなってしまっている。

 下廻りは全て新製する。部品は揃えた。主台枠を作り直すのにレーザを使うか、切削で作るかは悩むところだ。主台枠を一体で3Dプリントする、というアイデアも来ている。可能な範囲にあるそうだ。
 動輪は鋼製タイヤの高級品があるから、気楽な工作である。

C6229 (2) 前方の連結器はダイキャスト製であったが、座もろとも粉になっていた。取付穴に合うように板金工作して、仮の連結器を付けた。いずれエンドビームごと更新されるので、まじめに作ってはいない。 
 
 このOゲージの機関車は走行を目的とし、余り細かく飾り付けないようにするが、走行性能は最高にする。サウンドと煙が出れば文句あるまい。  

2021年05月04日

C62

 四日市のK氏に会って、最近の博物館の事情を説明した。預かっている車輛の台車車輪を換装したら、14輌でも軽く牽けるという話をした。 「はと」編成の写真を見せたところ、大変興奮し、撮影に来るとのことだ。
「これが走れば大したものだ。すごいね。昔の四日市のクラブ仲間を誘って見に行くよ。」
とは言うものの、最後に走ったのは60年前である。

C62 by Mr.Inaba「うちで預かっているC62も作り直して貰えば、牽くよね。」と、C62の改造も引き受けてしまった。この機関車のダイキャストの部品は全て崩れ、かなりひどい状態である。後述するが、この機関車は極端に重い。

TR73 disassembled 同時に、稲葉氏製作の優等客車群も預かって来た。これらの客車は何の編成のものかは、まだ調査中である。3軸台車を付けたのが2輌あるので、また台車の改造をせねばならない。これは意外と大変な作業である。
 驚いたことにスイロネフ37が含まれていた。進駐軍に白帯を取られて、黄帯の一等車である。マイネもあって、それにはJNRと書いてある。外国人旅行者用だ。


 このC62は酒井喜房氏の設計で、設計番号A‐1である。縮尺は1/43だ。この縮尺でないと、クロスヘッド裏がサイドロッドに当たってしまう。この計算は酒井氏が「模型鉄道」誌に発表している。
 当然のことながら、この機関車は大きい。その昔、Oゲージ 1/45を採用しようと呼びかけた湯山一郎氏は、1/43が大きいとの指摘に対し、
「機関車は大きい方が立派に見えます。」
などと、怪しいことを言っていた。確かに、アメリカの機関車は客車よりはるかに大きい。日本は客車がかなり大きいので、丸屋根の客車(3等寝台など)と並べると見劣りがしたのは否定できない。

 これをOJに作り替えたものを見たことがあるが、それはかなり奇妙な様子を示す。相対的に軌間が異常に狭く見えるのだ。

 のちに1985年ごろ、KTMはOJのC62を発売した。1/45で、これは祖父江氏の設計だ。その機関車はC6217を模型化したものである。実は、名古屋の東山公園の植物園に置いてあったのを、筆者が正式な許可を得て、機関車屋根上に登って 詳細な写真を撮影したものから作られている。現在、その機関車はJR東海のリニア・鉄道館にある。 

(カツミの番号の付け方はOゲージをAとし、HOゲージをBとした。ちなみにA-2はこだま号である。) 

2021年05月02日

F級電気機関車

 国鉄のF級電気機関車は、一度は自作してみたかったものだ。昔の駆動装置はモータ軸を縦置きにし、ウォームギヤで動軸を廻し、それからスパーギヤを使って他の2軸に伝動していた。これでは効率が悪いのは、仕方がない。

 実はF級に相当する機関車は、いくつか作っている。3軸台車を持つディーゼル電気機関車群、タービン電気機関車などである。    
 しかし、国鉄型のような軸距離が不均等であると同時に、イコライザが稼働する模型は、経験がない。駆動メカニズムは、短い軸距離の方を1群とし、遠い方には可撓ジョイントを経て伝動すればよい。モータは床上に置き、チェインを介し駆動軸に伝達する。全く難しくない方式である。モータは出力5.7 Wのがあるのでそれを使う。出力曲線を読めば、十分な余力があることはすぐわかる。

 35年前にUP4-8-4を作った時、事前に出力のシミュレイションをした。試運転で、ぴたりと予測と実際の数値が合ったので、驚いたことを覚えている。今回の計算はそれに比べてはるかに楽であった。列車の現物があるので引張力は確実な値であるし、ディーゼル電気機関車群の動力測定は済んでいるので、それを踏まえての動力設計は容易だ。
 
 センタピンの真下を駆動軸が通過する部分は、寸法的にやや苦しそうだが、動輪径が大きいので可能だろう。

 今まで直径が22 mm(42インチ)のものが最大値であったが、今回の27 mm径の機関車は少々戸惑う。速度が大きいから、ギヤ比を替える必要がある。動輪は、古いのをたくさん集めて、その中から良いものを選び、旋盤で径を揃えた。形の駄目なものは捨て、フランジを総型バイトで削った。踏面とフランジを#1200のサンドペーパで磨り、光沢ニッケルメッキを掛ける。硬いので磨り減ることはないはずだが、これは摩擦係数が小さい。

 これが組めれば、次はGG1を組んでみよう。これはテキサスから持ってきたもので、Dennisが作った鋳物で構成されている。


2021年04月30日

バネを入れる

Pullman 6-wheel truck (1) 3Dプリントで作った台車を組み、バネを入れる。バネは最初に入れることはできるが、完成後に入れる方が紛失の可能性が少ない。組立て途上では、緩んで落としやすい。

 この方法は一度紹介したことがある。絹糸を用いるのが正統派だ。今回は思い付いて、デンタル・フロスを用いた。デンタル・フロスは、ワックスが塗ってあるので滑りが良い。すなわち抜き取るときに支障がない。また、絹糸よりずっと重いので、短くてもバネが爆ぜた時に飛んで行きにくい。
 要するに、縮められたバネに蓄積されたエネルギィは、バネそのものを数メートル飛ばすほどもあるが、糸を引っ張っていては、せいぜい10 cmしか飛ばない。だから、紛失する可能性はなくなる。

 カーペットを敷いた部屋では、バネを飛ばすとカーペットのループの中に食い込んでしまい、引っ掛かる。うっかり引っ張るとバネが変形してオシャカになってしまう。飛ばさないためには、この種の防護策が必要である。

Pullman 6-wheel truck (2) バネをはめ終わったら、バネ座に正しくはまっているのを確認して、バネを押さえながらデンタルフロスを引き抜く。実に簡単に抜け、バネの位置は変化しない。
(本日の写真はK氏による)

2021年04月28日

14輌編成

express train Hato ようやく台車取替が終了したので、郵便車、荷物車も含めた14輌をつないだ状態での、要求される引張力を測定した。井上豊氏からは、たまにそういう編成もあったと聞いた。外国人の団体があると、荷物車が追加されるそうで、重くて大変だったそうだ。
 走行抵抗について正確に測定した。とても小さい。先回の測定時には、台車のブレーキがタイヤに当たっていたものが多かった。
 3Dプリントでは、ブレーキがぎりぎりのところに出力されるので、当たっていても分からない。今回はブレーキを確実に離して、より滑らかに動くようにして測定した。

 14輌編成に対して要求される引張力は、平坦な直線路では 0.2 N(約20 g重)という、信じられないほどの小さな値となった。単純な計算で分かるように、直線では0.3%の勾配で滑り降りるということだ。

 1.56%勾配、3000 mmRでは、必要な引張力は 1.9 N(185 g重)であった。この勾配では、曲線で抵抗があるにもかかわらず、手を離すと列車全体が勝手に滑り降りていき、猛烈な速度になる。

 機関車に要求される引張力は、185 × 1.2 = 222 g重で、摩擦係数を0.2とすると、機関車の動輪上重量は 1100 gほどあれば良い。先輪を含めて機関車の質量は1.6 kgで十分である。1.56%勾配をスケールスピード70 km/hで登るとすると、機関車自身の質量を押し上げる仕事率を含めても、1 Wほどの出力があればよい。
 全伝達効率が3割としても、3 Wの出力で足りることになる。実際にはもっと良いので、2 Wでもよいだろう。ということは、勾配を登るときの電流値は0.2 A強である 。

 実際には全車に照明を付けるので、0.6 Aほど喰うことになるだろう。 

2021年04月26日

軽い機関車でたくさん牽く

 先の記事で、軽い機関車になるということを書いたが、それについてのコメント、私信をたくさん戴いた。表題の概念は、機関車の持つべき特性のうち最大のものであり、実物の世界では、ありとあらゆる方法で、それを実現すべく取り組んできた。 しかし模型の世界では外見ばかりで、実効性のある設計法にはほとんどお目にかからない。


 今回の列車に必要な牽引力は、列車の現物があるから、勾配、曲線上での数値がすぐ測定できる。過去の経験では、引張力はその数字の2割増しであれば、確実な運転ができる。
 摩擦係数から、機関車の動輪上重量は直ちに算出されるから、先輪の軸重を足せば、機関車の質量はすぐ求まる。この辺りは中学校の理科の題材であろう。

 問題は、機関車の伝導方式である。OJ、Oゲージでは各軸モータ、吊掛け式がもてはやされる。実感的なのだそうだ。ところがどの作品を見せて戴いても、用いているモータのトルクは小さく、しかもギヤ比が小さいものが大半である。スリップしない。ギヤが見えているものがほとんどだ。油は飛ぶし、綿ぼこりを巻き込む。

 スリップしない機関車はモータが焼ける設計時にそこを押さえていないと、重負荷を掛けられない。やはり勾配線で長大列車を牽かせたことが無いから、気が付いていないのではないか。
 
 さらに大事なことを言えば、動軸が連動していない。模型であるから、伝導方式は実物の通りにする必要はない。全動軸を連動させれば、静止摩擦係数による摩擦力の限界まで引張れる。すなわち軽い機関車でたくさん牽けるのだ。そこを考えた模型には、なかなかお目に掛からない。

 動輪が個別にスリップする様子を見たい人が居る、とは思えない。そもそもスリップしないのだ。以前は連動すると押しても動かなかったが、3条ウォームがあるから、いとも簡単に押せば動く。 

2021年04月24日

続 TR73 3軸台車

Nylon and Brass このブラス製台車は、車輪込みで180 gある。左の 3D 出力のナイロン製3軸台車は 60 gだから、かなりの差だ。左は1/48,右は1/45である。TR73のホィールベイスは意外と長い。

 組み終わると、あまりの転がりの良さに驚く。うっかり机の上に置くと、わずかでも勾配があれば走り出し、落ちて壊れる。必ず裏向きに置かねばならない。展望車は窓が大きく、中が良く見えるので、ある程度の造作を作らねばならないが、重くなってもこの台車なら問題ない。

 稲葉元孝氏の組まれたものでは、中間軸の軸バネが抜いてあるのに気付いた。ライオネルと同じ発想である。中間軸は浮いていても構わないという考え方である。当時はブリキ製のガラレール(2線式に打ち替えてある)である。前後軸のバネが効いていれば、中間軸はどうでも良かったのかもしれない。分解して、新たな軸バネを入れた。レイルの継ぎ目での音は素晴らしい。

 昭和29年にして、すべて絶縁車輪を採用していたというのは、素晴らしいことである。椙山氏の指導力は偉大である。  

2021年04月22日

TR73 3軸台車 

TR73 trucks 展望車にはTR73が付いている。このカツミ製の台車はなかなか良い設計であるが、砂鋳物を直接組んでいるので、隙間が多くて剛性が無い。

 砂鋳物には抜き勾配があるので、そのまま組むべきではない。しかしそんなことは無視して、大きな頭のネジで締めてある。矢印の部分は特にひどい。そのまま締めてあるので、ネジの頭の片方しか当たっていない。強く締めると疲労して折れるだろう。
 フライスで上面を直角に削り、ネジ頭を沈める。その他の抜き勾配をヤスリで軽く修正するだけで、見かけはぐっと良くなる。スポーク車輪が欲しいが、とりあえず手元の Low-D を嵌めた。軸箱が小さいので、内径 1.5 mm、外径 4 mmのボールベアリングを使う。今まで内径 2 mm、外径 5 mmを使っていたが、径が小さくなると、抵抗は明らかに少なくなる。
 部材同士の当たり面がざらついていると、ネジが締まりにくいので、さっと削って密着するようにする。こうするだけで、ネジは緩みにくい。 

 TR73がもう一組ある。使える車種はわずかだ。
maironefu38 マイロネフ38のブリキ製キット(1950年代)を発見したので、それを作ってみようと思う。屋根もブリキだが、本物はデッキ部分で絞ってあるので、ブラスで作らないと難しい。ちょうど t 0.7のブラス板を良い具合に曲げたのがあるから、それを使ってみよう。
 この種のブリキ製キットがたくさんあるので、いずれ組んでみたいが、知識量が無いので、今のところ難しい。「つばめ」「はと」編成の連結順は見つかったが、車輛の向きに関する情報は少ない。あまり良い資料には出会えない。昭和28年(1953年)の名古屋電化の頃の記録を探している。これは妹の生まれた時期で、母の実家に行くときは特急つばめをC62が牽いていたのを目撃したが、帰るころには電気機関車だったことを記憶している。

 マイロネフなどの車輌記号の文字順は、車輌ごとに構造と共に変遷している。マイネロフ37という並び方もある。寝台車だからネロで、食堂車だからスシとか、友人と話し合った中学生時代を懐かしく思い出す。 

2021年04月20日

truck tuner

 新しく作った焼結ナイロンの台車の軸受内部は、ざらついている。この部分をさらって、新しいナイロン面を出さないと摩擦が大きい。表面は染色してあるが、内部は白く、緻密である。削って滑面を出す必要があるのだ。精密に作られたステンレス製ピヴォット・コーンとの摩擦は非常に少ない。また、ナイロンは硬いので軸重を増やせる。以前の基準ではPOM(ポリアセタール、デルリン、ジュラコンなど)では軸重100 gを限度としていたが、150 gまで認めることにしている。

truck tuner2 この工具は以前にも紹介している。最近いくつか製作依頼があって、作った。この種のものは一つだけ作ると、大変な手間がかかる。綾目ローレットを掛けた材料がなくなったので、作らねばならなかった。買えばよいのだが、量が少ないと買いにくい。丸棒から作るのは楽しいので、たまにやる分には気分転換になる。

truck tuner 下のものは、以前紹介したHO用を延長したものである。テーパを削ってつるつるに研磨する。コレットで逆に銜えてセンタ穴をあけ、 ドリルで穴をあける。リーマを入れて内部を滑らかにし、ガラスドリルの軸を切って差し込む。先は少し削っておかないと、リーマの喰い付き部分のテーパで引っかかる。長さを確認して、必要ならば調整する。

 よく洗って油気を取り、エポキシ接着剤を入れ、ドリルの軸を差し込む。簡単そうに見えるが、精密に作ってあると、ここで引っかかる。内部の空気が出ないのだ。ドリル軸にダイヤモンド・ヤスリで縦溝を付けるのを忘れたからだ。横から細孔をあけておくのも良い。四苦八苦して所定の深さまで押し込み、1昼夜保持して完成だ。

 このガラスドリルは切れ味が良く、アッという間に彫り込める。また角度が良く、摩擦が少ないと同時に、寿命も長い。


2021年04月18日

スポーク車輪

 スポーク車輪の製造要請がある。先輪などの外見を要求される部分には不可欠だ。気持ちはよくわかるが、なかなか踏み出せない。
 最大の問題点は数である。
 製造所には、タイヤは最低1000個なければ注文できない。500軸分である。ところが、現実に届いている注文は50軸ほどだ。

 次の問題は輪心となるべきカツミ製の砂鋳物の19 mm車輪の精度不良である。これのばらつきがすさまじく大きい。厚みは時期によってかなり異なる。
 ネジは、今では珍しいM4-P0.75という1950年代の規格である。それがまともに切ってあればまだしも、通称「ガラ」で切っているのだ。でたらめに手で持ってタップを通していたようだ。廻してみてあまりにも振れが大きいときは、再度逆に傾けて切った跡が見られる。ネジ穴がガタガタでお話にならないのだ。車軸の当たり面で向きが揃うという感じである。これでは心が出るわけがない。
 このでたらめな車輪を使っていては、進歩はあり得ないと感じた。Low-Dの必要性を感じたのは、この現実を見たからである。細かいネジを採用するか、圧入しかなかったのだ。

 ネジ部は完全にさらい、新たな材料を差し込んで再度ネジを切り直すべきだ。今なら細目のネジを切るべきだろう。当然車軸は新製だ。

 こうなると手間もかかるし、金額的にもかなりかかる。旋盤上で専用コレットを使ってネジを切るという作業をすると、1時間で最大20軸程度しかできないだろう。実際にやってみて、素人には難しそうだということも分かった。さりとて、その仕事を引き請けることは、時間が無いのでできない。設備を貸すので、弁当持ちでやってきて1日中作業する、という人は受け容れても良いが、それもしばらくはできない。

 今回のTR47用にはスポークの無いものを用いているが、この種のウィングバネの台車では、スポークであるかどうかは全く気にならない。TR23では多少気になるが、スポークでないものもあったらしいから、気にしないことにした。

2021年04月16日

EF58の牽く特急列車

 1.56%の勾配、半径2900 mmの線路上での牽引に必要な引張力を測定した。小さなモータを使っても十分である。設計は簡単だ。

Hato pullled by EF58 旧車体のEF58が来ているので、その下廻りを新製すればよい。簡単な工作である。昔のOゲージであるが、新しい生命を吹き込まれて、素晴らしい走りを披露できるはずだ。昭和28年(1953年)当時の編成である。詳しい情報を集めている。

 このカツミ製の電気機関車はとても重い。6 kg弱もある。当時は客車の軸受がでたらめなので、機関車には最大限に補重し、最強力のスーパー20モータを2台搭載している。起動電流は、5 Aをはるかに上廻るようだ。手元の3 A 電源では動かせない。中身を全部捨てて、新たなメカニズムを搭載する。
 現代の機関車は、0.1 Aで軽く起動する。軽く作れるので、勾配線上で自身を持ち上げるのに必要なエネルギィも小さくなる。勾配のあるレイアウトは少ないので、本当の実力がわかりにくい。ただ重い機関車では意味がないことはすぐには見えないから、そのまま満足してしまう例が多いと感じる。
 
 この機関車の改良工事に関する唯一の問題は、Φ27のスポーク動輪を調達することである。良好な形状のフランジを持つ車輪が必要だ。

 スポークを持つ先輪は、一体のLow-Dでは作れない。ステンレスタイヤを作って嵌めなければならない。8枚挽くのは、かなり面倒だ。できないことはないが、難しい作業だ。しかしこれも、タイヤの頒布希望者があれば可能になるかもしれない。

  当博物館においては、唯一の国鉄型車輌となる。いずれ、C62もやって来る予定であるので、その下廻りの改造部品を用意している。鋼タイヤの動輪と差し替える。蒸機の場合は、動輪上重量を大きくせねばならない。機関車は2.5 kg以上になるだろうから、テンダを含めると3.2 kgほどになるはずだ。その先従輪、テンダ車輪はLow-Dになる。これは、プレート車輪だから簡単だ。


2021年04月14日

OJ用 Low-D 車輪

 Low-Dを再生産するときに、OJも作ってくれという要望があった。車輪厚さを 3.5 mmとして、バックゲージを 21.5 mmとした以外は、Oスケールと同一である。これは吉岡精一氏の助言を受け容れた設計である。車軸はΦ4である。絶縁側は圧入、他方はネジ込みである。また、ジャーナル部はΦ1.5のボールベアリングが嵌まるようになっている。
 実は 、発注数を間違えて、長軸(先回の台車に使用)が多少余っている。ご希望の方にはお頒けする。 コメント欄を通じて申し込まれたい。email address は本文中に書いて戴かないと、こちらでは読めない。短軸もあるが、これは数が少ない。

 OJのレイアウト上で試運転させてもらったが、極めて快調であった。ポイント上の挙動も全く問題ない。普通の車輪との転がり抵抗の違いは、顕著である。特に曲線上の挙動は全く別物である、との評価を得た。走行音がとても静かであることも特筆すべきことである。メッキされたものとは、大いに異なる。

2021年04月12日

客車列車

TR47TR47O,OJ 国鉄客車を完成させるべく、改造工事を急いでいる。TR47はいわゆる長軸台車で、車輪はかなり奥の方にある。右の写真は、OとOJの二種類のTR23である。OJの方は、ボールベアリングが入れてあるので、グリースの攪拌抵抗が無視できない。しかし、重い車体が載れば、効果を発揮するはずだ。Oスケールの台車の方は、ピヴォット軸受だからとても軽く動く。台車枠はボルスタと一体成型で、ひねりやすくするために端梁はU字型にしてある。車輪を嵌めてネジで端梁を付ける。ブレーキは車輪すれすれにぶら下がり、気持ちが良い。

 稲葉氏のご家族からお預かりしている客車群を、稼働状態にせねばならない。10輌組んでつないでみたところ、連結器が切れたのが8箇所あった。当時のダイキャストは、お話にならないほど質が悪い。
 少し大きいが、アメリカ製のダイキャストがあるので、それに取り替える。切り離すことが無いから、単なる棒でも良いが、収納が難しい。

JNR ExpressJNR Express2 連結器が健全な8輌をつないでみたが、摩擦が少なく抵抗を殆ど感じない。1輌は平均550 gである。
 ナイロン製台車でのピヴォットの効果は素晴らしい。


2021年04月10日

続 言葉狩り

 多くの友人から連絡を戴いた。反響が大きいのには驚いた。読者数も2倍以上になった。

 SKT氏からのコメントは、この続編で扱おうと思っていたものである。どの国の言葉でもオネジ、メネジという言葉を使う。それも怪しからんということになると、困ったものだ。電気の接続ソケットも同様だ。”ジャック”という言葉も問題があることになるだろう。
 
 必要があって、フランス語を習っていたことがある。親しい天才的な語学教師(6か国語を自由に操り、フジモリ大統領が来日した時は指名されて通訳を務めた)に、男性名詞、女性名詞についてどうすれば覚えられるか、と聞いてみた。
「そんなの簡単さ。フランス人が考えることは単純だよ。駅は女性名詞、列車は男性名詞。だってさ、列車は駅に進入するだろう。」 

 そんなバカな、と思ったが、そういう観点で見ればほとんど当たっている。しかし、自動車や椅子が女性であることは分かるが、ソファが男性というのは解釈が難しい。
 彼の説が正しいとすると、ポリティカル・コレクトネスに拘る限り、フランス語文法は修正しなければならないが、そんなことにはならないだろう。 

dda40x at 04:10コメント(0)ネジ この記事をクリップ!

2021年04月08日

歯車を削る

fixture 歯車を薄く削る必要があった。10枚ほどの作業のために、ヤトイを作らねばならなかった。
 歯車は直径が14 mmで、厚さを 2 mmほど削る。中心にはボールベアリングのインナ・レースが当たるようにボスを突き出させる必要がある。これを掴むためには直径17 mmの丸棒をERコレットで掴み、外径を削って掴む部分を作ってから突っ切る。
 コレットに掴む部分は、Φ12.7 にして1/2インチのコレットで掴む。内径14mmの凹みを作り、歯車を掴めるようにする。ERコレットの心は十分出ているし、歯車は薄くするだけで、完全に同心で削らねばならないということもない。だからごく適当で良かったのだが、印をつけてRの文字の位置に合わせている。 

fixture (2)fixture (1) 出来たヤトイに歯車がぴったりはまるのを確認して、コレットから外す。凹みを付けた方から糸鋸で十文字に切り込みを入れる。そうしてできたヤトイをERコレットに戻し、歯車を掴んで旋削開始である。歯車は、心を押して密着させる。竹ブラシ法を使うまでもなく、密着する。
 この竹ブラシ法は「蒸機を作ろう」にも記載されている方法で、旋盤工が使って来たうまい方法である。筆者は竹ブラシではなく、グリスを塗った丸棒を使うことが多い。 

 歯車の材料のリン青銅は、快削材である。いや、"快削のリン青銅"と言う方が良いらしい(快削でないものもあるそうだ)。シュルシュルと削れて、歯形がきれいだ。ワイヤブラシで軽くメクレを落とせば出来上がりである。楽しい作業であっという間に終わってしまった。へその部分は 0.1 mmも出れば十分なのだが、0.3 mmとした。

 ヤトイを英語で pot chuck と言う。 
 ヤトイを作るための丸駒(適当な長さに切った丸棒)をいくつか用意してあるので、ヤトイ製作は即座にできる。 

2021年04月06日

KTM 10周年記念品

KTM's 10th Anniversary Memento これは1957年に、カツミ模型店が関係者に配ったものである。ペン置きとインク壺のセットである。どういうわけか、筆者のところには数台あった。長い間に、いろいろな方から寄贈されたものである。当時は立派で見栄えがしたものであるが、文房具の進化により、使われることが無くなったからだ。

 タンクの上の蓋を開けると、インクを入れられるようになっている。ブルーブラックを入れるのだ。インク壺はプラスティック製である。この部品は取ってあるが使い途が無い。
 元関係者の方から、「君はOゲージをやっているから、差し上げるよ。」と、次々と戴いたのである。台の大理石は砕いて、近所の小中学校に二酸化炭素発生用に寄付した。台車はフランジを削って貨車の積み荷にした。
 ボディは改良した。連結器、台車を取り替えてLow-D化すれば、稼働する貨車となる。筆者の博物館の線路上にある2ドームのタンク車は、ほとんどこれである。

 最近ヤフー・オークションに40万円で出ていたそうだが、とてもとても、そんな価値はない。その100分の1程度である。あまりにも数が多いのだ。全く応札が無かったそうで、そのオークションは流れたようだ。
 安達庄之助氏から来たジャンクの中には、このタンクドームの蓋(鋳物製)がたくさんあった。大半は地金で処分したが、まだいくつか残っている。蓋の蝶番が外(向こう側)に出ているので、それを切り落として体裁を整える必要がある。

 カツミ模型店はOゲージ、OJゲージから手を引き、昔の姿とは異なる形になってしまった。当時は世界有数の生産額を誇っていたらしい。 

2021年04月04日

言葉狩り

 数日前の記事に”バカ孔”という言葉を使った。最近は言葉狩りが厳しく、こんな不適切な言葉を使うな、と言う意見も来る。例の肺炎騒ぎもそうだ。国名に関連する言葉を使うなと言ってくる。”日本脳炎”、”スペイン風邪” は禁止用語になるべきなのだろうか。

 この種の職人が使う言葉には、メクラ孔とか、見かけ上差別用語がたくさん含まれている。この種の例はいくらでもある。ここに列挙することは簡単であるが、またまた「怪しからん」の集中砲火を浴びることになるだろう。
 この記事は面白い。他にもたくさんあるので、参照されたい。

 反発するのも面倒だ。こんなことを書いて来る人は少数なのだが、その種の人たちは絶対に調子を緩めないから疲れてしまう。書くと気分が良くなるのだろう。自分は良いことをしているという高揚感を味わっているのかもしれない。

 この種の言葉は、その職域の人たちの長く続いた文化を背負っている。くだらないことを言うべきではないのだ。 
  
 アメリカでは一時期 Political Correctness の嵐が吹き荒れた。今は少し下火に向かいつつあるような気がする。筆者の友人たちが怒っていたのを覚えている。
「”Blinds”って言ったら、いけないんだってさ。何て言えばいいんだろうね。」
「”Shade”っていうのは、ちょっと違うよね。平行な薄板を同時に向きを変えて、向こうが見えにくくする窓用の装置ってのはどうだい?」
「そんなこと、言ってられるか!○○○○。」
 最後の言葉はここには書けない言葉である。 

 ここでは当然複数形だ。ブラインドの羽根は沢山あるからだ。 

2021年04月02日

自宅のDRO支えを更新

 自宅のフライス盤のDROに重い割出盤を軽く引っ掛けてしまい、支えがひん曲がってしまった。曲がりにくいように、より太い棒を使って作り直した。

DRO Support 2 以前は細いM3のネジを使ってあったが、本体にM4のネジを切り直した。ブラス角棒を銀ハンダで接合し、孔をあけた。以前のが曲がりやすかった理由は、細いネジが角棒の中心にあったことだろう。上方から当たって曲がったので、下半分が持ち堪えてくれるようにネジ位置を少し上げた。
 正確に孔をあけるのは難しい。太いドリルで一発でやると、膨らんでしまい失敗することが多い。細いドリルで孔をあけておいて、裏表から掘り進んだ。たまたま刃の長い4枚刃のエンドミルがあったので活用した。エンドミルの正面中央には切刃が無いから、先導の穴は必要である。2本とも、計算通りの位置に孔があいて、両方からの孔のずれはなかった。めったにないことで、気分が良い。これは万力とDROの精度が良いということに、他ならない。
 45度になった方には座グリをして、ネジの頭を収容するようにした。この時、ハンダで付いている部分を押さえているので、はがれる心配は全くない。

DRO Support 右に最大限動かしたときに読み取り部の逃げ場所が必要なので、棹の左端を少し外に出した。その部分の角材の組合わせは、フライスで正確に溝を切って、嵌め込んである。こうすれば、ネジ1本で組めて、ガタもない。上の写真はこれを裏側から撮ったものである。 

2021年03月31日

double slip linkage

double slip linkage ダブルスリップのリンク機構が完成している。すべて1.5~3 mm厚のブラスの角棒から削り出して作った。関節はフォークにしてあり、ピンはΦ1である。木製部分は他と同様のグレイに塗るつもりである。リンクは黒染めするから、やや濃い色になるだろう。

 支え部分は、捻られないようになっている。滑動を妨げないようにして、直線運動を回転運動に変換している。Φ4のボールベアリングを使って、摩擦を減らしているのだ。

 当初はリンク機構を隠すつもりだったが、見えた方が良いという意見が多く、全露出型となった。イコライズする様子が見えて面白いと感じる人も居るだろう。もちろんスライドする部分には、蓋をかぶせる。

swarfslider base リンクが滑動する部分は、10 mm厚のブロックを削った。快削材であるから、気持ちよく作業でき、切り粉はかなり出た。黒染めを施し、モリブデン・グリースを薄く塗るつもりだ。
 本当は切り粉を掃きながらやるのだが、荒削りなのでさぼっている。仕上げ削りではこんなことはしない。刃を替え、ゆっくり送ってぴかぴかにした。


double slip kinkage (2) モータはΦ45のギヤード・モータを半分埋め込んだ。この写真では、少し持ち上げて中を見せている。
 箱状の路盤を増設した。それに取り付けた上で、路盤に固定する。塗装すれば目立たない。

2021年03月29日

続々 ER collet

 ERコレットの精度の高いものは、所定の軸を入れると抜けて来ないようになっている。よくできている。
 例えば、Φ6 のコレットに Φ6 のエンドミルを差し込んでも、落ちて来ない。すなわち抜け落ちた時、万力に当たってしまって刃が欠けるということが無いのだ。

 振れが大きいものは、当然不良品だ。それ以外に駄目なものがある。クランプナットの偏心した留め輪にひっかからず、ナットを緩めても抜くことができないものがある。これでは話にならない。これは、コレットよりもナットに問題がある場合が多い。

 いくつかの販売サイトで買ってみたが、アメリカの店経由で買うと、変なものにはまず当たらない。台湾の店も良い。ところが、中国から直接送って来るのは、ハズレが多い。
 これにはいろいろなファクタがあるだろうが、一つだけ言えることは、アメリカ人は駄目なものには駄目と言って、返金を要求する。ところが日本人は、駄目でも簡単に諦めてしまうことが多いからだと思う。おかしな商品が来たら、直ちに抗議して交換を求めるべきである。クレジット会社に言って支払いを止めるのが効果的であろう。

 最近は、中国のサイトは全て日本語表示で、怪しい日本語のオンパレードだ。その中に、”春コレット”と書いてあるものがあったそうだ。間違っていたのは、訳だけであったかどうかは分からない。

 ER コレットは使い易く、精度が高いが、切り粉を噛みやすい。外したら、歯ブラシで丁寧に内外を払い、注意して組み直すようにしたい。また、コレット、コレットホルダー、クランプナットには適宜注油しておく必要がある。 

2021年03月27日

続 ER collet

ER25 + ER11 大きなコレットで細いものを掴むと、掴み損なって振れが発生することがある。こういう時には 、根本にΦ8 のストレートシャンクがついたコレットホルダをさらに銜えて2段にすると、誤差が減る。要するに、細いものは細いコレットで掴むということだ。この写真はER25にER11を挿し込んだ様子を示す。ストレートの部分は長過ぎたので、40 mm程度に切り縮めた。切るのには回転砥石を用いた。
 ERコレットは、先も奥も同時にワークに接していないと振れてしまう。短いものを掴むときは、コレットの奥にも同じ径の”捨て駒”を入れる必要がある。

ER32 + ER11 たまに、Φ19の車輪を掴みたいが、そのためには自宅の旋盤で、専用のコレットを用いて掴まねばならない。博物館でも作業したいので、昔に買ってあったER32のコレットホルダを付けるようにした。

 スピンドルのフランジを加工し、コレットホルダの裏側(主軸側)の印籠組み部分の径と合わせた。幸いにも振れは検出できないほど小さかったが(2/100 mm以下)、主軸側からは隙間が無いので、ボルトを差せない。反対側のワーク側からボルトを締めたかった。コレットホルダにバカ孔をあけ、フランジにM8ネジを切って、右側(ワーク側)からネジを締められるように改造した。

 と簡単に書きたいところだが、コレットホルダは熱処理がしてあって、ドリルが滑るほど硬かった。既存のM6ネジ穴を拡げてΦ8にするだけだから簡単だと思ったが、とても無理だった。
 友人の鉄工所に持って行って相談すると、超硬のドリルなら可能ということで、ドリルを発注した。自宅の道具では無理で、3箇所の孔の拡大はプロにお願いしたが、大変な苦労を掛けたようだ。それほど硬かった。


2021年03月25日

ER collet

 旋盤でいつも心を出して掴もうと思うと、コレットで掴むしかない。コレットは各種あるが、特定の径の物しか掴めないので各種の径の物を多数持たねばならない。
 ERコレットはいわゆる spring collet であり、多少の誤差があっても平均して収縮するので、1 mm程度のピッチで揃えていれば、いかなる径の物でも掴むことができることになる。この8度、30度のテーパによって平均的に縮みながらワークを把持する。パイプも潰さず掴めるところが有難い。

 模型人が使う頻度の高い軸を掴むのなら、ER11(Φ7まで)、あるいはER25(Φ16まで)のセットを持っていると良いだろう。コレットはクランプナットに斜めに押し込まれると、内部の偏心した留め輪に引っ掛かり、抜けて来ない。これは卓抜したアイデアである。

 コレットの嵌め替え時に、探すのは時間の無駄であるし、無くす可能性もある。コレットは一覧できるようにすべきである。

collet turret for ER25collet holder  ER32 筆者はER25用のセットを回転するホルダに入れてある。大きなER32は、堅木で傾けて作ったホルダに入れ、取り出し易くしている。 

2021年03月23日

続々々々々 アメリカ製の切断機

shear 3 ハンドルの長さの台に固定して出来上がりだ。とても使いやすい。台が短いと力が入らない
 筆者はシァには興味があり、過去に様々なものを購入している。中国製のも買ったが、根本的に設計が駄目で、また精度が無かったので整備できず、始末した。今回はアメリカ製ということで、少々不安であったが、結果としては非常に良くなった。

 この機械は、アメリカ製の製品によくある欠陥を、すべて持っていた。設計と材料と工作機械は素晴らしいのだが、クラフツマンシップが駄目なのである。すなわち、組立工の質が悪いのだ。筆者は昔アメリカに居て、それをいろいろなところで感じた。

 例えば車である。アメリカの車は、実用機械としてはとてもよくできていて、信頼性がある。基本的な構成が正しいのだ。しかし、製造時のミスがあまりにも多い。一番腹が立ったのは、後輪のブレーキ装置である。グリスを入れずに組まれていて、錆びて固着し、引きずるようになってしまった。しかたなく抜き出して磨き、グリスを塗ってOリングを入れ替えると直った。
 子供を乗せると、座席ベルトが締まらない。よく見ると左右逆で、裏返っている。あちこち点検すると座席の下から、アイスクリームの木の棒が出てきた。食べながら組み立てている奴がいるのだ。その他無数にあった。友人の車は走行中に運転席ドアが開いた。違う長さのボルトが使ってあった、というあり得ないミスだった。
 日本製の車が評判を勝ち得たのは、こういうことが無かったからだろう。Bill Wolferは、"World’s Best Craftsmanship"と言って、日本車しか乗らず、Datsun 240Z を乗り回して絶賛していた。 
 
 しかし、手を入れていれば非常に調子が良く、筆者の車は20万マイル(32万キロ)を無故障で走った。隣人が車の整備を趣味としていたので、教えてもらって整備した。タイヤとエアフィルタは、10回近く替えただろう。
 今回の切断機はそのことを思い出させてくれた。手を掛ければ素晴らしいが、そんなことなんかやっていられるか、という方には薦められない。
 しかし自分で整備して高性能になったものには愛着が湧く。0.1 mmの板を、正確に繰返し切ることができるのは、素晴らしい。 (この項終わり)

2021年03月21日

続々々々 アメリカ製の切断機

 実のところ、到着時にはすでに刃は傷付いていた。固定刃に乗り上げてしまって降りない状態なのに、無理に押し下げて、"Shipped tested"(検査して出荷)と称している。どうしようもない組立工がいるのだ。
 定盤上で、1200番のサンドペーパで研いで平面を出し、2000番の砥石で擦った。この作業で2/100ミリ強薄くなった。刃物を研ぐのは好きであるから、時間を掛けて行った。
 これらの刃を取り付け、きっちりと位置合わせをすると、素晴らしい切れ味である。

back stopper この切断機の特長の一つに、可動刃の裏側のストッパがある。そこまで(緑の線の高さで)材料を突き当てて(黄色矢印の深さまで)切り落とすと、同じ幅のものが大量に簡単にできる。深さ寸法は0から始められるところが優秀である。
 ストッパの回転軸の高さ(オレンジの線)が絶妙で、押しても逃げないが、刃を下ろすと逃げるようになっている。バネで逃げるのだ。うまい工夫だが、可動刃は斜めに降りるのだから、ストッパがプラットフォーム方向から見て水平であってもよいのか、詳しく調べてみたい。回転軸にはわずかのガタがある。それには害があるのか、それともそのガタが有効に作用している可能性があるのか、まだ判断できていない。
 深さの目盛りは、ミリとインチの併用であるのは有難い。

 リン青銅板を正確な幅に切り落とせるから、重ね板バネが簡単にできる。窓枠の部材切断なども簡単だ。

slide 切り落とした小さなものが奥に入ってしまうと取り出しにくいので、滑り台を付けた。滑りの良い洋白の板を、少し曲げて貼り付けただけである。切ったものが滑り出して来るのを見るのは面白い。         


2021年03月19日

続々々 アメリカ製の切断機

slack 可動刃のブロックである。本体のスロットにはめ込むと微妙なガタがある。矢印がそのガタである。その分だけ刃が前に出る(この写真では左に行く)と、固定刃に当たる。乗り上がって自壊するのだ。 
 可動刃が、上下するスロットの中で一番奥(右へ)に押し込まれて、手前に出て来られないようにする必要がある。
  
wavy shim 薄い洋白の板を短冊にして、はさんでみた。0.1 mm厚では足らない。0.15 mmでは少し苦しい。こういう時は、0.10 mmを波状に細かく折ってから、平らな金床上でゴムハンマで叩き伸ばす。折ったところは微妙に曲げ跡が見えるが、押せば凹む。すなわち極めて薄いバネを作ることができる。これを隙間に押し込んだらぴったりで、何もしなくても固定されてしまい、なおかつズレて出て来ることもなかった。刃は滑らかに降りる。

 次に、刃当たり調節ネジを少しずつ締め、刃が無理なく降りて剪断するかどうか確認する。祖父江氏の言うように、ティッシュをはがした1枚を置き、それがスパッと切れるようにするのだ。クラインシュミット氏も同じことを言っていた。
 今度は反対側を締めるが、こちらでは固定刃により、可動刃はスロットの中で後ろ側に押し付けられているから、洋白の短冊を押し込む必要はない。すでに刃は降りているので、コジることが無いようにするだけである。少しずつ締めて様子を見る。この締めネジはつぶれていて困ったが、M6ネジであることが判明した。鋼製に取り替えれば安心だ。アメリカでもメートルネジが増えてきたのだ。車の影響だろう。

ネジ山破損 H氏からお知らせ戴いたが、ネジを切り忘れたところがあり、それにネジ込まれていたので、外すのにも苦労したそうだ。写真を送ってくれた。M6のタップでネジを切ったという。ネジ切りの深さが足らないところもあったそうである。

2021年03月17日

続々 アメリカ製の切断機

 バリではないが、キサゲを掛けていないので、刃の固定が怪しいということもあった。可動、固定の両方の刃が鋼製ブロックにはめ込まれ、ネジで固定されるが、その接触面は機械で削っただけである。手仕上げはなく、フライスの刃が切った面そのものを黒染めして刃を締めてある。これでは、メクレで微妙な浮き上がりが生じ、ネジを締付けても、刃の平面性が保証されない。おそらく微妙にすり鉢状に締まるはずだ。

hand scraping 台に固定し、バイトに”のみ”のような握りを付けたキサゲで時間を掛けて仕上げた。部分的に虹のように光る。こういう仕事は、昔見せてもらったことがある。油を付けて撫で、違和感を感じなくする。刃を置くと吸い付いて取れなくなる。好きな作業でもあるから、時々やる。概略の平面は機械が出しているので、微細なメクレを取ることが目的だ。サンドぺーパを当てるとそこが凹んでしまう。あくまでも出ている部分を無くすことに傾注する。
 プロは、1/100ミリの凹凸でも指先で感じるそうだ。筆者は3/100ミリ程度しかわからないだろうと思う。 

 刃を外し、丁寧に研いで取り付けた。彼らが使っている機械の精度は素晴らしいと思う。しかし、わずかの手仕上げが足らない。キサゲでなくても、砥石で擦るだけでも良かったのだが。

2021年03月15日

続 アメリカ製の切断機

shear 1 もう一つ、根本的なミスがあった。
 刃当たりを調整する送りネジがある()。それはステンレスネジであった。筆者はステンレスネジは原則として使わない。伸びたりつぶれたりするからだ。ネジ穴から抜けなくなることがありうる。この写真の()は先回の面取りの足らない部分である。
 今回の送りネジは、締め込んで相手の鋼製ブロックを押すのだが、馬鹿力で締めた跡があり、先端がわずかにつぶれて太くなっていた。ネジがつぶれると太くなると同時に、ピッチが狂うから始末に負えない。こうなると緩ませて抜くことは不可能だ。こういうところには、鋼製ネジを使わねばならない。仕方がないから、時間を掛けて先端のネジ溝をヤスリで削って拡げ、抜き取った。ひどい話だ。

 このステンレスはオーステナイトと云う状態で、塑性変形が起こりやすい。力を掛けてはいけないものなのだ。ステンレス・ボルトで締めると時間が経つと緩むのはこのせいだが、日本ではそんなことはお構いなしで、あちこちで使われて事故を起こしている。
 近所で上水道の大規模水漏れ事故があった。交通を遮断して掘り返すことになり、自治会としての立ち合いを求められた。見るとおバカなことに、このステンレスボルトが使われていた。水道事務所の工事担当者は、
「緩んでいるのは不思議だ。締め付けトルクの記録もあるのに。」
と言うので、このことを教えたら大変驚いた。
 後日上司から感謝の電話があった。今後すべてのステンレスボルトを、順次高張力ボルトに切り替えると言っていた。ついでに濡れるところではステンレスと鋼とを混用しないように釘を刺した。今まで税金をドブに捨てていたのだ。世の中こんなものらしい。

 アメリカ製の物で、間違って使われているのを見るのは初めてだ。アメリカ人はステンレスボルトを使うのに、ためらうことが多い。いろいろな弊害を知っているのだ。これはおそらく、指示間違いであろう。

2021年03月13日

アメリカ製の切断機

 複数人でアメリカから取り寄せた切断機について書きたい。動画を見て、設計の妙に驚き、注文した。日本製のものにはない工夫が凝らされ、どうしても使ってみたかった。過去に遠藤機械製の切断機を改良する工夫はしたが、根本的に異なる発想から出てきた製品を見たかったこともある。
 消費税の10%を逃れる術はなかったが、たまたまセールで割安であったのと、多人数で運賃を割って大幅に節約できたのは有難かった。今回の幹事は、このブログにもよく登場するF氏である。

 生産地のオクラホマは、未曾有の大雪で交通が1週間ほど遮断され、発送には時間が掛かったが、無事に到着し、F氏の献身的な努力で無事配送された。一つだけ部品が足らなかったが、電話を掛けてすぐに解決してくれたのは有難かった。

Shear1 鋼製の本体に、硬いアルミ合金製のプラットフォームと足が付いている。黒染め処理で美しいが、作動状況は芳しいものではなかった。可動刃が微妙にせり出しやすく、固定刃の上に乗ってしまう。そのまま押し込むと刃がへたり、修復が難しい。上の可動刃を安定させ、一定の位置で降ろすようにせねばならない。何度も分解して検討した。この写真では乗り上げていない。ちらりと四角の金属板が見えているのは、後述するバネを兼ねたシムである。 

 問題点はいくつかあった。
 設計は素晴らしいと思う。しかし、クラフツマンシップには大きな疑問点があった。良いものを作って、客を喜ばせようと考えているようには、見えない。工員の質が悪いのである。
「言われた通りに組んだから、これでいいだろ?」と言わんばかりだ。

 分解して気が付いたのは、バリが取ってないところがあることだ。面取りが不完全だから、直角に仕上げた入隅に押し付けても、隙間から光が透けて見える。密着させるためには、双方の面を良く仕上げるのみならず、出隅の角の面取りを念入りに行う必要があるのは常識だ。また、削りクズが残っていて、はさまっている。


2021年03月11日

続々 double slip mechanism

 軸がずれても、トルクを伝達する方法はいくつかある。高級なものではブフリィ式などがある。先の祖父江ジョイントにおける、ある位相での挙動も同様である。
 簡単で壊れにくい構造は、リンク機構である。これは、例があまり発表されていないように見えるが、蒸気機関車のロッドはまさにこれで、多少の動軸の上下動があっても、問題なく動く。スイスあたりの電気機関車の駆動方式は、さらに大きな動きを許容する。このロッドには垂直に動くスライダがあるからだ。筆者はこれに目を付けた。

 2:1に内分する点に、テコから直角(枕木方向)に張り出した別のテコを付け、長い既存のテコがレイル方向にずれないように長孔で保持してトルクを生み出す、という方法である。文章では分かりにくいので、図示する。

double slip mechanism 3 上の方に伸びたテコにはリンクが付き、左右に振られる。左に行けば、支点は左右には動かないから、リンクが傾き、どちらかの作用点が接触するまで行く。例えば左が接触すれば、右端が接触するまで左に回転するので、支点は少し上に動くだろう。

 支点は、スライダの溝の中を滑るボールベアリングが嵌まった軸である。上下の抵抗は、無視できるほど小さい。この方法の利点は、イコライザとしてのテコの平面上で力が掛かるので、捻りが生じないことである。機構は極めて簡単になる。動く角度が小さい範囲では、3点への力は均等であると見做せる。

 T字型のリンクの根元は補強しておく必要があるが、面積があれば普通のハンダ付けで十分だ。


 本日は東日本大震災から10年目の日である。当日、日本を離れていて、帰国できるかどうか心配していたことを思い出す。テキサスのデニスは「うちに来い。いつまで居ても良い。」と言ってくれた。
 帰国の日、日本に近い太平洋上で、飛行機から親潮と黒潮の潮目が見え、そこに膨大な量の漂流物があるのを見た。建物も船も、おそらく遺体も含まれていただろう。むごいことであった。  

2021年03月09日

続 double slip mechanism

double slip mechanism4 テコの長さを 2:1 に内分する点を回転軸としてみよう。そうすると腕の長さが違うので、力は 1:2 となり目的を達する。
 一方がある程度動いて、目的地点まで到達すると支点となり、他方が別の目的地点に向かって動く。
 下の図の左端が目的地に到着すると右端が上に行き、同時に回転軸も上に、その 2/3 移動する。トルクを与えている軸が動くことになるのだ。これは問題だ。

 軸にはモータが付いている。モータはある程度動くと同時に、反トルクを受け持つ何らかの機構を持たねばならない。しかもテコの作動面とモータの位置は、上下にある程度離れているから、反トルク承けの構造は捻りに耐える工夫が必要である。そうなると、かなり難しい構造を覚悟せねばならない。

 トルクアームをどうすべきか、あるいは小さなギヤボックスを付けて、トルクチューブにするか、それともつまらぬことを考えずにテコを延長するか、しばらく悩んでいた。
 皆さんならどうされるだろう。 

2021年03月07日

double slip mechanism

 いくつかお答を戴いている。フレッド折澤様が正解で、その他の方は部分的に良くても、うまくいかないこともあるので不正解とした。

double slip mechanism この図を見て戴きたい。上の図は単純な天秤棒で、2倍の荷重が掛かっている方に近いところを押せば、すべてが均等に押される。
 中の図はテコを右に延長したものである。テコの右端を下に押すと、左端が動作を終えて引っ掛かり、支点となる。すると中心の部分が作用点になる。2点を2倍の力で押すから、すべての点が均等の力で押されることになる。
 下の図では、中の2点が支点となった状態である。左の作用点は力点と同じ力となり、中点は2倍となるが、2点に分配されて均等になるというわけだ。

 これらの動作中、長孔は何ら力が掛かっていないので、不要である。実はその部分は、単にスライドするだけの滑り子を作ってある。

 テコを延長するのが最も簡単な解決法だが、偶力が働いているのだから、トルクと置き換えできる。    


2021年03月05日

炭素棒ハンダ付け

 むすこたかなし氏のRSU (resistant soldering unit) の記事が面白い。筆者はOゲージを楽しんでいるので、細かい工作をしていないと思っている人も多い。だから、太い炭素棒で高い電圧を掛けていると思われているようだ。
 筆者は細かい作業もする。ディーゼル機関車のブレーキ・リギングなどは極めて細かい。その組立てはRSUを用いる。相手が大きいので、ハンダごてではできない。

 炭素棒は、1/16インチ(1.6 mm径)を用いる。電圧は5 Vである。先端が白熱するのではないかと思われるだろうが、そんなことはない。発熱量は、電流の2乗と時間との積である。時間を短くすれば良いのだ。

 筆者がペダルを踏むのを見ると、ほとんどの人が「すごい」と言う。きわめて短時間の踏み込みを、猛烈な速度で繰り返す。それがコツなのだ。炭素棒は相手に触れたままにする。発生した熱は殆ど相手に吸収させるようにする。通電は0.2秒程度だ。通電中に離すとアークが出て穴があくかもしれない。 
 毎秒2回程度踏む。足踏みスウィッチは、耐久性が保証されているものを選んであるから、思い切り速く、細かく踏むべきである。

 ハンダメッキしておいて、炭素棒を押し当てればハンダはつるりと沁み込み完了する。きわめて単純な話で、簡単だ。 もちろんフラックスは塗っておく。

2021年03月03日

続 switch motor

Hankscraft この丸いものはアメリカ製で、もともとは商品ディスプレイ用の動く宣伝媒体の動力などに使われていた。
 バラすと歯車が5段に入っていて、減速比は1:200ほどだ。とても調子が良い。民生用として大量生産されているもので、消費電力は極めて少ない。

 Honeywellにはstall motor(止まってしまっても良いモータ)があり、それは特許であった。エアコンのバルブや、ダクトの開閉に用いているものだ。その特許が切れてから、上記の安くて電流の小さなモータはポイントマシン用に使われ始めた。トルクは強大である。

 ダブルスリップの連動装置に使える。観客から近いところにあるので、動くところが見える。故障せず、長持ちするリンク機構が必要である。それによって、この種の機構に興味を持つ人が増えれば嬉しい。

equalizer 一つのテコで、3組の尖端レイルがイコライズされて動く様子を見ることができる。それが2組あるのだ。
 これらは全てブロックから削り出している。長年の使用に耐えねばならないからだ。
 ポイントマシンでいくつかのスウィッチが駆動され、信号機の燈火が変化する。それだけでも面白い。

 この種のモータはたくさん入手してあるのだが、結局のところ、アメリカ製のものしか使えない。力と耐久性とを考えると、そうなってしまう。それ以外のものはすぐ壊れてしまうものが多いと感じる。


2021年03月01日

switch motor

 ポイントマシンを取り付けている。すべてモータ駆動になるので、各種のギヤードモータの電流値を調べている。

 優秀なモータは5 mA以下で回転する。1.5 kΩの抵抗を直列に介して 12 Vを掛けると 6 mAで起動し、無理に回転を止めると8 mA弱で一定となる。抵抗では 0.1 Wが熱になるが、尖端レイルは押し付けられている。その力は十分大きく、脱線は起こらないだろう。抵抗は熱くなるはずだが、30分待っても温かく感じなかった。十分安全である。もちろんモータは単なる銅線であるから、熱は発生しないと考えて良い。 

switch motor (1)equalizer この種のモータが一番良いのだが、もう手に入らない。10年以上前にたくさん買ったが、友人が一つずつ「サンプルに」と持って行って、ほとんどなくなってしまった。3 mAで動くが、ほこりを噛みやすい。脱脂洗浄剤でよく洗い、注油して密閉空間に入れた。こうすれば20年は問題なく動くだろう。これはおそらく、当時の8ミリビデオのズームレンズを駆動するものではなかったかと思う。

 ここで問題を一つ。このダブルスリップの「1つのモータで動く3組の尖端レイル」の圧着力をすべて等しくしたい。この図の構成では圧着はするが、均等ではない。どのように改良すれば良いだろうか。矢印の長孔は十分に長いものとする。

2021年02月27日

DROの取付け法

45 degree 博物館の工房にある縦フライスには、DROが付けてある。3次元をディジタルで読めるので大変便利だ。友人が見て、「良いデザイン」と褒めてくれるのは、この45度傾けたDROだ。形を褒めてくれるが、その意味を考える人が少ない。これは機能優先のアイデアである。意匠優先ではない。

 DROは本体と移動部(XYテイブルなど)を結んで、移動距離を測るものだ。たいていは移動部に棹をネジ留め、本体にはカーソルをバネで固定する。どんなに細かく調節して水平に取り付けたつもりでも、動けば多少のズレや撓みが生じる。バネは多少の動きを吸収する。バネは堅く、無駄には撓まない。材料は厚めのリン青銅の板である。

 ズレや撓みを吸収しても、読みに影響するのは避けたい。写真の場合、もし水平面に取り付けてあれば、Y軸方向の動きは吸収できない。垂直面に付けてあればZ軸方向の動きは吸収できず、それが原因でX軸の長さの読みに影響を与えるかもしれない。

DROを45度傾ける理由 そこで、バネを”く”の字に曲げて本体に取り付ける。こうすると、Y,Z方向の撓みはどちらも無理なく吸収され、読みには影響を与えない。易しい工夫で 克服できる。傾けたのは、単に見掛けを良くしたり、読み取り易くしたのではないのだ。

 作例ではDROの棹を支えるものは、ブラスの角棒を切り出し、銀ハンダで付けてフライス加工してある。作るのが簡単で、丈夫である。飛び出した構造で強度が必要であるが、ハンダ付けでも壊れることはない。銀ハンダの効用について、再認識されるべき時期に来ていると思う。ロウ付けでも良いのだが、筆者はこちらを好む。

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