今月の PICK UP レビュー

2021年

6

読書メーターユーザーおすすめの本に寄せられた、感想・レビューを紹介!

思わず読んでみたくなる感想・レビューが勢揃い。
次に読みたい本を見つける参考に、ぜひチェックしてみてください。

地球星人

『コンビニ人間』を超える驚愕をもたらす衝撃的傑作

地球星人

子供のころの自分は異質であるという空想をしたことはあったが、突き詰めればここまで届くのかと呆然とした。

世間の同質化への強要に長く辟易している自分ではあるが著者の作品を読むと自分など周囲の人と同じであり、地球星人だと自覚させられ、悲しいような嬉しいような気分になる。

今後も平穏に生活したい自分としては好きな小説家さんはと聞かれたとき、著者の名前を挙げる勇気はないがその他の著作についても嫌悪や共感しながらも読んでいきたい。

ポハピピンポボピア星人、覚えられないし、かまずに言えない。突き抜けてて戻れない一冊です。

あと十五秒で死ぬ

一風変わった被害者と犯人の攻防を描くデビュー作

あと十五秒で死ぬ

死を迎えるまでの15秒をテーマにした4編を収録した作品集。

何者かから胸を銃で撃たれ、命を落とすまでの15秒で犯人への復讐を画策する「十五秒」、テレビから目を離した15秒の隙にドラマの登場人物が前触れもなく死んだ理由を推理する「このあと衝撃の結末が」など、ひとつのテーマをこれほどバラエティ豊かに描けるとは、着眼点がすごい。

しかし白眉はやはり「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」。首が胴体から離れても15秒は生き続けられる人間たちが織り成すドタバタ劇はユーモラスで、かつ事件の決着には舌を巻いた。面白い。

つまらない住宅地のすべての家

住宅地で暮らす人間それぞれの生活と心の中を描く長編作品

つまらない住宅地のすべての家

大きな通りから一本脇に入った、行き止まりの路地を囲む10軒の家。それぞれの事情を抱えた家族がある騒動をきっかけに協力し、交流が生まれる。

冒頭に描かれた住宅地の配置図と家族のプロフィールを見ただけでもうワクワク。この騒動の成り行きを縦糸に、それぞれの家族の問題を横糸にした構成は見事だし、他所の家を覗き見しているかのような背徳感と場面がテレビチャンネルのように切り替わるスピード感。人が人に与える影響の大きさや言葉を交わすことの力というものをしみじみ思う。

人に会えない今だからこそお薦めしたい作品です。

クララとお日さま

AIロボットと少女との友情を描く感動作

クララとお日さま

人工ロボットであるクララは病弱な少女ジョジーの遊び相手として買われ彼女の家で暮らすことになる。けれども、そこには大人達の秘められた企みが存在していた…。

クララの純粋無垢な心と人間達のエゴイズムの対比。ジョジーの彼女に対する友情には嘘はない。けれどもクララの心の美しさが輝けば輝くほど人間の醜さが露になってくる。

クララがジョジーの為に犠牲にしたものは悲しいまでに尊い。それはクララが人間の為に作られたロボットだから。テクノロジーの進化について深く考えさせられる。

この物語はイシグロの科学に対する警告の書である。

不可逆少年

圧巻の青春リーガルミステリー!

不可逆少年

心が拘束された一冊。

家庭裁判所調査官が向き合う少年達の心の奥と事件の真相。人を殺してドキドキしたい13歳の少女にいきなりの衝撃。フォックス事件の背景といいあまりにもこの年代の少年達が抱える世界は残酷で重過ぎる。なのに繊細で危うさ感じる今にも壊れそうな心理、世界観に魅せられ、事件の繋がりと真相に心ががっつり拘束された時間だった。

絶望を選んだ選ぶしかなかった叫びが痛い。大人として痛い。やり直せるか否か…ラストの言葉。そう思いたい、信じたい。顔をあげ視野を広げ見渡す世界には見守り導く灯台のような灯りが不可欠だ。

蒼海館の殺人 (講談社タイガ)

精美にして極上の本格ミステリー

蒼海館の殺人 (講談社タイガ)

ここまでド直球に本格推理と探偵の存在意義に挑みストレートに答えた作品は近年稀にみる。

一癖ある家族の中で起こる殺人事件と迫る洪水のサスペンスとパニックの融合でぐいぐい引っ張っていく。最悪の状態からの名探偵の復活もきちんとしていて、その過程がしっかりとラストの謎解きに結びつく堅牢なつくり。解決編で明らかにされる全てが犯人の掌の内という狡猾な計画におののき、疑心と虚飾を取り払った先にあるシンプルともいえる答えに圧倒される。

多量の伏線を読み解き無駄なものが一つもなく完璧に形作られた王道に感服の一言。

あの日の交換日記

手書きの日記で交わされる、謎&感動満載の1冊。

あの日の交換日記

これはすごい。まんまとやられた感と同時に優しい気持ちになれる傑作。

難病を患い長期入院する児童と交換日記を続ける女性教師の物語。そこから始まる7つの短編は全てに交換日記が絡み、繋がりを見せる各話全てに意外な仕掛けが施されている。自分はほぼ全てに引っかかったが悔しくない。むしろ心地よい。作者の手のひらでコロコロ転がされヘラヘラ笑う自分が愛おしく思えてくる。そんな貴重な体験をしつつ、普段言えないことも言えてしまう交換日記、手書きの文章の力を再認識する。

最終話まで翻弄されて完敗、降参、お見事です!未読の方はぜひ!

六人の嘘つきな大学生

浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦

六人の嘘つきな大学生

食らいついて読める就活ミステリ。

6人が巻き込まれた「事件」により、次第に剥がされていく嘘でかためた鎧。人生をかけたゲームを進めていく緊迫感に呼吸が浅くなる。そして犯人がわかったと思わせてからがすごい。

真犯人の動機は何なのか。二部構成のシンプルさと、過去と現在を織り混ぜる手法がうまく読み手を物語に引き込ませる。

暗転してから徐々に明るくなるように、一つ一つの思い込みに気づかされ、最後はスッキリ爽快な気分にさせてくれる。★★★★★

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