武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得実験を行っていた
Exclusive: How Amateur Sleuths Broke the Wuhan Lab Story
こうしたDRASTICのアマチュア探偵たちには今、プロのジャーナリストや科学者からも多くの賛辞が寄せられている。「彼らが中国および科学界の重鎮たちに無視できない証拠を突きつけてくれたことは、研究所流出説の再調査に重要な役割を果たした」と、イギリス人ジャーナリストのイアン・ビレルは言う。「この活動家グループが(勇敢な数人の科学者と協力して)研究所流出説を光の当たる場所に引きずり出したことには、大いに興味をそそられた」
その「数人の勇敢な科学者」の一人がマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同運営するブロード研究所の分子生物学者であるアリナ・チャンだ。彼女はDRASTICが提供していた情報の価値を認め、ツイッター上で科学者にもそれ以外の人々にも分かりやすいように説明を行うようになったことで、高く評価された。
アウトサイダーが世界を変えた
「研究所流出説=反中の陰謀論」という見方が一気に変わったのは、2021年1月6日だった。ワシントン大学のウイルス学者で、アメリカで最も高く評価されている新型コロナ研究者のひとりであるジェシー・ブルームが、科学界の重要人物として初めて、DRASTICの功績を公に認めたのだ。
「彼らの仕事ぶりには注目している」という彼のツイートは、科学界の権力者たちに大きな衝撃を与えた。「その全てに同意する訳ではないが、一部は重要かつ正確に思える」とブルームは指摘した。パンデミックの初期には「ウイルスが研究所から流出した可能性はきわめて低いと考えていたが、その後の調査を踏まえると、今ではかなり妥当な見解に思える」と述べた。
ほかの科学者たちはブルームに再考を強く促したが、彼は意見を変えず、沈黙の壁は崩れ始めた。5月17日、ハーバードやイェール、MIT、スタンフォードなどトップクラスの機関に所属する17人の科学者がブルームと共にサイエンス誌に公開書簡を発表。武漢ウイルス研究所の徹底調査を呼びかけた。
=====
同じ頃、シーカーがまたもややってのけた。彼は中国科学技術部が運営するデータベースのサイトを訪れ、石正麗が監修した全ての論文を検索。すると3件がヒットした。「1回目の検索で見つかった」と彼は言う。「なぜこれまで誰もこの方法を考えつかなかったのかは分からないが、おそらく誰もここを見ていなかったのだろう」
新たに見つかったこれらの論文は、武漢ウイルス研究所がごまかしを続けてきたことを証明していた。研究者たちが、墨江八二族自治県の鉱山労働者の死因(カビ)が真菌だったなどと考えてはいなかったことが明らかだった。石正麗がサイエンティフィック・アメリカンなどに行った説明とは矛盾する内容だ。
研究者たちはSARSウイルスに似た新型ウイルスの感染拡大を心配して、ほかに感染者が出ていないか、銅鉱山の周辺にある複数の村に住む人々の血液検査まで行っていた。また、パンデミックが発生するずっと以前に、そのほかの8つの類似ウイルスの遺伝子配列を知っていた。公表していれば新型コロナの流行初期に多くの研究者の理解を助けていたはずだが、実際は、DRASTICがその情報を引っ張り出すまで公表しなかった。
バイデン米大統領も再調査に動く
新たな情報が暴露され、サイエンス誌に公開書簡が発表されてから数日以内に、さらに多くの学者や政治家、主流メディアまでもが研究所流出説を真剣に受け止め始めた。そして5月26日、ジョー・バイデン米大統領が情報機関に対して、「我々を明確な結論に近づけるような情報の収集・分析に改めて励む」よう命じた。
「アメリカは同じような考え方を持つ世界のパートナーたちと協力して、中国に対して全面的で透明性のある、証拠に基づく国際調査に協力するよう圧力をかけ、また全ての関連データや証拠へのアクセスを提供するよう強く求めていく」と語った。
中国はもちろん強く反発している。彼らが調査に協力することはないかもしれない。だが確かなことは、武漢の研究所がパンデミックの元凶だったのかどうか(そして次のパンデミックを引き起こしかねないのかどうか)について、調査研究が行われるだろうということだ。それも、DRASTICのようなアウトサイダーたちが援軍として加わった形で。
「科学はもう、専門家だけの独占領域ではなくなった」と、シーカーは本誌に述べた。「変化を起こすチャンスは誰にでもある」