東京・八王子のアパートの階段が崩落し、50代の女性が亡くなった事件で、施工会社である則武地所(神奈川県相模原市)が建築した他のアパートでも不備が見つかっている。施工不備の可能性がある物件への対応、不備が判明したときの対処策を専門家に取材。物件選びの際に気を付けるポイントも紹介する。
契約書の確認は必須
不安があれば点検 専門家らに依頼
国の指導の下、則武地所が施工した木造2階建て以上で外階段があるアパート166棟の調査が行われた。そのうち少なくとも6棟で施工不備が見つかり、それ以外の物件も建物点検や入居者への通知などをするよう担当行政庁からオーナーに通知が送られている。
「則武地所に限らず、賃貸住宅は、実需向けに比べ、基礎や外壁の0.5mm以上のクラック、排水不良などの中程度の不備が見つかる確率は2~3倍以上だ」
そう話すのはさくら事務所(東京都渋谷区)の田村啓ホームインスペクターだ。オーナーにとって施工不備は人ごとではない。
同社がオーナーから依頼を受け、ホームインスペクションを実施した則武地所のアパートでは、固定の不具合で階段が落ちそうになっている、階段の手すりの高さが建築基準法より低い、など大きな施工不備が判明した案件もあった。
同社では、契約後から引き渡しまでの間にインスペクションを実施することが多いため、そういった施工不備が出てきた場合には、施工会社や売主側が改修工事を実施した上で、引き渡す流れとなる。
則武地所事件のような、すでに運営しているアパートに施工不備の可能性がある場合、オーナーがすべきことはまず二つだと田村氏は話す。
一つ目は、建物の点検を行うことだ。オーナー自身が、物件を見て回って明らかな問題がないかを確認する。場合によっては管理会社や第三者に点検を依頼する。さくら事務所のホームインスペクションは8戸規模の賃貸住宅の場合、外回りの確認が中心で報告書が付き7万円ほどだという。
二つ目は、該当する賃貸住宅の契約書と図面を確認すること。施工不備が見つかった場合、オーナーは売主や施工会社に対し「契約不適合責任」を根拠に改修するよう要求ができる。契約不適合責任とは、2020年4月の改正民法で定められた内容で「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に発生する責任のことだ。
売買契約や請負契約に関して不備があった場合、対象になった商品の修理の請求や損害賠償請求などを行うことが可能になる。
契約に基づく請求であるため、もともとの契約内容や設計、使用している材料などが分からないと、契約違反になるのかも判断ができない。
また、新築か中古か、売主が個人か企業かによっても請求できる可能性が変わってくるので注意が必要だ。新築の場合、原則10年間は契約不適合責任の対象になる。中古の場合は、期間は契約ごとに異なる。売主や施工会社が企業の場合には、一定の期間を設定することが定められているが、売主が個人の場合、そもそも免責が認められるからだ。
契約書の内容を読み込み、施工不備があった場合に、改修などを売主や施工会社に求めることは可能かの確認が重要になってくる。
あまりに大きな法律違反の場合、20年間訴求できるとした判例も出ており、場合によっては弁護士に相談するのも手だ。
ただ、残念ながら、則武地所のアパートの場合、同社が自己破産しているため、同社に建築を依頼したケースや同社から購入した場合の改修請求は見込めない。他の不動産会社が売主の場合には、施工不備部分の改修などを求めることはできそうだ。
高い利回りに注意 周辺の競合と比較
では、新たに賃貸住宅の購入を検討している場合、どういった点に気を付ければよいのか。
田村氏は三つの点に注意すべきだという。それは、①利回りが異常に高い、②建築費が異常に安い、③工期が早いことだ。
①に関しては、周辺の競合物件と利回りを比較してみて、利回りが異常に高い場合には、建築コストを削っている可能性がある。②と③については、現場に無理をさせている可能性が高く、それが施工不備につながる。
アパートの建築を依頼する場合、無理に繁忙期に完成時期を合わせようとするとミスを招く。特に現在はウッドショックの影響で木造建築の計画や工期が大きく遅れており、今からの建築では22年の3月には間に合わない可能性もある。完成を遅らせてもよいくらいの余裕を持って計画するのがよいという。
「賃貸住宅は金融商品的に扱われる側面があるが、建物があり、住んでいる人がいるリアルなものだ。それを改めてオーナーが意識していくことが大切」(田村氏)
(6月7日24面に掲載)