クイズ王伊沢拓司さんに聞きました!「どうやったら伊沢さんみたいに好奇心たっぷりになれますか?」

クイズプレーヤー 伊沢拓司さん


昨今のクイズブームをけん引し、クイズ王としてそのトップに君臨し続ける伊沢拓司さん。クイズ番組だけでなく、バラエティー番組や情報番組など、テレビで見ない日はないというほど引っ張りだこです。開成中学・高校、そして東大現役合格となんとも輝かしい学歴に加えて、老若男女に愛される人柄、多方面で活躍する才能…。「わが子が伊沢さんにように育ってくれたら」と願う親も多いのではないでしょうか。伊沢さんの受けてきた子育て、そして人生を切り開く情報収集術についてご本人に伺いました。




行動づくりではなく、環境づくり


伊沢さんのご両親は、好奇心を育てる環境を整え、選択肢をたくさん用意してきたそうです。歴史にハマったのも、さりげなく置いてあった学習漫画がきっかけだそう。

環境は作ってもらいましたね。その一方で、行動は自分で決められるようにしてくれたのはよかったと思います。中学受験も自分で決めました。気づいたら自分で選んでいましたね。もちろんその中には水泳のように、きっかけは与えられたけれど、『やらない』となったものもあります。この『自分で選ぶ』という行為が、結果的に自分の中に興味や関心が育つ土壌を作ってくれたのだと思います」

親はいいと思う環境を用意するが、コントロールするのは環境だけ。行動を強制されたことは記憶がないといいます。

「ゲームとか、みんなが持っているものを買ってもらえなかったりはしました。誕生日プレゼントはいつもあまり期待していませんでした。両親共働きで一人っ子なのにドンジャラ(*注)とか(笑)。野球の応援もみんなメガホンを使っているのに、自分は買ってもらえず手をたたいていました。ずっと使うものじゃないでしょって。親は環境づくりという形で教育をしていました。結果論ですけど、与えられた環境のなかでやりくりしようとして、よく考える癖はつきました

*注 ドンジャラ…麻雀を簡素化したテーブルゲーム。




「自分で選ぶ」が興味を育む


自分で興味を持ったものを自分で選ぶ。子どもを信頼していないとこのようには導けません。早くから自分の人生の手綱を渡された伊沢さんは、自分で選択した中高一貫校に見事合格し、今度は学校のクイズ研究部の門を叩きました。

「これも自由にやらせてもらいましたね。当時は小遣いを全てクイズに注いでいましたけど、それについて文句を言われたことはないです。その代わり、お金も貸してくれませんでしたが(苦笑)」

水を得た魚のようにクイズに没頭していった伊沢さん。次々と出会う新しい知識に飽きることは全くありませんでした。興味のあることにはとことん追求するあまり、たまに学校を休むこともあったそうですが、それについてもご両親は寛容でした。

「多少怒られましたけど、無理やり行かされるということはありませんでした。大好きな007の新作映画の公開日だから学校を休んだり、朝ごはん食べながら新聞を読み進めているうちにタイミングを逃して『遅刻ならいっそ…』とそのまま休んでしまったり(笑)。そもそも、新聞って余裕がないと読めないと僕は思うんですよね」

この「余裕」こそが、伊沢さんの興味や関心を育み、クイズ王への道筋を作っていったのは言うまでもありません。




新聞を読むきっかけは「手持ち無沙汰」


ところで、頭脳明晰で豊富な知識を持つ伊沢さん。小さい頃からさぞかし新聞に親しみ、隅から隅まで読んでいるだろうと思いきや、意外な答えが返ってきました。

「家に新聞はありましたし、小学生新聞も取ってくれていましたが、四コマ漫画しか読まなかったですね。朝ごはんを食べているときに手持ち無沙汰だったので、暇つぶしで四コマ漫画を読み始めました」

大人の世界に属する新聞は、子どもにとっては自分に牙を向いてきそうな気がするものだと伊沢さんは言います。

「よけたくなるのは当然です。『新聞があるぞ、読みたいな!』みたいなことが急に起こるはずもない。だから、『新聞を読みなさい!』は逆効果だと思います。子どもに新聞を読ませるアプローチは、新聞の外からやらないと。ただただ「新聞が良い!」のではなく、何か知りたいことがあって、その過程で新聞というツールがあります。そこで手にとって初めて『新聞っていいじゃん』となっていくわけですから。まずはさまざまなことに興味や関心を持つことがスタート地点だと思います」

伊沢さんのご両親は、新聞を読むことを強要しませんでした。新聞を目につくところに置きこそしましたが、機が熟すのをじっと待っていたのです。

「しばらくは置いてあるだけだったけれど、じっくりと時間をかけて新聞は僕にとっての当たり前になり、読むものなんだという意識が芽生えました。四コマ漫画から次第にスポーツの結果や、選手について何が書いてあるんだろうと関心が向くようになり、そういうステップを積み重ねていく中で新聞への親しみが湧いてきたという感じです」




いつ役に立つか分からない知識


では、伊沢さんはクイズのために新聞をどのように活用してきたのでしょうか?

「今もそうですが、クイズのためにと思って新聞を読んだことはありません。役に立てるために意識して知識を入れているわけではなくて、それが好きだから入れて、たまたま役に立つ…の連続です。新聞にはありとあらゆる情報が載っています──オピニオンの欄や活躍されている方の欄、テレビやラジオ、エンタメ情報もあれば、囲碁や将棋なども載っていますよね。それって明日生きるわけじゃない。でも、今日囲碁や将棋が行われているんだ…、そういう伝統があるんだ…とか、こういうふうに思っている人がいるんだ…とか、ぼんやりしたインプットはどこかで効いてきます。むしろ、知らなかったら『効いた!』という実感すらわかないわけで、チャンスを知らぬ間に逃している可能性すらあります。そういうものをそぞろに見られるというところに新聞の価値があると僕は思っています。もちろん、新聞で読んで学んだことが、たまたまクイズの正解につながったこともありますよ」




解釈を見抜いて、事実を読み解く


クイズに必要とされる幅広い知識を知らず知らずのうちにため込めるのは、多種多様な情報を扱う新聞ならではの利点でしょう。一方、コメンテーターとしても多くの仕事をこなす伊沢さんが注目する新聞の魅力がもう一つあります。それは新聞のもつ、解釈の多様性です。

新聞は、本来偏っているものですよね。ニュースを伝える人が、物事を切り取っている時点でその人の解釈が入ります。だから、新聞は、解釈の多様性を学ぶために大いに役立つと僕は思っています。我々はその解釈を、『これは解釈かな』と考え、時には他のソースにも当たりながら本質的な情報を探し求めます。絶対的な情報ソースのほうが珍しいわけで、そうした情報摂取のトレーニングをすることでこそ、事実を眺める解像度が上がるはずです」

コメンテーターの仕事の前には、複数の新聞を読み比べて、自分と同じような意見のみならず反対意見も調べるようにしていると言います。

「自分と違う意見を探す上で、やはり新聞は確度が高い。その人なりによく考えて、僕の考えとはまったく違うことを言っていたりします。たとえトンチンカンでも、そういう真剣な意見、真剣なトンチンカンに出会える確率はネットよりかなり高いはずです。コメンテーターとしてはそういう人にこそ何かを伝える必要があるわけですし、新聞はある種、各紙でちゃんと偏っているから全体で見ると比較的公平な世界になっています。まずは情報をたくさん入れること。さらに、そのたくさんの情報を無視せずに、自分との違いを考える中で自分の中の筋が形成されていくと思っています。社会での経験値が薄い僕がやるべきせめてもの努力が、これですね。こういうことに諦めない癖はつきました」



ここまで読んだあなたは新聞向き!

2年前に「楽しいから始まる学び」をコンセプトにQuizKnockを起業し、さまざまな事業を展開しながら「勉強」や「学び」について子どもたちに優しくひも解くような活動も繰り広げている伊沢さん。決して新聞を強要しないのは、ご両親と同じです。

新聞は、向いている人が読めばいいんじゃないですか。ただ、この記事をここまで読んでいる方は、十分に新聞に向いていると思いますよ。 モチベーションはどうあれ、『もっと知りたい』とここまで読み続けているわけですから。その知ろうとするリテラシーにきっと新聞は答えてくれるはずです。もっと言えば、『伊沢が言っていることは本当か?』って思いながら読んでいる人は、情報の摂取がすごく上手だと思うので、そういう人はぜひ紙で読んでいただきたいですね。そんなあなたが求めている情報ツールは新聞かもしれない…と僕は思います!」

最後に、もしお子さんを持ったら新聞をとるか伊沢さんに聞いてみました。

「とりますね。読みなさいとは決して言わず、ただ置いておきます」