ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
襲いかかってくる、身体の何処かしらから向日葵を咲かせるモンスターの群。ただのモンスターではない。いや、花が咲いてる時点でそうなのだが身体能力が明らかに通常個体より高い。強化種、とは違う気がする。
「よっと……」
「オオアアアア!!」
「ガルァ!」
ミノタウロスの体に幾つもの切り傷を刻むが気にした風もなく突っ込んでくる。拳をかわし肩を足場に飛び上がり俯瞰しようとすればがワイバーンが襲ってきたので首を切り落とす。
「おっと……」
お返しとばかりに爪を振るうワイバーン。首は確かに切り落としたのに、死んでいない。いや、そもそも死んでいるのかもしれない。
「ふっ!」
と、追撃を仕掛けてきた首無しワイバーンをリューが叩く。
「サンクス〜」
「モンスター相手であれば、やりすぎても問題ないので」
あくまで凶行を止めたかっただけらしい。相手が人間でなければ、良いということか。喋れるモンスター出たらこいつの『正義』は果たしてどうなるのだろう。潔癖なエルフなら拒絶感が強かろう。
まあそれは喋れるモンスターが存在してたらの話か。
「オオオオオ!」
「ガアアアア!!」
迫りくるモンスターの群。痛みを感じず、首を切っても死なないモンスター。魔石を狙おうにも、上層種でもオークやシルバーバックなど大型のモンスターというラインナップ。狙い難い。
なら動きを封じる………
「はぁ!」
「しっ……」
リューがワイバーンの翼の骨を砕き、ヴァハがミノタウロスやオークの足を斬る。確実に折れたし、確実に切った。だが………
「これは、根!?」
「お〜」
傷口から飛び出した根が断面を繋げたり、折れた骨を補強する。やはり魔石を砕かないと駄目みたいだ。
「【血は炎】」
炎で燃やすが、普通の花ではないのか中々燃えない。大型の血袋も、表面は燃えるが中までには至らない。
「『赤星』」
と、血液を圧縮させた珠を生み出す。このまま放つ、のでは一匹が限界だろう。
「【血は炎】………『獄炎』」
超高温の炎が大型モンスター達を骨も残さず焼き尽くす。沸騰した血液が水蒸気爆発を起こし、原型を保っていない。
「【ルミナス・ウィンド】!!」
リューの魔法も、モンスター達を一瞬ですり潰していく。風の魔法が燃え広がる炎を飲み込み、あっという間にモンスターと城の一部を溶かす。
「しかしキリがねぇなぁ。ガキ共、新しいおもちゃだ。あっちは壊していいぞぉ」
と、赤子達に声をかけるヴァハ。赤子達は千切った指とか鼻とか耳とかを捨て、新しい玩具に向かって飛びかかる。
「後はベルか………」
まあ、
時間を少し遡る。ヒュアキントスは荒れていた。必要ないとは思うが、そばに控えさせるつもりだった
そして、聞こえてくる絶叫。痛みに叫ぶというよりは、恐怖に叫んでいるかのような悲鳴。アポロン様の眷属ともあろうものが情けない。
「…………クリティエ、さっさと準備をしろ」
「は、はい……」
そばに控えさせていたクリティエを呼ぶ。仲間を傷つけアポロンの寵愛を失った女だが、使えるものは使う。
「【空を掛ける太陽、追う私。どうかどうか置いていかないで】」
「【何時しか膝は折れ、地に根を張る。動けぬ私は涙を流す。涙を吸い、凍えた露が私を癒やす。それでも癒えぬ孤独、振り返らぬ貴方。ああ、それでも──私は貴方を、見つめている】」
詠唱が完成する。クリティエは、その魔法名を呟く。
「【ヘリオース・フィリア】」
光の粒子が舞う。モンスターを操り、人にも微弱な影響を及ぼす魔法の花粉。過去に【アポロン・ファミリア】の団員を操ろうとした事もあったが、それは不可能だった。
鎮痛効果に、興奮状態による身体能力と精神力の増加。これで負ける可能性は微塵もなくなった。と、その時だった
「っ!?」
床を突き抜け、炎のように赤い雷が天へと昇った。亀裂が広がっていき、城を破壊する。
「無詠唱!?」「呪文唱えてないのにあの威力とかー!」「あのヒューマン欲しいいいいいい!!」「でも兄貴はいらん!」「俺は欲しい!」「私は飼われたい!」
年齢規制のない、真の
「いや〜………なんか、ヴァハ君すごいね」
「うむ……誰も殺していない、いないが………」
瓦礫の中から出てくるヒュアキントス。すでにボロボロだ。未来予知でもできるものが居れば或いは傷つかなかったかもしれないが、残念ながら彼のそばには居なかった。
「何だ、何が起こった!?」
控えていた仲間達は瓦礫の下だろう。腕や上半身が見える。魔法の効果は続いているから、恐らくクリティエは生きている。仮にもLv.3と言うことか。
「くっ!」
戦意を感じ取り、ギリギリで
「………誰だお前は」
その少年は、7日前、散々打ちのめしてやった筈の少年。それだけの差があったはずの、取るに足らない相手だった少年。
「しい!」
「ぐうっ!?」
激しく打ち合う長剣と短剣。一撃一撃仰け反りそうになる身体。遅れる対応。
力が、速さが、全てが自分の上を行く。傷ついたから、などと言い訳出来ぬほど確実に。
「誰だ!?」
ありえない、ありえない。成長、なんて言葉では追いつかない。飛躍だ。だが、ありえない。そんな、つい最近Lv.2になったばかりの筈!
「何をしている、ヒュアキントス!?」
「やるなぁ、ベル君」
押される己の最強の眷属に叫ぶアポロンに、笑うヘルメス。きっとLv.1の頃から相当
「そうだけど、違うよ」
「? どういう事だい?」
「………今のベル君は、Lv.3だ」
大した事ない。7日前、自分を倒した男。その後戦った兄の方が、ずっと強い。
兄と、目の前の男と同じ位階に立った。だからこそ余計に分かる、彼と兄の差。最初にあの人に憧れた。何時か、隣に立って、一緒に戦いたいと夢見た。だから……
「貴方程度に、遅れるわけには行かないんだ!」
ベルの拳がヒュアキントスの顔にめり込む。吹き飛ばされるヒュアキントスは、頬を抑えギリッ、と歯を食いしばる。
散々斬られてもまるで痛みなど感じぬかのように襲いかかってきたヒュアキントスが、初めて止まった。
「…………貴様………貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁ!!」
怒りの咆哮。憤怒と憎悪を宿した瞳がベルを射抜く。
「よくも、私の顔を! アポロン様の寵愛を受ける、顔に、傷をつけたなァァァ!!」
力の限りベルを弾き飛ばすヒュアキントス。全力で潰すべく、彼我の間が出来た今詠唱を唱える。
「【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」
並行詠唱はできないのだろう。ベルはかけながら白い光を纏い、鈴の音を奏でる。
「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ。放つ火輪の一投、来たれ西方の風】!」
重心は低く、左腕を下に、右腕を腕を高く上げられた体勢は、円盤投げ!
「【アロ・ゼフュロス】!!」
太陽光の如く輝く大円盤。高速回転する日輪に、ベルは片手を向ける。
「【ファイアボルト】!!」
「───な」
ヒュアキントスの魔法はもう一つの特性を発揮する暇もなく、貫かれる。その威力は減衰する事なく、ヒュアキントスを吹き飛ばした。
「がは!?」
それでも、立ち上がる。痛みなど無い。ならば何度でも。
「………? う、あ………?」
だが、ふらつく。立ち上がっても、立っていられない。
「………兄さんが言ってました」
不思議がるヒュアキントスに、ベルは言う。
「興奮して痛みを感じなくなった人間には、強い攻撃はあまり意味がないって。寧ろ、隙を生むって………だから関節を殴るとか、切り傷を何度も作るとかすれば、痛みを感じなくても体を動けなくさせられるって」
「────!!」
動けなくさせる。それはつまり、殺さないやり方だ。殺さないというのは、つまり手加減したやり方だ。それを、やられた? この私が!?
怒りにどれだけ頭に血が上ろうとしても、足りない。ガクリと膝をつく。
「く………認めるものか、貴様などに……クリティエぇ! 何処だ、何処にいる!?」
「………よ、呼びましたか?」
と、その叫び声にクリティエが姿を現す。ベルが警戒する中、ヒュアキントスはクリティエに向かって叫ぶ。
「もっと私に魔法をかけろ! 身体の限界など、知ったことか! 私は、アポロン様に勝利を捧げねばならない!」
「……………」
「聞いているのか!?」
「………ふ、ふへ………えへへ………」
ヒュアキントスの叫びに、クリティエが返したのは嘲笑。
「貴様、何を笑っている」
「だ、団長様が、さ、叫んでも………怖、怖くないです。怖く、なんか………」
とは言いつつも目をそらし杖を握る両手の指をモジモジと合わせるクリティエ。
「あ、あの、ですね……話、私は、嘘を、つ、ついてたんです………」
「こんな時に何を言っている!?」
「こ、この魔法………ひ、人にもちゃんと、効くんですよ? じ、時間がかかるし………わた、私が弱くて、皆さんが強くて………だ、だから、効果を完全に発揮出来なくて」
でも、と笑い、長く伸びた金糸のような前髪を耳にかけるクリティエ。アポロンが二度と見せるなと言った向日葵の花のような、日輪のようなアースアイが顕になる。
「もう、我慢しません。素直になります………私の方が、強いから」
「何を───」
「え、えへへ………あ、あの人も来てるんです。だ、だから………お礼、言いたくて。わ、私今、とっても楽しい!」
ゾワリと、言いしれぬ悪寒がベルの背を撫でる。危険だ、彼女は。止めなくては!
「【
「あぶぅ……」
ヒュアキントスの頭部が歪に膨らみ、爆ぜる。頭蓋を砕き、脳漿を撒き散らし咲き誇るは黄色い向日葵。
目を見開き思考が固まるベルを蹴り飛ばす影。【アポロン・ファミリア】の団員だ。だが、右側頭部が弾け向日葵が咲いている。
別の団員が襲いかかってくる。下顎が残り、その上に向日葵。
「ふへ、うへへ………あははははは!! やった、あは、やっちゃった! これでこれでこれでこれでこれでぇ、アポロン様が愛した顔は、どこにもない! あは、あははは!」
歯が、カチカチと鳴る。冷や汗が止まらない。凍えるほど寒いのに、汗が流れる。
「………あ」
と、クリティエはベルを見る。
「まだ、の、残ってた………で、でも………あの人の、弟ですもんね。に、逃してあげても…………あれ?」
そして、今度は別の方向を見た。
「ダ、ダフネちゃんと……カサンドラ、ちゃん………す、吸ってなかった? お、おかしいな………で、でも。もう一回、やや、やれ、やればいっか………」
「っ!!」
止めなくては!
そうしなければまた被害者が出る、と駆け出したベル。その短剣が、
失血が酷く動けなくなっていた筈のヒュアキントスが、動いていた。頭部の代わりの向日葵が、まるで睨むようにベルを見つめた。
嘘はついてないよ。嘘は
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ヴァハ君のヒロイン
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