日本郵便「不正の温床」手を付けず 局長会への配慮にじむ再発防止策
長崎市の元郵便局長による詐欺事案は、日本郵便のずさんなコンプライアンス(法令順守)体制を浮き彫りにした。同社は2日、再発防止策を発表したが、原則として転勤がないなど不正の温床とも指摘される局長の特殊な人事制度には、ほぼ手を付けなかった。郵政民営化まで特定局と呼ばれた小規模局の局長でつくる「全国郵便局長会」は社内で隠然と力を持っているとされ、衣川和秀社長は会見の随所で配慮を見せた。
問題が起きた長崎住吉局は旧特定局で、局長職は3代の世襲だった。元局長は父親の後を継いで間もなく詐取を始め、23年間勤務。定年退職後も息子が局長となった局内の応接室を使い、架空商品の勧誘を行っていたという。
衣川社長は、不正が四半世紀にわたり発覚しなかった背景に、元局長が長期間、同一の職場にとどまったことや、世襲によるなれ合いがあったことを認めた。再発防止策として、局長は5年ごとに約1カ月間、他の局長と職場を交代させる▽後任が子どもの場合、就任前の一定期間は第三者に局長を務めさせる-などの仕組みを導入すると明らかにした。
同社は2010年から、不祥事防止のため金融業務に携わる局員は原則として10年以内に異動させるルールを設けているが、旧特定局長は対象外。衣川社長は今後も運用を改めない考えを示し、その理由を「親しみやすい局長がいることで、顧客は郵便局に相談しやすい」からだとした。
世襲については、親子だから採用しているわけではないと説明。「結果的にそうなっている」との認識を示した。
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同社関係者は「経営陣は、旧特定局の問題には踏み込めない」と口をそろえる。背景にあるのは、全国郵便局長会が持つ政治力だ。
局長会は「郵便局網の維持」などを掲げ、選挙で自民党を支援する。局長の採用に当たっては、会の地区幹部が「選挙はできるか」などを確認し、適任者と認められた人物が会社の採用試験を受けるのが慣例。転勤がないことで地域での集票力が高まり、社内での発言力も増すという構図だ。
地区幹部は、旧特定局の局長や局員の人事についても、事実上の権限を持つとされる。局長会の「地区会長」は社内の「統括局長」、「副会長」は「副統括局長」となるなど、局長会が決めた序列がそのまま社内の役職に反映されている。
こうした序列の一致について、衣川社長は会見で「たまたまだ。局長会の決定を追認しているわけではない」と繰り返した。
九州のある局長は「これが『たまたま』なら、全国約2万人の局長の役職が毎年、天文学的な確率で局長会の序列と一致していることになる。社長がこんな苦しい説明をしなければならない状況で、本質的な再発防止ができるはずがない」と話した。 (宮崎拓朗、山口新太郎)