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「感染対策をしていたのに感染」は本当?日本の水際対策は十分なの?専門家の見解は…

ウイルスの変異は、私たちの日々の生活にどのような変化をもたらすのか?国立感染症研究所感染症危機管理研究センターの齋藤智也センター長に聞く。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大から1年が経過し、様々な地域でウイルスの変異が確認されている。

ウイルスの変異は、私たちの日々の生活にどのような変化をもたらすのか?

国立感染症研究所感染症危機管理研究センターのセンター長、齋藤智也さんに話を聞いた。

※取材は5月31日午後にZoomで行われ、その時点の情報に基づいています。

「対策していたのに感染」は本当?

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立感染症研究所感染症危機管理研究センターのセンター長を務める齋藤智也さん

ーー5月21日の記者会見で、政府分科会の尾身茂会長が感染対策をしていたにもかかわらず、感染をした事例が複数確認されていると発信していました。ウイルスの変異で「空気感染」など、感染経路が変化した可能性はあるのでしょうか?

ウイルスの変異によって、感染経路が大きく変わる、ということは考えにくいです。変異ウイルスがより空気中で生存しやすい、というデータもありません。

全ての人が感染対策を常に完璧にできるとは限らない。一瞬の緩みで対策が十分でなかったときに感染者と接触し、感染するということはあり得ると考えています。

以前から、感染経路を辿っていっても、どこで感染したのかが不明な事例は一定数存在しています。感染が拡大し、社会全体の感染者数が増えてくると、そのような感染の機会も増えます。

ーーウイルスの変異による影響について、現時点で確かと言えることはあるのでしょうか?

イギリス由来の変異を持つウイルス「B.1.1.7」は、感染力が高い理由として感染者からのウイルス排出量が多いこと、あるいはウイルスそのものが少量でも感染しやすくなっていることなどが背景にあるのではないかと考えられています。

インド由来の変異、その影響は?

Getty Images

ーー最近ではインド由来の変異ウイルス「B.1617」も注目されています。インドでの感染爆発は世界中で大きく報じられましたが、感染力などについてわかっていることはあるのでしょうか?

現時点で変異ウイルスで参照できるデータは、基本的にはイギリスにおける解析データとなっています。感染力は、少なくともイギリスで初めて見つかった変異ウイルス「B.1.1.7」以上とされており、二次感染率も従来のウイルスよりも高い。

地域差はありますが、イギリスではこのウイルスへの置き換わりが急速に進んでいます。

なお、イギリスの報告では、ワクチンの効果についてはこの「B.1.617」にも、2回接種後には従来のウイルスと同程度効果を発揮すると発表しています。

ここまでがわかっていることです。

一方で、感染した場合に重症化そして死亡するリスクがどの程度変化するのかはわかっていません。

ーーインドにおける感染爆発を見て危機感を募らせる人も少なくありません。あの感染爆発にはウイルスの変異も影響していたと考えてよいのでしょうか?

はい。どの程度かは不明ですが、少なからず変異の影響はあったのではないかと思います。

日本の水際対策は十分か?

時事通信

ーー感染研が5月12日に発表したレポートでは、「B.1617」について「検疫での検出例の増加を鑑みれば、輸入例や国内での感染例が検知されていない可能性を考慮すべきである」と評価されています。また、日本感染症学会で齋藤さんは「インド株を封じ込められるのか、チャンスはごく初期に限られる」とも発言しています。今後の見通しを教えてください。

新型コロナには何度も予想を裏切られてきました。見立てを伝えることは非常に難しいと感じています。

ですが、「B.1.617」へと日本国内のウイルスも置き換わっていく可能性を考えなければいけません。

重要なことは、この置き換わりをできる限り遅らせることです。封じ込めることが可能かはわかりませんが、ウイルスの置き換わりのスピードを下げることはできる。

そのためには社会全体で感染する機会をできる限り減らす、これに尽きます。

現在、検疫では海外から日本へと入ってくる感染者をできる限り減らす努力をしています。

ハイリスクであるとされている国からの入国者やその周囲に発症した人がいれば、重点的に検査して感染者を見つけていく。このようにして囲い込む必要があるでしょう。

ーー検疫は非常に重要な役割を果たしていますが、一方で日本の水際対策は諸外国に比べ緩いものであることが繰り返し指摘されています。こうした点についてはどのように分析していますか?

指摘されているような側面があることは事実ですが、これまで入国者を絞り、出国前と入国時の検査、3日間待機などでかなりの数の感染者の流入を防いでいることも事実です。

どこまでやったら成功なのか?国境で水を漏らさぬ対策のような取り組みは非常に難しいというのが正直なところです。国内での対策とセットで考える必要があります。

「3密」はどれか1つでも感染リスクを高める

Kazuhiro Nogi / AFP=時事

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ーー様々な変異ウイルスが生まれる中、今のところファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンは遜色ない効果を発揮することがわかっています。今後、ワクチンが完全に効かない、あるいは効きにくいウイルスが出てくる可能性はあるのでしょうか?

これもあくまで現時点での見立てとなってしまいますが、完全に効かなくなる変異が起きることは考えにくいと思います。

変異が起きても、何かしらの免疫がワクチンによって付与されることが想定されます。

海外においても、この変異ウイルスに対するワクチンの有効性は大きな関心事です。変異ウイルスに対して、どのようにワクチンを対応させていくのか注目されています。

ーー様々な変異ウイルスが生まれ、感染力の強いウイルスへの置き換わりも進む中で、日頃の感染対策を変える必要はあるのでしょうか?

個人のレベルでやるべき感染対策は大きくは変わりません。ベクトルの向きは同じで、その一つひとつをどこまで気を付けることができるのかということだと思います。

距離をとること、閉鎖空間に入らないなど注意が必要です。

「3密」という考え方について、我々専門家も3つの条件が重なることでクラスターのリスクが高まるとこれまで発信してきました。そのため、もしかすると3つ揃わなければ感染はおこらないと理解されてしまっているかもしれません。

密集、密閉、密接。この3つは、どれか1つであっても感染リスクを高めるのだと知っていただくことも重要です。そして3つ揃えば、さらにリスクが高まります。

一方で、社会全体としてこの感染拡大をどのようにコントロールしていくのかという視点で言えば、飲食店の休業や外出自粛の要請など、従来株であれば感染者が減少に向かった対策でも、変異ウイルスでは同じレベルでは十分ではないということが明らかになってきています。

新たな変異ウイルスが生まれると注目が集まりますが、変異によるリスクを恐れるならば、まずは社会全体の感染機会を減らすしかないということをお伝えしたいです。向き合うべき相手は、変異ウイルスという以前に新型コロナウイルスです。

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