日大悪質タックル騒動で浮上した『アンダーアーマー』関与説――日本中を騒がせた事件の背後にスポーツビジネスの暗闘
連日連夜、しつこいほど報道された日本大学アメフト部員による悪質タックル事件。苛烈な“日大バッシング”の裏では、スポーツの商業化を巡る様々な思惑が錯綜していた――。 (取材・文/フリージャーナリスト 時任兼作・本誌取材班)



世の耳目を集めた日本大学アメフト部選手による関西学院大学選手への危険タックル騒動。同事件では日大の危機管理能力の低さやコンプライアンス不在が報道されたが、異なる視点から舞台裏を語るのは警視庁の捜査関係者だ。「日大の不祥事情報を持ち込んで週刊誌報道に火をつけて回り、問題の拡大に奔走したのが事件屋のA。ただ、日大をあそこまで叩き、誰にどんな利益があるのか、バックアップしているのはどこかと詮索する向きがあったが、そこに浮上したのがアンダーアーマー。そして、日本総代理店のドームだった」。『アンダーアーマー』は1996年、メリーランド州で設立されたスポーツアパレル企業。メリーランド大学のアメフト選手だったケビン・プランクが創始者で、僅か10年余りで全米屈指の総合スポーツ用品ブランドに成長した。その売上高は2010年には10億ドルを超え、2016年には約50億ドルに達した。だが同年末、ディスカウントチェーン等への卸売りを開始したことによりブランドの希少性が薄れ、また昨年、プランクがドナルド・トランプへの支持表明を行なったことで、イメージが失墜。2017年7~9月期の純利益は激減し、1万人を超えた社員の2%を削減した。逆風下のアメリカ本社とは違い、『ドーム』の業績は堅調だ。1998年にアンダーアーマーの日本総代理店となって以降、ゴルフやサッカーを皮切りに日本のスポーツ界へ浸透し、実績を上げた。経済記者は、「同社成功の秘訣は相互利益を図るパートナーシップ契約にある」と語る。
「2014年に日本プロバスケリーグの琉球ゴールデンキングスとのパートナーシップ契約に加え、プロ野球では読売ジャイアンツとも同契約を締結。巨人のユニフォームをアディダスから奪取し、2015~2019年の5シーズンで総額50億円の大型契約を結んだ」。また、大学では2016年に関東学院大学・筑波大学、2017年には近畿大学と同様の契約を結んでいるが、「単に商品を売るより、中長期的には遥かに高い収益が上がるのがこの戦略だ」と先の記者は言う。「単にチームにユニフォーム等を提供するのでなく、イメージ戦略を立ててチームのブランド力を上げると共に、チームのブランドを冠したグッズをライセンス生産して販売。利益の一部をチームに還元する。言うなれば、ファンや学生らを狙った協業型ライセンスビジネスだ」。そんな中、アンダーアーマーは日大には食い込めていなかった。日大運動部の数からすれば、ユニフォーム等の提供だけでも億は下らない。更に、約7万人を誇る日大生への運動ウェア等の販売を見込めば、その額は更に増える。アンダーアーマー(=ドーム)としては、「日大に食い込みたい」と考えるのは当然と言える。「将来的に試合の入場料徴収やテレビ&インターネット放映を行ない、全米大学体育協会(NCAA)のようにスポーツの商業化を図れば、収益は鰻登りだろう」(同)。いくらタックル騒動で失墜したとはいえ、アメフト界における日大の存在感は巨大だ。幾多の優勝歴を誇り、優秀な若手選手の多くを全国からスカウト。社会人アメフトへの供給源ともなってきた。前出の捜査関係者は語る。「タックル騒動の相手、関西学院大学アメフト部とは既にパートナーシップ契約を結び、京大・東大・慶應・法政等も押さえ、アメフト界の完全制覇目前だったドームに立ちはだかったのが、日大ナンバー2の内田正人。頑として受け入れなかったらしい」。それには「日大独特の事情もある」と、前出の経済記者が解説する。「日大には運動部出身幹部が仕切る、日大事業部等を経由した複雑怪奇な収益構造が出来上がっており、契約やカネの流れが極めて不透明。内田たち幹部からすれば、ドームが外敵に映ったのでは?」。また、内田が拒絶した背景には、ドーム創業者で会長兼CEOの安田秀一(48)の経歴が見逃せない。安田は法政大学アメフト部出身で、日本代表にも選出されている。卒業後は『三菱商事』に入社し、1996年の退職後にドームを設立。スポーツテーピング用品の輸入販売等を手掛けていたが、同じくアメフト選手だったプランクに接触し、アンダーアーマーの日本総代理店になった。

その一方で安田は、2016年9月より法政アメフト部の総監督になり(※今年3月に退任)、日本版NCAAも含めた“連携によるイノベーション”の動きを進めた結果、内田と同じような立場にもなった。つまり、日大を落とせば販売収益が見込めるだけでなく、創業者のアメフト界における影響力拡大にも繋がるわけである。「日大攻略に奔走するドームだったが、内田相手に有効な手段が中々見出せなかった。そこで、三菱商事時代からの盟友である政治家・Bに相談。Bは大学の同窓で、予て日大を問題視していたAを紹介した」(前出の捜査関係者)。Aには日大執行部ばかりか、アメフト部関係者や選手らにも人脈があったという。「安田と手を結んだAは、日大内部の問題を詳細に伝えると同時に、選手らも紹介。安田は情報収集の為、選手を家族ぐるみで旅行接待等するようになった。タックル騒動はその最中に勃発した。ドームにとって絶好のタイミングだったことは間違いない」(同)。また、ドームとも日大とも近い読売関係者もこう語る。「アンダーアーマーが日大に喰い込もうと揺さぶりをかけていたのは事実。アメフト部関係者が4月末から5月にかけて招待旅行に出たという話も聞いている」。尤も、ドーム側は本誌編集部の取材に対し、「日大アメフト部にパートナーシップ契約をアプローチしたこともなければ、今後の計画も無い」と返答。また、日大アメフト部員家族への旅行招待や、悪質タ ックルの当事者である宮川泰介に対する飲食提供等に関しても、「そのような事実は一切ございません」。格好の商機に手を伸ばそうともしないというのは、些か不自然ではあるが、真相は如何に――。 《敬称略》
2018年8月号掲載
世の耳目を集めた日本大学アメフト部選手による関西学院大学選手への危険タックル騒動。同事件では日大の危機管理能力の低さやコンプライアンス不在が報道されたが、異なる視点から舞台裏を語るのは警視庁の捜査関係者だ。「日大の不祥事情報を持ち込んで週刊誌報道に火をつけて回り、問題の拡大に奔走したのが事件屋のA。ただ、日大をあそこまで叩き、誰にどんな利益があるのか、バックアップしているのはどこかと詮索する向きがあったが、そこに浮上したのがアンダーアーマー。そして、日本総代理店のドームだった」。『アンダーアーマー』は1996年、メリーランド州で設立されたスポーツアパレル企業。メリーランド大学のアメフト選手だったケビン・プランクが創始者で、僅か10年余りで全米屈指の総合スポーツ用品ブランドに成長した。その売上高は2010年には10億ドルを超え、2016年には約50億ドルに達した。だが同年末、ディスカウントチェーン等への卸売りを開始したことによりブランドの希少性が薄れ、また昨年、プランクがドナルド・トランプへの支持表明を行なったことで、イメージが失墜。2017年7~9月期の純利益は激減し、1万人を超えた社員の2%を削減した。逆風下のアメリカ本社とは違い、『ドーム』の業績は堅調だ。1998年にアンダーアーマーの日本総代理店となって以降、ゴルフやサッカーを皮切りに日本のスポーツ界へ浸透し、実績を上げた。経済記者は、「同社成功の秘訣は相互利益を図るパートナーシップ契約にある」と語る。
「2014年に日本プロバスケリーグの琉球ゴールデンキングスとのパートナーシップ契約に加え、プロ野球では読売ジャイアンツとも同契約を締結。巨人のユニフォームをアディダスから奪取し、2015~2019年の5シーズンで総額50億円の大型契約を結んだ」。また、大学では2016年に関東学院大学・筑波大学、2017年には近畿大学と同様の契約を結んでいるが、「単に商品を売るより、中長期的には遥かに高い収益が上がるのがこの戦略だ」と先の記者は言う。「単にチームにユニフォーム等を提供するのでなく、イメージ戦略を立ててチームのブランド力を上げると共に、チームのブランドを冠したグッズをライセンス生産して販売。利益の一部をチームに還元する。言うなれば、ファンや学生らを狙った協業型ライセンスビジネスだ」。そんな中、アンダーアーマーは日大には食い込めていなかった。日大運動部の数からすれば、ユニフォーム等の提供だけでも億は下らない。更に、約7万人を誇る日大生への運動ウェア等の販売を見込めば、その額は更に増える。アンダーアーマー(=ドーム)としては、「日大に食い込みたい」と考えるのは当然と言える。「将来的に試合の入場料徴収やテレビ&インターネット放映を行ない、全米大学体育協会(NCAA)のようにスポーツの商業化を図れば、収益は鰻登りだろう」(同)。いくらタックル騒動で失墜したとはいえ、アメフト界における日大の存在感は巨大だ。幾多の優勝歴を誇り、優秀な若手選手の多くを全国からスカウト。社会人アメフトへの供給源ともなってきた。前出の捜査関係者は語る。「タックル騒動の相手、関西学院大学アメフト部とは既にパートナーシップ契約を結び、京大・東大・慶應・法政等も押さえ、アメフト界の完全制覇目前だったドームに立ちはだかったのが、日大ナンバー2の内田正人。頑として受け入れなかったらしい」。それには「日大独特の事情もある」と、前出の経済記者が解説する。「日大には運動部出身幹部が仕切る、日大事業部等を経由した複雑怪奇な収益構造が出来上がっており、契約やカネの流れが極めて不透明。内田たち幹部からすれば、ドームが外敵に映ったのでは?」。また、内田が拒絶した背景には、ドーム創業者で会長兼CEOの安田秀一(48)の経歴が見逃せない。安田は法政大学アメフト部出身で、日本代表にも選出されている。卒業後は『三菱商事』に入社し、1996年の退職後にドームを設立。スポーツテーピング用品の輸入販売等を手掛けていたが、同じくアメフト選手だったプランクに接触し、アンダーアーマーの日本総代理店になった。
その一方で安田は、2016年9月より法政アメフト部の総監督になり(※今年3月に退任)、日本版NCAAも含めた“連携によるイノベーション”の動きを進めた結果、内田と同じような立場にもなった。つまり、日大を落とせば販売収益が見込めるだけでなく、創業者のアメフト界における影響力拡大にも繋がるわけである。「日大攻略に奔走するドームだったが、内田相手に有効な手段が中々見出せなかった。そこで、三菱商事時代からの盟友である政治家・Bに相談。Bは大学の同窓で、予て日大を問題視していたAを紹介した」(前出の捜査関係者)。Aには日大執行部ばかりか、アメフト部関係者や選手らにも人脈があったという。「安田と手を結んだAは、日大内部の問題を詳細に伝えると同時に、選手らも紹介。安田は情報収集の為、選手を家族ぐるみで旅行接待等するようになった。タックル騒動はその最中に勃発した。ドームにとって絶好のタイミングだったことは間違いない」(同)。また、ドームとも日大とも近い読売関係者もこう語る。「アンダーアーマーが日大に喰い込もうと揺さぶりをかけていたのは事実。アメフト部関係者が4月末から5月にかけて招待旅行に出たという話も聞いている」。尤も、ドーム側は本誌編集部の取材に対し、「日大アメフト部にパートナーシップ契約をアプローチしたこともなければ、今後の計画も無い」と返答。また、日大アメフト部員家族への旅行招待や、悪質タ ックルの当事者である宮川泰介に対する飲食提供等に関しても、「そのような事実は一切ございません」。格好の商機に手を伸ばそうともしないというのは、些か不自然ではあるが、真相は如何に――。 《敬称略》
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