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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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蠅は、暗中にて飛び回り


 敵をただ、殺せばいい。


 殺すのが困難な場合もある。

 が、視点を変えれば殺すのは簡単とも言える。

 逆に難しいのは――考えを、変えさせること。

 特に、今回のリィゼのようなケース。


 ”七煌を集めてほしい”


 ゼクト王に俺がそう頼んだ時――

 見極めたかったのは、宰相の考えを変えられるかどうか。


 が、あの時点で変えることはできないと判断した。


 変えられるだけの材料もなかった。

 あるいは時間をかければできたのかもしれない。

 半年とかあれば、違った可能性もある。

 が、十三騎兵隊がいつ攻めてくるのか読めない状況。

 数日後にでも攻めてくるかもしれない。

 かつ、仮に半年あっても俺はどのみちそこまで長居しない。

 時間は、なかった。

 ならば――荒療治しかない。


 俺はリィゼの考えを変えるのは無理と判断。

 即席で、土台となるプランを捻り出した。


 同時に四戦煌の戦力を把握。

 あの”手合せ”である。

 最悪、あの手合せにはジオだけでも連れ出したかった。

 けれど幸い全員が参加し、予想より多くの情報を得られた。

 四戦煌の強さや性格、関係性を、あれで多少把握できた。

 誰がリィゼ案に票を投じるかも、そこで見極めたかった。


 その時に持ちかけられたのが、あのジオからの誘いである。

 夜、俺はジオの家を訪ねた。

 ここで俺は最果ての国におけるリィゼの有用性を知る。

 ジオの想いも。

 また、ジオの”考えてること”も知った。


 彼は投票で負けた場合、こっそり外へ出て十三騎兵隊を潰すつもりだった。

 自分の兵団を引き連れて。


 持ちかけられた相談は、俺もそれに参加してほしいというもの。

 ここで俺はさらなる案を練り始める。

 案としては悪くない。

 おそらくその案にはキィルも乗る……。


 が、問題はリィゼ。


 ジオの案を決行した場合、リィゼは憤慨するだろう。

 交渉前に戦端を開いてしまうからだ。


 ”せっかく話し合いで解決できたのに”

 ”ジオたちが台無しにした”


 交渉開始前に十三騎兵隊を始末した場合……。

 ジオたちとリィゼの間には、大きなしこりが残る。

 いや、致命的な決裂となってしまうだろう。

 例の”アラクネが捨てて国を出ていく”案も、本気で実行しかねない。


 が、ジオはリィゼの存在がこの国にとって重要だと考えている。

 彼はリィゼと意見が合わないが、邪魔とは思っていない。

 俺がリィゼをこっそり始末するのも――できなくはない。

 しかし、ジオの考えを尊重した方が得だとも感じた。

 俺の都合で言うなら、最果ての国の弱体化は避けたいからだ。

 当面、ニャキが住む予定の国なのである。

 リィゼやアラクネが有用なら、できるだけ排除はしたくない。


 さて、これらは何を示しているのか?


 多数決で”戦う”と決まってもリィゼは納得しない。

 心変わりはしまい。

 彼女は他の四戦煌に失望するだろう。

 アラクネを率いて国を出ていくことも、やはりありうる。

 十三騎兵隊の脅威を乗り切ってもアラクネたちは去る。

 最果ての国は、貴重な人材を失う。


 ”リィゼロッテ・オニク、もしくはアラクネたちを失ってはならない”


 この条件をクリアする必要が出てきた。


 では何をするか?


 多数決の結果を操作する。


 戦うのではなく”話し合いによる平和的解決”に決定させる。


 あの日……。

 ジオの家を出た後、俺はそこで動いた。

 そのままアーミアの家を訪ねたのだ。


 家にリィゼの姿はなかった。

 が、アラクネの尾行がついていた。

 俺は、その監視に気づいた上でアーミアを訪ねた。

 一時間ほど前、アーミアはリィゼから説得を受けたらしかった。


 内容を外のアラクネに聞かれぬようにして、俺は、自分の考えをアーミアに説明した。


 ちなみにこの時は、アーミアに断って普段の話し言葉に戻した。


 最初は違和感があったようだが、アーミアもすぐ元の話し方に慣れてくれた。



     △



「ふむ……では、私は宰相殿の方へ票を投じればいいんだな?」

「多数決では、リィゼに勝ってもらう」

「この件、ジオは?」

「すでに説明してある」

「ふーむ……要するに、大掛かりな手で宰相殿を嵌めるわけかぁ……」

「あんたには拒否権もある」

「……いいや、どのみち私も戦う方へ投じようと思ってたしなぁ」

「子のいる母ラミアのために、非戦側に票を入れると思ってたが」

「なんだ、そういう事情も知ってるのか。いやいや、しかしベルゼギア殿……我らリンクス族を舐めてもらっては困る。その子らを守るために、彼女たちは剣を取るのだ」

「リィゼの言ったように、アライオン十三騎兵隊が鬼畜である証拠はない。俺が個人的にあんたたちの戦力をあてにしてるのも事実だ。それでも戦う方を選んでくれるのか?」

「何より、仲間がな」

「仲間?」

「キミの仲間たちだ。セラスに、ニャキに、スレイに、ピギ丸……」

「ピッ」

「いや、おまえを呼んだわけじゃないピギ丸」

「ピ」

「ふふふ、キミの仲間たちを見ていて……信じる気になったのだよ。あんな風に慕われている者が、とても嘘をつくとは私には思えんのだな。これで騙されているとしたら、私の見る目がなかった。それまでのことだな、うん」



     ▽



 アーミアはリィゼ側に投票。

 ゼクト王とグラトラは不参加。

 これで多数決は”話し合いによる平和的解決”に決まる。


 ちなみに尾行のアラクネだが、これは問題なかった。

 アーミア宅を出た後、俺は身を隠した。

 そして、物陰からアーミアの家を窺った。

 尾行のアラクネは俺を捜さず、アーミア宅へ入っていった。


 ”ベルゼギアが説得しに来たが考えは変わっていない”

 ”今ほどあの蠅は追い返したところだ”


 アーミアにはそんな風に説明するよう頼んでおいた。

 実際、俺も成果が得られなかった空気感でアーミア宅を出ている。


 尾行をまくのは可能だった。

 が、あえてここまで連れてきた。

 なぜか?

 俺が説得に失敗したのを、リィゼ側に確信させるためだった。


 ”アーミアがリィゼ側なら、明日の投票は勝てる”


 報告を受けたリィゼはそう確信したはず。

 そうして当日、実際に多数決はその通りの結果となった。


 アーミアはリィゼ側に票を投じ、非戦案が採用された。


 一方その裏で、俺はセラスにさらなる情報収集を頼んでいた。

 セラスはグラトラから各兵団の情報を得ていた。

 俺は俺で、ジオから同じ情報を得ていた。

 そして城内の部屋に戻ったあと、互いに未取得の情報をすり合わせた。


 投票後、ジオはキィルに俺の案を話した。

 案の定、キィルは乗ってきた。


 多数決の結果が出た翌日。

 俺は、最果ての国を去ると王に告げる。

 ムニンにはアーミア宅を出た後で事情を説明しに行っていた。

 今度は、尾行をまいた。

 俺がムニンに会ったのは気づかれていないはずである。

 ムニンは事情をのみ込み、俺の動きに合わせてくれると約束してくれた。


 こうして蠅王ノ戦団は、ひと足先に国の外へ出た。

 最初に行ったのは近辺の地形の把握。

 この岩場一帯が戦場となるだろう。

 まずはこの一帯の地形を把握しておく必要がある。

 もう一つは、十三騎兵隊の動向を探ること。

 近くまで来ているなら、先にその動きを知る必要がある。


 また、ニャキにも頼みごとをしてあった。


 ”まだお別れの時じゃない”


 ニャキはそれを知っていたが、出ていくあの日は悲しそうだった。

 仮の別れであっても、お別れの空気自体を寂しく感じたのだろう。

 さて……頼みごとというのは二つ。


 一つは、外と内との連絡役である。


 リィゼがやるであろうことは、やはり十三騎兵隊の捜索。

 交渉するならまずはその相手を見つけねばならない。

 つまり、あの銀の扉を開閉する。

 が、鍵の消費はもったいない。

 ならばニャキを使うはず。

 実際、扉から使者と思しきハーピーが何度も出入りした。


 ある時、俺とスレイがアライオンの騎兵隊の動きを察知した。

 扉の方へ戻ってきて、ハーピーが出入りするのを待った。

 ハーピーが扉から出た後、隙を見てニャキに接触。

 騎兵隊の到達予想日を伝え、それを中のジオに伝えてもらった。


 ジオは到達予想日を知ると、それに合わせて兵団と共にこっそり外へ出た。


 この際もニャキは、ジオやキィルたちを外へ出している。

 ちなみに扉付近にいたコボルトたちだが、彼らはリィゼがすでに配置を解除していた。


 最初に見つけた騎兵隊は、他の隊より先行してきたと思われた。


 アライオン十三騎兵隊は各隊で規模が違うらしい。

 が、さすがにあれ全部で十三騎兵隊とはとても思えなかった。

 何より……。

 どこか焦っているというか――逸っている感じがあった。

 何かに負けたくない、というような感じが……。

 だから多分、他の騎兵隊よりも先行してきたのだと推察できた。


 俺たちは一度、外へ出たジオたちと合流した。

 そして一帯の地理、今後の方針や動きを伝えた。


 先行した騎兵隊はこの時、休息を入れていた。

 無茶な速度で駆け抜けてきた上にこの地形である。

 馬が少しバテていたのだろう。

 また、休憩中の様子で”どんな連中”かはわかった。


 ここで伝令が一騎、放たれた。

 が、それを俺が襲った。

 手に入れたかったのは、ヤツらの馬と装備。


 休んでいた騎兵隊が休憩を終え、動き出した。

 元気を取り戻した騎兵隊は勢いよく先へと進む。


 そこで俺は、他の騎兵隊から出された伝令に化けた。

 今あいつらは先行することしか考えていない。

 俺が”誰か”までは注意を払えない。

 その確信を得た上で、俺は、先行している騎兵隊にこう伝えた。

 特徴のない”一般兵”になり切って。


 ”後方の他の騎兵隊が敵の奇襲に遭った模様!”

 ”武装した豹人の群れに、ケンタウロスの群れのようです!”

 ”ただし、こちらが優勢とのこと! 決着はすぐに着くだろう、とのことです!”


 名もなき無個性。

 声も振る舞いも多分、なんの印象にも残らなかっただろう。


 さて、こいつらはこれでどう動くか?


 先行している騎兵隊――第一騎兵隊は、


『第六の連中がいれば問題あるまい! あやつらなら返り討ちにする! 何より、ここで我ら第一騎兵隊の兵をいたずらに減らすわけにはゆかぬ! 我らは、先を急ぐぞ!』


 俺は考えた。


 ジオたちが消えたのは、今頃リィゼに気づかれているだろう。

 となると、リィゼならすぐに外へ出てくるはず。

 交渉前にジオたちが戦いを始めればすべておじゃんだからだ。

 慌ててジオたちを捜しに扉の外へ出てくる。

 この時、身を隠すのが得意な豹人が谷間の道を見張っていた。


 予想通り、リィゼたちは谷間の道へ出てきた。

 このまま行くと、あの先行している騎兵隊と鉢合わせになる。


 俺は、ジオとキィルたちに指示を出した。

 一方の俺自身は再び”伝令”の姿に化ける。

 ジオたちは姿を隠し、機を待った。


 あとは――待つだけ。


 そう……アーミアからの音玉の合図を。

 タイミングはアーミアに任せてあった。

 リィゼに命の危険があると感じたら、

 ここで呼ぶべきだと考えたなら――

 アーミア・プラム・リンクスの判断で音玉を使用しろ、と。

 それから、


 ”交渉時は意地でもリィゼが手に届く場所にいろ”


 と事前に伝えてあった。

 そして、


 ”いざとなったら、防御能力に優れたあんたがリィゼを守ってくれ”


 とも。


 機を見て、俺は伝令として再び騎兵隊の最後列に接触した。

 そこで、


 ”豹人やケンタウロスたちが壊滅状態にある”


 などの偽情報を伝えた。

 これで騎兵隊は後方の憂いがなくなったと思い”後ろ”を気にしなくなる。

 ジオを始めとする――シャドウブレード族たちが身を潜めている背後を。

 隠れるにふさわしい地形に配したのもあるが、豹人たちは身を隠す能力に長けていた。


 ジオは感心していた。


『豹人の使い方を、よく心得ていやがる』


 当然だ。


 俺は最高と呼べる豹人族の戦士と、魔女の家まで共に旅をしたのだから。



 ――――音玉が、鳴った――――



『行くぞ』


 ジオのそのひと言で、黒豹兵たちが動き出した。

 キィルたちケンタウロス族はその間、こっそり崖上へ移動していた。

 敵の伏兵の背後をつくために。

 蠅王ノ戦団の出番は、おそらくもう少し後。

 できれば大将格を残すように指示を出してあった。

 そして大将格が追い詰められたところで……

 さながら窮地を救うヒーローのように、蠅王ノ戦団が颯爽と登場――



 味方であると錯覚させ、情報を吐き出させる。



 さて。


 この策の肝は、なんだったのか?


 それは――――



     ▽



「リィゼロッテ・オニクに、その身をもって現実を知ってもらうこと」


 経緯を軽く説明したのち、俺はそう明かした。

 ミカエラが麻痺状態で何かしゃべっている。

 が、無視して俺は続ける。


「意固地な考えを変えるには、これはもう”体験”させるしかない。自分の理想が、現実の前に儚くも崩れ去っていく”経験”を、させるしかない」


 交渉自体が、そもそも通用しないのだと。

 相手が悪辣なのだと。

 残酷な現実を、当人に――



「叩きつけるしか、ない」




 

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