グローバルヘルスのスペシャリストが新型コロナウィルスを語る

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大が、どこへ行きつくのか、世界的な大流行(パンデミック)がいつ終息するのか、先が見えない。個人として、組織として、地域として、国として、グローバル社会として、何をすれば良いのか。唯一頼れる指標は、信頼できるデータに基づく科学的根拠であり、それらをもとに練り上げられた公衆衛生対策を、人々が信頼し、団結して実践することです。

長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科(Nagasaki University School of Tropical Medicine and Global Health=TMGH)が企画する特別フォーラムでは、グローバルヘルスのスペシャリストたちとともに、シリーズで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について語っていきます。

第5回 2020年12月25日

新たな年を迎える前に、もう一度考えてください

新型コロナウイルスが出現して1年がたちました。コロナとの闘いに明け暮れた1年がまもなく暮れようとしています。11月下旬からはじまった新型コロナウイルス第三波が、これまで経験した第一波・第二波よりも、相当大きな波になることは明らかです。現時点で、大都市圏のみならず地方都市圏の医療体制も、残された余裕はあとわずかしかなく、一般診療を制限せざるを得ない状況となりました。現在の新型コロナ感染者数が、今すぐ減少に向かわない限り、新型コロナウイルス感染症患者のみならず、本来なら助かるべき他の救急患者を救えない事態が、日本全国で起きようとしています。

「GoToトラベル」は停止されましたが、これから始まる年末年始の人々の移動を留めようとする動きは盛り上がっていません。

2020年、人類は、サイエンスという武器により、比類のないスピードで新型コロナウイルスの特性を暴き、このウイルスが引き起こす感染症との闘い方を学んできました。そして、ついに最強の防御手段であるワクチンを手に入れようとしています。新型コロナウイルスとの闘いに少しだけ希望の光が見えはじめています。

しかし、ワクチンがまだ手元にないこの冬、押し寄せる第三波の波を、どこまで押さえ込むことができるかは、すべて国民のみなさん一人ひとりの行動によって決まります。

新たな年を迎える前に、各人がもう一度立ち止まって考えましょう。

この1年、新型コロナウイルス感染症診療・感染流行対策の最前線に立ち続けてきた医療従事者たちは、すでに心身ともに疲弊しています。彼らに年末年始はありません。彼らを応援するだけではなく、自らが、周りにも呼び掛け、行動に移しましょう。

自分を含め、ひとりでも多くの人の暮らしと命を守るために、私たちすべての人が、できることは何かを・・・。

 

感染流行の大きさは、人と人とが接触*した数で決まります。
今年の年末年始は、新たに接触する人の数を極力減らすことを常に考えて行動しましょう。

そして、同時にこの1年、国中が自粛をしたことで被害をうけたサービス・飲食・宿泊産業などに従事する人たちのことをもう一度考えましょう。人との接触を避けて、彼らを支援する方法は他にもあるはずです。

今冬、この年末年始は最大の正念場です。

押し寄せる第三波の波を直視し、大切な家族、大切な人、懐かしい故郷、私たちが暮らす地域社会を守るために、思いやりのある行動をしましょう。次の世代、次の時代の人々に、語り継がれる新年とするために。

2020年12月25日
長崎大学
大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
文責 有吉 紅也およびWG
*普段一緒に暮らしている家族や同居人以外の新たな人との接触を極力さけることが大事です。どれだけ親しくても、どれだけ遠方からきた人でも、今冬の新年に限り直接会うことは避けましょう。どうしても、直接会わなければならないときは、マスク・手指衛生・換気を徹底し、飲食は絶対避けましょう。マスク・手指衛生をしても、密閉・密接した状態で長時間会話をすると感染は防げません。

第4回 2020年5月26日 新たに突き付けられた課題

新たに突き付けられた課題

政府は5月25日、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、東京など首都圏の1都3県と北海道で解除し、全国の解除宣言を行いました。

3月27日、このサイトで、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が3月19日に提言した日本独自の新型コロナウイルス対策を「個人が、組織が、地域社会が、国民全体が信じて、一致団結して行動しよう」と呼びかけてから、ちょうど2か月です。

我々は、この日がやって来ることを心から待ち望んでいたものの、世界でどこも試したことのない「日本式新型コロナウイルス感染症対策」がどこまで通用するのかを知るすべもありませんでした。しかし、現在も多くの死者が出ている欧米諸国の報告を見る限り、日本で命を落とされた感染者数が圧倒的に少ないのはまぎれもない事実であり、この2か月の間に、国民の圧倒的な自粛協力の下、実践された対策によって救えなかった命はあるものの、見えないところで、いかに多くの人々の命が救われたかを如実に感じます。未曽有の事態の中で、この対策を提言した 専門家会議、それを信じ実現させた日本の皆さんに心から敬意を表します。

我々が臨床研究拠点を置くフィリピン国立感染症病院は、マニラの最貧困地域に近く、貧困層が頼る施療病院ですが、そこでは恐れていたほど死者数は増えていません。その一方、優れた公衆衛生理論を生み出してきた英国における死者数は欧州でも突出しているように見えます。現時点での日本の成功に慢心せず、これらの違いを生み出す本質的な原因は何か、それらを科学的に追究することも、グローバルヘルスを推進する長崎大学に与えられた使命だと考えます。

2020年5月26日
長崎大学
大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
有吉 紅也  北 潔

第3回 2020年4月23日 ジュネーブからのメッセージ

まえがき

特別フォーラムの第3回は國井修さんに寄稿をお願いしました。このフォーラムをお読みのほとんどの方は國井さんをご存知と思います。日本が誇るグローバルヘルスのスペシャリスト中のスペシャリストです。プロフィールは公式サイト(https://www.osamukunii.com/about)をご覧下さい。國井さんは間違いなく「現場・フィールドの人間」です。3.11の時もアフリカから東北に駆けつけて下さいました。これまでに外務省経済協力局の課長補佐としてわが国の国際医療協力の舵を取り、また東京大学や長崎大学熱帯医学研究所のスタッフとして教育・研究に従事し、そして現在はジュネーブで世界の健康・医療問題にもっとも貢献している国際機関の一つであるグローバルファンドで中心的な存在として活躍しています。ジュネーブは近代都市ですが、現在の新型コロナウィルスとの戦いのまさに「現場」です。

國井さんは寝る間もなくこの戦いに挑みつつ、グローバルファンドの本来の役割である3大感染症対策の影響の最小化を考える真のグローバルヘルス人です。今回は日本の皆さんへの現時点でのメッセージを簡潔に述べて頂きました。日本から海外向けの発信があまりない事にふれていますが、これも國井さんの日本を思う心からです。戦いが収束した時、再び寄稿して下さるとの事ですので楽しみにしましょう。また、多くのリンクを頂きましたので、ぜひこちらもご覧下さい。4月21日のニューズウィーク日本版「日本に迫る医療崩壊」の記事もあります。

(長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 北 潔)

ジュネーブからのメッセージ

2020年4月23日
國井 修
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
戦略・投資・効果局長
長崎大学客員教授

「いつかはこのようなパンデミックが来るとは思っていたが、こんな形で現実に来るとは思わなかった」

世界トップレベルの感染症専門家はみなこのように思っていると思います。私もジュネーブに住み、三大感染症(エイズ・結核・マラリア)に加えて現在COVID-19 の対策をしている最中ですが、これほどまでに科学・医学・疫学の重要性が注目されたことはないと思います。
ただし、その中で意識すべきことが3つあります。それは、迅速性と協力体制とコミュニケーションです。

迅速性:ご存知の通り、COVID-19に関して世界中、特に中国から研究論文・報告が多く発信されています。日本からはあまり出ていません。頑張ってください。迅速にファクトを示して、エビデンスを創っていくことが重要です。

協力体制:世界中の研究者が協力し合っています。医学、数学、物理、コミュニケーション、哲学など、様々な分野の連携も重要です。自国優先ではこの感染症との闘いは勝てません。将来も見据えて、研究・実践・人材育成、あらゆる面での国際協力を推進する必要があります。

コミュニ―ケーション:科学・医学を一般人に伝えて行動変容につなげること、エビデンスを政治家・官僚に伝えて政治的判断・決断につなげること、このようなコミュニケーション能力も必要です。今、世界中の専門家・専門機関が政治的判断・決断に影響を及ぼしています。もちろん、それが理解できない政治家もいるでしょうが、それをも説得させる力を我々は身に着けるべきです。

現在、グローバルファンドでも三大感染症に加えて、COIVID-19に対する支援を行っています。おそらく国際機関として最も早く資金を拠出していると思います。既に60か国以上に8500万ドル(約92億円)の支援を決め、全体で5憶ドル(約540億円)の支援をする予定です。
詳しくは以下をご覧ください。

https://www.theglobalfund.org/en/covid-19/

なお、私は母国に貢献できずに申し訳なく思っていますが、せめて依頼された寄稿やインタビューなどを通じて微力なご協力をしたいと思っています。以下、よろしければご笑覧ください。

以上

第2回 2020年4月13日 前例にとらわれない「進化」が求められる地域社会のCOVID対策

前例にとらわれない「進化」が求められる地域社会のCOVID対策

2020年4月13日
有吉 紅也
長崎大学熱帯医学研究所 内科教授
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
日本は専門性と権限を兼ね備えた司令塔不在
世界の国と地域が被害を最小限に抑える最善策を模索
 

中国・欧米など他国に比べ、感染拡大をぎりぎり持ちこたえていたわが国も首都圏、大都市を中心に感染者が急増し、政府は4月7日、「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」 に基づく緊急事態宣言を東京など7つの都府県に出した。
米国ではCDC(疾病予防管理センター)、英国ではPHE(英国公衆衛生庁)が、国を守る公衆衛生対策の司令塔であるが、日本の感染症対策には、専門性と権限を兼ね備えた司令塔がなく、世界をおおうパンデミック、国難を前にその設立を望む声が広がっている。しかし、その米国や英国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は容赦なく猛威を振るっており、新型コロナ対策で正解を導けた国はない。低〜中所得から高所得国・地域まで、世界中のすべての国と地域が、新型コロナの脅威から逃れることはできず、それぞれの国・地域の医療制度のみならず、政治、経済などの事情を抱えながら、被害を最小限に抑えるための最善策を日々模索している。

司令塔は新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が代行
情報分析の確かさ、提言の適切さを高く評価すべき

この非常事態のなかで、わが国で司令塔の役割を担っているのが政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議である。わが国には、CDCやPHEのような司令塔組織がないなかで、今年1月9日に新型コロナと特定されてから、わずか1~2か月程度の間に、急遽「クラスター対策班」が全国から招集され、クルーズ船対応の総括、3つの条件(密接・密集・密閉)の明確化、北海道成功例の分析、地域区分の考え方、ひととの接触回数を7-8割減らすといった具体的な数値を示すなど、専門家会議から次々に発信される情報分析の確かさと、提言の適切さを、高く評価すべきだと思う。これらには、WHOや欧米先進諸国のコピーではなく、日本人の特性を生かした日本のオリジナリティーがある。そして、日本独自の詳細なデータ収集と緻密な解析に基づく日本発のエビデンスとサイエンスがある。私は、この専門家会議から出される提言は、日本国民を新型コロナから守り、被害を最小限に抑えるための現時点での最善策だと考える。そして、この国難のなか、様々な批判を浴びることは覚悟の上で、提言を発し続ける専門家会議のメンバーとそれを支えるスタッフに敬意を払いたい。(コロナ専門家有志の会)

専門家会議は総論提言が限界 実行の各論意思決定は自治体の長
感染症疫学・公衆衛生学専門家のアドバイスが必要だが、専門家不足が課題

緊急事態宣言などの強力な行動制限は、大きな痛みを伴う。これから最低でも半年、あるいは数年間にわたって続くだろう長期戦に備え、日本全国が一様に反応し、まだ感染状況が緩やかな地域においても、社会を過剰に疲弊させてしまうと、効果よりも副作用が大きくなるだけである。4月1日の提言では「感染拡大警戒地域」・「感染確認地域」・「感染未確認地域」の三つに分類し、それぞれの地域の感染拡大の程度に応じたピンポイントでの社会・経済活動の自粛を、より詳しく説明している。しかし、専門家会議ができるのは、総論を提言するまでが限界だろう。各論として、全国の自治体に暮らす人々の動きや生活・経済状況、医療資源は多様であり、それを知るのは、国よりも地方である。現在のクラスター対策をどれだけ強化し、いつまで続けるか。地域住民の社会生活をいつ、どこまで制限するか。その細かな意思決定は、各自治体の長に委ねざるを得ない。そのためには、各自治体において、感染症疫学と公衆衛生学に通じた専門家のアドバイスが必要だが、わが国には専門家が不足している。

主戦場は地方へ 都道府県を越えた広域調整本部の設置も検討を
保健行政と医師会・大学関係者らが連携を加速し、対策進化を

日本は、中国からの第一波をなんとか持ちこたえた。3月に到来した欧米からのより大きな第二派に対しては国境を塞いで対処したが、防ぎきれなかった波が関東・関西の大都市圏で増幅し、その余波が地方にまで押し寄せている。これから主戦場が都市から地方へ拡がりつつあることは確かであり、主役は地域医療を担う人材である。中央政府が迅速、柔軟に対策を講じてきたように、これからは各地方自治体レベルにおいて、それぞれが主体的に、そして地方の特性を考慮した持続可能な対策を講じなければ、COVID-19との長い長い長期戦のなかで、地域社会の命と生活の両方をバランスよく守ることはできない。不足している感染症疫学専門家を補うために、例えば都道府県を越えた広域の調整本部を設置することも考えられる。未曾有の国難に立ち向かうには、各地方自治体の保健行政関係者と地方の医師会・大学等の関係者が、前例にとらわれない連携を加速し各地域社会のCOVID対策を進化させることが求められている。

以上

第1回 2020年3月27日 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議から出された提言 ~日本国民を新型コロナから守るための処方箋~

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議から出された提言

~日本国民を新型コロナから守るための処方箋~

2020年3月27日
有吉 紅也
長崎大学熱帯医学研究所 内科教授
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科

一人ひとりの患者を治療するのが臨床医ならば、集団の健康を守るのが公衆衛生医。提言は、公衆衛生医が出す処方箋です。

米国ではCDC(疾病予防管理センター)、英国ではPHE(英国公衆衛生庁)が、国を守る公衆衛生医の役割を司令塔として担っていますが、日本の感染症対策には、専門性と権限を兼ね備えた司令塔がなく、その設立を望む声が広がっています。

日本に感染症対策の専門組織-日本版CDC-を作ろう

しかし、この非常事態のなかで、その役割を担っているのが政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、COVID)対策専門家会議です。2020年3月9日と19日、専門家会議から出された提言こそ、日本国民をCOVIDから守り、現時点で考えられる日本の被害を最小限に抑えるための最善の処方箋だと私は考えます。

“絶対に日本で多くの死者を出さないために”
例えば、私が深くかかわってきた公衆衛生学発祥の国、英国では、渡航歴のない最初の症例が確認されてから2週間も経たずに、「クラスター(感染者集団)の早期発見」では、対応が困難だと数理モデル専門家らによって認識され、ボリス・ジョンソン首相は3月12日の声明のなかで「多くの家族が愛する身内を失うことになる」と言及せざるを得ない状況になりました。「クラスターの早期発見」の破綻は、オーバーシュート(爆発的感染拡大)を来し、医療体制が破綻する可能性をはらみます。すなわち、多数の死を国民が覚悟しなければならないことを意味します。一方、今回の日本の専門家会議の提言では、この「クラスターの早期発見」を基本戦略の1番目におき、提言の随所に、その重要性を繰り返し述べています。私は、この提言の根底にある精神に、「一人でも多くの命を救いたい」「絶対に日本で多くの死者を出さない」という気迫を感じるのです。

このことは当たり前だと思われるかもしれませんが、クラスター対策による効果を、懐疑的に見る英国の専門家は少なくありません。しかし、日本はこれまで、世界でもっともクラスター対策が成功している国の一つです。それを可能にしたのは、COVID患者の診断を見逃さない臨床医の能力、きめ細やかな追跡を実践してきた地方行政を担う人材の勤勉さと、それに協力してきた感染者と濃厚接触者、さらには被災した人たち(感染者と濃厚接触者)を思いやる日本人的気質によるものだと思います。こうした部分はデータ上には表れにくいですが、感染症流行を分析する英国の専門家たちの知らない、日本人の「草の根の底力」を専門家会議は信じているから、クラスター対策を諦めていないのだと思います。

ところが、医療従事者だけではクラスター対策を維持できません。一人の感染者が発生すると、その接触者を追跡するには、多数のスタッフが動員されます。クラスター感染が重なると、英国で起きたようにクラスターの早期発見が不可能になり、追跡不能な流行が始まってしまいます。そのような状況をできる限り回避し、医療体制が整うまでの時間を少しでも稼ぐために、クラスターの発生そのものを予防するために国民一人ひとりが実行できる処方箋が、2020年3月9日、発表されました。これが国民全体の行動変容を促すシンプルなメッセージ「3つの条件(密閉・密接・密集)の重なりを避けて」です。日本独自の経験と情報・分析に基づいて生まれた「日本型の感染症対策」であり、クラスターが発生しやすい場所とそうでない場所のリスクの程度をだれでもが見分けることができるようになりました。さらに3月19日の提言では、感染者、濃厚接触者とその家族、この感染症の対策や治療にあたる医療従事者とその家族に対する偏見や差別とその克服の重要性についても言及されました。感染者が手を挙げづらい社会は、クラスターの早期発見を妨げます。まずは、感染者や濃厚接触者にならない。そして、感染者や濃厚接触者を怖がるのではなく、支える姿勢こそが、感染症に強い社会をつくるからです。

“可能な限り人々の社会生活を守るために”
COVID流行に対して、社会・経済活動を抑制することは、既に我々が経験してきたように、教育や経済活動に多大な副作用を伴います。英国が、ヨーロッパ諸国のなかでも、隔離政策の要請が遅かったのは、これから長く続くだろう長期戦を早くから予期し、副作用をなるべく軽減させ、体力を温存したかったからです。効果の強い「薬」は、ロックダウンに類する措置(不要不急の外出自粛や移動の制限)ですが、同時に副作用として社会・経済に与える負の影響は甚大です。まさに、副作用によって、人々の生活が失われるからです。

既に東京都の小池知事も言及していますが、日本国内でもオーバーシュートが発生し、ロックダウンに類する措置しか方法がない、という事態が現実的になってきました。しかし、過剰に反応して、健康な地域に対しても強い薬を処方することは、効果よりも副作用が大きくなります。そこで、今回の提言では、「感染状況が拡大傾向にある地域」・「感染状況が収束に向かい始めている地域並びに一定程度に収まっている地域」・「感染状況が確認されていない地域」の三つに分類し、いつ、どのような状況で、社会・経済活動を再開し、再び抑制するのか、それぞれの地域の感染拡大の程度に応じたピンポイントでの社会・経済活動の自粛を提言しています。なぜなら、これからの長期戦に備え、なるべく社会全体の副作用を最小限に抑えるためには、これが最善の方法だからです。提言には、感染症を防ぐだけではなく、同時に社会生活を守ろうとするやさしさが感じられます。

ところが、これを実行するには、地域ごとに異なる対策が必要となり、各自治体に、独自の意思決定を迫る、より進化した対応が求められます。全国のそれぞれの自治体に暮らす人々の生活を最も知っているのは、国よりも地方自治体であり、時に、大きな痛みを伴う「薬」をいつ、どこで、どのように処方するのか、その細かな意思決定は、国がトップダウンで決めるよりも、各自治体に委ねた方が、現時点では適切な判断ができると考えたからです。今回の提言では、そのモデルとなった北海道の例が、科学的な根拠とともに示されたことで、より説得力を持たせています。

一方、各自治体において、きめの細かい独自の適切な指示を出すためには、感染症に強い公衆衛生の専門家が必要ですが、そのような専門家が少ないことについても提言では率直に訴えています。すべての自治体にそのような専門家を配置できなくても、自治体の保健医療関係者が、県市町村を越えて協力しあうことが、解決の糸口になるかも知れません。今回の提言では、都道府県を越えた広域調整本部の設置準備等の必要性についても言及されています。

最後に
提言の冒頭で述べられているとおり、日々刻々と変化する状況に応じて、提言は進化しなければなりません。

今、新学期が始まるこのタイミングで、世界各地で拡大した国際的大流行の波が、国内へ押し寄せています。過去2か月間に日本の保健医療関係者が、どうにか耐え持ちこたえた第一波よりも、はるかに大きな第二波が到来した兆しが出ています。しかし、3月19日に発表された専門家会議の状況分析では、そこまで伝えきることは困難でした。今後、状況に応じて、提言の具体的な内容が書き換えられるかも知れませんが、それは、臨床医が病状に応じて異なる処方箋を出すのと同じ行為です。そして、その根底にあるものは、上記に述べた国民の命と生活を守ろうとする精神です。

皆さん、本当の闘いはこれからです。これから、多くの地域でクラスター対策が破綻しオーバーシュートが起きるか、回避できるかの瀬戸際に立たされます。

どんな処方箋も、信じて服薬を続けなければ効き目はありません。
そして、「公衆衛生医が出す処方箋」は、全員で実行しなければ効き目がありません。

新型コロナが発生して以来、様々な情報が氾濫していますが、私は、感染症に携わる専門家のひとりとして、専門家会議こそが、この国難を乗り越える我々の司令塔として現在考えうる最善の「私たちの公衆衛生医」だと考えます。

私たち専門家も、そして国民の皆さんも、専門家会議が知識と経験を結集させて導き出す処方箋を、これからも信頼し、実行に移しましょう。皆さんが住む地域の自治体、医療従事者とともに、個人が、組織が、地域が、互いを思いやり、協力しあって、私たちの命と生活を守ろうではありませんか。

以上

関連資料 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)

[2020年4月1日発表]
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」全文

2020年4月1日

I.はじめに

〇本専門家会議は、去る 3 月 19 日に「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(以下「3 月 19 日の提言」という。)を発表し、その後、海外からの移入が増加して いたことも踏まえ、3 月 26 日に「まん延のおそれが高い」状況である旨の報告を行った。これを受け、同日付けで政府では政府対策本部を立ち上げられたが、前回の提言から約2週間が経過したので、最新の情報に基づいて状況分析を更新するとともに、提言を行うこととした。

Ⅱ.状況分析

1.国内(全国)の状況

〇前回の「3 月 19 日の提言」から2週間が経過した現在の全国的な状況については、
新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、3 月 26 日に初めて 1 日の新規感染者数が100 人を超え、累積感染者数は 3 月 31 日には 2000 人を超えるに至っている。特に、確定日別でも発病日別でも都市部を中心に感染者数が急増している。31 日は、東京都で78 人、大阪府では28 名などの新規感染者が確認された。こうした地域においては、ク ラ スター感染が次々と報告され、感染源(リンク)が分からない患者数が増加する状況が見られた。

図1.日本全国における流行曲線(左図:確定日別、右図:発病日別)
図2.累積感染者数(日本)
  • 日本全国の実効再生産数(感染症の流行が進行中の集団のある時刻における、1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)は、3/15 時点では 1を越えており、その後、3 月 21 日から 30 日までの確定日データに基づく東京都の推定値は 1.7 であった。今後の変動を注視していく必要がある。
  • また、海外からの移入が疑われる感染者については、3月上旬頃までは、全陽性者数に占める割合が数%台であったものの、3月11日前後から顕著な増加を示し、3月22日、23日頃には4割近くを占めるようになった後、直近はやや減少に転じている。
  • 最近は、若年層だけでなく、中高年層もクラスター発生の原因となってきている。
  • また、最近のクラスターの傾向として、病院内感染、高齢者・福祉施設内感染、海外への卒業旅行、夜の会合の場、合唱・ダンスサークルなどが上げられる。特に、台東区におけるクラスターについては全貌が見えておらず、引き続き注意が必要である。
図3.実効再生産数 日本全国、東京と東京近郊、大阪
推定された感染時刻別の新規感染者数(左縦軸・棒グラフ;黄色は国内発生推定感染時刻別の感染者数、紺色は推定感染時刻別の輸入感染者数)とそれに基づく実効再生産数(1人あたりが生み出した2次感染者数・青線)の推定値。青線は最尤推定値、薄青い影は 95%信頼区間である。
図4.都道府県別にみた感染源(リンク)が未知の感染者数の推移(報道ベース)
2020年3 月16日~22日、3月23日~29日の間に報道発表された各都道府県の感染源が分からない感染者数の推移(報道ベース)。これらのうち積極的疫学調査によって感染源が探知された者は、今後、集計値から引かれていくことになる。流動的な数値であることに注意が必要である。
図5.夜の街クラスターについて(東京都)

〇以上の状況から、我が国では、今のところ諸外国のような、オーバーシュート(爆発的患者急増※1)は見られていないが、都市部を中心にクラスター感染が次々と報告され、感染者数が急増している。そうした中、医療供給体制が逼迫しつつある地域が出てきており医療供給体制の強化が喫緊の課題となっている。

〇いわゆる「医療崩壊」は、オーバーシュートが生じてから起こるものと解される向きもある。しかし、新規感染者数が急増し、クラスター感染が頻繁に報告されている現状を考えれば、爆発的感染が起こる前に医療供給体制の限度を超える負担がかかり医療現場が機能不全に陥ることが予想される。

2.海外の状況

この間、欧州や米国では感染が爆発的に拡大し、世界の状況はより厳しいものとなっている。こうした国々では、医療崩壊により十分な医療が受けられない状況が起きており、日本でもその場面を取り上げた報道がなされている。

図6.累積感染者数の国別推移
※1 オーバーシュート:欧米で見られるように、爆発的な患者数の増加のことを指すが、2~3 日で累積患者数が倍増する程度のスピードが継続して認められるものを指す。異常なスピードでの患者数増加が見込まれるため、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)を含む速やかな対策を必要とする。なお、3 月 21~30 日までの 10 日間における東京都の確定日別患者数では、2.5 日毎に倍増しているが、院内感染やリンクが追えている患者が多く含まれている状況にあり、これが一過性な傾向なのかを含め、継続的に注視していく必要がある。
図7.新規感染者数の国別推移(確定日ベース)

Ⅲ.現在の対応とその問題点

1.地域ごとの対応に関する基本的な考え方について

〇「3月19 日の提言」における「Ⅱ.7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方」においては、クラスター連鎖の防止を図っていくための「対策のバランス」の考え方を、地域の感染状況別に整理したものである。

〇しかし、自治体などから、「自らの地域が3分類のどこに当たるのか教えて欲しい」という要望があることや、前提となる地域のまん延の状況や、医療提供体制の逼迫の状況を判断する際の、国・都道府県で共通のフォーマットとなる指標の考え方が対外的に示されていない、という課題が指摘された。

2.市民の行動変容の必要性

〇「3 月 19 日の提言」においては、「短期的収束は考えにくく長期戦を覚悟する必要があります」とした上で、市民の方に対し、感染リスクを下げるための行動変容のお願いをした。

〇しかし、(1)集団感染が確認された場に共通する「3つの密」を避ける必要性についての専門家会議から市民の方へのメッセージが十分に届かなかったと考えられること、(2)このところ、「コロナ疲れ」「自粛疲れ」とも言える状況が見られ、一部の市民の間で警戒感が予想以上に緩んでしまったこと、(3)国民の行動変容や、健康管理に当たって、アプリなどSNSを活用した効率的かつ双方向の取組が十分には進んでいないことなどの課題があった。

3.医療提供体制の構築等について

(1)重症者を優先する医療提供体制の構築

〇今後、新型コロナウイルス感染症の患者が大幅に増えた場合に備え、この感染症による死者を最大限減らすため、新型コロナウイルス感染症やその他の疾患を含めた、地域の医療提供体制の検討・整備を行うことが必要である。

(2)病院、福祉施設等における注意事項等

〇 大分県、東京都、千葉県などで数十名から 100 名近い病院内・施設内感染が判明した。高齢者や持病のある方などに接する機会のある、医療、介護、福祉関係者は一層の感染対策を行うことが求められるほか、利用者等を介した感染の拡大を防止していくことが求められる。

Ⅳ.提言

1.地域区分について

(1)区分を判断する際に、考慮すべき指標等について

〇地域ごとのまん延の状況を判断する際に考慮すべき指標等は以下のとおりである。

〇感染症情報のリアルタイムでスムーズな情報の把握に努められるよう、都道府県による報告に常に含む情報やタイミングに関して統一するよう、国が指示等を行うとともに、国・都道府県の双方向の連携を促進するべきである。

【地域ごとのまん延の状況を判断する際に考慮すべき指標等】

指標 考え方
(1)新規確定患者数 〇感染症法に基づいて届出された確定患者数。各確定日で把握可能。約2週間程度前の感染イベントを反映することに注意を要する。
(2)リンクが不明な新規確定患者数 〇都道府県内保健所による積極的疫学調査の結果、感染源が不明な感染者。地域におけるコミュニティ伝播を反映する。
〇報告時点では、リンクがつながっていないことも多く、把握には日数を要する。
〇海外からの輸入例はここから別途集計すべきである。
(3)帰国者・接触者外来の受診者数
(4)帰国者・接触者相談センターの相談票の数項目(※)
(5)PCR検査等の件数及び陽性率
〇オーバーシュート(爆発的患者急増)を可能な限り早く捉えるために、確定患者に頼らないリアルタイムの情報分析が重要である。
〇(1)~(5)の数値の動向も踏まえて総合的な検討を要す。
※(1)帰国者・接触者外来受診を指示された件数(報告日別)、(2)医療機関からの相談件数(報告日別)推移の2項目

※加えて、実効再生産数(感染症の流行が進行中の集団において、ある時刻における1人の感染者が生み出した実際の二次感染者数の平均値)が地域での急激な感染拡大(オ ーバーシュート(爆発的患者急増))の事後評価に有用である。しかし、推定には専門家の知見を借りて示す必要があり、また、当該感染症においては感染から報告までの時間の遅れが長いため概ね 2 週前の流行動態までしか評価できない。

【地域の医療提供体制の対応を検討する上で、あらかじめ把握しておくべき指標等】

〇また、都道府県は、これ以外に、地域の状況を判断する上で、医療提供体制に与えるイ ンパクトを合わせて考慮する必要がある。ついては、
(1)重症者数
(2)入院者数
(3)利用可能な病床数と、その稼働率や空床数
(4)利用可能な人工呼吸器数・ECMO 数と、その稼働状況
(5)医療従事者の確保状況
などを、定期的に把握しておかなくてはならない。

〇地域ごとの医療機関の切迫度を、これらの指標から適宜把握していくことにより、感染拡大や、将来の患者急増が生じた場合などに備え、重症者を優先する医療提供体制等の構築を図っていくことが重要である。

(2)地域区分の考え方について

〇「3月19 日の提言」における「Ⅱ.7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方」において示した地域区分については、上記(1)の各種指標や近隣県の状況などを総合的に勘案して判断されるべきものと考える。なお、前回の3つの地域区分については、より感染状況を適切に表す[1]感染拡大警戒地域、[2]感染確認地域、[3]感染未確認地域という名称で呼ぶこととする。 各地域区分の基本的な考え方や、想定される対応等については以下のとおり。 なお、現時点の知見では、子どもは地域において感染拡大の役割をほとんど果たしてはいないと考えられている。したがって、学校については、地域や生活圏ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要である。また、子どもに関する新たな知見が得られた場合には、適宜、学校に関する対応を見直していくものとする。

[1]「感染拡大警戒地域」

〇直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して大幅な増加が確認されているが、オーバーシュート(脚注参照。爆発的患者急増)と呼べるほどの状況には至っていない。また、直近1週間の帰国者・接触者外来の受診者についても、その1週間前と比較して一定以上の増加基調が確認される。

〇重症者を優先する医療提供体制の構築を図ってもなお、医療提供体制のキャパシティ等の観点から、近い将来、切迫性の高い状況又はそのおそれが高まっている状況。

<想定される対応>

〇オーバーシュート(爆発的患者急増)を生じさせないよう最大限取り組んでいく観点から、「3つの条件が同時に重なる場」※2(以下「3つの密」という。)を避けるための取組(行動変容)を、より強く徹底していただく必要がある。

〇 例えば、自治体首長から以下のような行動制限メッセージ等を発信するとともに、市民がそれを守るとともに、市民相互に啓発しあうことなどが期待される。

  • 期間を明確にした外出自粛要請
  • 地域レベルであっても、10 名以上が集まる集会・イベントへの参加を避けること
  • 家族以外の多人数での会食などは行わないこと
  • 具体的に集団感染が生じた事例を踏まえた、注意喚起の徹底

〇また、こうした地域においては、その地域内の学校の一斉臨時休業も選択肢として検討すべきである。

※2 「3 つの条件が同時に重なる場」:これまで集団感染が確認された場に共通する「(1)換気の悪い密閉空間、(2)人が密集している、(3)近距離での会話や発声が行われる」という3つの条件が同時に重なった場のこと。以下「3つの密」という。
[2]「感染確認地域」

〇直近1週間の新規感染者数やリンクなしの感染者数が、その1週間前と比較して一定程度の増加幅に収まっており、帰国者・接触者外来の受診者数についてもあまり増加していない状況にある地域([1]でも[3]でもない地域)

<想定される対応>

  • 人の集まるイベントや「3つの密」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動については、実施する。
  • 具体的には、屋内で 50 名以上が集まる集会・イベントへの参加は控えること
  • また、一定程度に収まっているように見えても、感染拡大の兆しが見られた場合には、感染拡大のリスクの低い活動も含めて対応を更に検討していくことが求められる
[3]「感染未確認地域」

〇直近の1週間において、感染者が確認されていない地域(海外帰国の輸入例は除く。直近の1 週間においてリンクなしの感染者数もなし)

<想定される対応>

  • 屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用、参加者が特定された地域イベントなどについては、適切な感染症対策を講じたうえで、それらのリスクの判断を行い、感染拡大のリスクの低い活動については注意をしながら実施する。
  • また、その場合であっても、急激な感染拡大への備えと、「3 つの密」を徹底的に回避する対策は不可欠。いつ感染が広がるかわからない状況のため、常に最新情報を取り入れた啓発を継続してもらいたい。

2.行動変容の必要性について

(1)「3つの密」を避けるための取組の徹底について

〇 日本では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするため、「1、クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「2、患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「3、市民の行動変容」という3本柱の基本戦略に取り組んできた。
しかし、今般、大都市圏における感染者数の急増、増え続けるクラスター感染の報告、世界的なパンデミックの状況等を踏まえると、3本柱の基本戦略はさらに強化する必要があり、なかでも、「3、市民の行動変容」をより一層強めていただく必要があると考えている。

〇 このため、市民の皆様には、以下のような取組を徹底していただく必要がある。

  • 「3つの密」をできる限り避けることは、自身の感染リスクを下げるだけでなく、多くの人々の重症化を食い止め、命を救うことに繋がることについての理解の浸透。
  • 今一度、「3つの密」をできる限り避ける取組の徹底を図る。
  • また、人混みや近距離での会話、特に大きな声を出すことや歌うことを避けていただく。
  • さらに、「3つの密」がより濃厚な形で重なる夜の街において、
    (1)夜間から早朝にかけて営業しているバー、ナイトクラブなど、接客を伴う飲食店業への出入りを控えること。
    (2)カラオケ・ライブハウスへの出入りを控えること。
  • ジム、卓球など呼気が激しくなる室内運動の場面で集団感染が生じていることを踏まえた対応をしていただくこと。
  • こうした場所では接触感染等のリスクも高いため、「密」の状況が一つでもある場合には普段以上に手洗いや咳エチケットをはじめとした基本的な感染症対策の徹底にも留意すること。
(2)自分が患者になったときの、受診行動について

〇 感染予防、感染拡大防止の呼びかけは広まっているが、患者となったときの受診行動の備えは不十分である。例えば、受診基準に達するような体調の変化が続いた場合に、自分の居住地では、どこに連絡してどのような交通手段で病院に行けばいいのか、自分が患者になった時、どのように行動すべきか、事前に調べて理解しておき、家族や近しい人々と共有することも重要である。

〇 こうした備えを促進するため、新型コロナウイルス感染症を経験した患者や家族などから体系的に体験談を収集し、情報公開する取り組みにも着手すべきである。

(3)ICTの利活用について

〇 感染を収束に向かわせているアジア諸国のなかには、携帯端末の位置情報を中心にパーソナルデータを積極的に活用した取組が進んでいる。感染拡大が懸念される日本においても、プライバシーの保護や個人情報保護法制などの観点を踏まえつつ、感染拡大が予測される地域でのクラスター(患者集団)発生を早期に探知する用途等に限定したパ ーソナルデータの活用も一つの選択肢となりうる。ただし、当該テーマについては、様々な意見・懸念が想定されるため、結論ありきではない形で、一般市民や専門家などを巻き込んだ議論を早急に開始すべきである。

〇 また、感染者の集団が発生している地域の把握や、行政による感染拡大防止のための施策の推進、保健所等の業務効率化の観点、並びに、市民の感染予防の意識の向上を通じた行動変容へのきっかけとして、アプリ等を用いた健康管理等を積極的に推進すべきである。

3.地域の医療提供体制の確保について

(1)重症者を優先した医療提供体制の確保について

〇 今後とも、感染者数の増大が見込まれる中、地域の実情に応じた実行性のある医療提供体制の確保を図っていく必要がある。

〇 特に、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5県においては、人口集中都市を有することから、医療提供体制が切迫しており、今日明日にでも抜本的な対策を講じることが求められている。

〇 また、その際には感染症指定医療機関だけでなく、新型インフルエンザ等協力医療機関、大学病院など、地域における貴重な医療資源が一丸となって、都道府県と十分な連携・調整を行い、どの医療機関で新型コロナウイルスの患者を受け入れるか、また逆にどの医療機関が他の疾患の患者を集中的に受け入れるか、さらに他の医療機関等への医療従事者の応援派遣要請に応じるか、などそれぞれの病院の役割に応じ総力戦で医療を担っていただく必要がある。

〇 併せて、軽症者には自宅療養以外に施設での宿泊の選択肢も用意すべきである。

(2)病院、施設における注意事項

〇 大分県、東京都、千葉県などで数十名から 100 名近い病院内・施設内感染が判明した。一般に、病院内感染、施設内感染における感染ルートは、(1)医療従事者、福祉施設従事者からの感染、(2)面会者からの感染、(3)患者、利用者からの感染が考えられる。

〇 このうち、医療従事者、福祉施設従事者等に感染が生じた場合には、抵抗力の弱い患者、高齢者等が多数感染し、場合によっては死亡につながりかねない極めて重大な問題となる。こうした点を、関係者一人一人が強く自覚し、「3つの条件が同時に重なる場」を避けるといった感染リスクを減らす努力をする、院内での感染リスクに備える、日々の体調を把握して少しでも調子が悪ければ自宅待機する、症状がなくても患者や利用者と接する際には必ずマスクを着用するなどの対策に万全を期すべきである。特に感染が疑われる医療、福祉施設従事者等については、迅速にPCR検査等を行えるようにしていく必要がある。

〇 また、面会者からの感染を防ぐため、この時期、面会は一時中止とすることなどを検討すべきである。さらに、患者、利用者からの感染を防ぐため、感染が流行している地域においては、福祉施設での通所サービスなどの一時利用を制限(中止)する、入院患者、利用者の外出、外泊を制限(中止)する等の対応を検討すべきである。

〇 入院患者、利用者について、新型コロナウイルス感染症を疑った場合は、早急に個室隔離し、保健所の指導の下、感染対策を実施し、標準予防策、接触予防策、飛沫感染予防策を実施する。

(3)医療崩壊に備えた市民との認識共有

〇 我が国は、幸い今のところ諸外国のようないわゆる「医療崩壊」は生じていない。今後とも、こうした事態を回避するために、政府や市民が最善の努力を図っていくことが重要である。一方で、諸外国の医療現場で起きている厳しい事態を踏まえれば、様々な将来の可能性も想定し、人工呼吸器など限られた医療資源の活用のあり方について、市民にも認識を共有して行くことが必要と考える。

4.政府等に求められる対応について

〇 政府においては、上記1~3の取組が確保されるようにするため、休業等を余儀なくされた店舗等の事業継続支援や従業員等の生活支援など経済的支援策をはじめ、医療提供体制の崩壊を防ぐための病床の確保、医療機器導入の支援など医療提供体制の整備、重症者増加に備えた人材確保等に万全を期すべきである。

〇 併せて、 3 月 9 日、 3 月 19 日の専門家会の提言及び 3 月 28 日の新型コロナウイルス基本的対処方針で述べられている、保健所及びクラスター班への強化が、未だ極めて不十分なので、クラスターの発見が遅れてしまう例が出ている。国及び都道府県には迅速な対応を求めたい。

さらに、 既存の治療薬等の治療効果及び安全性の検討などの支援を行うとともに、 新たな国内発ワクチンの開発を さらに加速 するべきである 。

Ⅴ.終わりに

〇 世界各国で、「ロックダウン」が講じられる 中、市民の行動変容とクラスターの早期発見・早期対応に力点を置いた 日本の取組 「日本 モデル 」) に世界の注目が集まってい る。実際に、中国湖北省 を発端 とした第1波 に対する対応としては、 適切に対応してきたと考える 。

〇 一方で、世界的なパンデミック が 拡大 する中で、 我が国でも都市部を中心にクラスター感染が次々と発生し急速に感染の拡大がみられている。このため、政府・各自治体・ ー感染が次々と発生し急速に感染の拡大がみられている。このため、政府・各自治体・には今まで以上強い対応を求めたい。には今まで以上強い対応を求めたい。

〇 これまでも、多くの市民の皆様が、自発的な行動自粛に取り組んでいただいているこれまでも、多くの市民の皆様が、自発的な行動自粛に取り組んでいただいているが、が、法律で義務化されていなくとも、法律で義務化されていなくとも、3つの密3つの密が重なる場を徹底して避けるなど、が重なる場を徹底して避けるなど、社会社会を構成する一員としてを構成する一員として自分、そして社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこ自分、そして社会を守るために、それぞれが役割を果たしていこう。

以上

[2020年3月19日発表]
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」全文

2020年3月19日

本専門家会議は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うために設置されました(令和2年2月14日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)。この見解は、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班が分析した内容等に基づき、専門家会議において検討した結果をまとめています。

現在までに明らかになってきた情報をもとに、現状の状況分析を行い、その正確な情報提供に努めるとともに、政府及び自治体に対し提言を、国民の皆様及び事業者の方々に対しお願いをすることとしています。

分析結果等はあくまでも現時点のものであり、随時、変更される可能性があります。

I.はじめに

新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、わずか数か月ほどの間にパンデミックと言われる世界的な流行となりました。この感染症については、まだ不明の点も多い一方、多くのことが明らかになってきました。例えば、この感染症に罹患しても約80%の人は軽症で済むこと、5%程の方は重篤化し、亡くなる方もいること、高齢者や基礎疾患を持つ方は特に重症化しやすいことなどです。これまで世界で19万人以上の感染者と、8,000人近い死亡者が報告されています。本専門家会議は、新型コロナウイルス感染症について十分な注意と対策が必要な感染症であると考えています。特に、気付かないうちに感染が市中に拡がり、あるときに突然爆発的に患者が急増(オーバーシュート(爆発的患者急増))すると、医療提供体制に過剰な負荷がかかり、それまで行われていた適切な医療が提供できなくなることが懸念されます。こうした事態が発生すると、既にいくつもの先進国・地域で見られているように、一定期間の不要不急の外出自粛や移動の制限(いわゆるロックダウンに類する措置)に追い込まれることになります。

私達は、我が国がこのような事態を回避し、できるだけ被害を小さくするための提案として、本提言を取りまとめました。政府や国民の皆様などには内容をご理解いただき、我が国の被害を少しでも減らすための政策や行動につなげていただきたいと考えています。

II.状況分析等

1.WHOによるパンデミックとの認識(3月11日)と日本の対策について

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、2020年3月11日の会見において、世界で感染が拡がりつつある新型コロナウイルスについて、「パンデミック(世界的な大流行)とみなせる」と表明しました。中国、韓国以外での感染状況が加速する現状に強い懸念が示されましたが、「事態をパンデミックと描写することそれ自体が、ウイルスの脅威に対するWHOの評価や、WHOの対応、各国の対応を変えることにはならない」とも述べています。

以上のことから、専門家会議としては、現時点では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするという、これまでの方針を続けていく必要があると考えています。そのため、「1、クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「2、患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「3、市民の行動変容」という3本柱の基本戦略は、さらに維持、必要に応じて強化し、速やかに行わなければならないと考えています。

さらに、これまで報告の少なかった欧州や米国などの諸外国で新規感染者数が急増しており、中東、東南アジア、アフリカなどでも大規模感染が拡がっていることが推定されることなどから、感染者ゼロを目指す国内での封じ込めは困難な状況です。このため、こうした国々から、我が国に持ち込まれる新型コロナウイルスへの対応や、国内においても、後述する、クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が追えない事例が散発的に発生していることなどへの対策は依然として必須であり、クラスターの早期把握とともに、地域ごとの状況に応じた「市民の行動変容」や「強い行動自粛の呼びかけ」をお願いすることなどにより、いかにして小規模な感染の連鎖に留め、それぞれの地域において適切な制御を行った上で収束を図っていけるかが重要になってきています。

2.クラスター対策の現状について

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、2020 年3月13日の事務局長のステートメントにおいて、日本が「クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」という戦略をとって様々な取組を進めてきたことを高く評価しています。諸外国では数百~数千人規模の感染者数になるまで介入されなかったことが死亡者数の急増を引き起こしたものと考えられますが、日本では少人数のクラスター(患者集団)から把握し、この感染症を一定の制御下に置くことができていることが、諸外国との患者発生状況と死亡者数の差につながっていると判断しています。

これまで、厚生労働省のクラスター対策班では、感染者、濃厚接触者、保健所、地方公共団体のご協力を得て、クラスター(患者集団)を早期に発見し、その方々に対して人と人との接触をできるだけ絶つよう要請しながら、継続的に健康状態を確認する、という活動をしてきました。その結果、急速な感染拡大を抑制することに成功している地域も出てきています。 しかしながら、現在の国及び地方公共団体におけるクラスター対策の実施体制には、そもそもクラスター(患者集団)対策を指揮できる専門家が少ないことや、帰国者接触者相談センターへの対応を含めて保健所における労務負担が過重になっており、クラスター対策に人員を割けないことなど様々な課題が存在しています。

3.北海道の感染状況と対策の効果について

【注意】※:新型コロナウイルス感染症の感染から発病に要する潜伏期間の平均値は約5日間であり、発病から診断され報告までに要している平均日数は約8日間となっています。そのため、我々が今日見ているデータは、その約2週間前の新規感染の状況を捉えたものである、すなわち3月上旬頃の状況であるというタイムラグがあることをご理解下さい。

急激な感染拡大の兆候があった北海道においては、2020 年 2 月 28 日に知事より緊急事態宣言が発出され、週末の外出自粛要請のほか、大規模イベントの開催自粛、学校の休校などが行われました。その他にも、道民や事業者、若者が主体となった啓発の取組みが、いち早く進展しています。

北海道の感染状況をみると、緊急事態宣言が出される前の 2 月 27 日、28 日には 10 名を超える新規感染者の報告が続きましたが、その後急激な感染拡大を示す状況は認められておらず、直近の数日では0~5名以内の報告に留まっています(図 1 左)。流行規模の拡大には至っていませんが、他方、感染源(リンク)が追えない新規感染者数は横ばいに留ま っており、コミュニティにおける伝播は確実には止まっていません。

また、図1に示すように、実効再生産数(感染症の流行が進行中の集団のある時刻における、1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)は、日によって変動はあるものの概ね1程度で推移していましたが、緊急事態宣言の発出後は1を下回る日も増えています。(図1の青い線を参照)。緊急事態の発生前と発生後の同一期間(2月16日~28日と29日~3月12日)で実効再生産数を推定すると0.9(95%信頼区間:0.7、1.1)から0.7 (95%信頼区間:0.4、0.9)へと減少をしました。

さらに、北海道においては、感染者、濃厚接触者、地方公共団体、保健所の皆様のご協力とご努力により、クラスター(患者集団)を十分に把握できたことで、この感染症の爆発的な増加を避けることができたと考えています。以上の状況から、専門家会議としては、北海道では一定程度、新規感染者の増加を抑えられていることを示していると判断していますが、依然として流行は明確に収束に向かっておらず憂慮すべき状態が続いていると考えています。また、北海道知事による緊急事態宣言を契機として、道民の皆様が日常生活の行動を変容させ、事業者の方々が迅速に対策を講じられたことについては、急速な感染拡大の防止という観点からみて一定の効果があったものと判断しています。

ただし、緊急事態宣言、大規模イベントの自粛要請等のうち、どのような対策やどのような行動変容が最も効果を上げたかについては定かではありません。また、決してこの先について楽観視できる状況になったわけではなく、最近、患者数が増加傾向にある札幌などを含め、引き続き、これまで集団感染が確認された場に共通する3つの条件を避けるための取組を行っていく必要があります。

図1:北海道における流行曲線、推定感染時刻と実行再生産数
左上:発病時刻に基づく流行曲線。左下:リンクのない感染者の流行曲線(報道発表ベース)。
右上:推定された感染時刻別の新規感染者数(左縦軸・棒グラフ;黄色は国内発生、灰色は輸入感染者)とそれに基づく実効再生産数(1 人あたりが生み出した 2 次感染者数・青線)の推定値。青線は最尤推定値、薄青い影は 95%信頼区間である。右下:緊急事態宣言前後の同一期間(2 月 16 日~28 日と 29 日~3 月 12 日)を定数と想定した場合の実効再生産数の推定値。

4.現在の国内の感染状況と対策の効果について【注意】※

(1)国内の感染状況について

北海道以外の新規感染者数は、日ごとの差はあるものの、都市部を中心に漸増しており、3月 10 日以降、新規感染者数の報告が 50 例を超える日も続いています。また、高齢者福祉施設で集団感染が発生する事例があります。このことは、既に一定の地域では感染が広がりつつあり、高齢者など感染に弱い立場の方々に症状が現れてしまったことを意味しています。 図2に示したように、日本全国の実効再生産数は、日によって変動はあるものの、1をはさんで変動している状況が続いたものの、3月上旬以降をみると、連続して1を下回り続けています。今後とも、この動向がどのように変化するのか、注意深く観察を続けながら、状況に応じた必要な対応をその都度、機敏に講じることが求められます。

また、図3に示したように、感染源(リンク)が分からない感染者の増加が生じている地域が散発的に発生しています。今後、クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が分からない感染者が増えていく場合は、その背景に、どのような規模の感染者が存在しているかがわからなくなることを意味しています。現時点では、こうした感染経路が明らかではない患者が増加している地域は局地的かつ小規模に留まっているものの、今後、こうした地域が全国に拡大し、さらに、クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が分からない感染者が増加していくと、いつか、どこかで爆発的な感染拡大(オーバーシュート(爆発的患者急増))が生じ、ひいては重症者の増加を起こしかねません。

以上の状況から、日本国内の感染の状況については、3 月 9 日付の専門家会議の見解でも示したように、引き続き、持ちこたえていますが、一部の地域で感染拡大がみられます。諸外国の例をみていても、今後、地域において、感染源(リンク)が分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えています。

図2:感染自国による実行再生産数の推定(日本全体)
注:カレンダー時刻(横軸)別の推定の新規感染者数(左縦軸・棒グラフ;黄色は国内発生、灰色は輸入感染者)とそれに基づく実効再生産数(1 人あたりが生み出した 2 次感染者数・青線)の推定値。青線は最尤推定値、薄青い影は 95%信頼区間である。
図3:都道府県別にみた感染源(リンク)が未知の感染者数の推移
注:2020 年 2 月 27 日~3 月 4 日、3 月 5 日~11 日および 3 月 12~18 日の間に報道発表された各都道府県の感染源がわからない感染者数の相対割合(各期間中の全国総計値を 100%としたときの各都道府県の割合)。これらのうち積極的疫学調査によって感染源が探知された者は、今後、集計値から引かれていくこととなる。流動的な数字であることに注意が必要である。
(2) 国内での様々な対策の効果について

北海道以外の地域においても、政府によって要請された大規模イベント開催自粛や、全国一斉休校が実施されたほか、急速な感染拡大が危惧される地域における的確な積極的疫学調査の実施などが行われました。

この結果、たとえば、時差出勤への協力により、首都圏ではピーク時の乗車率が減少するなど、事業の特徴に応じた事業継続方法の変更や働きやすい環境整備に工夫が凝らされています。

それらがなかったこととの比較はできないものの、現時点では、「メガクラスター(巨大な患者集団)」の形成はなされていないと推測されます。また、図3で示したように、都市部を有する地域を中心に発症者の漸増が認められています。一方、日本全国で見れば、大規模イベント等の自粛や学校の休校等の直接の影響なのか、それに付随して国民の行動変容が生じたのか、その内訳までは分からないものの、一連の国民の適切な行動変容により、国内での新規感染者数が若干減少するとともに、効果があったことを意味しています。しかしながら、海外からの流入は続いており、また、一般に感染症の増減には一定の小幅なサイクルが存在していることなどから、引き続き、その動向を注視していくとともに、市民や事業者の皆様に、最も感染拡大のリスクを高める環境(1、換気の悪い密閉空間、2、人が密集している、3、近距離での会話や発声が行われる、という 3つの条件が同時に重なった場)での行動を十分抑制していただくことが重要です。

(3)重症化する患者さんについて

日本国内では、2020 年3月 18 日までに、感染が確認された症状のある人 758 例のうち、入院治療中の人は 579 例おり、そのうち、軽症から中等度の人が 337 名(58.2%)、人工呼吸器を使用または集中治療を受けている人が 46 名(7.9%)となっています。また、150 例(25.9%)は既に軽快し退院しています。 図4に示すように、日本国内では、2020 年 3 月 18 日までに確認された死亡者数は 29名であり、イタリアなどの国と比べて、入院者に占める死亡者数の割合も低く抑えられています。 このことは、限られた医療資源のなかであっても、日本の医師が重症化しそうな患者さんの大半を検出し、適切な治療ができているという、我が国の医療の質の高さを示唆していると考えられます。

しかしながら、既に地域によっては軽症者や回復後の観察期間にある患者等によって指定感染症病床が圧迫されてきていること、死亡者数が増加傾向にある状況も鑑みると、専門家会議としては、欧州で起きているような爆発的な感染拡大の可能性や、それに伴う地域の医療提供体制が受けるであろう影響の深刻さについても、十分考慮しておかなければならないと考えています。

図4:国別報告日毎の新規死亡者数

5.今後の見通しについて

今日我々が見ているこの感染症の感染者数のデータは、感染から発病に要する潜伏期間と発病から診断され報告までに要する期間も含めて、その約2週間前の新規感染の状況を捉えたものにすぎません。すなわち、どこかで感染に気付かない人たちによるクラスター(患者集団)が断続的に発生し、その大規模化や連鎖が生じ、オーバーシュート(爆発的患者急増)が始まっていたとしても、事前にはその兆候を察知できず、気付いたときには制御できなくなってしまうというのが、この感染症対策の難しさです。

もしオーバーシュートが起きると、欧州でも見られるように、その地域では医療提供体制が崩壊状態に陥り、この感染症のみならず、通常であれば救済できる生命を救済できなくなるという事態に至りかねません。このため、爆発的患者急増が起きたイタリアやスペイン、フランスといった国々(図5)では、数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行う、いわゆる「ロックダウン」と呼ばれる強硬な措置を採らざるを得なくなる事態となっています。

図5:国別の累積感染者数の推移
注:報告日付(横軸)別の国別感染者数の推移。イタリア、スペイン、ドイツ、フランスなどで同様の増殖率で指数関数的増殖が見られる(オーバーシュート)。

日本のある特定地域(人口 10 万人)に、現在、欧州で起こっているような大規模流行が生じ、さらにロックダウンに類する措置などが講じられなかったと仮定した場合にどのような事態が生じるのでしょうか。北海道大学西浦教授の推計によれば、図 6 のとおり、

基本再生産数(R0:すべての者が感受性を有する集団において1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)が欧州(ドイツ並み)のR0=2.5 程度であるとすると、症状の出ない人や軽症の人を含めて、流行 50 日目には 1 日の新規感染者数が 5,414 人にのぼり、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられます。また、呼吸管理・全身管理を要する重篤患者数が流行 62 日目には 1,096 人に上り、この結果、地域における現有の人工呼吸器の数を超えてしまうことが想定されるため、広域な連携や受入体制の充実を図るべきです。

ただし、もちろん今回の推計に基づき各地域ごとに人工呼吸器等を整備するべきという趣旨ではなく、今回示した基本再生算数がもたらす大幅な感染の拡大が生じないよう、クラスター対策等強力な公衆衛生学的対策を講じることで、これから各都道府県が整備しようとしている医療提供体制を上回らないようにするべきです。(各地域で整備すべき医療提供体制についての考え方は6で示すとおり)

なお、オーバーシュートが生じる可能性は、人が密集し、都市としての人の出入りが多い大都市圏の方がより高いと考えられます。

図6:大規模流行時に想定される10万人当たりの新規感染者数(左)と重篤患者数(右)
注:いずれも 10 万人あたりの新規感染者数等。右図の赤実線は日本国内の 10 万人あたりの使用可能な人工呼吸器台数を示す。

このため、有事に備え、十分な医療提供体制が必要になることは当然のこととして、こうした状況を可能な限り回避するための取組がより重要になります。それには、多くの人々の十分な行動変容を通じた協力が不可欠であり、地域クラスター対策の抜本的拡充だけでは全く不十分です。すなわち、もし大多数の国民や事業者の皆様が、人と人との接触をできる限り絶つ努力、「3 つの条件が同時に重なる場」を避けていただく努力を続けていただけない場合には、既に複数の国で報告されているように、感染に気づかない人たちによるクラスタ ー(患者集団)が断続的に発生し、その大規模化や連鎖が生じえます。そして、ある日、オ ーバーシュート(爆発的患者急増)が起こりかねないと考えます。そして、そうした事態が生じた場合には、その時点で取り得る政策的な選択肢は、我が国でも、幾つかの国で実施されているロックダウンに類する措置を講じる以外にほとんどない、ということも、国民の皆様にあらかじめ、ご理解いただいておく必要があります。

したがって、我々としては、「3つの条件が同時に重なる場」を避けるための取組を、地域特性なども踏まえながら、これまで以上に、より国民の皆様に徹底していただくことにより、多くの犠牲の上に成り立つロックダウンのような事後的な劇薬ではない「日本型の感染症対策」を模索していく必要があると考えています。

このため、地域別の予兆を少しでも早く把握しながら、もし、特定地域にオーバーシュートの兆しが見られた場合には、まずは、地域別の対応を徹底していただくとともに、全国的にも、より一層の行動変容が必要であると考えています。特に、これまでの事例を見ると、症状が軽い方が、感染に気がつかないまま、街を出歩いて感染を拡大させている可能性があり、こうした方々を含め、地域の皆さん全員が「3つの条件が同時に重なる場」を避けるなどの行動変容を徹底していただくことが極めて重要です。

また、これまでにわかってきたこととしては、オーバーシュートのリスクを高めるのが、「3つの条件が同時に重なる場」を避けにくい状況が生じやすい、「全国から不特定多数の人々が集まるイベント」であるといえます。イベントそのものがリスクの低い場で行われたとしても、イベントの前後で人々が交流する機会を制限できない場合には、急速な感染拡大のリスクを高めます。また、規模の大きなイベントの場合は、会場に感染者がいた場合に、クラスター(患者集団)の連鎖が発生し、爆発的な感染拡大のリスクを高めます。

現時点では、安全な規模や地域による基準を設けられるような科学的な根拠はなく、これまでの事例から判断するしかない状況です。

「3 つの条件が同時に重なる場」を避けるなど適切な対応をとられれば、オーバーシュートを未然に防ぐこともあり得ますが、国内外の現在の感染状況を考えれば、短期的収束は考えにくく長期戦を覚悟する必要があります。

6.地域ごとに準備が必要な医療提供体制について

上記患者数の見通しに基づき、各地域で完全な医療提供体制を構築することは到底不可能です。また、現時点で有効な治療薬、ワクチンは存在せず、人工呼吸器やエクモといった重症患者に有効な医療機器も使用するためには高度に訓練された医師、臨床工学技士、看護師等が多数必要であり、既存の医療従事者で対応可能な数しか増加させることはできません。

そのため、最もこの感染症による死者を減らすために、まずは各地域で初期に考えられる(すでに各地域に示した患者推計モデルに基づいた)感染者数、外来患者数、入院患者数、重篤患者数に応じた医療提供体制が整えられるよう、この感染症を重点的に受け入れる医療機関の設定や、重点医療機関等への医療従事者の派遣、予定手術、予定入院の延期等できうるかぎりの医療提供体制の整備を各都道府県が実施することが早急に必要と考えます。

また、毎日の陽性患者数のデータ等を通じて、必要に応じ特に重篤患者に係る広域調整を行うため、都道府県を越えた広域調整本部の設置準備等があらかじめ必要と考えられます。

7.地域ごとの対応に関する基本的な考え方

今後、日本のどこかでオーバーシュートが生じた場合には、地域ごとに断続的に発生していくことが想定されます。こうした状況下では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止とクラスター連鎖防止の効果を最大限にしていく観点から、地域の感染状況別にバランスをとって必要な対応を行っていく必要があります。 感染状況が拡大傾向にある地域では、まん延のおそれが高い段階にならないように、まずは、地域における独自のメッセージやアラートの発出や一律自粛の必要性について適切に検討する必要があります。その場合、社会・経済活動への影響も考慮し、導入する具体的な自粛内容、タイミング、導入後の実施期間などを十分に見極め、特に「感染拡大が急速に広まりそうな局面」や「地域」において、その危機を乗り越えられるまでの期間に限 って導入することを基本とすべきだと考えます。 感染状況が収束に向かい始めている地域並びに一定程度に収まってきている地域では、後述するように、人の集まるイベントや「3つの条件が同時に重なる場」を徹底的に回避する対策をしたうえで、感染拡大のリスクの低い活動から、徐々に解除することを検討することになると考えます。ただし、一度、収束の傾向が認められたとしても、クラスター(患者集団)発生の早期発見を通じて、感染拡大の兆しが見られた場合には、再び、感染拡大のリスクの低い活動も含めて停止する必要が生じえます。 感染状況が確認されていない地域では、学校における様々な活動や、屋外でのスポーツやスポーツ観戦、文化・芸術施設の利用などを、適切にそれらのリスクを判断した上で、感染拡大のリスクの低い活動から実施してください。ただし、急激な感染拡大への備え と、「3 つの条件が同時に重なる場」を徹底的に回避する対策は不可欠です。

8.学校等について

政府は、2月 27 日に、全国の小中高・特別支援学校の一斉臨時休校を要請しました。学校の一斉休校については、3.で触れたように、北海道においては他の取組と相まって全体として一定の効果が現れていると考えますが、学校の一斉休校だけを取り出し「まん延防止」に向けた定量的な効果を測定することは困難です。 また、この感染症は、子どもは重症化する可能性が低いと考えられています。一方で は、中国等では重症化した事例も少数例ながら報告されており、更に、一般には重症化しにくい特性から、無症状又は症状の軽い子どもたちが、高齢者等を含む家族内感染を引き起こし、クラスター連鎖のきっかけとなる可能性などを指摘する海外論文なども見られており、現時点では、確たることは言えない状況であると考えています。ただし、上記7.の「感染状況が拡大傾向にある地域」では、一定期間、学校を休校にすることも一つの選択肢と考えられます。

Ⅲ.提言等

1.政府及び地方公共団体への提言

(1)クラスター対策の抜本的な強化

現在の実施体制では、クラスターの早期発見・早期対応という戦略を更に継続するのは厳しく、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行を回避できなくなる可能性があります。

このため、専門家会議としては、抜本的なクラスター対策の拡充を迅速に実施すべきであると考え、その一刻も早い実現を政府に強く要望します。具体的には、1、地域でクラスター(患者集団)対策を指揮する専門家を支援する人材の確保2、地方公共団体間の強力な広域連携の推進を図った上で、3、地方公共団体間で保持する感染者情報をそれぞれの地域のリスクアセスメントに活用できるシステムを作ること4、保健所が大規模なクラスター対策に専念できる人員と予算の投入等が挙げられます。

(2)北海道及び各地方公共団体へのお願い

この先、新たな感染者やクラスターの発生もあり得ますので、引き続き注意深く警戒を続けながら、今後は、適宜、必要に応じて、今回と同様の対応を講じることも視野に入れておく必要があります。一方で、この北海道の経験は、他の地域においても、政府との緊密な情報連携により、地方公共団体の首長による独自のメッセージやアラートの発出等が、地域住民の行動変容につながり、一定の効果を上げる可能性を示唆していると考えます。感染状況が拡大傾向にある地方公共団体におかれましては、まん延のおそれが高くならないように、厚生労働省からもたらされた情報等を基に、まずは、地域住民の行動変容につなげるための自発的な取組の実施も考慮していただきたいと考えます。

(3)「3つの条件が同時に重なった場」を避ける取組の必要性に関する周知啓発の徹底

まん延の防止に当たっては、国民の行動変容を一層徹底していく必要があります。このため、専門家会議としては、国に対しては、3つの条件が同時に重なった場を避けることの必要性についての周知広報の充実を求めます。

(4)重症者を優先する医療体制の構築

重症患者に対する診療には、特別な知識や環境、医療機器を要するため、診療できる人員と資源を継続的に確保することが重要な課題です。そのため、一般医療機関のうちどの機関が感染者の受入れをするか、あらかじめ決めておく必要があります。その上で、関係医療機関の連携・協力の下、受入病床数を増やすだけでなく、一般医療機関の医療従事者にも新型コロナウイルス感染症の診療に参加していただく支援が不可欠です。

そこで、専門家会議としては、重症者を優先する医療体制へ迅速に移行するため、地域の感染拡大の状況に応じて、受診、入院、退院の方針を以下のように変更する検討を進めるべきだと判断します。

  • 重症化リスクの高い人(強いだるさ、息苦しさなどを訴える人)又は高齢者、基礎疾患のある人については、早めに受診していただく
  • 入院治療が必要ない軽症者や無症状の陽性者は、自宅療養とする※。ただし、電話による健康状態の把握は継続する
  • 入院の対象を、新型コロナウイルス感染症に関連して持続的に酸素投与が必要な肺炎を有する患者、入院治療が必要な合併症を有する患者その他継続的な入院治療を必要とする患者とする
  • 症状が回復してきたら退院及び自宅待機にて安静とし、電話による健康状態の把握は継続する
  • また、症状が軽い陽性者等が、高齢者や基礎疾患がある人と同居していて家族内感染のおそれが高い場合は、接触の機会を減らすための方策を検討する。具体的には、症状が軽い陽性者等が宿泊施設等での療養を行うことや、同居家族が受診した上で一時的に別の場所に滞在することなど、家族内感染リスクを下げる取組みを行う

このような基本的考えに立って、地域の実情に応じた、重症度などによる医療機関の役割分担をあらかじめ決めておくことが重要です。

※現在は、まん延防止の観点から、入院治療の必要のない軽症者も含めて、感染症法の規定に基づく措置入院の対象としています。

(5)学校等について

春休み明け以降の学校に当たっては、多くの子どもたちや教職員が、日常的に長時間集まることによる感染リスク等に備えていくことが重要です。この観点から、まずは、地域ごとのまん延の状況を踏まえていくことが重要です。さらに、今後、どこかの地域でオーバーシュートが生じた場合には、Ⅱ.7の地域ごとの対応に関する基本的な考え方を十分踏まえていただくことが必要です。

また、日々の学校現場における「3つの条件が同時に重なる場」を避けるため、1、換気の悪い密閉空間にしないための換気の徹底、2、多くの人が手の届く距離に集まらないための配慮、3、近距離での会話や大声での発声をできるだけ控えるなど、保健管理や環境衛生を良好に保つような取組を進めていくことが重要です。

併せて、咳エチケットや手洗いなどの基本的な感染症対策の徹底にもご留意ください。

児童生徒や学校の教職員については、学校現場で感染リスクに備えるとともに、学校外での生活で感染症の予防に努めていくことが重要です。日頃から、集団感染しやすい場所や場面を避けるという行動によって急速な感染拡大を防げる可能性が高まります。例えば、できるだけ換気を行って密閉空間を作らないようにしたり、咳エチケットや手洗いなどの基本的な感染症対策を徹底したり、バランスのとれた食事、適度な運動、休養、睡眠などで抵抗力を高めていくことにも心がけてくださるようお願いします。

教職員本人やその家族等が罹患した場合並びに本人に発熱等の風邪症状が見られる場合には、学校へ出勤させないよう徹底してください。また、児童生徒にも、同様の取組の徹底を図るようにしてください。

また、大学等におかれては学生等に対して、本提言に記載した感染リスクを高める行動を慎むよう、正確な情報提供や周知をお願いいたします。特に春休み期間に、感染症危険情報が高い国・地域に海外旅行や海外留学等で渡航した学生等が帰国する際などには、新たな渡航の慎重な検討や一時帰国を含めた安全確保の対応方策の検討に加え、帰国して2週間は体調管理を行い、体調に変化があった場合には、受診の目安を参考に適切な対応を取るよう、学生等への情報提供や周知をお願いいたします。

2.市民と事業者の皆様へ

(1)3つの条件が同時に重なった場における活動の自粛のお願い

これまでに明らかになったデータから、集団感染が確認された場に共通するのは、1、換気の悪い密閉空間であった、2、多くの人が密集していた、3、近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場ということが分かっています。例えば、屋形船、スポーツジム、ライブハウス、展示商談会、懇親会等での発生が疑われるクラスターの発生が報告されています。

皆さんが、「3つの条件が同時に重なった場所」を避けるだけで、多くの人々の重症化を食い止め、命を救えます。

(2)感染者、濃厚接触者等に対する偏見や差別について

感染者、濃厚接触者とその家族、この感染症の対策や治療にあたる医療従事者とその家族に対する偏見や差別につながるような行為は、断じて許されません。誰もが感染者、濃厚接触者になりうる状況であることを受け止めてください。 報道関係者におかれましては、個人情報保護と公衆衛生対策の観点から特段の配慮をお願いします。

感染症対策に取り組む医療従事者が、差別等されることのないよう、市民等は高い意識を持つことが求められます。

(3)積極的疫学調査へのご協力のお願い

この感染症との闘いは、今後一定期間は続き、国内で急速な感染の拡大を抑制できたとしても、流行地から帰国する邦人や来日する外国人からの感染も増える見込みのため、さらに警戒を強める必要があります。

感染者、濃厚接触者の方々は、保健所による積極的疫学調査にご協力ください。詳しい行動歴を調査することで感染源を突き止め、他の感染者を早期に発見することが感染拡大の防止のために不可欠となります。

また、事業者におかれましては、集団感染が発生した場合には、その情報を公開することにご協力ください。速やかな情報の公開が、感染者の早期発見につながります。

感染症対策に取り組む医療従事者が、差別等されることのないよう、市民等は高い意識を持つことが求められます。

(4)高齢者や持病のある方など重症化リスクの高い皆様へのお願い

新型コロナウイルスの国内ならびに海外での分析によっても高齢であれば比較的健康であっても感染し、重症化する可能性が高いことがわかっています。また、持病にも様々なものがありますが、できるだけ良好なコントロールをしていただくようにし、また感染リスクを下げるような行動をお願いします。また通常の予防接種も、感染症の複合にならないために重要です。

これまでは外出機会の多かった方におかれましても、今後は感染リスクを下げるよう注意をお願いします。特に、共有の物品がある場所、不特定多数の人がいる場所などへの訪問は避けてください。なお、外出機会を確保することは日々の健康を維持するためにも重要になります。お一人や限られた人数での散歩などは感染リスクが低い行動です。

(5)高齢者や持病のある方に接する機会のある職業ならびに家庭の方へのお願い

高齢者や持病のある方に接する機会のある、医療、介護、福祉ならびに一般の事業者で働く人は一層の感染対策を行うことが求められます。発熱や感冒症状の確認ならびに、感染リスクの高い場所に行く機会を減らすなどの対応が当分の間求められます。

これまでの国内外の感染例でも、家庭内での感染の拡大はよくみられています。同居の家族、特に、そのご家庭の高齢者を訪問される際には、十分な体調確認を行った上で、高齢者の方と接していただくようにしてください。

(6)若者世代の皆様へのお願い

若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは高くありません。しかし、無症状又は症状が軽い方が、本人は気づかずに感染を広めてしまう事例が多く見られます。このため、感染の広がりをできるだけ少なくするためには、 改めて、3つの条件が同時に重なった場に近づくことを避けていただきますようにお願いします。特に、オーバーシュート(爆発的患者急増)のリスクを高めるのが、「3つの条件が同時に重なる場」を避けにくい状況が生じやすい、「全国から不特定多数の人々が集まるイベント」であることもわかってきました。イベントそのものがリスクの低い場で行われたとしても、イベントの前後で人々が交流する機会を制限できない場合には、急速な感染拡大のリスクを高めますので、十分に注意して行動してください。

また、ご自身が新型コロナウイルスに罹患した場合やその家族等が罹患した場合並びに発熱等の風邪症状が見られる場合には、ご自身の経過観察をご自宅で継続するとともに外出を避けるように徹底してください。

(7)医療従事者の皆様へのお願い

今後、患者数の漸増やオーバーシュート(爆発的患者急増)が起こると、感染症指定医療機関等だけでは対応が困難となりますので、多くの医療機関(診療を原則行わない医療機関を除く)が新型コロナウイルス感染症の診療を行うことになります。その際、地域における医療機関ごとの役割分担(軽症者は在宅療養、重症者は高次医療機関、その他は診療所や一般医療機関で診療するなど)を踏まえ、医療ニーズの低減努力(一般患者の外来受診間隔を開ける、ファクス処方の利用、待機的入院・手術の延期等)をお願いいたします。また、各医療機関におかれましては、それぞれの診療継続計画に基づき、医療従事者の適切な配置等をご検討ください。医療につきましては、新型インフルエンザ等及び鳥インフルエンザ等に関する関係省庁対策会議「平成25年6月26日(平成30年6月21日一部改訂)新型インフルエンザ等対策ガイドライン」のⅥ 医療体制に関するガイドラインが準用可能ですのでご参照ください。

(8)PCR検査について

新型コロナウイルス感染症においては、医師が感染を疑う患者には、PCR検査が実施されることになっています。また、積極的疫学調査において検査の必要性がある濃厚接触者にもPCR検査が実施されます。このように適切な対象者を検査することで、新型コロナウイルスに感染した疑いのある肺炎患者への診断・治療を行っているほか、濃厚接触者の検査により、感染のクラスター連鎖をとめ、感染拡大を防止しています。すでに、検査受け入れ能力は増強されており、今後も現状で必要なPCR検査が速やかに実施されるべきと考えています。今後は、わが国全体の感染状況を把握するための調査も必要です。

なお、PCR検査法は優れた検査ではありますが、万能ではなく感染していても陽性と出ない例もあります。したがって、PCR検査のみならず、臨床症状もあわせて判断する必要があります。また、迅速診断法や血清抗体検査法などの導入により、より迅速で正確な診断が期待されています。

(9)大規模イベント等の取扱いについて

2月 26 日に政府が要請した、全国的な大規模イベント等の自粛の成果については、その効果だけを取り出した「まん延防止」に対する定量的な効果測定をできる状況にはないと考えていますが、専門家会議としては、以下のような観点から、引き続き、全国的な大規模イベント等については、主催者がリスクを判断して慎重な対応が求められると思います。

全国規模の大規模イベント等については、
(1)多くの人が一堂に会するという集団感染リスクが想定され、この結果、地域の医療提供体制に大きな影響を及ぼしかねないこと(例:海外の宗教行事等)
(2)イベント会場のみならず、その前後などに付随して人の密集が生じること
(例:札幌雪まつりのような屋外イベントでも、近辺で3つの条件が重なったことに伴う集団感染が生じていること)
(3)全国から人が集まることに伴う各地での拡散リスク、及び、それにより感染者が生じた場合のクラスター対策の困難性
(例:大阪のライブハウス事案(16 都道府県に伝播))
(4)上記のリスクは屋内・屋外の別、あるいは、人数の規模には必ずしもよらないことなどの観点から、大規模イベント等を通して集団感染が起こると全国的な感染拡大に繋がると懸念されます。

このため、地域における感染者の実情やその必要性等にかんがみて、主催者がどうしても、開催する必要があると判断する際には以下(1)~(3)などを十分注意して行っていただきたい。

しかし、そうしたリスクへの対応が整わない場合は、中止又は延期をしていただく必要があると考えています。

また仮にこうした対策を行えていた場合でも、その時点での流行状況に合わせて、急な中止又は延期をしていただく備えも必要です。 (1)人が集まる場の前後も含めた適切な感染予防対策の実施、
(2)密閉空間・密集場所・密接場面などクラスター(集団)感染発生リスクが高い状況の回避、
(3)感染が発生した場合の参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力
などへの対応を講ずることが求められます。
(別添「多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例」参照)

(9)事業者の皆様へのお願い

以下の事項に留意して、多様な働き方で働く方も含めて、従業員の感染予防に努めてください。

  • 労働者が発熱などの風邪症状が見られる際に、休みやすい環境の整備
  • テレワークや時差通勤の活用推進
  • お子さんの学校が学級閉鎖になった際に、保護者である労働者が休みやすいように配慮
  • 感染拡大防止の観点から、イベント開催の必要性を改めて検討
  • 別添「多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例」の2)クラスター(集団)感染発生リスクの高い状況の回避のための取組に準じて、従業員の集団感染の予防にも十分留意してください。
  • 海外出張で帰国した場合には、2週間は職員の健康状態を確認し、体調に変化があった場合には、受診の目安を参考に適切な対応を取るよう職員への周知徹底をしてください。

Ⅳ.終わりに

この状況分析・提言については、今後、国際的な状況、新規感染者数の動向、国民や行政に知らせるべき新たな重要な知見等が生じた場合に、政府が、「緊急事態宣言」の発動も含めた必要な対応が迅速かつ果断にとれるよう、適宜、必要に応じて検討を行い、見直しを行うものとします。

別添【多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例】

1) 人が集まる場の前後も含めた適切な感染予防対策の実施

  • 参加時に体温の測定ならびに症状の有無を確認し、具合の悪い方は参加を認めない。
  • 過去2週間以内に発熱や感冒症状で受診や服薬等をした方は参加しない。
  • 感染拡大している地域や国への訪問歴が 14 日以内にある方は参加しない。
  • 体調不良の方が参加しないように、キャンセル代などについて配慮をする。
  • 発熱者や具合の悪い方が特定された場合には、接触感染のおそれのある場所や接触した可能性のある者等に対して、適切な感染予防対策を行う。
  • 会場に入る際の手洗いの実施ならびに、イベントの途中においても適宜手洗いができるような場の確保。
  • 主に参加者の手が触れる場所をアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含有したもので拭き取りを定期的に行う。
  • 飛沫感染等を防ぐための徹底した対策を行う(例えば、「手が届く範囲以上の距離を保つ」、「声を出す機会を最小限にする」、「咳エチケットに準じて声を出す機会が多い場面はマスクを着用させる」など)

2) クラスター(集団)感染発生リスクの高い状況の回避

  • 換気の悪い密閉空間にしないよう、換気設備の適切な運転・点検を実施する。定期的に外気を取り入れる換気を実施する。
  • 人を密集させない環境を整備。会場に入る定員をいつもより少なく定め、入退場に時間差を設けるなど動線を工夫する。
  • 大きな発声をさせない環境づくり(声援などは控える)
  • 共有物の適正な管理又は消毒の徹底等

3)感染が発生した場合の参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力

  • 人が集まる場に参加した者の中に感染者がでた場合には、その他の参加者に対して連絡をとり、症状の確認、場合によっては保健所などの公的機関に連絡がとれる体制を確保する。
  • 参加した個人は、保健所などの聞き取りに協力する、また濃厚接触者となった場合には、接触してから2週間を目安に自宅待機の要請が行われる可能性がある。

4)その他

  • 食事の提供は、大皿などでの取り分けは避け、パッケージされた軽食を個別に提供する等の工夫をする。
  • 終了後の懇親会は、開催しない・させないようにする。
上記は例であり、様々な工夫が考えられる。
以上

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の見解」 全文

2020年3月9日

この専門家会議は、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うために設置されました(令和2年 2月 14 日 新型コロナウイルス感染症対策本部決定)。この見解は、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスタ ー対策班が分析した内容に基づき、専門家会議において検討した結果をまとめた見解です。

現在までに明らかになってきた情報をもとに、我々がどのように現状を分析し、どのような内容について政府に助言をしているかについて、市民に直接お伝えすることが専門家としての責務だと考え、この見解をとりまとめています。この内容はあくまでも現時点の見解であり、随時、変更される可能性があります。

1. 感染拡大の防止に向けた日本の基本戦略

専門家会議では、日本で新型コロナウイルスに対応するための基本的な考え方を、社会・経済機 能への影響を最小限としながら、感染拡大の効果を最大限にするという方針とし、政府に助言をしてきました。その具体的な戦略は「クラスター(集団)の早期発見・早期対応」、「患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「市民の行動変容」という3本柱であると考えています。この戦略は世界保健機関(WHO)の推奨する戦略とも一致しており、既にシンガポールや香港などで実施されているのと同等の戦略です。

一方、日本よりも急速に感染が拡大してしまった国では、日本のような戦略のみでは感染拡大を抑えることができず、人々の行動を大幅に制限する戦略を取らざるを得ない状況になっています。

日本では、医療機関が高い医療水準を誇っており、地方公共団体や保健所の高度な調査力があります。今後の感染拡大に備えて、これらの機関の体制を強化し、広域での連携や情報共有をすることは不可欠です。

そして、日本には、市民のみなさまの強い協力意識があります。この戦略を確実に実行するためには、市民のみなさま一人一人が二次感染を防ぐための行動にご協力いただくことも欠かせません。

我々が提案する基本戦略は、これらがそろって、はじめて実現できる戦略ですが、後述するように、日本の状況はこの戦略により感染拡大のスピードを抑えられる可能性もあります。そのため、専門家会議としては、当面の間、この戦略を強化すべきであると考えています。

2. 現在の国内の感染状況

現時点において、感染者の数は増加傾向にあります。また、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が、全国各地で相次いで報告されています。

しかし、全体で見れば、これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。また、実効再生産数(感染症の流行が進行中の集団のある時点における、1人の感染者から二次感染させた平均の数)は日によって変動はあるものの概ね1程度で推移しています。感染者や濃厚接触者の方々、地方公共団体や保健所の皆様、厚生労働省対策本部クラスター対策班の連携と多大な努力が実り、現時点までは、クラスター(集団)の発生を比較的早期に発見できている事例も出てきています。これは、急激なペースで感染者が増加している諸外国と比べて、感染者数の増加のスピードを抑えることにつながっています。

2月 24 日に公表した専門家会議の見解において、我々は、「これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります」と述べましたが、以上の状況を踏まえると、本日時点での日本の状況は、爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえているのではないかと考えます。

しかしながら、感染者数は、一時的な増減こそあれ、当面、増加傾向が続くと予想されます。また、後述するように、感染の状況を把握するためには、約2週間程度のタイムラグを生じ、すべての感染状況が見えているわけではないので、依然として警戒を緩めることはできません。専門家会議としては、現在、北海道で行われている対策の十分な分析が完了し、さらに他の地域の状況の確認などをしたうえで、全国で行われている対策も含め、我々の考えを政府にお伝えしたいと考えています。

3. 重症化する患者さんについて

中国からの2020年2月20日時点での報告では、感染が確認された症状のある人の約80%が軽症、 13.8%が重症、6.1%が重篤となっています。また、広東省からの 2020 年2月 20 日時点の報告では、重症者 125名のうち、軽快し退院したものが 26.4%、状態が回復しつつある者が46.4%となっています。

日本国内では、2020年3月6日までに、感染が確認された症状のある人366例のうち、55例(15%)は既に軽快し退院しています。重症化する患者さんも、最初は普通の風邪症状(微熱、咽頭痛、咳など)から始まっており、その段階では重症化するかどうかの区別をつけるのは、依然として難しい状況です。

日本では、死亡者数は大きく増えていません。このことは、限られた医療資源のなかであっても、日本の医師が重症化しそうな患者さんの多くを検出し、適切な治療をできているという、医療の質の高さを示唆していると考えられます。今後も死亡者数の増加を抑えるために、日本の医療提供体制を強化する必要があります。

重症化する患者さんは、普通の風邪症状が出てから約5~7日程度で、症状が急激に悪化し、肺炎に至っています。重症化する患者さんの場合は、入院期間が約3~4週間に及ぶことが多いです。

また重篤の方の場合は、人工呼吸器による治療だけでなく、人工心肺を用いた集中治療が必要になることがあります。

4. 北海道における、「人と人との接触を可能な限り控える」対策について

北海道では、急速な感染拡大を収束に向かわせることを目的として、2020年2月 28日に「新型コロナウイルス緊急事態宣言」が知事より示されました。道民のみなさまには、基本戦略への対応に加えて、現在、「人と人との接触を可能な限り控えること」にも多大なご協力をいただいています。

こうした対策の効果を検討するための最初のデータが得られるまでには、まだ時間を要します。この感染症の感染から発病に要する潜伏期間の平均値は約 5 日間であり、発病から報告までに要する平均時間は約 8 日間であることが知られており、我々が今日見ているデータは、その約 2 週間前の新規感染の状況を捉えたものであるというタイムラグがあるためです。そのため、北海道での対策については、北海道での緊急事態宣言から少なくとも約2週間後からでなければその効果を推定することが困難です。その後、複数の科学的な指標(感染者数の変化、実効再生産数、感染源(リンク)が明確な患者数)を用いて、約1週間程度かけて、この対策の効果を判断し、3月19日頃を目途に公表する予定です。

5. 今後の長期的な見通しについて

国内での急速な感染拡大を抑制できたとしても、世界的な流行を完全に封じ込めることはできません。

先週まで報告が少なかった諸外国において、患者数が急増しています。これまで渡航の制限がなかった諸外国や国内の人々との間の往来や交流が既に積み重ねられています。しかし、全ての感染源(リンク)が追えているわけではないので、感染の拡大が、既に日本各地で起きている可能性もあります。よって、今回、国内での流行をいったん抑制できたとしても、しばらくは、いつ再流行してもおかしくない状況が続くと見込まれます。また、世界的な流行が進展していることから、国外から感染が持ち込まれる事例も、今後、繰り返されるものと予想されます。

新型コロナウイルス感染症は、人々が気づかないうちに感染し、感染拡大に重大な役割を果たすという特徴があるため、クラスター(集団)を早期に発見し、早期に対応できる体制の確立が不可欠だと考えています。

今後、急速な感染拡大が予想される地域では、その地域ごとに「人と人との接触を可能な限り控える」対策を進め、収束に向かえば、比較的、感染拡大のリスクの低い活動から解除するなど、社会・経済活動の維持と感染拡大防止のバランスを取り続けるような対策を繰り返すことが、長期にわたって続くと予想されます。

WHO は、今回の新型コロナウイルス感染症の地域ごとの対策を考えるために、3 つの異なるシナリオ(3Cs)を考えるべきとしています。つまり、それぞれの地域を 1)感染者が他地域からの感染者に限定されている地域(Cases)、2)クラスターを形成している地域(Cluster)、3)地域内に広範に感染者が発生している地域(Community Transmission)、の 3つに分類して対応を考えることが必要だとしています。まだ、WHO からそれぞれの地域の詳しい定義は提示されていませんが、厚生労働省のクラスター対策班でこれらの地域ごとの流行状況を決める指標とそれぞれのシナリオに応じた対策についての指針を作成しています。

専門家会議としては、この指針と北海道での対策の効果をもとに、全国各地での対応を検討し、報告する予定です。また、クラスター(集団)の早期発見・早期対応が長期的にわたって持続できる体制の整備が急務だと考えています。保健所については、労務負担を軽減すべく、帰国者接触者相談センターの機能について保健所以外の担い手を求めるなど、早急に人的財政的支援策を講じるべきだと考えます。また、地方公共団体や保健所の広域での連携及び情報共有が必要です。医療提供体制については、さらなる感染拡大に備え、対応にあたる一般医療機関や診療所を選定し、その体制を強化していく支援をすべきだと考えます。

6. みなさまにお願いしたいこと

これまでに明らかになったデータから、集団感染しやすい場所や場面を避けるという行動によって、急速な感染拡大を防げる可能性が、より確実な知見となってきました。これまで集団感染が確認された場に共通するのは、1、換気の悪い密閉空間であった、2、多くの人が密集していた、3、近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという 3 つの条件が同時に重なった場です。こうした場ではより多くの人が感染していたと考えられます。そのため、市民のみなさまは、これらの3つの条件ができるだけ同時に揃う場所や場面を予測し、避ける行動をとってください。 ただし、こうした行動によって、どの程度の感染拡大リスクが減少するかについては、今のところ十分な科学的根拠はありませんが、換気のよくない場所や人が密集する場所は、感染を拡大させていることから、明確な基準に関する科学的根拠が得られる前であっても、事前の警戒として対策をとっていただきたいと考えています。 専門家会議としては、すべての市民のみなさまに、この感染症との闘いに参加して頂きたいと考えています。少しでも感染拡大のリスクを下げられるよう、別添の「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」を参考にしていただき、様々な場所や場面に応じた対策を考え、実践していただきたいと考えています。どうかご協力をお願いいたします。

事業者の方へのお願い

事業者の皆様におかれましては、既に感染拡大のリスクを防ぐために様々な対策をとっておられることと思いますが、別添の「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」を参考にしてください。そして、どのような対策を取っておられるかをぜひ積極的に市民に情報共有してください。そのことが市民にとって、施設や各種サービス等の利用しやすさの判断につながると考えています。どうかご協力をお願いいたします。

以上

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症のクラスター(集団)発生のリスクが高い日常生活における場面についての考え方」 全文

2020年3月9日

新型コロナウイルスに対する地域での対策として、クラスター(集団)の発生を防止することが重要です。感染していると知らずに多くの人々と接触することで、感染を拡大してしまう可能性があります。そのため、感染拡大の機会を減らすために、多くの人が接触するような機会をできるだけ作らないようにする必要があります。 クラスター(集団)の発生のリスクの高い場面では、一人の感染者が多くの感染者を生み出し、それが大きなクラスター(集団)の発生につながる場合があります。海外では多くの人が集まる行事に伴い大規模なクラスター(集団)の発生が報告されています。

この文章は、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班が分析した内容に基づき、専門家会議がクラスター(集団)の発生の防止に向けて、広く情報を共有することを目的としています。なお、これまでの知見、エビデンスは限られており、感染経路については不明な点も多く、適宜、変更される可能性があります。

これまでクラスター(集団)の発生が確認された場面とその条件

これまで感染が確認された場に共通するのは、(1)換気の悪い密閉空間、(2)人が密集していた、(3)近距離での会話や発声が行われたという 3 つの条件が同時に重なった場です。こうした場ではより多くの人が感染していたと考えられます。

これら 3 つの条件がすべて重ならないまでも 1 つないし 2 つの条件があれば、なにかのきっかけに 3 つの条件が揃うことがあります。例えば、満員電車では、(1)と(2)がありますが(3)はあまりなされません。しかし、場合によっては③が重なることがあります。また、一連の活動のなかで多くの時間は 3 つ条件が揃わなくても、あるときにはそうした機会があることがあります。例えば通常の野外スポーツをしている際には3つの条件は揃いませんが、着替えやミーティングにおいては(1)から(3)の条件が重なることがあります。そのため、3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。

これまでクラスター(集団)の発生が確認された場面とその条件

また、上記の条件の他に、共用の物品を使用していたという場面もあります。こうした状況では接触感染がおこる場合があります。

これまで、換気の悪い閉鎖空間で人が近距離で会話や発語を続ける環境、例えば、屋形船、スポーツジム、ライブハウス、展示商談会、懇親会等での発生が疑われるクラスターの発生が報告されています。

なお、不特定多数が参加するイベントは、感染拡大のリスクが高いだけでなく、クラスターが発生したときに感染源の特定、接触者調査が困難となり、クラスターの連鎖につながるリスクが増します。イベントの特徴に応じて可能な場合には、主催者があらかじめ参加者を把握できているほうが感染拡大のリスクを下げることができます。

クラスター(集団)の発生のリスクを下げるための3つの原則

1,換気を励行する:窓のある環境では、可能であれば2方向の窓を同時に開け、換気を励行します。ただ、どの程度の換気が十分であるかの確立したエビデンスはまだ十分にありません。

2,人の密度を下げる:人が多く集まる場合には、会場の広さを確保し、お互いの距離を1-2 メ ートル程度あけるなどして、人の密度を減らす。

3,近距離での会話や発声、高唱を避ける:周囲の人が近距離で発声するような場を避けてください。やむを得ず近距離での会話が必要な場合には、自分から飛沫を飛ばさないよう、咳エチケットの要領でマスクを装着するかします。

これらに加えて、こまめな手指衛生と咳エチケットの徹底、共用品を使わないことや使う場合の充分な消毒は、感染予防の観点から強く推奨されます。

以上

緊急声明文

2020年3月19日、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を発表しました。

この提言は、厚生労働省クラスター対策班が、これまで国内で経験した信頼できる疫学データを短期間で集積し、最新の技術で解析した結果を基に、専門家会議が、現時点において、日本国民全体を守るために練り上げた、もっとも適した提言です。

決して名声にとらわれることのない誠実な科学者や実務者たちによる提言を、長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科(TMGH)および長崎大学熱帯医学研究所は、全面的に支持します。

わが国は、新型コロナウイルス流行の第一波(中国湖北省武漢市発)を持ちこたえたものの、今まさに第二波(欧米のオーバーシュート;爆発的な感染拡大)の脅威にさらされ、これまでの流行対策が瀬戸際に立たされています。

国や地域の枠組みを越えて、「人類の叡智」が試されています。

今こそ、個人が、組織が、地域社会が、国民全体が、これからも専門家会議の声に耳を傾け、一致団結して行動することを呼びかけます。

2020年3月27日 長崎大学 大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 熱帯医学研究所
PAGE TOP