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黒牛 和歌山
地域にこだわる純米酒を目指して
静岡・高知といった太平洋に面した地域は冬も暖かいイメージがあるので、銘醸酒がある割に酒どころのイメージが弱い。今回は、中でもとりわけ日本酒産地のイメージが薄い和歌山県で純米酒造りに奮闘し、この一〇年で比較的円滑に高品質酒生産への転換ができた名手酒造店を取り上げ、地酒というものの考え方についてご意見をうかがった。

神々の住む南紀和歌山
紀州という国は、昔から日本人にとっては神秘的であり、憧れの地であった。都から距離的
にはさほど離れていないが、山と海に囲まれた地形的な険しさもあって信仰の地になっていたようで、平安時代には熊野三山を中心とした熊野詣でが大人気を博した。当時、熊野へは、船で淀川を下り、浪速の津から一路南に陸路をとり、今の和歌山県に入ってから、海岸線を田辺まで進み、そこから険しい山の中に入っていくのが常道であったようだ。現在でも「熊野古道」として史跡や古の道が残っている。
このように神話時代の雰囲気を今に伝えるのが和歌山県の山間部のイメージとすると、紀ノ川河口の和歌山市を中心としたの歴史を持つ。今回は、ゆくゆくは五代目の当主になる名手孝和専務(四二歳)に同社の歴史、清酒造りに対する考え方、現在取り組んでおられる酒米作りなどについてお話をうかがった。名手酒造店のある海南市黒江平野部は交通の便もよく、近代的な発展を遂げて全く別の顔を持つ。今回訪れた名手酒造店は、その和歌山市の南隣り一〇㎞ほどの海南市にある造り酒屋である。
和歌山県は冬も温暖な土地であり、現在では清酒産地としてのイメージは希薄であるが、海南市にはこの名手酒造店をはじめ酒造メーカーが集中し、県内一の清酒産地である。名手酒造店の創業は幕末の慶応二(一八六六)年で、一三〇年あまりの歴史を持つ。今回は、ゆくゆくは五代目の当主になる名手孝和専務(四二歳)に同社の歴史、清酒造りに対する考え方、現在取り組んでおられる酒米作りなどについてお話をうかがった。
名手酒造店のある海南市黒江の地は、「古に妹とわが見しぬばたまの黒牛潟を見ればさぶしも」と柿本人麻呂が万葉集に詠っている黒牛潟に由来する。江戸時代の寛永年間に始まった紀 州漆器(黒江塗)の名産地である。
名手酒造店の創業者、名手源兵衛は肥料を商っていた名手家の三男で、初めは蝋燭製造に乗り出すも失敗し、しばらく逼塞した後に本家から二〇〇両を借りて、現在の名手酒造店の北方一〇〇mほどのところに江戸時代前期からあった酒蔵(酒造株)を買い取り酒造業に乗り出す。幕末の黒江の地は漆器職人で栄えており、彼ら向けに酒造りを行い成功を収めた。
明治七年に現在の場所に蔵を移転し隆盛を続け、明治二八年には和歌山市内にも別の酒蔵を設けて製造量一三〇〇石弱と、一時的に当時の県内最大手の酒蔵にまで成長している(この量 は現在の同社の清酒製造量にほぼ匹敵する)。その後は、清酒に限らず塩田開発、海運業、農地開発などへと幅広く事業を手がけるが、太平洋戦争と戦後の農地改革で酒蔵以外のすべての事業を失い、酒造業として再出発することになる。この頃の主力銘柄は「菊御代」といい現在でも製造しているが、今の主力は後述する「黒牛」に変わっている。
戦後の高度成長期に日本の清酒業界は大きく発展するのであるが、当時の社長が清酒産業の将来性に疑問を持っていたので、名手酒造店の清酒製造規模をあまり拡大させなかった。このことが後の高品質酒中心への事業方針転換を容易にさせた一面もあるようだ。

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