「あの石黒教授にインタビューできることになったんですよ!」
メシ通編集部の宗像さんから電話があった。石黒教授ってあのロボット研究者の!? 自分のアンドロイドとかマツコロイド作ってる、世界的に名の知られる研究者じゃないですか。
「大北さん、大阪まで一緒に行ってインタビューしませんか?」
え、ふだん自転車でフォークリフトつくったおっちゃんとかヌンチャク健康法あみだしたじいさんにインタビューしてるおれがですか? いいですけど……メシ通ってグルメサイトでしたよね確か。何聞いたらいいんですか?
「これから考えましょう!」
あの人めっちゃ怖そうじゃないですか! 自分のアンドロイドでさえ眉間にしわ寄ってるんですよ!
▲石黒先生とジェミノイドHI-4。こうして見るとジェミノイドの方が顔が険しい(※写真提供 ATR石黒浩特別研究所)
7月某日、新幹線で一路、新大阪へ。指定された場所は大阪市内、福島区にあるイタリアンレストランだ。福島駅近くでぼくと編集の宗像さんは作戦会議をするため2時間前に待ち合わせた。
さてロボットとアンドロイドの専門家である石黒教授に一体なにをきくのか……だが私たちの話は「石黒先生怖そうですね」「緊張しますね」というやりとりに終始し、不安の螺旋階段を上りつづけていた。
宗像「大北さん、じゃあカメラもおねがいしますね」
はい、まかせてください。といって取り出したカメラでシャッターを切ってみると、モニターにはありえない絵が吐き出されていた。完全に故障している……。
▲故障したカメラの画像。肝が液体窒素で-200℃まで一気に冷やされた心地である
そこにはアンドロイドじゃなくモチロン本物が
「よかった、持ってきておいて」と編集の宗像さんがデジカメをとりだす。ちっこい!(※おれが故障させたのが悪いんですけども) 「君、そのカメラのサイズなめてんのか」と怒られたらどうしよう。そろそろ約束の時間が来たので、指定された福島区の「食堂タボリノ」へ向かう。
▲石黒教授指定の店、「食堂タボリノ」。ご夫婦でやられてるアットホームなイタリア料理店。最初こそ緊張で味もわからなかったが、これがまあ何食べても美味い系のお店でして
石黒教授がふだんからよく行ってるそうだ。外からのぞいてみると……いるいるいるいる! うわー、あの顔だ! アンドロイドのあの顔だ!
▲くわ……アンドロイドそっくりのあの顔がある
席に着くなり、さっそくインタビューを始めてみることに。
――この店はよく来られるんですか?
石黒「5、6回めかな。イタリアンが好きなんですよ。でもぼくの行く店は大体つぶれるんです。だいたいぼくが行くところって人っけが少なくて料理はうまいけど経営者が気難しいとか、そういうところと妙に気が合うので。行ってるうちにだんだん客がいなくなり、やっぱりつぶれたか……と」
(石黒教授、やっぱり眉間にしわ寄ってるなあ…)内心そんなことを思っていた。あの怖そうな感じで「ぼくが行く店はつぶれる」である。死神の宣告ではないのか。
石黒「このお店の子たちはがんばってるしつぶれるとは思わないけど。大々的に宣伝してください。これで売上があがらんかったらえらいことですよ」
そりゃえらいことですよ! のっけからのハイプレスに、出しどころを編集の宗像さんと必死にさがしつづける……。
▲「ぼくの行く店はだいたいつぶれるんですよ……」のっけからパンチ効いてます
――今回インタビューお受けいただきましてありがとうございます。
石黒「メールでもらった『食とロボット』ってテーマが気になってね。なんやったっけ? 質問、先にいっぺん全部言うて」
えっ、あの全部先に言うんですか?……こんなインタビューはじめてである。ぼくと編集の宗像さんは用意してた質問をカツアゲにあった中学生のような震え声でしぼり出し、石黒教授はメモをとるとしばらくだまっていた。
1秒が1分にも1時間にも感じられる世界。これが精神と時の部屋か……一体、どれくらいの時間が経ったろうか(※たぶん実際には3分くらい)。石黒教授がおもむろに口をひらく。
石黒「食に関するロボットってね、ごはんを作るロボット、ごはんを食べて味がわかるロボット、食べられるロボットって3通りあるんですよ」
そして質問の回答というよりそれはもう完ぺきな講義がはじまった!
▲質問を聞きながらメモをとって考える教授。普段こんな風にインタビュー受けるのか。スゴイなぁ
躍り食いできる食用ロボットとは、なんなのか
石黒「じゃあ、まず食べられるロボット。食用ロボット。食べられるロボットっていうのはできることはできるんです。金属でロボット作らないといけないというルールはないので。だから食べられるものを部品にして動くロボットを作る。もちろん動力源も食べられる。たとえば草食べて成長するようなロボットができるかもしれない。現にハエを食べて酵素で分解してエネルギーで動くロボットがイギリスで開発されているんです」
――どういうときにつかうんですか?
石黒「だって食べてみたいと思わない? ロボット。食べてみたいでしょ。お菓子やったら最高やん。ロボットの踊り食いみたいなんできる」
踊り食い。発想のパンチが効きすぎている……。この日は石黒先生の仲間であり共同でロボット製作をしているヴイストン(vstone)株式会社の方々も同席されていたのだが、全員ポカーンである。
石黒「そうだ、これから宿題を出します。これからvstoneは食用ロボットを作る。食べられて動き回れればいいんだよ。たとえばポッキーで車軸を作って、なにかでタイヤを作って、とにかく動き回る。で、飽きたらぐるぐる動きまわってるやつをパクっと食べる。それぜったい楽しいよ。こどももめちゃめちゃ好きになる。
でもね、ロボットが食べれるようになったらすごく生物的な感じがするはずだよ。だってロボットの目的って生物じゃん。生き物っぽくしようってやってたわけでしょ。生き物のひとつの定義は食えるってことだからね。だから食べれるロボット作ったら急に生モノっぽくなる。
でもおもしろいって思わへん? いや、食べれるロボット絶対おもしろいよ……これ記事になるかな?」
――は、はい! でもロボット作るのに「たのしい」とか「おもしろい」とかが動機になってるんですね。
石黒「……なんのために生きてるんですか? あなたはなんのために生きてんの?(※めっちゃ怖い!) ぼくは楽しみ以外で生きてないつもりなんです。こういう取材もおもしろいと思ってやってるわけでしょ。ぼくらがロボットを作る理由は人っておもしろいなあと思って、人らしいもの生き物らしいもの作りたいなあって思ってやってる。
食(しょく)ってすごく人間らしいじゃないですか、食にからむロボットってすごく生々しくっておもしろいですよ。ロボット食えたらめちゃめちゃおもろいよ。どうせなら、人間そっくりのアンドロイド作って食っちゃえばいいんですよ。ちょっと訊いてみよ。うちのジェミノイドF(石黒教授が手がけたロボットのひとつ)いるやんか、あれ食えたらどう思う?」
vstone社員一同「……(沈黙)」
石黒「君ら発想力たりんな。全部食べんねん、まあ骨は残してもいいけど。よしじゃあ次。パスタ来た? これめっちゃうまいよ。これだけちょっと写真だけ撮ってな」
怒涛です、怒涛。押し寄せる発想の波。これはおもしろい、これもおもしろい、毎日そんな生活なのだろう。ぼくらはおもしろの波の中、息継ぎするようにパスタの写真を撮った。ちっこいカメラで。
▲自家製アンチョビとキャベツのパスタ(1,000円)。もうしこたま美味いんですがカメラは小さいです
ロボットに味をわからせていいのか?
石黒「次にごはんを食べるロボット。味がわかるロボットは九州大学の先生が作っててあれは人間よりはるかに味がわかる。でもね、ごはんで正確に味がわかっていいかという話もある。たとえばワインの味が正確にわかるロボットができたらワイン自慢はいなくなってしまう。必要なくなるからね。
食(しょく)っておもしろいんですよ、主観的なんです。たとえば女性はとくにそうなんですけど、私はこう思うってことを伝えたいわけでしょ。『客観的な事実はどうでもいいの、私はこう思う、それに共感してください』と伝えるのにコミュニケーションのなかで食(しょく)が一番やりやすい。食以外のものはもっと客観性が強いんですね。知識があるものが勝っちゃうわけ。食はそのあたりがあいまいで『私はこれがおいしい、私はこのワインが好きだ』って主観でものを語っていい分野なんです。だからそこにデータを持ち込んで科学的に正確な評価を与えてしまうというのは食の楽しみの本質を見失うことになる」
ここから講義っぽさはブーストしていきますが、もうめっちゃめちゃにおもしろいんです。
▲前菜盛り合わせ。貝類とか旨味がめちゃめちゃ強い食材を上品に出してくる。たまらん!
石黒「分かりますか? 主観と客観の間が食なんです。客観的な意見は社会的に認められる力が強いわけだけれど、一見客観的な意見を言ってるようでじつは主観でしか意見をいってないのが食なんです。たとえば自称ワイン通なんて容易くごまかせる。だから食の文化って長くつづくんですよ。完全に客観的な世界なら科学者に勝てるやつはいないわけだからね。つまり、主観と客観が入り混じってるのが食。だからこそ、ある種のコミュニケーションであり社会的な行為にもなり得る。
それって話をすることと同じ。主観と客観を入り乱れさせることを対話っていうんです。完全に主観だけの対話は対話じゃない。だって一方通行になるから。なにも共有するものがなくなってしまうでしょ。その点、食べるっていう行為だけはそれがものすごくやりやすい。同じものを食って、美味いとか嫌いとかこういう野菜で作ってて、ってすごくあいまいで主観的な知識だけどある程度共有できる客観的な事実も入ってるわけ。だから食とコミュニケーションというのは非常に近い関係にある」
うほーっ! 食べながらだと話がはずむといいますが、こういうことなんですね! あいまいなこと言っても全部認められるという……でも話がはずむどころではないんです、ここから人間の根本のとこに話がおよびます。性です、性!
▲性の前に肉の写真をどうぞ。黒毛和牛厚切りステーキトリュフと赤ワインのソース(2,800円)
動物と人間の間にあるもの
石黒「食欲と性欲って非常に近いんですよ。でも食のほうがソーシャル。性っていうのは一対一で個人的、パーソナルなもの。でもソーシャルな場でしかパートナーは見つけられない。ソーシャルの場でコミュニケーションしようと思ったら、食というのは非常に有効な手段になる。もちろん対話だけで見つけられる人もいるよ。でも言葉っていうのは人間だけに許されたロジカル世界であって、本能的/動物的ではないんですね。だから言葉、食、性、それぞれの世界に合ったコミュニケーションが必要とされる。
そもそもコミュニケーションって人と関わりたいから生まれるわけでしょ。人と関わりたいとか人のこと知りたいって思わないようなやつは、コミュニケーション取る必要ないでしょう。その根本にあるのは性欲ですよ。でも単純に性欲だけだと動物になっちゃう。だから食(しょく)っていうのは動物的な行為と人間だけがかちえた言葉の世界、人間の社会性をつなぐのにすごく便利なんですよ」
子孫をのこすという動物の欲求をかなえるためには、言葉という一番動物っぽくないものでコミュニケーションしてパートナーを探さないといけない。そんなときの食。動物的であり人間的。口説くためにはメシ誘えというのはこういうことなのか……すいません、ちょっと知識欲の蒸気機関鳴らしていいですか。ポーッッ!!!
▲図にするとこういうことではないか
石黒「フランスでもどこでもコミュニケーションとしての食を大切にする。西洋的な文化は人間の社会に素直なんですよ。日本はちょっと違うかもしれない。儒教の文化でかなり制約をかけてるんですよね。でもぼくその素直じゃない文化、好きなんですよ。ぼく武士道大好きだし。
(武士は食わねど高楊枝とか?という相槌に)もちろんです。でもマジョリティは西洋の文化。結果、われわれも今そうやってるでしょ。武士道からはかなり遠いところまで来てしまっている」
――「昔はメシ食うときはしゃべるなってじいさんばあさんに言われた」みたいな話もあるようですしね。
石黒「日本はね、それでいいんです。島国でみんな目を合わせただけで会話ができるくらいに特殊なプロトコルが発達してるからね。ヨーロッパの国っていうのはロジカルな世界で、言語の世界で対話をしないとうまくいかない。だってぜんぜん言葉のちがう連中がたくさんいて、常にいろんなものを探り合ったり取り合いをしてるからね。わかりました? わかりましたって授業になってるやん。インタビューやのに」
――おおお、濃いですね……ふだんこういう授業をやってらっしゃるんですか?
石黒「ないよ、はじめてやるよ。(周囲から「先生、授業出ないで研究ばっかりですよね」の声が)そんなことないよ……」
なんという贅沢でしょう、ごちそうさまです! 自分で書いた記事ですけどブックマークします!
▲ところでこの取材ですが、取材者も被取材者もだんだんお酒が入っていきます
本当のロボットレストランが出来る日は遠くない
石黒「最後に、ごはんを作るロボット。ロボットレストランっていう話。これはねぇ、書いてもいいけど、回転寿司があるじゃん。ぼく次の回転寿司は多分こうなるだろうなというのがあって、回転寿司って機械で作ってるところが多いでしょ。あれなんで表に出さないの?(※「すいません!」と謝りそうになる)
機械が握っててネタを置いてるだけなんやけど、手袋した生身の人間がネタを置くのとロボットが自動的にネタ置くのとどっちが気分いいですか? ロボットでしょう。ロボットが全部作ったらまったく気持ち悪さがないんですよ。
極論すれば食は二通りになるんです。こういう店でマスターを信用できる、人間関係がちゃんとできるところはちゃんと手作りの料理がたべたいというお店。かたや、そうじゃない、知らない食堂でどんな人が作ってるのかわからないようなところでは気持ち悪くて食いたくない。だったらロボットの方がいいやっていうお店。完全に両極化します。回転寿司は表に機械を出してロボットが作ってますって見せるのが主流になりますよ。大衆向けの居酒屋チェーンなんかもそう。そっちのほうが絶対に気持ちいいんです。
でも、そういう店でパーティーをしたいかというと、あんまりしたくはない。とにかく食うことに専念するだけならいいけどね。ここみたいな店はシェフとかふくめてコミュニケーションの輪に入ってくるわけ。今これコミュニケーションの場ですからね。ただ単にゴハン食べるだけやったら吉野家やマクドナルドでいいんだから」
▲アランチーニ(ライスコロッケ、1個380円)はイタリアンなのかとシェフに詰め寄った石黒先生。「イタリアンです!」とシェフ
――日本人がロボット好きだからですかね?
石黒「いや、世界中そう。上海の空港で上海蟹の自動販売機っていうのがあってめちゃくちゃ売れるの。店で売ってる上海蟹は価格も衛生管理も信用できない。でも空港の自動販売機は冷凍の設備があって汚くないので、そっちのほうがよっぽど信用できる。ロボットの方が信用度高いわけです。
今、高島屋でミナミちゃんっていうアンドロイドが服売ってるんだけど、こないだ結果見たら、男性服売り場で売り子24人中の6位だった。1位が80万円を1週間で売って、ミナミちゃん60万。ただしミナミちゃんが売った服の数はわずか8種類くらいなのに対し、他の人は100種類くらい。ものすごいハンディ。つまり商品のバリエーションが少ないミナミちゃんの方が、はるかに販売能力が高いということになる。なんで売れるかというと、ああいうところで店員に声かけるの躊躇するでしょ。買うか買わんかわからんから。アンドロイドだと躊躇せずに声かけられる。それからアンドロイドがべた褒めしてきたらみんな信用する。"ロボットウソつかない"やね。
同じことが食にもいえる。いくら寿司屋のおやじがツバついてないっていったって信用できないでしょ。機械はツバついてないって思うじゃん。だから安い店は全部ロボット化していく。しかも裏で動いてた中途半端な機械は全部表に出てくる。最近、工場見学が流行ってるでしょ。あれをみんな見たい、楽しみたいと思ってる。だから回転寿司でロボットが作ってるところを全部表に出したようなレストランってめっちゃ流行るんじゃないかなと。少なくともそういうものは絶対に出てくる」
ところで東京・新宿にある「ロボットレストラン」では、仕出し屋が作ったであろう弁当がでてくる。ここで話されている文字通りの「ロボットレストラン」とまるで逆である。
▲スカンピとマッシュルームのアヒージョ(パン付、980円)に「(イタリアンのお店なのに)スペインやろ!」とシェフに詰め寄る先生、堪忍しておくんなはれ……
パートナーとしてふさわしすぎるアンドロイド
――ごはんを作るロボットということでいえば、家でもロボットがごはん作るようになりますか? おふくろの味とかってどうなるんですかね?
石黒「うーん、そういう演出はあるかもしれんけど、フリをすることもありうる。だってさ、奥さんだってごはん作ってるようでいて、電子レンジに食材放り込んでるときもあるでしょう。ごはんを作るフリくらいはしたらいいかもしれないね。でも、もしもロボットがごはん作ったらこの前の大林素子さんになるよ。
『マツコとマツコ』(日本テレビ)で大林素子さんとマツコ・デラックスさんのアンドロイド(通称マツコロイド。遠隔操作で人間が受け答えを行う)が二泊三日一緒に過ごすっていう番組の企画があってね。大林さんは独身なんよね。とにかく寂しくてしょうがないからずっとマツコロイドとしゃべってて、ごはん食べるときもずーっとマツコロイドと話をしてるわけ。人間より気楽だからなんよ。ただ存在感だけはあるから、それで満足しちゃうっていう。マツコさんと見てて『これって少子高齢化に拍車かけちゃうんじゃないの』って心配して。でも、そのオンエア見たらほんとにそう思うよ」
――でも独居老人とかにはいいですよね?
石黒「そうそう、それには年齢制限もうけようと。40代の独身にアンドロイドあてたらそこで終わっちゃうよね、と。恋愛じゃないんですよ。さみしいんですよ。
今は遠隔操作で応答してるんやけど、ボイスチェンジャーで声かえられるし誰がやってもいいわけ。だからヒマな人がアンドロイドを遠隔操作すれば、いつでもだれとでもごはんが食べられる。だってネットにつながってるから。だれとつながってもいいんだもん。世界中にヒマな人はいるわけだから。今すぐにでも可能な技術ですよ。あとはコストの問題だけだから」
――ロボットはペット的な感覚ではないんですか?
石黒「ペットじゃない。完全にパートナー。ロボットというよりアンドロイドね。ちっちゃくてかわいいロボットを作るっていうならルンバみたいな話でしょ。それじゃあ寂しさを紛らせられない。でもアンドロイドはね、強烈すぎる。話相手としては十分だから、もうそれでよくなっちゃう。
VTRで見てたら大林さんが若手芸人が帰ったあとに一人で洗い物しながらマツコロイドに『みんな帰っちゃったね……』って。もうね、私たち二人で生きていくしかないよねっていう感じが……」
▲「グラッパはねえ、涙の味がするんや」。それめっちゃかっこいいじゃないですか先生、ぼくもください!
ギャップを感じさせないため、自分をアンドロイドに似せる
――ところで先生、食にこだわりないと言ってられましたが、毎日同じごはんで大丈夫なんですか?
石黒「全然大丈夫よ、ぼく毎日ハンバーガーとか牛丼でいい。ビタミン剤さえ飲んどきゃいいんだから。だって食うのって飽きる? 飽きないよ。ぼく誕生日にカップヌードルを50個もらってから毎日カップヌードル、全然オッケーだった。今こうやってみんなでごはん食べるのもコミュニケーション以外の目的はないもん」
――えーっ、おいしいもの食べたいと思わないんですか?
石黒「マクドナルドだって美味しいよ。マックというのは計算しつくされた味でどこで食べても70点から80点くらい。めちゃめちゃおいしいもの食べたいという気はねえ…まあ世界中でいろんなもの食わされるんで。でも一番うまいのは日本ですよ。日本ほど食文化の豊かなところは絶対にないです。
知り合いの味覚の専門家は『日本人は西洋人にない旨味という味覚を持ってる』ってはっきりいいます。味の素、グルタミン酸ナトリウムがそうやね。今アフリカでも流行ってるみたい。
だってラーメンの味って、いうたらほとんどグルタミン酸ナトリウムの味やん。ぼくラーメンチェーンのラーメンって純粋に味の素の味がして、さわやかやとすら思うよ。外国人来たときに『おれの一番好きなレストラン連れて行く』って言って、たこ焼きとそういうラーメン食わせて」
――その人たちは本当にうまいといってるんですか?
石黒「……表面的には言ってるけど。おれは日本で一番これがうまいと思う(笑)。文句は言わないし、文句言うようなやつは連れていかないよ」
――ごはんたべるだけなら吉野家でいいってさっきおっしゃってましたしね。
石黒「食事に時間があまりかけられない人間にはありがたいよ。吉野家早いし、十何秒で出てくるでしょ。でも最近行きづらいね(笑)。ぼくは吉野家食べたいのに、お店で浮きまくってるとか言われて。たまに知り合いと一緒に入ると、先生これぜったいあきませんよ、って。みんな見るしね……」
――今日も会った瞬間に「あの顔だ!」と思ったんですが、やっぱりめちゃめちゃ顔を見られたり、指さされるんですか?
石黒「もうめちゃめちゃに。今日くるときだって電車、前のやつずっと見てたよ。隣のやつは声かけてくるし、だれやねん……と思ったらうちの学生(笑)」
▲電車で隣に石黒先生が座っていたら、誰しも5度見くらいはするのでは……
――アンドロイドですか? 本物ですか? ってよくきかれると本にありましたが。
石黒「冗談でよくきかれるね。もうそればっかりやね。本物ですかって。きかれてももう笑うしかないけど(苦笑)」
――ちなみに先生のプロフィール写真は本物ですか。
石黒「名刺あげたでしょ。どっちがどっちやと思う? (本物?)ちがうな、ハズレ。最近また若返ったんや。ちょっと腹筋してんねん。今週末に最終的に仕上げないといけないからそれまでに」
――自分のアンドロイドに似せるためにダイエットや美容整形されたんですよね? なんでそこまでするんですか?
石黒「アンドロイド一回作るでしょ。こっちだけ年とって、自分そっくりのジジイのアンドロイド作りたくないじゃないですか。みんなアンドロイド見て『似てる! 似てる!』って比べられるでしょ。それでこっちの方見て年とりましたねーって言われたらなんかもう……ボロ雑巾みたいな感じになるでしょ。
食の話はだいたい終わったんちゃう? いいやろ、グラッパ。最近は弱くなったけど、以前はボトルで飲んでたのがなつかしいわ……」
インタビューの場はvstoneの方々も交え、だんだん楽しい飲み会になっていった。途中から石黒先生はかなり飲まれている。最初こそめっちゃくちゃに怖い人なんだろうなと想像していたが、実際に話を伺ってみると、気難しい学者というより奔放なアーティストのようでもあり、実際は仲間や生徒から愛される個性の強い先生という感じだった。わかる。ぼくも大阪大学出身で、こういうアクが強くて変わった髪型の先生を見てきた。……といったようなことをつい口にした瞬間、先生の目がキラリと光った。
石黒「きみ阪大なん? 担当教官は? えっ小泉先生か。 マジで小泉先生のとこなん? お前それで記事に中途半端なこと書いたら、小泉先生に言うよ(半笑いで)」
最後の最後にこんな展開が待ってたとは。
▲「なんやお前、小泉先生のとこなんか!」バレてしもた
石黒「確かにグルメサイトの取材受けるの珍しいよ。直感が当たったんやね。ぼくそういうとこ嗅覚するどい。小泉研とはな。電話しとくよ。『先生のとこの学生がへんな記事書きましたよ』って。君、あかんの書いたら殺されるよ。修士? 学部かー。いや、へんな記事書いたら学位取り消してもらおうかな。まぁ、うまく書いといてね。たのむで(笑)」
お父さんお母さん、元気ですか。お父さんお母さんに大学まで行かせてもらいましたが、その学問をむだにするようにライターなんてことをやっています。しかしその学位も今取り消されようとしています。せめてこの記事だけはそのまま書こうと思います。どうかお体を大切に。ちなみに、最後の晩餐は美味しいものをこれでもかというほどいただきました。
▲ああ、どれもよかったなあ……
お店情報
食堂Tavolino
住所:大阪府大阪市福島区福島7-13-7
電話:06-6454-7717
営業時間:火~金18:00~24:00、土・日・祝日11:30~14:00/18:00~24:00
定休日:月曜(祝祭日の場合は翌日に振替)
書いた人:大北栄人
「デイリーポータルZ」などで書いてるライターです。娘にダンボール製のリカちゃんを作ったり、いちご大福のピリピリ原因やコーラが何味なのかを調べたりして話題に。好きなメシはナスの揚げびたし。
- Twitter: @ohkitashigeto