ようこそ異世界帰還者がいる教室へ   作:菅野ゆーじ

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木曜中に書けなかった……。

区切りのいい所で終わらせたかったから長くなるし。

後今週末帰省で忙しいので投稿遅れるかもしれません。すみません。


論破と勉強会

堀北を踏んで罵倒を浴びせた翌日。俺は清々しい気持ちで自分の席に座っていた。

 

 

「(いや〜最高だったな。これで入学式早々に言われた罵倒の仕返しはできただろう。これからもっと追い詰めてやる。しかしまだ堀北は来てないな……もしかして、本当に退学したのか?)」

 

 

そんな考えが一瞬頭によぎったが、それは杞憂に終わる。しばらくして教室の扉が開かれ、目的の人物である堀北が姿を表した。

 

堀北はいつもより覇気のない感じで、無言のまま席に座る。それを見たクラスの連中はまるでいないもの扱いするようにしたり、クスクスと笑い出したり、小声で悪口を言い始めていた。そういえばクラスの一部で堀北へのイジメをしないかと朝話題になっていたな。平田や櫛田が止めていたがどうやら実行するらしい。

 

……俺は席から立つと席に座った堀北に近づいた。

 

 

「よう堀北、何で普通に登校してるんだ? 昨日学校辞めろって言っただろう」

 

「……」

 

 

堀北は黙って俯くばかりだ。数秒沈黙が続いたが俺は堀北の机を思い切り叩く。堀北はそれに驚いたのか肩をビクッとさせた。

 

 

「黙ってねえでなんか言えよ堀北。不良品のお前はここにいても意味がないから自主退学しろって言ってるんだよ。それがクラスの為にもなるんだからなぁ」

 

「村上君、やめるんだ。堀北さんはクラスの仲間なんだ。そんなことを言ってはいけない」

 

 

俺が一方的な弱い者イジメをしていると、クラスのリーダー平田が止めに入った。何だか焦りと恐怖の混じった不思議な顔をしている。そこに疑問を抱きながらも俺は止めようとする平田の手を払い除けた。

 

 

「平田、お前には関係ないだろ。それに他の奴らだってそう思ってるぞ? 何せ昨日の勉強会は散々だったみたいだからな」

 

「それは……だとしても、こんなイジメみたいな事をしてはダメなんだ!」

 

「平田君、別に止めなくてもいいと思うよ。堀北さんて昨日須藤君達を馬鹿にするだけで何もできなかったんだからさ」

 

「佐藤さんっ! 何を言って……」

 

「佐藤ちゃんに賛成〜。もうぶっちゃけるけど堀北さんてマジ最悪だよね〜。自分もDクラスなのに他人を馬鹿にしちゃってさ」

 

「そうだそうだ。優等生ぶるんじゃねえっつうの、アハハハッ!!」

 

 

その言葉がきっかけとなりクラス全体は堀北へのイジメモードになったのか、段々と行為がヒートアップしていく。

 

 

 

 

ーードカンッ!

 

 

 

 

俺は四月の授業中のように近くにあった机を殴りクラスメイトを黙らせた。目的通りクラス全体は先程の賑わいが嘘かのように沈黙する。そして俺を見る目は恐怖の感情が入り混じったものだった。

 

 

「黙れよ、不良品共。俺が言ったタイミングから便乗しやがって。耳障りなんだよ」

 

 

俺の言葉に、クラスメイトは反応すらしない。いや、正確にはできないでいた。そんな彼らを見渡すように眺めるとため息を吐いた。

 

 

「……はあ。お前らの頭って、本当にお花畑だなぁ。だから先生にも愚か者って言われるんだよ。お前ら、今の状況が分かってんのか?」

 

「は、はあ? どういう事よ……?」

 

 

近くにいたクラスの女子が困惑しながらも聞いてくる。どうやら本当に分かってないらしい。呆れる心を抑えながら、俺はそれに応えてやった。

 

 

「だってそうだろ。須藤、池、山内は結局勉強をせず一夜漬けで乗り切ろうとしている。これじゃあクラスポイントは絶対に得られない。そしてそんな問題が解決してないのに堀北を無視したり陰口を言うって……そんな事してる暇ないだろ! これが愚か者以外にあるのか? なあっ!!」

 

『………ッ!』

 

 

クラスメイト達は俺の言葉に何も言い返せなかった。当然だ、全くもって正論なのだから。俺は兎も角、こいつらはポイントが欲しいだろうし。

 

だがここで幸村が反論する。

 

 

「べ、勉強しない奴らがいるなら放っておけばいいだけだ。クラスポイントが0のうちは被害にならない」

 

「だからこの機会に成績が悪い奴を退学させるのか? 悪いがおすすめしないぞ。退学になって引かれるクラスポイントはその都度変わるらしいが、引くポイントが不足している場合、将来加算されたタイミングで行われるらしい。つまり今回の中間テストのポイントは勿論、将来貰える機会にも影響が出る」

 

「な、何だと……!?」

 

 

この言葉に幸村をはじめとしたクラス全体が驚愕し、黙り続けていた堀北までもが反応してざわめき出す。一部の生徒は考えてはいたんだろうが、確証がなかった為多少楽観的だったようだ。すると綾小路が会話に入ってくる。

 

 

「それはどうやって知ったんだ?」

 

「心優しい上級生から教えてもらったんだよ。感謝するんだな」

 

「待って……この学校のシステムなら先輩が無償で教える訳がないでしょう? 脅したんじゃないでしょうね」

 

 

堀北がそんな事をいう。昨日の件でやりかねないと思ったからだろう。

 

 

「そんな野蛮な事はしねえよ。俺はお前と違って人望があるからな」

 

「……嘘よ。あなたのような人間に人望なんてあるわけないじゃない」

 

「……それは僻みか?」

 

「ッ!? 黙りなさい!!」

 

 

俺の言葉でようやく元気(怒り)になり、吠える堀北だったが、それを無視して俺は話を続けた。

 

 

「兎に角だ。お前らが今すべき事は堀北を馬鹿にする事じゃなくて、そこの三馬鹿を会心させ、こいつらにあった勉強法をさせる事だ。これだけ言えばお前らでも分かるだろう。てか、クラスを見放してる俺がこんな事をお前らに伝えてるって……ゴミすぎだろ」

 

「いい加減にするんだ! これ以上クラスを馬鹿にするなら僕が許さない!!」

 

「ひ、平田君……!?」

 

 

平田は今までに見せた事のない迫力と勢いで俺に掴みかかってきた。

 

 

「おお、どうした平田? お前は暴力は嫌いじゃなかったのか?」

 

「君を止めるにはこれしかないだろう。クラスの為なら僕はなんだってする…!!」

 

「……その使命感がなんなのか知らんが、俺に楯突くっていうなら容赦はしないーー」

 

「二人とも落ち着いて!!」

 

 

俺が平田に制裁を与えようとした刹那、櫛田の叫びによって攻撃を中断する。

 

 

「ねえ村上君。もしかして須藤君達が試験を突破できる方法を知ってるんじゃないかな? 私達でも考えれば分かるだろうって事は、少なくとも村上君の中に方法はあるんだよね」

 

「……まあ、できなくはないな。だが何度も言ってる通りお前らに労力を割く理由はないぞ」

 

「お願い村上君。図々しい事は分かってる。みんなが村上君に酷いことをしたのも、真面目な高校生活を送ってなかったのも事実だよね。そしてそれは私も……強く止める事をしないで見てただけだった。でも、それでも私はっ、誰かが退学する姿なんて見たくない! だから……須藤君達の退学阻止を、手伝ってください」

 

「く、櫛田ちゃん……」

 

 

櫛田は深々と頭を下げそう頼み込んできた。俺は沈黙して櫛田を見続ける。そんな状況に、クラス全体は緊張に包まれた。

 

 

 

 

 

 

「……素晴らしい! 感動したよ櫛田!」

 

 

「へ?」

 

 

全くの予想外の返しに櫛田は何を言われたか分からず困惑する。しかし俺はそんな櫛田の肩を力強く掴んだ。

 

 

「こんな不良品達の為にそこまで出来るなんて、何て人格者なんだ! その溢れる慈愛…訂正しよう、お前は不良品なんかじゃない! まさしく、このクラスの救世主だ!」

 

「え、ええっ!?」

 

「いいだろう。櫛田の善良な思いやりに敬意を払って、俺はお前達に協力しようじゃないか」

 

「ほ、本当かい村上君!」

 

「ああ平田。お前のいうクラスの為、俺は尽力しようじゃないか。という訳で須藤、池、山内。お前達は今日から俺が指導してやる。当然参加するよな?」

 

 

俺は3人に確認をとる。

 

 

「……仕方ねえ。櫛田がここまでしてくれたんだ。俺だって本気でやるしかないだろ……」

 

「だ、だな! 俺だってやるぜ!」

 

「本気を出した俺の本領を見せてやろうじゃねえか!!」

 

 

それぞれが櫛田の想いを受け取り、やる気を見せる。これでモチベーションは向上しただろう。こうして三馬鹿の勉強指導が決定したのだった。

 

 

 

 

 

ま、テスト範囲が変わったことも過去問の事も今は言わないがな。

 

 

◇◇◇

 

 

「問題、帰納法を提唱した人物は誰だ?」

 

「あ、あれだ。すげえ腹の減る名前だったやつだ!」

 

「フランシスコ・ザビエルみてえなやつで……」

 

「思い出した。フランシス・ベーコンだ!」

 

「正解だ、これである程度は詰め込んだな。残り一週間この調子なら問題ないだろう」

 

 

数日経った放課後、俺は須藤、池、山内に勉強を教えてていた。範囲はスキルの恩恵で既に覚えているので中学一年間通っていない俺でも十分に教えられる。そのおかげで3人は少しずつ成長していた。因みに櫛田と堀北も一緒だ。前者は3人の要望、後者は助手兼小間使い兼嫌がらせである。

 

問題を解いた池は感心した声を上げる。

 

 

「しかし村上ってすげえな。頭いいだけじゃなくて教えんのもうまいのかよ」

 

「別に難しい事じゃない。お前らにあった勉強法を分析して効率よくやってるだけ。少し考えれば誰にでもできる」

 

「か〜成績優秀者はいう事が違うな。まあ俺らとしては、堀北がいるのは納得いかないけど……」

 

「堀北も勉強はできるからな。使えるものは使わないとお前らを助けられる確率が薄くなる。俺に頭を下げた櫛田の為だ、文句言うな」

 

「チッ、仕方ねえ。櫛田に免じて従ってやるよ。おい堀北。ここ教えろ」

 

「……ええ、ここはーー」

 

 

須藤の質問に堀北は暗い雰囲気の中教えている。内心は悔しがっていることだろう。自分がやろうとした勉強会が俺によって成立させられてるんだからな。

 

 

「おい、ちょっと静かにしろよ。ギャーギャーうるせえな」

 

 

そんな事を考えていた矢先、隣で勉強していた生徒が顔を上げそんなことを言ってきた。

 

 

「悪い悪い。ちょっと騒ぎすぎた。でもフランシス・ベーコンは覚えておいて損はないだろう?」

 

「あ? ……お前ら、ひょっとしてDクラスの生徒か?」

 

「だからなんだよ。文句あんのか?」

 

「いやいや、別に文句はねえよ。俺はCクラスの山脇だ。ただ何つーか、お前ら底辺と一緒じゃなくて良かったと思っただけさ。ポイント0のDクラス?」

 

「上等だ、かかって来ーー」

 

「来んな馬鹿が」

 

「ガホッ!!」

 

 

俺はかかっていきそうだった須藤の頭を掴み机に押さえつける。こいつは一丁前に威勢は良いが俺と違って後始末がつけられないため困ったものである。

 

 

「ま、事実はそうだな。こいつにもちゃんと理解するよう言い聞かせとく」

 

「は、はは……分かればいいんだよ。それにしても大変そうだな。お前らから何人退学者が出るか楽しみだぜ」

 

「他人の事ばかり気にしてたら、お前がその立場になるかもしれないぞ?」

 

「冗談よせよ。俺たちは赤点を取らないために勉強してるんじゃねえ。より良い点をとるために勉強してるんだ。というかお前ら、範囲外の所を勉強して何になるんだ? 不良品共」

 

「……あ? それは俺にも言っていることか? 俺を馬鹿にしているのか?」

 

「や、やめなさい村上くん! 彼らは他クラス、無茶な事はーー」

 

「はい、ストップストップ! この図書室を利用してるものとして、騒ぎは見過ごせないよ」

 

 

俺たちが言い争いをしていると、一人の女子生徒が間に入り、仲裁をはかってきた。その子は入学当初俺がマークしていた可愛い生徒、一之瀬帆波だったのだ。

 

 

「もし暴力沙汰になるんだったら、外でやってもらえる? それにCクラスも挑発が過ぎるよ。これ以上続けるなら学校側に報告するよ?」

 

「わ、悪い一之瀬。やりすぎた……おい行こうぜ」

 

「だ、だな」

 

 

一之瀬の忠告に山脇達は辿々しくしながら図書室を去るのであった。それを確認した一之瀬は俺の方に顔を向ける。

 

 

「君も無闇にこんな事はしない方がいいよ。クラス同士でのいざこざは大変なんだからね?」

 

「別にやる気はなかったさ。流石に俺もこんな大勢の場で他クラスと喧嘩はしない」

 

「そう? ならちゃんと気をつけてねっ! じゃあ私は行くから、大変だけど頑張ろう!」

 

 

そう言って一之瀬もこの場を去るのだった。改めて彼女を間近で見たがやはり可愛い容姿をしている。今回がファーストコンタクトなのが失敗だったがまた会える機会まで楽しみにしておこう。

 

そんなことを考えていると池が何やら顔を青ざめていた。

 

 

「さっきさ……範囲が変わってるって言ってなかったか?」

 

「そうだね…そんな事、先生言ってなかったと思うよ」

 

 

池の問いに櫛田がそんなことを言い始める。やっと気づいたか。まあ俺も過去問を見て裏取りしてから気づいたんだが。

 

 

「堀北、今から走って確認して来い。それくらいはお前でもできるだろ?」

 

「……分かってるわ」

 

 

指示を出された堀北は素早く図書室を去っていき、確認に向かう。しばらくして戻ってきた堀北は、暗い表情をしていた。

 

 

「……彼女が言ってた事は本当よ。数日前に範囲が変わったらしいわ。今私達が勉強していた所は全く出ない」

 

「そ、そんな…折角勉強したのに……」

 

「どうするんだよ村上! ここままじゃ退学になっちまうよ!」

 

 

山内の悲痛な叫びを何となく聴くと、俺は教科書をパラパラとめくった。

 

 

「じゃあテスト範囲の最初から進めていくか。お前らもページめくってーー」

 

「いやいやいやっ! 範囲が全部変わったんだぞ!! 間に合う訳ないだろう!!」

 

「問題ない。これからの勉強で十分挽回できる」

 

「はあ? 大丈夫なのかよそれ……」

 

「俺を信じないって事は、櫛田を信じないのと同じだ。お前らは頭まで下げた櫛田を最後まで信じないのか?」

 

「そ、それは……」

 

「分かったら黙って教科書を開け。問題ない。この試験、俺のいう通りにすれば突破できる」

 

 

俺の言葉に須藤達は不安げな表情を浮かべながらも指示通り勉強を再開し始める。櫛田や堀北はそれに合わせる他なかった。

 

 

「(そんな顔しなくたっていいのに。だって……この試験は、過去問さえ覚えればいいイージー試験だしな)」

 

 

そんなことを内心で思いながら、俺たちの勉強会は続くのであった。




3人の行く末、決めました……。

次回、その未来の一端を見ることになる……

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