事件の発覚から書類送検が行われるまでの約7年間、参考人として多くの人に事情聴取をしていたそうですが、警察から事情聴取をされたことで、周囲から犯人扱いされたり、それに耐えられずに大学から中退する人もいたそうです。
そこで今回は、7年間犯人扱いをされた参考人は国家賠償が出来るのか解説していきたいと思います。
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■国家賠償のハードルは高い
捜査機関は、事件に関連すると思われる人物に、参考人として任意で事情聴取を行うことがあります。これは令状なしに行う任意の捜査であり、協力をするかどうかは参考人の自由です。被疑者として取り調べをするわけではないですから、黙秘権の告知もありません。
たしかに、今回のように、参考人に対する任意の事情聴取が原因となって、参考人に何らかの損害が生じることは現実には起こり得ることですが、あくまで任意の捜査であって、令状が必要な強制捜査ではない以上、協力を拒めるのですから、令状もなしに強制力を行使したような場合でない限り、警察の捜査を違法と認定するのは難しいと思います。
国家賠償法では、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、これを賠償しなければならないと規定していますが、ここでいう過失の立証は実際はなかなか困難です。
参考人が立証すべきことは、警察官が通常尽くすべき注意義務に違反して、参考人に違法な捜査を行った結果、参考人に損害が生じたことを、自ら証明しなければなりません。
例えば、警察が不特定多数の人がいる面前で、参考人をあたかも犯人として扱った結果、犯人であるとの噂が広まったような場合であれば、過失による違法な捜査があったといえる可能性もありますが、普通は、むしろあくまで参考人事情聴取であることを強調しますから、警察官が、明白に参考人をあたかも犯人として扱うこと自体考え難いことです。
参考人聴取は、基本的には任意捜査ですから、警察が捜査に必要と判断し、参考人に協力を得られる限りは、回数に限度があるわけではありません。
また、たとえ、事情聴取の場所が大学であったとしても、参考人として事情聴取する以上、被疑者扱いではないことは明白です。
参考人聴取である以上、「捜査機関に疑われた」というのは周辺の者による偏見であって、参考人聴取があったこと自体が警察に不当に犯人扱いされたことには残念ながら結びつきません。
参考人としての事情聴取と捜査協力にすぎないにもかかわらず、虚偽の噂が広まったとすれば、それは基本的にはそのような“虚偽の噂を流した人物が名誉棄損等の法的責任に問われる”のであって、捜査機関による任意捜査との間には因果関係も認められず、国家賠償の要件を充たさない可能性が高いでしょう。
■逮捕された場合でも無条件で国家賠償があるわけではない
逮捕勾留されただけではなく、起訴までされて無罪判決を得た場合は、国家補償法による刑事補償を受けられます。これは国家賠償ではないので、誤認逮捕についての捜査機関の過失は不要です。
他方、逮捕勾留されたものの、結局、不起訴となった場合は、たとえ誤認逮捕であっても、国家賠償法にいう故意過失がない場合には、国家賠償は受けられず、国家補償法の適用はありません。
実際には、嫌疑不十分による不起訴可能性が高い場合でも、逮捕勾留した後、不起訴処分保留釈放とする事案は多々あり、誤認逮捕による国家賠償の要件を充たすケースは極めて稀です。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
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