スチュワート「野球はビジネス、選手ならわかるはず」

大リーグで生きる・番外編(3)

 カーター・スチュワート、20歳。米フロリダ州の高校から2018年ドラフト1巡目、全体8位でアトランタ・ブレーブスに指名された。が、健康診断で過去の手首のケガを指摘され、498万ドルとされた契約金が200万ドルに減額提示され、大学進学を選んだ。その間、豪腕エージェント、スコット・ボラスが6年700万ドルでソフトバンクホークスとの契約をまとめた。契約満了時は25歳。菊池雄星といった日本選手同様、高額契約で大リーグに移籍することも可能になる。
スチュワート選手はフロリダ州の「ディズニーワールド」近くの出身

Q 出身はフロリダ州メルボルン。ディズニーワールドで有名なオーランドから南東に100キロほどの場所だ。日本行きの決断は簡単ではなかったはずだ。

「タフな決断だった。最初に日本行きの話を聞いたとき、面白いと思った。ただの雑談だったと思う。だんだん話が広がり、代理人が入ってきて現実味を帯びてきた。それから真剣に考えて、自分でも調べたよ」

「1週間ほど、生活できるかを探るために来日した。気軽な視察という感じ。僕はシーフードが苦手で(日本人はすしばかり食べていると思っていた)。食べ物は何でもあったし、米国出身の選手たちと話して、ここに来た方がいいと思った」

「両親も喜んでいる。米国の大学より距離的には離れるけど、僕が一人暮らしするという点は同じ。日本では違った文化に触れられてボーナスをもらった気分。両親もガールフレンドも遊びに来る。(2軍グラウンドへは)地下鉄と新幹線で通っている。速くて車より便利だね。逆方向に乗って大変な目にもあったけど」

Q ケガを理由に契約金を減額された時、どう思った

「たしか8~9歳の頃のケガなんだ。長年、気にしていなかった。ゴルフのスイングに影響した時期があったけど、野球ではそんなことなかったから。僕は16歳くらいまで正直、ゴルフの方がうまくて、ゴルフで大学に行くつもりだったんだ」

「ブレーブスはケガはデメリットと思ったんだろう。不愉快だけど、こういうことは起こるんだ。恨みも怒りもない。彼らが間違っていたことを証明したいし、(いろいろ検査したおかげで)自分が健康だとわかってよかったよ。こういう状況に置かれたのもいい機会だ。大学に通ってもっと学ぶことがあると悟ったしね」

「野球はビジネス。日本だろうと米国だろうとね。プレーに対し適正な価格を払おうとする。交渉がうまくいかず、落ち込んだこともあるけれど、こういうことはある。ビジネスは時に風向きが変わるものだ。野球選手なら皆、わかっているはず」

宮崎キャンプ中、オフはゴルフを楽しんでいた

Q 日本の練習に慣れたか?

「正直、慣れるのに時間がかかった。それは日米の野球の違いではなく、プロとアマの違いだと思う。仕事となると毎日4~5時間練習しつつ、ケガしないようなトレーニングも必要だ。去年の冬くらいからかな、少しずつ成長し、体が強くなってきたのも感じる」

「日本で初めてした練習は投内連係。米国はもっとオーソドックスで日本よりシンプル。ランニングも米国では『どう走るか』は自由。日本はランニングもルールがあって、チームで走る。投球練習をした日も走るのはかなりきつい。米国では投球練習した日はあまり走らなかったから。おかげで今は体も絞れているよ」

「日本のコーチ、監督ですら、よく選手とコミュニケーションをとろうとする。米国は投手コーチや打撃コーチも話しかけるけれど、自分の意見を言うだけだったり、対等な関係だから。コーチングという点では日本の方がずっといい」

Q プレーの違いは?

「日本の野球はスモールボール。バントといった小技を使うけれど、米国はホームラン、三塁打、二塁打でボンボンボンだ。投手も力で圧倒しようとする」

「僕は三振を奪うタイプだったけれど、今は塁を埋められ、単打単打で攻められたとき、いかにダブルプレーをとるか、といったことを学んでいる。日本ではすごく大事。ゴロやフライアウトを確実にとれるようにしたい。(器用なので)クイックモーションで投げるのも速くなったんだよ」

スチュワートも憧れるアストロズのバーランダー投手。サイ・ヤング賞2度、通算15年で225勝、現役屈指の豪腕だ=共同

Q ソフトバンクは明るいチームだけれど、日本人がつらそうに野球をしているように見えることはあるか?

「みんな楽しそうだよ。高校野球はちょっと違うね。米国の高校野球は基本、楽しむだけ。(今、大リーグで主流の守備シフトも)高校野球じゃしない。でも、日本もプロのレベルになるとみんな楽しんでいると思う。仕事が野球なんて最高だもの」

Q 日本で成功するためのポイントは?

「まだ20歳だ。先のことは考えすぎないようにしている。同世代で大リーグでプレーする選手も数人いるけれど、大半は大学生。正しい道を歩み続けることに集中したい。(結果を求められる)24、26歳ではないことを自覚し、自分にプレッシャーをかけすぎないようにしたい」

Q 将来はどんな投手になりたいか。

「ジャスティン・バーランダー(アストロズ)は憧れる。でも僕と投げ方がちょっと違うんだ。彼はいざというときゾーンに入るし、剛速球も投げる。と同時に見ていて面白い投手。そんな投手になりたい」

「彼みたいに年間200回投げるのはかっこいい。将来的にはね。去年の僕は140回だ。今は腕を強くすることに専念したい。(20歳には)200回は早すぎる」

Q 大谷翔平はどう思うか?

「すごいとしか言いようがない。投手に戻ったらまたいいピッチングをするだろう。僕も高校時代は打っていたし、大学で打撃練習もしたけれど、投手が合っている。これこそ僕のタレントだと思う」

(聞き手は篠山正幸、原真子)

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大リーグで生きる

新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が遅れていた大リーグが、7月23日、いよいよ開幕する。レギュラーシーズン60試合は1870年代以来の短いシーズンとなる一方、7月まで4カ月弱開幕がずれ込んだおかげで、大谷翔平が2年ぶりに開幕から二刀流に復帰する。今季大リーグでプレーする日本選手は9人、いよいよ熱い夏が始まる。(この連載は本編5回、ビジュアルデータ1回、番外編3回で構成します)

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