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 国は2021年5月24日から東京都内と大阪市で新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場の運営を始める。これに先立ち防衛省が2021年5月17日に公開したワクチン接種の予約受付サイトは、自治体コード(6桁)と接種券番号(10桁)が実在しなくても予約を受け付けるという「仕様」だった。

 防衛省は同省サイトで「予約サイトにおいて、迷惑行為はしないでください!」と呼びかけている。「悪質ないたずら等による予約」や「ワクチンを接種する意志がない」人の予約をしないよう訴え、「同様の行為が広がり、また繰り返されれば、刑法第233条の偽計業務妨害罪に抵触するおそれも生じかねません」とした。

 加藤勝信官房長官も2021年5月18日午前、「ワクチン接種の対象となっていない者が不正な手段によって予約を実施する行為は(中略)悪質な行為と考えている。悪質なケースについては法的措置を取ることも排除していない」と話した。

 なぜ予約サイトで番号の実在性などをチェックしないのか。その理由について岸信夫防衛相は2021年5月18日、Twitter上で次のように説明した。

 「全市長区町村が管理する接種券番号を含む個人情報を予め防衛省が把握し、予約番号と照合する必要があり、実施まで短期間等の観点から困難かつ、全国民の個人情報を防衛省が把握する事は適切でないと判断いたしました」――。

 緊急事態での割り切った仕様であるというわけだ。実際に会場で接種を受けるには自治体が発行した紙の接種券が必要となり、本人確認もある。不正な予約で来場しても接種は受けられない。

「予約できない」「予約が確認できない」、2つの課題

 割り切った仕様でオープンした防衛省の予約サイト。だが、仕様であるならば運営上の支障を来すと思われる点が2つある。

 1つは、接種対象者がサイトを正しく使ってもログインや予約ができないケースがある点。もう1つは、予約時に接種券番号などの入力を誤ると、大規模接種会場で接種当日にその予約を確認できない恐れがある点だ。

 1点目の接種対象者が予約サイトでログインや予約ができないケースがある点については、予約サイト開設から2日たった2021年5月19日にネット上で指摘が挙がった。指摘した1人が、複数のIT企業で技術顧問を務めるソフトウエア開発者の増田智明氏である。

防衛省の大規模接種会場向け予約サイトのログイン画面。検証した技術者らの証言によると、2021年5月19日ごろまでは接種券番号が偶然一致すると自治体コードが異なっていてもログインできない不具合が生じていた
防衛省の大規模接種会場向け予約サイトのログイン画面。検証した技術者らの証言によると、2021年5月19日ごろまでは接種券番号が偶然一致すると自治体コードが異なっていてもログインできない不具合が生じていた
画像出所:マーソ、防衛省
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 増田氏によれば、1点目の現象が起こる可能性があるのは、異なる市区町村に住む人に同じ接種券番号が配られたケースだ。実は市区町村をまたぐと接種番号が同じになる場合がある。厚生労働省は2020年12月に出した事務連絡で、接種券番号は市区町村単位で住民に対して一意に割り当てるとだけ指定しており、具体的な番号の生成方法は自治体に任せているからだ。