新型コロナウイルス感染が、世界で拡大し続けている。
日本でも京都など11都府県に緊急事態宣言が再発令された。感染の抑止は喫緊の課題だ。
こうした中、新型コロナのような感染症と、熱帯雨林などの自然破壊との関連が注目されている。人間が生物の多様性を損なったことが大流行の背景にある、との見方だ。
そうだとすると、私たちは未知の感染症に繰り返し襲われる可能性がある。新型コロナの発生原因を多角的に探り、新たな感染を防ぐ方策を考えておくことも必要になろう。
人間活動に要因があるなら、私たちの生活や行動を根本から見直さなくてはなるまい。
コロナウイルスは、コウモリのウイルスに端を発したとされる動物由来感染症の一つだ。
世界で新たに発生する感染症の7割は動物由来で、年間70万人が命を落としているという。
農地拡大などで森林伐採が進むと大型捕食動物がいなくなって生態系が単純化し、短命多産で行動範囲が広く、環境に適応しやすい小型の動物が増える。
生息密度が高まると病原体に感染している動物の比率も高まり、そこへ人間が入り込めば感染する可能性が増すという。
米スタンフォード大が行った南米アマゾンの研究では、森林破壊が10%増えるとマラリア患者が3・3%増加した。
コロナ流行を「自然からの警告」ととらえる研究者は少なくない。英国の著名な感染症学者らは昨年4月発表の論文で、新型コロナ大流行の責めを負うべきは人間だとした。
国連の科学者組織が一昨年5月に出した報告書では、世界の陸地の75%が大幅に改変され、湿地の85%が消失し、100万種の動植物が絶滅の危機にひんしているという。
熱帯林を切り開いて生産された穀物や油脂などの商品は世界各国に運ばれている。日本の消費者も無縁ではない。
科学技術の進展を背景に、経済的利益の拡大を目指して自然を征服してきた人間の価値観そのものが問われている。こうした現実に、私たちはもっと敏感になるべきではないのか。
考え方の転換が必要だ。
今年、中国で開かれる国連生物多様性条約締約国会議では、世界の陸域と海域の30%を保護区にして保全するなどの目標が議論される。生物多様性を回復軌道に向かわせるため、大胆な社会変革も求めるという。
コロナ禍で疲弊した経済を立て直すため、日本を含む世界各国は巨額の予算を投じてきた。
今は感染拡大を食い止め、困窮する人々を救済することが急がれる。ただ、感染収束後も従来型の生活を維持しようとするなら、新たな感染症へのもろさを温存することにならないか。
長期的な視点に立ち、自然と人間が持続的に共生できる世界的な合意を探る時だ。
移動や人との接触を避けるばかりが「新しい生活様式」ではあるまい。経済成長を至上としない社会にかじを切ることも、人類の新たな課題である。