入管法改正案について
1 日本の出入国在留管理制度の概略
(1)公正な出入国在留管理
〇 出入国在留管理庁においては,外国人がどのような目的で日本を訪れるのか等を確認した上で,日本への入国・在留を認めるかどうかを判断しています。
〇 また,外国人は認められた在留資格・在留期間の範囲内で活動することが可能ですが,その在留資格を変更したいときや,在留期間を超えて滞在したいときは,許可を受ける必要があります。
〇 当庁においては,在留資格・在留期間等の審査を通じて,外国人の出入国や在留の公正な管理に努めています。
〇 多くの外国人を日本社会で適正に受け入れることは非常に重要ですが,どんな外国人であっても日本に来れば直ちに日本への入国・在留が認められるわけではありません。
〇 日本で受け入れることが好ましくない外国人については,その入国・在留を認めないこととする必要があります。
〇 このように,国の裁量に基づき,その国にとって好ましくない外国人の入国・在留を認めないことは,国際法上の確立した原則であり,諸外国でも行われています。
(2)難民の認定
〇 日本は,1981年に「難民の地位に関する条約」(難民条約),1982年に「難民の地位に関する議定書」に順次加入し,難民認定手続に必要な体制を整え,その後も必要な制度の見直しを行っているところです。
〇 当庁においては,日本にいる外国人から難民認定の申請があった場合には,難民であるか否かの審査を行い,難民と認定した場合,原則として定住者(※)の在留資格を許可するなど,難民条約に従った保護を与えています。
(※)定住者は,いわゆる就労目的の在留資格と異なり,就労先や就労内容に制約はありません。
〇 また,難民と認定しなかった場合であっても,人道上の配慮を理由に日本への在留を特別に認めることもあります。
〇 なお,ここでいう「難民」とは,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見という難民条約で定められている5つの理由によって,迫害を受けるおそれがある外国人のことです。
(3)外国人の退去強制
〇 日本に在留する外国人の中には,ごく一部ですが,他人名義の旅券を用いるなどして不法に日本に入国した人,就労許可がないのに就労(不法就労)している人,許可された在留期間を超えて不法に日本国内に滞在している人(※),日本の刑法等で定める様々な犯罪を行い,相当期間の実刑判決を受けて服役する人たちがいます。
(※)これらの行為は,不法入国,不法残留,資格外活動などの入管法上の退去を強制する理由となるだけでなく,犯罪として処罰の対象にもなります。
〇 当庁においては,そのようなルールに違反した外国人を法令に基づいた手続によって強制的に国外に退去させることにより,外国人に日本のルールを守っていただくように努めています。
〇 強制的に国外に退去させるかどうかの判断に際しては,ルール違反の事実のほか,個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮しており,例外的にではありますが,日本での定着性,家族状況等も考慮して,日本への在留を特別に許可する場合があります(在留特別許可)。
〇 その許可がされなかった外国人については,強制的に国外に退去させることになります。
2 改正の背景
〇 近年,日本に入国・在留する外国人の数の増加に伴い,許可された在留期間を超えて不法に日本国内に滞在している外国人(不法残留者)の数も増加に転じています。
〇 そのような外国人は,令和2年7月1日時点で,8万人余りいます。
〇 当庁は,このような外国人を国外に退去させるため,その摘発に努めています。
〇 摘発された外国人の多くは,国外に退去していますが,中には,国外への退去が確定したにもかかわらず退去を拒む外国人(送還忌避者)もいます。
〇 そのような外国人は,令和2年12月末時点(速報値)で,3,000人余り存在しています。
〇 多くの外国人を日本社会で適正に受け入れていくためにも,このような不法残留者や送還忌避者の数をゼロに近づけていくことが必要です。
3 現行入管法の問題点(入管法改正の必要性)
〇 現在の出入国管理及び難民認定法(入管法)の下では,国外への退去が確定したにもかかわらず退去を拒む外国人を強制的に国外に退去させる妨げとなっている事情があります。
〇 その結果,そのような外国人が後を絶たず,それが退去させるべき外国人の収容の長期化にもつながっています(送還忌避・長期収容問題)。
〇 今回の入管法改正は,外国人を強制的に国外に退去させるための手続(退去強制手続)を時代に即したものに改め,この送還忌避・長期収容問題の解決を図るために必要なものです。
(1)問題点➀(送還忌避者への対応が困難)
〇 次のような事情が,退去を拒む外国人を強制的に国外に退去させる妨げとなっています。
(1) 難民認定手続中の者は送還が一律停止
現在の入管法では,難民認定手続中の外国人は,申請の回数や理由等を問わず,また,重大犯罪を犯した者やテロリスト等であっても,日本から退去させることができません(送還停止効)。
外国人のごく一部ですが,そのことに着目し,難民認定申請を繰り返すことによって,日本からの退去を回避しようとする外国人が存在します。
(2) 退去を拒む自国民の受取を拒否する国の存在
退去を拒む外国人を強制的に退去させるときは,入国警備官が航空機に同乗して本国に連れて行き,その外国人を本国の政府に受け取ってもらう必要があります。
しかし,ごく一部ですが,そのように退去を拒む自国民の受取を拒否する国があります。
(3) 送還妨害行為による航空機への搭乗拒否
退去を拒む外国人のごく一部には,本国に送還するための航空機の中で暴れたり,大声を上げたりする人もいます。
そのような外国人については,機長の指示により搭乗拒否されるため,退去させることが物理的に不可能になります。
(2)問題点➁(収容の長期化の問題が発生)
〇 現在の入管法では,国外に退去すべきことが確定した外国人については,原則として,退去までの間,当庁の収容施設に収容することになっています。
〇 そのような外国人が退去を拒み続け,かつ,強制的に国外に退去させる妨げとなっている事情((1)参照)が存在すると,収容が長期化する場合があります。
〇 この点に関し,現在の入管法では,収容されている外国人の収容を一定期間解く仮放免が許可される場合もあります。
〇 しかし,現在の入管法では,仮放免を許可するかどうかは,仮放免の請求の理由のほか,逃亡のおそれ,日本での犯罪歴の有無・内容等の様々な事情を考慮して判断されますので,収容された全ての外国人に仮放免を許可することができるわけではありません。
〇 収容に関しては,収容された外国人の一部が,自らの健康状態の悪化を理由とする仮放免の許可を受けることを目的として,食事をとることを拒むハンガーストライキに及ぶという問題が生じています。
〇 また,仮放免された外国人が逃亡する事案も相当数に上っています。
令和2年12月末時点(速報値)で,日本からの退去が確定した後,仮放免中に逃亡して手配されている外国人は,400人余りいます。
(参考)
退去強制令書が発付されたにもかかわらず退去を拒む外国人(送還忌避者)
(令和2年12月末(速報値))
(1) 送還忌避者:約3,100人
(収容中:約250人,仮放免中:約2,440人,手配中:約420人)
(2) 送還忌避者で1年を超える実刑判決を受けた者:約490人
(収容中:約100人,仮放免中:約350人,手配中:約40人)
(3) 送還忌避者で3年以上の実刑判決を受けた者:約310人
(収容中:約60人,仮放免中:約230人,手配中:約30人)
(4) 送還忌避者で難民認定申請3回以上の者:約540人
(収容中:約30人,仮放免中:約490人,手配中:約10人)
(注)概数で示しているため,内訳の合計が総数と一致しない場合がある。
4 入管法改正の目的
〇 今回の入管法改正法案の基本的な考え方は,次の3つです。
(1) 日本への在留が認められる外国人かどうかを,適切かつ速やかに見極める。
(2) 日本への在留が認められない外国人は,速やかに日本から退去させる。
(3) 当庁の収容施設への収容ができる限り長期化しないようにするとともに,収容施設での一層適切な処遇を実施する。
〇 これらの基本的な考え方に基づき,様々な方策を組み合わせてパッケージで実施し,退去強制手続を一層適切かつ効果的なものとし,送還忌避・長期収容問題の解決を図ることを目的としています。
〇 また,この法案の目的が達成されることは,日本への在留が認められる外国人を適正に受け入れ,そのような外国人が日本のルールに従い,日本人と外国人が安心して安全に生活を送ることができる共生社会の実現にもつながると考えています。
5 入管法改正案の概要等
(1)入管法改正案の概要
〇 今回の改正法案では,3つの基本的な考え方(4参照)を実行に移すために,次のような様々な方策を講じることにしています。
(1) 在留が認められない外国人を速やかに退去させる前提として,在留を認めるべき外国人かどうかを適切かつ速やかに見極めます。
● 在留特別許可の手続を一層適切なものにします。
・ 在留特別許可の申請手続を創設します。
・ 在留特別許可の判断に当たって考慮すべき事情等を法律に明記します。
・ 在留特別許可がされなかった場合は,その理由を通知します。
● 難民に準じて保護すべき外国人を保護する手続を設けます。
・ 難民条約上の難民ではないものの,難民に準じて保護すべき外国人を 「補完的保護対象者」として,難民と同様に日本での在留を認める手続を設けます。
(2) 在留が認められない外国人を速やかに退去させます。
● 難民認定手続中の送還停止効に例外を設けます。
・ 難民認定申請の回数や理由を問わず,また,重大犯罪を犯した者やテロリスト等であっても,一律に送還が停止される現在の入管法の規定を改め,一定の要件に当てはまる外国人については,難民認定手続中であっても日本から退去させることを可能にします。
● 退去を拒む外国人に退去等の行為を命令する制度を設けます。
・ 退去を拒む外国人のうち,送還が困難な一定の要件に当てはまる者に限って,定めた期限までに日本から退去することや,旅券の発給の申請等送還のために必要な行為をすることを命令し,その命令に違反した場合には処罰されることにします。
● 退去すべき外国人に自発的な出国を促すための措置を講じます。
・ 退去すべき外国人のうち一定の要件に当てはまる者については,日本からの退去後,再び日本に入国できるようになるまでの期間(上陸拒否期間)を短縮します。
(3) 収容の長期化を防ぎ,一層適切な処遇を実施します。
● 収容に代わる監理措置の制度を設けます。
・ 原則として当庁の収容施設に収容することとしている現在の入管法の規定を改め,「監理人」による監理に付することで逃亡等を防止し,相当の期間にわたって収容しないで社会内で生活することを認める「監理措置」を設けます。
● 現在の仮放免の要件を見直します。
・ 監理措置の創設に伴い,現在の仮放免については,健康上,人道上等の理由により収容を一時的に解除する必要が生じた場合に許可することにします。
● 収容施設での一層適切な処遇を実施するための措置を講じます。
・ 収容されている外国人の権利・義務に関わるものなど,法律で定めることが適切と考えられる事項を法律で規定します。
(2)難民認定制度の運用の見直しの概要
〇 次のような取組を通じて,難民認定制度の運用を一層適切なものにし,真に庇護を必要とする者を確実に保護していきます。
(1) 難民の定義をより分かりやすくする取組
難民の定義は,難民条約に定められています。
もっとも,難民条約上の難民の定義には,「迫害」等,そのままでは具体的意義が明らかではない文言(規範的要素と呼ばれています。)も使われています。
そこで,これまでの日本や諸外国における実際の事例での考え方やUNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)が発行している文書を参考にしながら,規範的要素を明確にする取組を進めていきます。
(2) 難民の出身国情報を一層充実する取組
難民認定申請があった場合,申請者が難民に当たるかどうかを判断するには,申請者の出身国の情勢に関する情報(出身国情報)が必要となります。
この出身国情報を充実させるため,UNHCR等の関係機関と連携して,一層積極的に収集していきます。
(3) 職員の調査能力向上のための取組
難民に当たるかどうかの調査を行う当庁職員(難民調査官)に対しては,UNHCR等の協力により,出身国情報の活用方法や調査の方法等に関する研修を行い,一層調査能力を高めていきます。
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