新型コロナウイルスワクチン 日本国内の開発・接種状況は(5月19日更新)
新型コロナウイルス対策の切り札として期待されているワクチン。接種の状況や供給の見通しなど、国内の動向をまとめました。
高齢者への接種が本格化
国内の新型コロナウイルスワクチン接種は、欧米から約2カ月遅れの今年2月17日に始まりました。政府は同14日、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したmRNAワクチン「コミナティ」を特例承認。同17日から医療従事者への優先接種が始まり、4月12日には並行して65歳以上の高齢者への接種がスタートしました。
政府のまとめによると、5月17日時点の国内の接種回数は計663万8409回。うち医療従事者は548万0723回(187万9392回は2回目)、高齢者は115万7686回(8万6797回は2回目)となっています。英オクスフォード大の統計情報サイト「Our World in Data」によると、日本で少なくとも1回のワクチン接種を受けた人は人口の3.7%、2回のワクチン接種を完了した人は1.6%です。
5月2日までにアナフィラキシーが疑われる症例が664件報告されていますが、このうち国際分類に照らしてアナフィラキシーに該当すると判断されたのは107件。接種100万回あたりの発生件数は28件です。疑い例も含め、ほとんどの症例が治療により軽快しています。
ワクチンの供給は順次行われることから、政府は(1)国立病院機構などの医療従事者への先行接種=4万人(2)それ以外の医療機関の医療従事者=約480万人(3)65歳以上の高齢者=約3600万人(4)高齢者以外で基礎疾患のある人=約1030万人・高齢者施設などの職員=約200万人――の順に接種を進めることにしています。
高齢者への接種「7月末までに完了」
2月17日にスタートしたのは一部医療機関の医療従事者を対象とした先行接種で、3月3日にはそれ以外の医療従事者への優先接種も開始。4月12日には、65歳以上の高齢者への接種が一部地域で始まり、大型連休明けの5月10日から全国で本格化しています。
政府によると、ファイザー製のワクチンは5月の大型連休明け以降、毎週1000万回分ずつ供給される予定で、6月末までに1億回分を自治体に配布する計画。5月10日の週には優先接種対象の医療従事者が2回接種できる量の、6月末までには高齢者が2回接種できる量の配布を完了するとしています。
菅義偉首相は4月23日の記者会見で、高齢者への2回のワクチン接種を7月末までに終えると表明。5月7日の記者会見では「1日100万回接種」との目標を掲げました。
「基礎疾患のある人」対象は1000万人以上
医療従事者と高齢者に続いて優先接種の対象となる基礎疾患は、▽慢性の呼吸器疾患▽慢性の心臓病▽慢性の腎臓病▽糖尿病▽血液疾患▽免疫の機能が低下する疾患――など。妊婦については、ワクチンの安全性・有効性に関するデータが不足しているため、現時点では優先接種の対象に含まれていません。
ファイザーのワクチンは現在、16歳以上が対象となっていますが、海外で行われた臨床試験では12~15歳でも安全性と有効性が確認され、米FDAは12~15歳への緊急使用許可出しました。日本でも、海外での試験データをもとに、対象の拡大が議論される見通しです。
アストラゼネカとモデルナ 5月中に承認
日本政府は、ファイザーから年内に1億4400万回分(7720万人分)の供給を受ける契約を結んでいるほか、英アストラゼネカと1億2000万回分(6000万人分)、米モデルナと5000万回分(2500万人分)の供給契約を結んでいます。さらに政府は、ファイザーから約5000万回分の追加供給を受けることで合意。追加分は今年7~9月に供給される予定です。
アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは2月5日に日本で承認申請。モデルナのmRNAワクチンも、日本での供給を請け負う武田薬品工業が3月5日に申請しました。いずれも5月20日に厚労省の部会で承認の可否が審議される予定で、ワクチン接種を担当する河野太郎規制改革担当相は同月13日の参院内閣委員会で「5月中下旬にファイザー以外のワクチンが承認される」との見通しを示しました。承認されれば、国内で3つの新型コロナウイルスワクチンが使用できるようになります。
国産は4社が臨床試験
国内では、今年2月に米国で緊急使用許可が認められたジョンソン・エンド・ジョンソンのウイルスベクターワクチンが臨床第1/2相(P1/2)試験を行っています(国内治験はヤンセンファーマが実施)。武田は、米ノババックスが開発した組換えタンパクワクチンも国内で生産・供給することになっており、2月24日からP1/2試験を実施中。今年後半の供給開始を目指すとしています。
日本企業では、アンジェスがDNAワクチンのP2/3試験を行っていて、塩野義製薬は組換えタンパクワクチンのP1/2試験を実施中。KMバイオロジクスと第一三共も3月からP1/2試験を行っています。
ワクチンの開発は感染状況にも左右され、有効なワクチンの接種が始まれば、特に遅れをとっている日本勢は大規模な臨床試験を行うのが難しくなる可能性があります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は昨年9月に発表した指針で、海外で発症予防効果が確認されたワクチンと比較することで有効性を評価できる可能性に言及。海外での大規模臨床試験の実施も視野に入れる必要があり、国産ワクチンの実用化はまだはっきりと見通すことはできません。
生産体制を整備
開発と並行して、生産体制の整備も進められています。政府は2020年度の第2次補正予算に、生産設備などの費用を補助する「ワクチン生産体制等緊急整備基金」として1377億円を計上。昨年の第1次公募では、▽アストラゼネカ▽アンジェス▽塩野義製薬▽KMバイオロジクス▽第一三共▽武田薬品工業――の6社に総額900億円あまりが助成されました。
日本勢で開発が先行するアンジェスは、タカラバイオなどの参画を得て生産体制を構築。塩野義は、アピとその子会社であるUNIGENと協力し、21年度末までに年間3500万人分の生産体制を整備することを目指しています。23年度の実用化を目指しているKMバイオロジクスも、21年度末までに半年で3500万回分を生産できる体制を整備中。武田薬品は、ノババックスから技術移転を受けて国内生産することになっており、年間2億5000万回分以上の生産能力を構築するとしています。
アストラゼネカは、日本向けのワクチンの多くを国内で製造する方針。ワクチン原液をJCRファーマが製造し、国内での製剤化や流通は、第一三共、第一三共バイオテック、MeijiSeikaファルマ、KMバイオロジクスが担います。第一三共とKMバイオロジクスは、アストラゼネカから提供された原液を使って国内での製剤化を始めています。
接種加速へ
新型コロナウイルワクチンの接種は、予防接種法に基づく「臨時接種」の特例として、国の指示の下、都道府県が協力し、市区町村が主体となって実施。接種費用は国が全額負担し、接種は原則として住民票のある市区町村で受けることになります。接種の期間は来年2月末まで。接種対象者には、市区町村から接種券(クーポン券)が送付され、対象者は電話やインターネットで希望する医療機関・接種会場を予約します。
厚労省の4月7日時点の集計によると、全国の自治体は住民向けの接種会場を計4万4989カ所設置。このうち、保健所や学校、公民館などの特設会場は4216カ所。残りは医療機関で、個別接種を中心に行う医療機関が3万9240カ所、集団接種を中心に行う医療機関が1533カ所となっています。
歯科医師も接種
ただ、接種を担う医師・看護師は不足しています。厚労省の調査によると、接種会場の医師・看護師が「充足している」としているのは半数以下にとどまっていて、人手不足が接種拡大の足かせとなっています。政府は、労働者派遣法でへき地以外では原則禁止されている医療機関への看護師の派遣を、新型コロナワクチン接種に限って容認。歯科医師による接種も認める方針です。自治体からは、医学生や薬剤師にも接種を認めるよう求める声も上がっています。
政府は接種を加速させるため、自衛隊を活用して東京と大阪に大規模な接種会場を設置。いずれも5月24日から3カ月間運用する予定で、東京では1日1万人、大阪では1日5000人の接種を見込んでいます。
(前田雄樹)
(公開:2021年1月14日/最終更新:2021年5月19日)
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