EMDR

2021年04月24日

脳機能の抑制スイッチ

年を取ると涙もろくなると言われています。また、加齢とともにおやじギャグが多くなるとも言われています。どちらも、抑制が利きにくくなることに関係しているようです。脳の部位で言えば、前頭葉機能が低下してくることと関係しています。認知も多くは前頭葉の機能ですから、認知症についてもルーツは同じと言えるかもしれません。

前頭葉機能は加齢とともに低下する以外にも、機能不全を起こすことがあります。危機が迫ってきたときなど、交感神経の活動が高まると前頭葉機能が抑制されます。

危機への対応として交感神経優位になるということは、すなわち、闘争又は逃走への準備が始まっているということです。緊急事態への対応として心身の状態を迅速かつまとめて最適化するために、交感神経という系統立った神経系が進化の過程で作られてきたのです。緊急時には、じっくり物事を考えるのではなく、逃げるか闘うかの判断などに限定して前頭葉を使い、危機への対応に余力(酸素の供給など)を注ぎます。この結果、前頭葉の本来持つ力が発揮しきれなくなるのです。

緊急事態と表現しましたが、猛獣に出くわすといった状況のみならず、遠くに嫌いな人を見つけたときや、危機のわずかな兆候を察知した時など、緊急事態と言えないレベルの兆しによって、危機への対応は始まります。

ロールシャッハテストにおいては、例えば赤い色を見たときに、危機を暗示しているとして脳が処理を開始すると、危機への対応が始まって交感神経優位となり、前頭葉機能が抑制されて、図版についての説明がたどたどしくなることがあります。これを「ショック」と言います。

また、アイオワ・ギャンブリング・タスクにおいては、たとえその人が危機を意識していない段階にあっても、脳においてリスクを検知すると、自動的に心身の状態の調節(このタスクの場合は皮膚電気抵抗が低下する)が始まることが示されています。

ヒトの脳は、このように、状況に応じて機能を抑制するスイッチが作動するようにできているのです。

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2021年01月21日

ジェノサイドの続き(HIDDEN HANDを読む 番外4)

アメリカは,日本時間の本日午前2時にバイデン政権に移行しましたが,中国のジェノサイドについては,引き続き非難する姿勢を示しています。

さて,前日から中国の新疆ウイグル自治区における弾圧について書いています。

ウイグル人は,普通に生活している中で,突然身柄を拘束され,収容所に連れて行かれます。いつ連れて行かれるかは予測がつきません。

収容されると,ウイグル人特有のひげを剃られ,中国語でしゃべることを強要され,イスラム教では禁止されている豚肉を食べさせられます。従わないと,さまざまな拷問を受け,死んでしまう人も少なくありません。

収容所での日課は次のようになっています。(収容所生活を強いられた人からの情報です)
4時:起床。1時間ほど布団をきっちり四角に畳む練習。
5時:共産党や国家をたたえる歌を歌う。
6時:全員が壁に向かい一列に並び、スピーカーから流れる国歌を一緒に歌う。
7時:朝食(饅頭1つとお粥か野菜スープ)
8時:共産党を称える歌を繰り返し歌う。中国のウイグル政策の素晴らしさ、分離独立主義者や過激主義者の定義など、プロパガンダ政策を繰り返し勉強。
12時:昼食(朝食と同じ)。食事前に「共産党がなければ新しい中国は無い。社会主義は素晴らしい」などの歌を繰り返す。食事が来ると全員で「党に感謝、国家に感謝、習近平に感謝、習近平の健康祈る、国家の繁栄祈る」など、大声で3回、きっちり声が出るまで繰り返し、食事。午後も、プロパガンダ学習を繰り返す。

昼食より後の日課についての記載はないので,どうなっているか分かりません。
これが中国が「教育」と称しているものの実態です。中国がこのようなことを行っている理由について,専門家は次のように述べています。

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水谷氏(明治大学兼任講師の水谷尚子氏)は、強硬姿勢の背景に中国政府が進めるシルクロード経済圏構想”一帯一路”政策を挙げる。新疆ウイグル自治区は、石油など資源が豊富で、多くの国と国境を接する軍事・政治の要衝でもある。一帯一路のために支配権は欲しいが、ウイグル人に発言権は与えないと示すために強硬策をとっているのでは、と指摘する。
>>>(「8カ月鎖で縛られ続けた日々 中国“ウイグル強制収容所” 奇跡の生還者が衝撃の証言

中国側の説明は次のとおりです。

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自治区高官は、中国メディアに対し「テロや宗教的過激主義がはびこる土壌を取り除くのが目的」とし、「職業訓練を通じ多くの人が自らの過ちを反省し、テロ主義や宗教過激主義の本質と危険をはっきりと認識し、過激主義の浸透に抵抗する能力を高めた」と拘束を正当化した。また、「異なる民族や信仰の、風俗・習慣を尊重し、栄養豊富な食事も提供され、最大限に人々の要求を満たすよう保証している。」と強調した。
>>>(同上)

中国共産党が直接的に,具体的な拷問の方法まで指示しているわけではないと思われますが,中国共産党の意向に沿って動かないと,地位を失うにとどまらず,命を落とすことにもなりかねないという中国の実情を知っている新疆ウイグル自治区の高官は,「教育」方法が甘いと自身が制裁を受けるのではないかという不安を抱えている可能性があり,そうであれば,自己保身のためにも,ウイグル人の恐怖をあおるような手段に及ぶのでしょう。

弾圧の実務に当たっている自治区の高官以下の職員の中には,そうした行為に心の痛みを感じている人もいるのではないかと想像します。中国共産党は,ウイグル,チベット,南モンゴルなどにおいて,その地域で以前から暮らしている住民だけでなく,その地域で弾圧を執行する役割を持つ漢民族に対しても,大きな苦痛を与えているのです。

他国の中枢には巧妙に侵入していく中国共産党ですが,配下の者に対しては,残念ながら,悪知恵しか働かせておらず,心無い野蛮な手段に終始しているようです。こうした人の気持ちを無視した体制は,内部からの反発のエネルギーを蓄え,いずれそれがはじけて崩壊することになるでしょう。

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2021年01月20日

ジェノサイド(HIDDEN HANDを読む 番外3)

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**ジェノサイド**は、国家あるいは民族・人種集団を計画的に破壊すること。ジェノサイド条約第2条によれば、国民的、人種的、民族的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為のこと。**集団殺害**。
>>>(ジェノサイド

トランプ政権の最終日に,ポンペオが声明を出しました。
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マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官は任期最終日に出した声明で、中国政府による少数民族の大量収容をめぐり、同国への圧力を大幅に強化。「このジェノサイドは続いており、私たちは中国の一党制国家によるウイグル人撲滅に向けた体系的試みを目にしている」と言明し、「私たちは黙っていない。中国共産党が自国民に対しジェノサイドと人道に対する罪を犯すことを容認されれば、そう遠くない将来、自信をつけた同党が自由世界に対してどんなことに及ぶかを想像してみてほしい」と述べた。
・・・(中略)・・・
人権団体によると、中国西部・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)にある収容施設では現在、ウイグル人とトルコ系言語を話すイスラム教徒ら少なくとも100万人が拘束されているとみられている。【翻訳編集】 AFPBB News
>>>

弾圧の実態について書かれたものとして,「8カ月鎖で縛られ続けた日々 中国“ウイグル強制収容所” 奇跡の生還者が衝撃の証言」という記事があります。FNNプライムオンライン2018年12月8日のものです。記事のポイントは,「”収容所”からの生還者が語る恐るべき拷問の実態」,「朝から晩まで”共産党・習近平礼賛”を強要」,「中国政府「テロ防ぐため」と施設での拘束を正当化」の三つです。

上記記事から,施設の実態を表現した個所を引用します。
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男性がひげを“異常に”伸ばすことや、女性が公の場で顔を覆うブルカをつけることなどを禁止。
トイレには、決められた時間にしか行けず、2~3時間待つこともあった。学習と会話は全て中国語。カザフ人のオムルさんは拒否したが、従わないと拷問を受けた。豚肉を食べることを拒否しても同様だった。
拷問は、警官が持つ棒で20回ほど背中を殴られ、壁に向かって24時間まっすぐ立たされる。固定された鉄製の椅子に座り、手足を椅子に鎖で縛った状態で24時間。2日も3日も、反省の態度を示すまで縛られ、食事も水分も与えられない。・・・他にも書かれています。
>>>(上記引用)

外国に住んでいても安心はできません。

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日本にも多くのウイグル人が暮らす。あるウイグル人男性は、「家族や知人が今無事なのかどうか分からない」と話す。自分から連絡はしないという。それが原因で中国政府に目をつけられる恐れがあるからだ。
>>>(上記引用)

長くなってきたので,続きは次回記載することとします。

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2021年01月19日

HIDDEN HANDを読む7

だんだん話がそれて,タイトルまで「HIDDEN HAND」でなくなってしまっています。本の方に戻って,一部引用します。

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・・・ニューサウスウェールズ大学は,オーストラリアでトップ5に入る大学ですが,中国人留学生の金に頼り切るあまり,中国共産党と組んだプロパガンダ動画を作成しました。同大学は,中華人民共和国建国と同じ1949年に創立され,中国共産党とともにこれまで多くを達成し,ともに未来へ歩む友人だ,というショッキングな内容です。
>>>(「見えない手」P357)

中国の建国とオーストラリアの大学の創立の年が同じだから関係が深いという理屈は成り立ちませんが,当事者間では,共通点を見つけると親和感を強め,友達のような気持になってしまいます。こうして,中国の計略にはまるのです。

そして,「金(かね)」です。大学での研究費は,オーストラリアに限らず,日本でも決して潤沢ではありません。多くの研究者は,研究費の乏しさゆえに,限られた研究しかできないことに不満を感じています。そんなとき,研究費を増額できる動きがあれば,つい乗ってしまいます。研究者は研究費が入り,中国には共同研究によってその成果物を得ることができるので,ウィンウィンの関係になり,双方がハッピー!と思わせるのが中国の作戦です。研究の成果物は,実は,中国において有効活用する準備が整っていて,それによって利益を得る競争においては,中国が有利になっているのです。

先進各国の名門大学が中国と連携することによってウィンウィンの関係を持っているという情報が入れば,自分たちの大学も他の名門大学と肩を並べることができるような気持になります。名門大学を狙う意味は,こんなところにもあります。

先に紹介した,企業の合弁についても,おいしいところはすべて中国が持っていけるようになっているということに,西側諸国も気付いてきて,反中姿勢が強まってきています。

日本でパンダハガー(親中派)と言えば,自民党の二階幹事長です。彼の出身地である和歌山県の白浜にあるアドベンチャーワールドには,ジャイアントパンダが6頭もいます。中国によるパンダ外交の象徴であり,ここにパンダがたくさんいるということは,現在もなお日本に対する中国の影響力が大きいということに他なりません。反中感情の高まりにつれて,JR西日本の「パンダくろしお」に対しても厳しい目が注がれるようになっています。


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2021年01月17日

中国における発達障害(HIDDEN HANDを読む 番外1)

「見えない手:HIDDEN HAND」の中でも紹介されている「孔子学院」は,日中双方の学術研究の発展に寄与するものとして,日本でもいくつかの有名大学に設立されています。しかし,その実態が次第に明らかになり,Wikipediaでは次のように説明されています。

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孔子学院(こうしがくいん)とは、中華人民共和国が諸外国の大学などで「外交関係」を名目にした「統一戦線工作」によって、教育の名を借りて中国共産党の主張を基づいた世論戦宣伝(プロパガンダ)を行う機関。中国共産党中央委員会に直属する情報機関である中央統一戦線工作部の指揮下にある。ロイター通信によると日本で散見される中国共産党の浸透工作の一環を担い、民主主義の国の基本的価値観や国益を脅かしている中国政府機関である。
>>>

人権を軽視していると批判されがちな中国で,発達障害というナイーブな問題を持つ児童に対してどのように対応しているかを見れば,中国共産党の人民に対する態度が見えてくるかもしれません。

日本語でググると,あまりヒットするものは多くありません。しかも,古い論文があるくらいで,概して関心は低いようです。孔子学院のある立命館大学の論文が2014年までのことについて記載していました。

中国の統計的なところを見ると,2008年に第2回全国障害者サンプリング調査が実施されて,その時初めて自閉症児が調査対象になりました。

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2006年5月の調査時点で,中国の0~17歳616940名の調査対象の内,自閉症児は131人(男性92人,女性39人,男女の比率は2.5:1)で,罹患率は0.02%であった(この時アスペルガー症候群はデーターの中に含まれていなかった)。
>>>

2015年のアメリカでのデータでは,全米の子どものうちASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)の割合は、1.5%(68人に一人)となっています。日本でも,これと大きな違いはないか,むしろ多いのではないかと思います。

約9年の調査時期の違いがあるとはいえ,二桁の違いは大きいと言わざるを得ません。

日本でも,発達障害を多くの人が認知するようになったのは比較的最近のことですが,中国では社会体制や文化の違いもあり,「発達障害が見えにくい」ということがあると考えられます。自閉症のモデルマウスを作ることができるということから自閉症には生物的要因によるものがあると考えられ,その点において深刻な問題がある児童がいれば,何らかの障害があるとして特別支援学校などの対象とすることはあるでしょう。しかし,障害の程度が軽い場合は,強く指導すれば改められるものと認知され,厳しい指導で対応する対象となります。

ところで,「空気を読めない」ことが社会適応上の大きな支障となりますが,日本の場合は,「以心伝心」という言葉もあるように,そもそも状況や相手の反応を見て言外の意図を汲むことが,中国を始めとする他国よりも求められる傾向にあり,これによって発達障害と診断される数も増える面があります。中国の場合は,日本と異なり,言葉で表現する文化ですから,日本よりは社会に適応しやすいかもしれません。

こうしたことを考慮しても,これまでのところ,中国においては発達障害への対応が十分になされていないように思います。

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2021年01月16日

HIDDEN HANDを読む6

紀元前六三八年、中国の春秋時代。宋(そう)と楚(そ)という二つの国が、ある川のほとりで戦うことになりました。宋軍はすでに陣を構え終えましたが、楚の軍はまだ川を渡っている途中。攻撃の絶好のチャンスです。しかし、大臣が進言しても、宋の君主、襄公(じょうこう)は攻撃命令を出しません。楚軍が川を渡り終えても、襄公はまだ動かず。川を渡ったために乱れた隊列を、楚軍が整え直したところで、ようやく攻撃開始。その結果、宋軍は手痛い敗北を喫してしまったのでした。そのことを人々が非難すると、襄公は、「君子の軍隊は、隊列の整っていない敵に攻め込みはしないものだ」と答えたということです。これが,「宋襄の仁(そうじょうのじん)」です。昨年11月13日にこのブログで紹介しています。

この当時は,襄公のような「君子」の精神をよしとする考え方があったようです。しかし,陸続きのかなたから攻め込んでくる相手は,そのような高潔な精神が通用する相手ばかりではありません。異文化の相手と戦争するときには,情けを掛けると,勝てる戦いにも負けるリスクが高まるだけでなく,負けた後にも情けを掛けた見返りがなく,無駄な敗北になってしまうということが示され,襄公のトラウマとなったに違いありません。

こうしたトラウマがPTSDをもたらします。いつ見知らぬ敵に攻められるか分からないという不安に四六時中とらわれ,ささいな危機に危機に対しても過剰に反応してしまいます。

チベット,ウイグル,南モンゴルといった国境の地域を固めることは,中国にとって,異国から侵入され,攻められることへの不安を緩和するために必要不可欠であり,その地域に住む異民族の人々を支配し,漢民族に同化させようとします。その際,トラウマに根差す不安の強さゆえに相手を信頼することができず,圧倒的な力で同化させようとすることになり,人権を無視した弾圧に及ぶことにもなるのです。

トラウマ(心の傷)が浅ければ説得などによって過剰反応を改めることが可能ですが,傷が深いときは,理屈では不合理だと分かっていても,自分を守ろうとする機制が自動的に働いてしまい,改めることができなくなります。

血で血を洗う闘争を繰り返してきた中国は,それだけ深い傷を抱えて現在に至っているため,容易には変わらないのです。

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2021年01月15日

HIDDEN HANDを読む5

続きです。

中国企業は,A国と合弁で会社を立ち上げるに際し,B国から奪い取った(あるいは盗み取った)技術を,あたかも中国独自の技術であるかのようにアピールしてA国に合弁のメリットを訴え,合弁事業の中でA国の技術を奪い取ります。そして,そのA国から盗み取った技術を,C国との合弁に利用して新たに合弁企業を立ち上げ,C国の技術を奪い取るというように,窃盗と詐欺を重ねて技術を高めていると言われています。中国国内の企業間でも同じようなだまし合いをやっているそうです。3000年の歴史の中で,だまし合いに勝ち残った者のみが生き残っていると考えて対応するくらいの気持ちの準備が必要です。日本等の国は,中国の大きな市場で自社の製品やサービスを提供できるメリットに惹かれがちですが,投資をして後に引きにくくなればなるほど,その弱みに付け込まれて,長期的には損失を拡大することになることを承知しておかなければなりません。

西側諸国にもだまし合いのようなことはあるのでしょうが,多くの国では,他国との関係においては,約束を守らないと不利益になると考えて,条約とか協定を結べば,可能な限り守ろうとするでしょう。また,他国に対してオープンであることで,人や物,情報等が往き来し,得られるものが多いと考えて,開放的な政策を取る国も少なくありません。

中国共産党は,昨日引用したとおり,「外国から技術を盗むシステマティックなプログラムを組織的に実行」して,「グローバルな技術リーダーになると決意し,なりふり構わず突き進んで」います。一党独裁で国を挙げて手段を選ばずに利益追求に突き進み,それに背くものには人権を無視した弾圧が加えられる体制が出来上がっていることから,西側諸国が民主的なシステムへと歩み寄ってくれることを期待しても裏切られるばかりなのです。

さて,中国がなぜそのような体制を選択したのか,ということについて,心理屋の視点から考えてみたいと思います。

上記のハミルトンの述べているところから,中国共産党には,盗むことを悪いことと思っていないふしがあります。「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」というのは,共産主義の元祖とも言うべきマルクスの言葉です。「盗むのではなく,みんなのものだから,自分のものでもある」,あるいは,「誰のものという所有の概念がなく,必要な人のもの」と解釈できるところが,中国の人々にとって受け入れやすかったのかもしれません。このあたりのことを含め,中国の人々の立場から考えてみる必要がありそうです。

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2021年01月14日

HIDDEN HANDを読む4

昨年11月のアメリカ大統領選挙において,中国共産党が影響力を及ぼしたとするうわさがあります。トランプサイドは,選挙不正などに中国共産党が関与したと主張しているようです。つまり,中国共産党にとっては,バイデンが大統領になる方が都合が良いので,民主党に肩入れしているというのです。しかし,中国共産党は,単に民主党に肩入れしているだけでなく,もっとしたたかです。トランプサイドの共和党の有力な上院議員などとも太いパイプを作り,例えば,トランプが「絶対にあきらめない。」と強く主張しているのをいさめる役割を取らせているのです。

「目に見えぬ侵略」補論の350ページには,日本企業が中国に進出する際の留意事項が書いてあります。これは他の国にとっても参考になるものです。一部引用します。

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中国企業を助ける企業人は,現地のパートナーや合弁相手が中国政府と協力し,西側企業から体系的に技術を盗んでいるという認識を持たねばなりません。半導体や燃料電池など,あらゆる分野の先端技術で中国に協力している日本企業も,ほぼ確実に,いずれ技術を盗まれるのです。
中国で製造してきたアメリカ企業のグループは技術窃盗に嫌気がさし,中国にカギとなる技術を横取りされるのを止め,ルールを守らせようとしましたが,できませんでした。
中国政府は,外国から技術を盗むシステマティックなプログラムを組織的に実行しています。共産党政府はグローバルな技術リーダーになると決意し,なりふり構わず突き進んでいるのです。
・・・中略・・・
中国企業は日本企業から奪い取った技術を,日本と西側諸国に対する政治的,戦略的な優位性の確立と支配に使うつもりです。・・・
>>>(「目に見えぬ侵略」補論のP.350)

長くなりそうなので,いったん切り上げ,続きは次回に記載します。

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2021年01月13日

HIDDEN HANDを読む3

ハミルトンンは,「目に見えぬ侵略(Silent Invasion)」を書き上げました。しかし,「HIDDEN HANDを読む1」に記載のとおり,中国共産党は「私を始めとする数百人の人々の意見表明の権利を事実上,奪う」ような圧力をかけてきて,出版は容易ではありませんでした。

「見えない手(HIDDEN HAND)」の訳者である奥山とのインタビューにおいて,ハミルトンは次のように述べています。

「・・・2017年秋頃には草稿を書き終え,専門家のチェックと,さらに法的な問題,つまり書いていることが名誉棄損にならないかまでチェックしてもらったのが10月頃で,完成稿はほぼ出来上がっていました。出版社も初めから最後まで熱心に応援してくれていたのですが,あとは印刷するだけとなった11月末,突然私に電話をかけてきて,「北京からの報復を懸念しているため,あなたの本は出版できない。」と言ってきたのです。契約も全て終わっていたのに・・・」

中国共産党からの圧力によって,出版ができなくなったのです。出版社は,名誉棄損で訴えられた場合,弁護士費用や労力等の大きな負担を覚悟しなければなりません。他方,中国共産党は,中国についての印象操作に多額の投資を行っていますから,負けることが明らかと思われる裁判であっても訴訟を起こす可能性が高いため,出版社は二の足を踏まざるを得ないのです。それにとどまらず,中国とズブズブの関係になっている親中派(「パンダハガー:中国の象徴であるパンダをハグする」とも揶揄される)の政治家からの圧力も出版を難しくします。

また,出版物の印刷についても,オーストラリアでは費用面で有利な中国の印刷工場に委託することが常となっていたので,出版社の他の印刷物までも中国に委託することができなくなる可能性があり,そうしたリスクを取ることへの躊躇も出版社にはあったのです。

中国共産党は,オーストラリアの政権の中枢から,地方の政治家,さらには財界の有力者など,多方面において影響力を持つ人を金銭などで取り込み,またスキャンダルなどで弱みをつかんで支配する体制を整えてきていたのです。

そして,出版後には,出版社に対する圧力だけでなく,ハミルトン本人への嫌がらせもありました。メールやツイッターで攻撃し,パスワードを盗んでSNSのアカウントを乗っ取るにとどまらず,親中派の閣僚(例えば当時の外相のボブ・カー)などが新聞で批判的な意見を掲載するといったこともあったそうです。

この後,もう少し,奥山のハミルトンに対するインタビューから抜粋して,中国共産党が他国を「侵略」する手口について紹介したいと思っています。また,「侵略」される側の心理などについて考察してみたいとも考えています。

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2021年01月12日

HIDDEN HANDを読む2

オーストラリアはリベラルで開放的な対外姿勢を取っていたこともあり,中国と経済や文化,学術研究等,様々な分野で交流や協調を深め,大勢の中国人留学生やビジネスマン等がオーストラリアに住んでいました。2008年の北京オリンピックの時には,中国にとってオーストラリアが重要な国であることを示す意味から,オーストラリア国内でも聖火リレーを行いました。しかし,同じ中国籍であっても,チベットは中国共産党から弾圧を受けていました。聖火リレーの沿道にチベット独立派が出て弾圧への抗議を示していたところ,チベット独立派でない中国系の学生らが,中国共産党の手先のようにして,チベットの学生らに暴力を振るうなどしたのです。

一見,中国内部での対立がそこで現れたかのように見えますが,そうではありません。中国系学生は,留学を許され,支援を受けられる代わりに,中国共産党からの支配を受け,中国にとって都合の悪いことがあると,それを抑えるために行動することを求められるのです。

それにしても,暴力はやりすぎです。それをしたのでは,かえって中国共産党の評判を下げてしまうことになりかねません。ところが,その現場にいたオーストラリアの警察は,見てみぬふりをしました。警察組織も,中国共産党の有力者が牛耳っていて,中国人学生等の弾圧的な行動に対しては,手出しができなかったのです。

このように,中国共産党があまりに深くオーストラリアに入り込み,自由や民主主義が脅かされていることを暴いて,オーストラリアの人々に認識してもらうことを意図して書かれたのが「目に見えぬ侵略(SILENT INVASION)」です。

この本が出版されることは,中国共産党にとって都合が悪いことですから,当然のごとく,すんなりとはいきません。このことについては,次回記載します。

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2021年01月11日

HIDDEN HANDを読む1

アメリカ同時多発テロが2001年9月11日,東日本大震災が2011年3月11日,そして今日は2021年1月11日です。10年ごとの大きなことが起こるのでしょうか。

それはさておき,中国という国は,何かと心理屋から見て興味深いところがあるので,ウォッチしていこうと思っています。

このブログでもすでに昨年(2020年)11月13日と14日で中国ネタを取り上げていますが,それらとは別の角度からのアプローチとして12月27日に「HIDDEN HAND」を取り上げています。

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・・・十分なインテリジェンスを持っている人々がなぜかくも中国共産党に操られてしまうか,ということを探り,その技術を応用すれば,心の問題に悩む人のマインドを変えて気持ちを楽にするなどの支援につなげることができるのではないか・・・
>>>(上記リンク)

関心はそんなところにあります。ついでに,中国共産党への対応策について,PTSDへの対応策をもとに考えることもあるかもしれません。

それでは,「見えない手」(Hidden Hand)日本語版の「補論「目に見えぬ侵略」にどう対処するか」を少しばかり読み進めていきたいと思います。

***
「見えない手」(Hidden Hand)の著者であるクライヴ・ハミルトンが,その前作「目に見えぬ侵略(Silent Invasion):オーストラリアに対する中国共産党の侵略に関する著書」を書かねばならないと決意した出来事について,以下のように述べています。
「私にショックを与えた出来事がありました。2008年4月,北京オリンピックの聖火がキャンベラに到着した再,国会議事堂の近くに集まった何万人もの中国系学生が,チベット独立派の抗議活動に対して暴力を振るい,暴言を浴びせる場面に遭遇したことです。彼らはなぜそこまで熱狂的だったのか,彼らはいかにして,我々の民主制度の象徴である国会議事堂の前で,合法的なデモを攻撃して封鎖し,私を始めとする数百人の人々の意見表明の権利を事実上,奪うことができたのか。これが私に拭い去れない疑念を残していました。オーストラリアの政治家と中国系富豪の結託が明らかになり,私は背後で何か大きなことが動いていると感じました。自分たちの国に何が起こっているのか,明らかにしなければならないと考えたのです。」
***

ハミルトンは,いつのまにか侵入を許してしまっていた中国共産党によって,民主主義や自由がオーストラリアから失われつつあることに気付いたようです。

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2020年11月16日

ヒトの歴史を解釈する

昨日は、一昨日からの下痢等もあり、おとなしくしていましたが、ほぼ回復し、今日は朝から普段通りの生活を送っています。

さて、ヒトが必ずしも経済合理的な行動を取らないことは、行動経済学によってあまたの具体例とともに示されています。また、強迫神経症の場合は、たとえば、自分で不合理であることを十二分に承知していながら、手を洗い続けないではいられず、そのことに悩み、苦しんで精神科を訪れるようです。誰しも、「このサソリは刺さないし、毒もない。」と言われても、手渡されると思わず手を引っ込めてしまうなど、理屈どおりにいかない面を持っているものです。

前頭前野による合理的な思考を邪魔し、誤った判断をもたらす背景にあるのは、感情など大脳辺縁系の活動です。「強迫的」とまでいかなくとも、「こだわり」のレベルで、かなり行動は変わります。ワインの味のわずかな違いにこだわったり、ひいきのアイドルとの握手することにこだわったりして、多くのお金を使う人は少なからずいます。このくらいの例であればわからなくはないですが、理解困難なことにこだわっている人もいるでしょう。

歴史の資料を見ていて、事実と事実とがつながりにくく、なぜそうなるのか解釈に困るときには、そうしたヒトに特有の「こだわり」などを仮定すると理解できることがあるかもしれません。

宋襄の仁」がトラウマになるような何かが当時の中国にはあったのでしょう。

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2020年09月12日

虐待で壊れる脳



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「1982年から1998年にかけて、少なくとも71人の女性を殺害した」

「正直、本当に殺した数は多すぎて覚えていない」

これは、数多くの罪なき女性を殺害したゲイリー・リッジウェイの証言だ。最初の被害者数名の遺体がワシントン州のグリーン川で発見されたため、彼は「グリーン・リバー・キラー」というニックネームで呼ばれている。2001年に逮捕されるまで、数多くの女性が犠牲になった。
>>>(上記リンク)

こんな古い事件をなんで今更、と思いますが、この記事では、虐待が凶悪な快楽殺人犯を作り上げる原因となることに注目して、最近報道されることが多い虐待が、虐待の被害を受ける児童のみならず、その子が育ってから想像を超える他害行為を反復して多くの被害者を生むことになる、つまり、虐待が社会に及ぼす影響が大きいことを示そうとしているものと読むことができます。

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ゲイリーの場合、「肉親である母親への性的興奮」や「母の手による自分の陰部への直接的な接触」といった性的な刺激だけでなく、「母親による父親への暴力行為」、「母親の抑圧的・支配的言動」という暴力性も日常的に目にしていた。

もし仮に「幼少期からの性的刷り込み」と「攻撃性・暴力性」が融合してしまうと、性的欲望が芽生える度に暴力性と結びつく。こうした強い暴力性を帯びた性欲は、たとえ相手が死んでしまった後であっても、「その一線を越えて性交したい」という「歪んだ性欲」へ発展してしまう可能性がある。

ゲイリーにとって殺害した「売春婦」たちは、自分に怒りを植え付けた「母親」のイメージと同化していた。極言すれば、殺害された71名は、ゲイリーが直接立ち向かえなかった母親の身代わりだったのだろう。
>>>(同上)

心理分析というのは、物証のような確かな証拠を得にくい中で、状況証拠を積み重ねて解釈しているので、それらしいことを言っているけれども、釈然としないものが残るのが常です。

唯一、確かな証拠と言える記載がありました。

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事件を担当したワシントン州キング郡の当局は、「グリーン・リバー・キラー」専従の捜査タスクフォースを結成し、早々からリッジウェイを容疑者だとマークしていた。しかし彼は警察によるポリグラフテスト(嘘発見器)に合格し逃げおおせている。
>>>(同上)

普通の人であれば、交感神経優位となって、手足の発汗が現れる刺激に対して、彼は何の反応もしなかったということです。冷情性と言われますが、情動にかかわる脳部位、あるいは情動と身体との情報連絡が機能していないことが推測されます。

ソマティックマーカー仮説について調べてみると、このあたりの詳細が分かるかもしれません。



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2020年09月09日

認知のクセ?

「認知のクセ」についてかなり書いてきて、「終わり?」と思われているかもしれないところで足踏みしています。もう1回くらい書いて閉めようと思っていることを取りあえず意思表示しておきます。

最後だからいつもより少し力を入れて書いた方が良いのではないかなどと考えると、先延ばししたくなります。いつも先延ばししたいと思っているので、延ばす理由があると、そうなってしまうのでしょう。理由を見つけて、そうしているという方が正確かもしれません。

少なくとも、もう一つやりかけにしていることがあります。「トマティス物語のエッセンス」を書いていて、ヘルペス休業のあとそのままにし、すっかり忘れていましたが、先週思い出しました。また書こうかと思っています。10月下旬まで仕事があるので、その後になるかもしれません。しかし、それまでに忘れてしまうかもしれません。

先延ばしにする理由を探しているうちはまだよくて、忘れるほどになると、解離も考えた方が良いのかもしれません。

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2020年06月30日

痛みへの対処方法

ロキソニン(鎮痛・消炎・解熱剤)を服用後、4時間も経過すると、激しい痛みに対する薬の効果が薄れていくのを感じました。1日3回の処方なので、あと4時間は我慢するしかありません。薬を準備して、カウントダウンしながらその時を待つというほどの痛みでしたが、薬が出てから3日目にはピークを超えたという安堵感を持つことができるようになりました。

しかし、もうロキソニンなしでどうにかやれそうな気がして、昨日朝を最後にロキソニンのみ服用をやめていたところ、14時間程度たったころから急に熱が上がり、38.4度になってしまいました。おそらく、ヘルペスによる痛みや炎症はファムビルで抑えられていたものの、口内炎のような症状を抑えていたロキソニンの効果が失われて、そちらの問題で発熱したのではないかと思っています。要するに、痛いのがダブルで襲ってきていたということでしょう。

その後、ロキソニンをのんで寝ました。これで残りが1個になりました。高熱を出すほどの炎症は、のどの痛みをぶり返した感もありましたが、Wで襲ってきた痛みとは比べようもありません。今日の午前中に市販のロキソニン(成分が同じで、処方されるときに一緒に出される胃腸薬の成分も入っている)も入手しました。昨日服用してから14時間程度経過しても熱は上がりません。のどの痛みはあったので、処方された最後の1個をのみました。このままロキソニンなしでいけるか、様子見です。

ところで、激しい痛みが続くときに、βエンドルフィンが分泌されて痛みが和らぐようなことがあっても良いように思いますが、現実は思うようになってくれません。体性感覚野の一部に信号が集中している状況を改めることによって局所の痛みは緩和するのではないかと思って、シャワーを浴びてみると、これは身体の広範囲に心地よい暖かさという刺激を与えてくれることもあってか、ある程度効果があったかもしれません。しかし、シャワーを浴びてばかりいるわけにもいきません。布団の中で、指先を次々に揉むなど、体性感覚野の比較的多くを占める部位を刺激してみましたが、効果はあまりよく分かりません。

痛みに耐えながら、この痛みがどうにか消えないものかと注意を向けていた時、それがマスキングされたような、痛みがなくなるような体験が数秒ありました。痛みの存在はあるけれど、それに伴う不快感が抑制されたような状態です。βエンドルフィンがはたらいたのか、解離のようなことなどが起こったのか不明ですが、特定の脳機能を一時的に停止させることで、痛みに対処するという方略があるかもしれないと思いました。ランナーズハイを体験している人などは、その人なりの痛みへの対処方法を知っているのかもしれません。

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2020年06月14日

外傷的体験後の深酒

6月に入ってから飲酒しない日が多くなっています。月末頃に血液検査を予定していることもありますが、夕食時に飲むと、その後就寝までの時間が眠すぎてほかのことができず、もったいないということもあります。ステイホームも関係してか、足のむくみを気にするようになったことも関係しているかもしれません。

それはさておき、深酒の後に記憶がなくなる理由についての研究結果が報道されていたので、紹介します。



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 米国・ミズーリ州セントルイス市にあるワシントン大学医学部の和泉幸俊教授らがThe Journal of Neuroscienceに発表した研究で、過度な飲酒によるアルコールが脳細胞を殺してしまうので記憶がなくなるのではなく、アルコールによって、ニューロン間の接続を強化し学習と記憶に不可欠な長期増強(LTP)プロセスを抑制するステロイドが、ニューロンで産出されるようになるためであることがわかりました。

 教授らはラットの脳にある海馬の細胞を使って、アルコールが神経細胞に与える影響を研究しました。ニューロンの神経伝達プロセスを詳しく分析したところ、アルコールがニューロン間の信号伝達に関与するグルタミン酸を透過するNMDA受容体(N-メチル-D-アスパラギン酸受容体)の活動を、半分まで低下させることで、ニューロンにステロイドを産生させ、そのステロイドがニューロンのシナプス可塑性を阻害して、長期増強と記憶の形成が損なわれるという一連のプロセスが明らかになりました。

 教授らはこの5アルファレダクターゼ阻害剤を使用したところ、アルコールによってこうした事態が生じないことが確認されたということです。
>>>(上記リンク先から引用)

PTSDは、記憶の定着を阻害することで重症化を防ぐことができると考えられます。ショッキングな体験の後、速やかにプロプラノロールを使用することで、それが実現できるという話を聞いたことがあります。上記の研究結果の成果を活用し、ステロイドを利用して記憶の定着を阻害し、PTSDを軽症化させることができるのでしょうか。今後の研究を待ちたいと思います。

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2020年04月26日

詐欺に注意

昨日今日と強い風が吹き、西風に乗って黄砂が飛んできているようです。ただし、新型コロナウイルス感染症防止のために世界的に経済活動が著しく低下していることもあり、中国における大気汚染物質が少ないものと思われ、PM2.5によるアレルギー性鼻炎の症状悪化の程度は例年ほどではないような気がします。

そんな中、中国よりもっとずっと西の方では、サバクトビバッタが大群となって、東アフリカから中東を超えてパキスタンやインドにも押し寄せているようです。大群は、幅40キロ長さ60キロにも及び、その数、何と2000億匹と言います。



BBC Earthチャンネルに動画がありますので掲載しましたが、不快映像と感じる方が多いと思いますので、やや小さめの動画を選びました。BS1でも「サバクトビバッタの猛威」と題して3月16日に番組が放映されています。


バッタたちは、東へ東へと進み、海を越えて日本にも訪れるのではないかという不安を抱かせますが、実際には、一部が中国に侵入する程度で、ほとんどはパキスタンやインドくらいまで行って、東アフリカの方へと引き換えしていくそうです。

日本には来ないと言われても、どんどん迫ってきているという情報が流れてくれば、不安が高まります。そんな時には、「今回の大群はこれまでと違い、海を超えてくる」、「今のうちにバッタ除けの網を用意しておかないと、家が食い尽くされる。」、「早くしないと品薄になって入手困難になる。」などと不安をあおられると、明らかなデマであると思いつつも、不安が先に立って、念のため用意しておかなければいけないなどと考え、使われることのない網を高額で購入してしまうのです。

不安をあおるネタは続きます。サバクトビバッタによる農業被害が膨大なものとなり、世界的に穀物の価格が上昇するので、保存用のコメや小麦、乾麺などを早めに買っておいた方が良いというようなうわさが流れると、スーパーからそうしたものがなくなってしまうでしょう。

新型コロナウイルスに関連して多くの人が不安を募らせた状態に追い込まれていますので、平時よりも容易に人をだますことができます。

現在はさまざまな手口での詐欺をやりやすい環境にあることを国民みんなで共有し、だまされないための対策を立てておく必要があると考えています。

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2019年12月21日

陣痛の記憶

生後5日弱

生後5日目の小ささを実感できないかと思って,ベビーベッドの大きさと比較してみました。本当は,一升瓶と並べてみたかったのですが,この子の将来への影響について考え,断念しました。

さて,ベビーのママは,いまだにお産の痛みを引きずっていて,鎮痛剤を頓用に使用している状態ですが,それにもかかわらず,もう陣痛の痛みは遠いところ行ってしまい,余り実感を伴って思い出すことができないようなことを言っていました。ママのママも同感である旨を述べておりました。

二つの事例をもって一般化するのは危険ですが,無責任なことが言えるブログなので,思うところを述べさせていただくと,出産のあまりにも大変な体験を生々しく記憶していると,二人目以降の子どもができなくなってしまいますから,その体験に伴う苦痛や不快感が,出産後比較的まもない時期,少なくとも120時間以内(ベビーはまだ120時間弱です)には記憶から抜け落ちていくような仕組みが備わっているのでしょう。

この脳内のプロセスについて解明すれば,もしかすると,PTSDに伴う苦痛や不快感を緩和し,治療へとつなげることができるようになるかもしれない,などと考えたのでした。

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2019年11月28日

てんかんVSトラウマ

PTSDや依存のように,治療が容易でない精神科領域の問題をどうにかしたいという問題意識からあれこれ考えています。

側頭葉てんかんの患者さんの中に,神との邂逅を果たしたなどと訴える方が時々いらっしゃるそうです。こうした強い現実感を伴った体験は,その人を変えたように見えます。それほど強いものであれば,トラウマや依存とぶつけると,それらを緩和したり無力化したりできるのではないかといったことが考えられます。

てんかんの専門家が,そのような体験をした患者さんについて,以下のように語っています。

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・・・僕の診たてんかん患者で非常に印象的な人がいてね。入院していてある朝、起きてくるなり、「治った!」というわけですよ。自分は病気が治ったからもう帰る、と。
 「どうして治ったと分かるの」と聞くとね、神様みたいなのが現れて、治った、と言ってくれたというんですよ。その人は別に知能が低かったり、妄想だらけで全然話ができないような人じゃなくて、いつもは普通の人なんですよ。でもその確信が、ものすごく強いんですよ。
 だから、普通の人にはあり得ないような神秘体験、啓示の体験をするみたいですね。
 おそらく、これは推測ですが、寝ている間に発作が起きて、それが特殊な夢のような体験として残ったんでしょう。それで変な納得をしてしまうと、なかなか修正できないんです。
>>>(NetScience Interview Mail;深尾憲二朗

トラウマなどが苦痛を伴うのに比べると,本人的には幸せを感じているようで,その点が両者の間で違っています。もう少し引用します。

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 僕はこれとね、おそらく粘着性とは裏腹な関係にあると思っているんですよ。粘着性というのはさっき言いましたが、とにかくしつこい、くどい性格ですね。おそらくこれはね、「納得できない」んだと思うんですよ。さっきデジャビュはcognitive seizureだという言い方は気にくわんと言ったけども、一理あるとは思うんですよ。
 つまり「認知」という言葉をどう捉えるかなんだけども、「しっくり」くるっていう感じね。これがたぶん欠けているんですよ。
>>>(同上)

1回の体験がその後変えがたいものになる点はトラウマと似ています。

とても乱暴ですが,PTSDとてんかんを拮抗させると,神がトラウマを消してくれました,というようなことが起こらないでしょうか。どうなるか興味があります。

ちなみに,神は,TMSを用いて体験させることができるのではないかと思っていますが,これは間違っているかもしれません。


臨床の現場でてんかん患者さんと接する可能性のある方は,上記引用で勉強することをお勧めします。理由は,以下の引用のとおりです。

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最近の一般向けのてんかんの本には、てんかんの性格障害のことってあんまり書いてないんですよね。これにはね、いろいろ事情があるわけですよ。てんかん患者で精神病症状を現す人は一部なのに、福祉行政などにおいて、てんかんが精神障害として扱われていることに対して患者団体が批判的だということがあるんです。
>>>(同上)

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2019年11月12日

トラウマは時代を変える


【対談】堀江貴文 × 中田敦彦(前編)~エクストリームイノベーター#01~

現在このブログが乗っかっているのは,Livedoor Blog ですが,これを作ったホリエモンは,突っ走りすぎて刑務所に収監されました。

刑務所に入ることとなった反省と言えるかどうかわかりませんが,同じミスを繰り返さないために,彼が調べたのは「検察」についてでした。あるいは,「権力」についてと言っても良いでしょう。

アマゾン,グーグル,テスラといった世界に名だたる大企業の創始者らと共に未来について語っていたホリエモンは,彼らと同じようにビッグな組織を着々と作っていたのですが,日本の権力の中枢に邪魔されたと捉えているようです。

動画の中で,「いーんだけどさ。」という言葉を繰り返すホリエモンに,ぎらつく野心は見えません。

バブルのトラウマが権力者たちの不安を煽り,早々にホリエモンを退場処分にしたことで,日本に野心的先進的なスタートアップ企業が誕生しにくくなったことは,日本にとって大きなマイナスであったと言えるかもしれません。

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2019年10月25日

PTSDは再生医療の対象か

iPS細胞の画期的なところは,本来は不可逆的な過程である体細胞を初期状態に戻す,つまり,可逆的にしたところです。

初期状態にすることができるのであれば,細胞が分化していく過程を,一つとか二つとか遡ることも可能ではないかと考えられます。エピジェネティックスにおけるメチル化も,不可逆的な過程の一つかもしれません。

トラウマが不可逆的である原因が細胞レベルのことなのか,神経細胞のネットワークの変化のことなのか,またエピジェネティックスとの関係はどうなっているのかといった問題を明らかにする必要はありますが,もし,細胞レベルの問題が立ちはだかっているとすれば,その問題を解決することで,PTSDへの治療へと一歩近づくことができます。

臨界期のコントロールについてのヘンシュ貴雄の研究も,不可逆的な過程を可逆的にする試みだったように思います。

PTSDも,再生医療の対象と考えると,解決しやすくなるかもしれません。

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2019年10月13日

トラウマと風化

おかあさんがてれびをみている

 たいふう?

はばがひろいみどりいろのてーぷをもってきて

おかあさんが,まどにおおきくばってんをかいた!

 よんまいぜんぶ,ばってんだ!!

いつもよりやさしいようなきがするけど

 なんだか,いつもとちがう!?


台風19号は,通り過ぎた今も多くの河川の氾濫を引き起こし,引き続き被害を拡大させています。我が家には台風がかなり接近して強風にさらされ,風の音に緊張感を高めましたが,特段の被害や停電等もなく終わり,ほっと胸をなでおろしています。

何事もなく終わると,迫力のあるヴァーチャルリアリティと大差ない体験として記憶されるのでしょうか。それとも,被災して面倒な思いをしても,恐怖のような強い情動体験がないと,トラウマは形成されないのでしょうか。戦争も災害も,じわじわと進むと,だんだんそれが日常になってきて,トラウマにはならないのかもしれません。

昨日も,強風の音を続けて1時間も聞いていれば,次第に飽和するというか麻痺するというか,そのような変化が起こってきて,強風の音に対する不安が減衰するのを感じていました。適応のための仕組みが,災害等の教訓を風化させているような気がします。

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2019年10月05日

スポーツの秋

先週末に,台風が接近しているという情報をもとに日除けを外したのですが,台風によるは大して吹かず,この時期らしからぬ暑さが続いて,今日も30度を超えました。

そんな暑さの中,近所の公園では,幼稚園の運動会が開催され,午後からはプロ野球のクライマックスシリーズ第1戦があり,夜にはワールドカップラグビーで日本対サモア戦が行われるなど,各地でスポーツの熱戦が繰り広げられたようです。

ということで,観戦疲れしてしまいました。中でも,ラグビーは観ていて力が入ります。観戦症とも言うべき症状が出てしまいます。?

自分が試合に出ているわけでなくとも,一緒に戦っているかのような一体感が生じ,いつでも仲間に加勢することができるように,ヒトの身心は作られているようです。ヴァーチャルリアリティでドキドキできるのも,こうしたヒトの性質の故です。

交感神経は,現実的でないことにも反応するということです。何度無駄になってることがあっても,程度の差はあれ,交感神経は働きます。これが「オオカミ少年」と異なるところです。

危険に備えるに当たっては,裏切られようがどうしようが,準備をするというのが,進化の過程で選択していた生き残るための戦略です。

PTSDも,その戦略の先にあるものです。テレビで観戦していると分かっているのに,現場にいるときのような興奮を毎回してしまい,自分ではどうしようもないという悩みを持つ人もいるかもしれません。しかし,そういう人の場合は,テレビを観なければよいので,あまり問題にならないのかもしれません。

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2019年09月30日

トラウマの消去

「脳のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)がレム睡眠中に記憶を消去している」そうです。

耳慣れないこのMCH神経は,「食欲を増進する神経とされてきたが、近年、睡眠覚醒調節にも関与していることが報告されている。」ということで,食欲やら睡眠といったヒトの基本的な働きを調節しているようです。

このMCH神経が,記憶の中枢領域である海馬の神経活動を抑制するというところが,今回発表された研究のキモです。

覚醒時,REM睡眠時など,いろいろな条件下で,MCH神経活動を活性化すると記憶の消去が進むことが判明しました。

REM睡眠中の夢が記憶に残りにくいのは,MCH神経の活動によるものである可能性があります。

ここまでは名古屋大学の研究です。

別の実験では,「MCH神経の活性化により文脈的恐怖条件付けの記憶も消去された」ということも言われています。

このあたりの研究を進めていくと,トラウマを消去できるようになるかもしれません。PTSDの治療の糸口が見えてきたようです。

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2019年07月08日

PTSDの緩和ケア

「フクロウ博士の森の教室」シリーズ2の第2回は「記憶のヒミツ」です。ここの最後の方で,PTSDが取り上げられています。

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たとえば,地下鉄の中で非常に大きな災害に遭遇したとします。すると,地下鉄はもちろん,船やバスなどの乗り物や人ごみの中など,本来は災害とは関係のないことでも,災害の記憶がフラッシュバックしてしまうのがPTSDの特徴です。
こうしたPTSDは,トラウマ体験をしたあと1か月以上経って発症するのが普通です。
事故などのトラウマ体験のきおっくが海馬にあるときは,関係のない記憶と連合しやすい状態にあるためです。

そこで私たちは,被災者がトラウマ体験をした日からただちに介入して,海馬にある記憶を大脳皮質に移してやると効果があるのではないかと考えました。

大脳皮質では,それぞれの体験が別々の引き出しに区分けて仕舞われるので,連合しにくくなります。トラウマ体験そのものを消すことができなくても,独立した記憶として仕舞い込むことで,PTSDの症状をやわらげることができるのではないかと考えています。
先ほど,神経新生を促進すれば,海馬から大脳非膣に記憶が移っていくと話しましたが,海馬の神経申請を促進するDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などを精神科医師と協力してトラウマ体験者に投与して効果があるかどうか調べています。
>>>(富山大学大学院 医学薬学研究部(医学)井ノ口馨教授による)

PTSDは,扁桃体との関係が深いので,PTSDが形成される前に降圧剤(塩酸プロプラノロール)やテトリスなどを用いて,ショックを和らげる方向での対処方法が有効だと思っていますが,別のアプローチもあるということが分かりました。

対処方法がいくつもあれば,それだけ救われる可能性がある人も多くなるので,いろいろなアプローチを試みると良いと思います。

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2019年06月03日

「頭が真っ白になる」のは死んだふり

「頭が真っ白になる」をWeblioで調べてみました。

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意義語
 非常にあわてて正常な判断ができなくなること
類語
 シドロモドロになる ・ 頭が真っ白になる ・ 狼狽する ・ 狼狽える ・ 挙動不審になる ・ パニクる ・ パニックになる ・ オタオタする ・ あたふたする ・ 平静さを失う ・ 動揺する ・ 慌てる ・ 思考が止まる ・ 思考停止する ・ 恐慌をきたす ・ パニック状態になる ・ 半狂乱になる ・ 狂う ・ 取り乱す ・ 冷静さを失う ・ 混乱する ・ 動転する ・ どぎまぎする ・ 何が何だか分からなくなる ・ われを失う ・ 頭の中が真っ白になる ・ 落ち着きを失う ・ パニックを起こす ・ アワを食う

意義語
 極度の緊張や恐怖などによって何も考えられなくなること
類語
 思考停止に陥る ・ 頭が回らなくなる ・ 頭が真っ白になる ・ どうしていいか分からなくなる ・ 茫然とする
>>>

白髪の話が出てこないのはさすがです。

さて,「頭が真っ白になる」で検索をかけて出てくるのは,ほとんどが,そうなったときの対処方法についてです。

ここでは,少し異なる視点から考えてみます。

山を歩いていて,突然クマに対峙したときなどには,通常は闘争又は逃走という手段を選択します。

極度の緊張や恐怖に直面すると,迫り来る危険を回避するために,交感神経を活発化させ,末梢の血液を筋肉の方に移動させて,闘うとか逃げるという手段に向かうのが一般的です。しかし,それらのどちらもできない状況もあるでしょう。そういうときには,固まって死んだふりをするという第三の手段に出ます。

つまり,「頭が真っ白になる」というのは,何も考えずに固まって死んだふりをすることであり,生き延びるための第三の手段としてヒトが獲得してきた仕組みであろうと考えます。


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2019年04月06日

慢性疼痛とトラウマ

IMG_20190406_海蔵寺のカイドウ
少し早いかと思いましたが,海蔵寺の海棠(カイドウ)は良い感じに咲いていました。ここ数年の台風被害でだんだん木が小さくなるように感じて,木の全体像よりも花の方を中心に写してしまいました。カイドウがこれだけ咲いている頃は,鎌倉のソメイヨシノは散っていることが多いのですが,今年はここ数日の気温の低さもあって今が満開で,風に花びらが散る様子がようやく見られるようになっており,昼間の温かさに上着を脱いで歩く今日は,絶妙な花見日和だったようです。

慢性疼痛は身体の痛みですが,トラウマはこころの痛みで,もしかすると似たようなことがあるのかもしれません。

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2019年03月31日

投影とPTSD

プロジェクション(投影)というのは,フロイトの防衛機制としてかなり前から知られているものです。

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自分の中にある受け入れたくない不都合な感情や衝動を、他人のものだと思い込むこと。例えば、同僚の一人が嫌いだとして、他人を嫌う自分の感情を認めたくないために、「相手が私を嫌っている」と自分の感情を相手に押し付けて自分の好ましくない感情をないものにしようとする。
>>>(投影とは

プロジェクションサイエンスにおいては,過去の経験の蓄積が投射されたもの(プロジェクション)として認知が成立するといったことが言われています。認知に焦点が当てられているように思えます。

しかし,過去の経験は,認知からのみ構成されるわけではなく,情動も関わってきます。

「Aさんが私のことを嫌っている。」と感じているときに,自分が相手を嫌うということを認めると,自分の心が狭いように思えて,それは嫌だから,相手が自分を嫌っていることにするというように,現実をゆがめて自分の気持ちを楽にするというのが防衛機制的な説明です。

Aさんと私の間には,それほどはっきりとした「嫌う」という感情はないのかもしれません。つまり,何となく関係が良くないように感じている状態というのがあって,それをAさんが自分を嫌っていると解釈していると考えることもできます。もちろん,その方が自分に都合が良いということもあるでしょう。自分が嫌っているという解釈もできないことはないけれど,自分の内面に目を向けると,嫌っているという感情はないので,そうではないと結論付けるということかもしれません。

こうして考えてくると,プロジェクションには,認知的な属性にとどまらず,解釈も含まれてくるということになるように思います。

「露出度の大きい女性は,性的関係を求めている。」といった性犯罪者によくある認知のゆがみは,自分に都合の良い解釈をする傾向,つまり防衛機制によるものであるとすると,「自分に都合の悪いこと」について精神分析していかないとゆがみを修正することが難しいということになるでしょう。

認知のゆがみの背景にトラウマがあることも少なくないものと思われます。


うまくまとまらなかった年度末です。
さて,明日からいよいよ新年度です。新元号も昼前には発表されるようですね。

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2019年03月29日

PTSDへの対処

トラウマになるような体験があった後,一定の時間(20時間?48時間?)以内にプロプラノロールを服用すると,トラウマが形成されない,あるいは軽症化するというようなことは,このブログでも何度か書いてきた気がします。そのことについて,後に別の研究が行われたようなので,簡単に紹介します。

別冊日経サイエンス218のP117にある「記憶が存在する場所」という記事です。

一定の時間が経過した場合はトラウマが形成されてしまうけれども,その記憶を想起した際に,再活性化されたシナプスが強化されるだけでなく,一時的に変化の影響を受けやすくなる,つまり,ここでプロプラノロールを用いると,再固定化を阻害してトラウマをなくすることができる可能性があることに注目し,実際どうなるのかを試しました。

アメフラシを用いた実験を行い,当初はプロプラノロールがシナプスの連結を消去したように見えました。ところが,ショックを思い出させるような刺激を与えると,48時間以内に記憶は完全に戻ってしまいました。

シナプスの再固定化は阻害できたけれども,記憶はシナプス以外のところに保存されているので,そこから記憶を取り出す(想起する)ことができるということのようです。

この結果から,記憶は,何らかの形で,神経細胞内にあると考えられています。

ということは,認知症の場合も,うまくやれば記憶を取り出すことができるようになるということかもしれないといったことを記事では書いています。

ここからは私見ですが,PTSDは,記憶痕跡が問題なのではなく,それに伴う苦痛が問題なのです。とすると,強く結びついている記憶痕跡と不快情動とを切り離してやれば,トラウマ的記憶を想起してもつらくないところに持っていけます。

このようなチャレンジも誰かがやっているに違いありません。

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2019年03月16日

インフォームドコンセントの陥穽

医療現場においては,「医師が正しい情報を十分に提供をすれば,患者は合理的な意思決定ができる。」との前提で患者への情報提供がなされていますが,その前提は間違っており,情報が患者にどのように受け止められるかを熟慮の上で提供すべきであるという考え方が広まりつつあるようです。

HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染した人の一部に発症する子宮頸がんにつき,そのワクチンを接種したことによって,疼痛やけいれんなどの副反応が起きたことで,厚労省が積極的な接種勧奨を差し控えたというケースが大きく報じられました。

HPVワクチン接種により,子宮頸がんのリスクが大きく低下することが確認され,2013年4月から公費負担で接種できるようになった2か月後に接種の勧奨差し控えがが発表されたのです。

データとしては,ワクチン接種による副反応が起きる確率は0.007%(10万接種につき件)程度,それに対して,ワクチン接種によって約60%の子宮頸がんが予防できるということが示されています。

対象となる12歳から16歳の女児の母親の多くは,この数字を「副反応のリスクがゼロでなく,ワクチンを接種しても100%がんを予防できないわけではない。」と受け止め,接種に消極的な態度を示しました。

このケースについては,報道によって副反応の起こる主観的な確率が著しく大きくなったという面はあるでしょうが,仮に報道に接していなかったとしても,多くの人がそれらのデータを見れば同じような受け止め方をします。これについては,行動経済学(プロスペクト理論)が多種の実験的な手続きを通して明らかにしています。

ただし,データの提示のしかたによって受け止め方は変わります。「ワクチン接種によって子宮頸がんの約60%を予防できますが,まれに副反応で疼痛等が起こる場合があります。まれにというのは,10万人に7人程度です。」と提示するだけで,印象はかなり違います。

トラウマがなくても,ヒトは不安が先立ちやすいものであるようです。いわんや・・・・をや。
心理相談などの現場でも,どのように伝えるかといことを十分に考えておく必要があるということだと思います。

上記は,日経サイエンス2019年3月号の記事「コミュニケーションギャップの処方箋」を参考にして記載しました。

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2019年03月12日

確証バイアスとPTSD

知的な人に対して,ある問題に関して自分の考えに沿う証拠と一致しない証拠の両方を考えるよう強いた場合に,その人の考え方はどう変化するでしょうか。

スタンフォード大学で1979年に実験が行われました。40年くらい前ですね。

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学生たちはまず,死刑の犯罪抑止力に関する科学的研究結果をいくつか読まされた。・・・中略・・・死刑に抑止効果がないことをうかがわせる結果だ。
学生たちは次に,別の科学者がこの研究の弱点と思われる点を指摘する主張を聞いた。次いで,最初の研究者がこれに反論する。その後,学生たちは,最初の研究とは逆の結果を示唆する例,つまり極刑が他者の犯罪を抑止するという研究結果を聞かされる。
・・・後略
>>>(日経サイエンス2019年4月号;科学的思考を阻むバイアス)

さて,学生はどう変化したでしょうか。

中立的になるかと思ったら,死刑を支持する学生は以前よりも更に支持を強め,反対していた学生は更に死刑を認めないという態度を強めたのでした。

竹島は日本のものか韓国のものかという答えのない問題については,議論を深めるほどに対立が深まるということでしょう。この場合,対立を深める原因として働いているのは,認知ではなく,感情です。愛国心は,感情を多く含んでいます。

トラウマを抱えた人の認知が変わりにくいのも,同じ理由です。説得しようとすればするほど,頑なになって,認知を強固なものとしてしまうおそれがあります。PTSDの治療の難しさは,こんなところにもあります。

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2019年03月09日

虐待の連鎖を切る

認知行動療法などの心理療法において,トラウマが壁となって立ちはだかることが多く,例えばPTSD治療薬の開発することをとおしてその壁をなくすることができれば,心理療法が格段に有効に機能するのではないかといったことを3月2日に書きました。

治療薬の活用場面はそれにとどまりません。PTSDと言えば虐待を受けた子なども,深いこころの傷を抱えているに違いありません。そうした被虐待児の心の問題を解決するためにも,治療薬は活用できるものと思われます。

ただし,薬だけ与えればよいというものではありません。

深い心の傷ゆえに,人とのかかわり方が歪んでしまっていることが多いので,人と適当な距離を取って,円滑なコミュニケーションが持てるように支援する必要があります。

薬と心理療法を併用することで,初めて円滑な対人スキルを身に付けることができるのです。薬を処方する医師と,対人スキルのトレーニングを行う心理師等がチームを組んで関わっていくことが求められます。

虐待の連鎖を断ち切るには,こうした取り組みが必要になると考えます。

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2019年03月07日

PTSDが作る壁

3月2日に「認知行動療法等の心理療法において,トラウマが改善努力の前に立ちはだかることが多い」と書きました。

その原因について考えてみます。

認知行動療法の中では,認知のゆがみを自覚して修正していくことの大切さなどについて取り上げることが多いのではないかと思います。

例えば,「全か無か」あるいは「黒白思考」などといった極端な物の考え方をしがちな人に対して,どんな人にも良いところと悪いところがあるので,少し悪いところが見えただけでその人の全てを悪いと考えると間違った見方をしていることになり,円滑な関係を持つことが難しくなるので,そういった認知を改めましょう,といったことを教えます。

しかし,そのような極端な考え方をしてしまう人は,理由があってそのようになってしまっていることが少なくありません。虐待や性被害等の体験があると,人と接する際に,恐怖や不信感が先に立ち,おそるおそる信頼して関わろうとしていても,情緒の安定した人ならばささいなこととして流せるようなことに過剰に反応して,裏切られたように感じてしまいます。

異性とのかかわりにおいて,そのような過剰な感じ方をしていては,相手との円滑な関係を持つことが難しくなります。異性を尊重し,相手との信頼関係の上に性的な関係を持とうとしてもうまくいかず,性加害へと向かいやすくなるのです。

このような人の場合は,トラウマをどうにかしないと,認知を変えることが困難です。

3月2日に紹介した,PTSDの治療薬が使えるようになると,恐怖が先立つことがなくなり,認知を変えやすくなります。

トラウマを抱える多くの人の救いとなる可能性が高いと思います。

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2019年03月02日

PTSD治療薬

最近は,30分弱程度歩いて図書館に行き,日経サイエンスの記事を写真に撮ってきて,パソコンで読むという情報収集スキルを身に付けました。図書館でコピーを取ることもできるのですが,紙を増やさないことのメリットがあるので,写真にしています。時に読みにくいこともありますが,大体読めることがほとんどです。

さて,本年1月号の特集「免疫系が脳を動かす」についてはまた改めて読むことにして,同じ号の別の記事で,睡眠研究の第1人者の一人,柳沢正史氏の研究についても若干紹介されていたので,それに関連して思うことを書きます。

「眠気を規定する物質の発見から眠気の全貌に迫りたい」というタイトルがついている1ページの記事です。

睡眠を規定する物質としては,オレキシンが一番に出てきます。睡眠関係ですから,この物質の発見をきっかけとして睡眠導入剤の開発が行われ,商品化されているというところまでは,私でもすぐに理解できるところです。

これで終わりではありませんでした。オレキシン拮抗薬には2種類あって,ひとつは上記のような睡眠に関するものですが,もう一つは「恐怖」という情動に関係するものです。

「オレキシンがOX1受容体に結合することで,脳深部の神経細胞群を刺激し,恐怖レベルを増強する」そうです。「この成果は,OX1受容体拮抗薬が,心的外傷後ストレス障害(PTSD)に見られるような過剰な恐怖反応やパニック発作を抑制できる可能性を示唆している。」と続いており,治療薬開発への期待が示されています。

認知行動療法等の心理療法において,トラウマが改善努力の前に立ちはだかることが多いことは,このブログでも10年くらい前から何回か書いているところですが,こうした治療薬が開発されれば,心理療法との相乗効果が期待できるのではないかと思っています。

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2018年12月10日

心の傷はどこにある

外傷的な体験があっても,その体験から20時間?以内にプロプラノロールを服用すれば,PTSDが形成されない,または軽症化するということをこのブログでも何度か書いてきたように記憶しています。外傷的な体験がPTSDになるには一定の時間が必要であり,その間にPTSDが形成されるのを阻害することが可能であるというところに意義があります。

問題は,外傷的な体験の直後にしか,そのような手当てを行うことができないことでした。

その後の研究によって,PTSDが形成された後に,外傷的な体験について想起してからプロプラノロールを投与すると,記憶の再固定化を阻害することができるので,これをPTSDの治療とするチャレンジがなされました。

その結果,トラウマの記憶を保存していると考えられるシナプス(ニューロンのつながり)を消去することができました。しかし,ショックを思い出させる刺激を与えると,48時間以内に記憶は元通りになってしまったのです。

失敗でした。

しかし,この実験の結果から重要なことが分かりました。記憶はシナプスにあるという定説が怪しいということです。シナプスから消去された記憶は,どこに避難していたのでしょうか。

脳細胞を詳しく調べてみると,シナプスが消えた後も,最初の発火後に細胞内に生じた分子的・化学的変化がそのまま残っていることが分かりました。

ここのところの仕組みが,まだ十分に解明されていないというのが4年ほど前の状況です。

この後,研究はさらに進んでいるものと思われます。

今日取り上げた内容は,日経サイエンス2015年6月号「News Scan 海外ウォッチ」に掲載されたものです。

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2018年12月03日

記憶のコントロール

記憶をコントロールする実験について紹介します。

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昆虫を含む節足動物の記憶中枢として働くのは、キノコ体と呼ばれる脳の一部です。フロリダのスクリプス研究所に勤める神経科学者のロナルド・デイヴィス氏はショウジョウバエを用いた実験で、ショウジョウバエに電気ショックを与えた時に特定の匂いを嗅がせ、ショウジョウバエがその匂いを避けるようになったことを確認しました。

続いて、デイヴィス氏らの研究チームはキノコ体に対するドーパミンの放出を阻害し、ショウジョウバエがどの程度匂いについての記憶を保持しているのかを確かめました。すると、ドーパミンの放出を阻害されたショウジョウバエは、そうでないショウジョウバエと比べて2倍も多く記憶を保持していたことが明らかになりました。この結果から、デイヴィス氏は「ショウジョウバエは新しい記憶が作られた後、ドーパミンの放出によって記憶が消去される忘却システムが働く」と結論づけました。
>>>(脳は積極的に「記憶を失おうとしている」ことが判明

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北京の清華大学の脳科学教授であるイ・チョン氏は、マウスの脳を操作して海馬におけるRac1というタンパク質の活動を阻害すると、マウスが記憶を保持する時間が延長されることを突き止めました。反対にRac1の活動を活性化させると、マウスはすぐに記憶を失いやすくなってしまったとのこと。
>>>(同上)

もう一ついきます。

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神経発生と呼ばれる現象が記憶の消去に関わっている可能性も示唆されています。ニューロン新生や神経形成とも呼ばれるこの現象は、神経幹細胞や前駆細胞から新たな神経細胞が分化するもので、新たな記憶の形成に関わっていることが判明しています。

従来の研究では、マウスの海馬における神経発生を阻害すると新たな記憶形成を妨げ、神経発生を促進すると新たな記憶形成をより強化するとわかっていました。ところが、トロント大学の神経学者であるポール・フランクランド氏が実験したところによると、記憶を植えつけるために訓練した後に神経発生を促進したマウスでは、訓練した後に神経発生を促進しなかったマウスよりも1カ月後の記憶定着率が低下していることが判明したそうです。

フランクランド氏は、神経発生によって新たな回路が海馬に形成されることで、古い回路から記憶を取り出しづらくなってしまうのかもしれないとフランクランド氏は語りました。海馬に蓄積された短期的な記憶が長期的な記憶に変換され、脳の皮質に広がっていく前に、神経発生によって忘却されてしまう可能性があります。
>>>(同上)

こうした研究の活用可能性についても書かれていました。

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記憶の消去がある程度能動的な働きによって行われる以上、忘却のプロセスを人為的に操作することができるかもしれません。ヤゲマン氏は人間における記憶の忘却プロセスが明らかになれば、人々が嫌な記憶を消去することや、大切な記憶を長く保持することができる可能性があると考えています。

また、アルツハイマー病や認知症のように記憶が失われてしまう病気の治療にも、有効な手立てが見つかるかもしれないとのこと。フランクランド氏はPTSDの治療にも記憶忘却のプロセスが応用できるかもしれないと考えており、「トラウマとして残ってしまった記憶を消去して、PTSDが治療できるかもしれません」と語っています。麻薬やアルコールへの依存症患者に対する治療にも、記憶忘却のプロセスが応用できる可能性があるとフランクランド氏は話しました。
>>>(同上)

記載のとおり,可能性は大きく広がっていると考えています。ただし,主に海馬の研究から上記のような成果を得ているようですが,PTSDについては,扁桃体との関係が大きいので,上記のようなアプローチだけで治療することは難しいような気がします。

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2018年11月30日

猫の死体

日経サイエンス(2016JAN)に掲載されている睡眠関連の研究の続きです。

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・・・道の真ん中に猫の死体がある写真など,嫌悪感を抱くようなものが写っている様々な写真を被験者に見せた。一晩睡眠をとった被験者は死んだ猫の姿を正確に覚えていたが,背景の詳細は忘れていた。
 最も印象的だったのは,被験者を午前中に訓練し,眠らずに日中を過ごしてもらい,その日の夕方に試験する場合には,背景の詳細の選択的忘却が見られなかったことだ。また,画像の主題が嫌悪感を抱くものではなく,道路を横切っている猫のようなものだと,選択的忘却は起こらなかった。つまり,覚醒ではなく睡眠が,被験者の脳に中立的な主題(道路を横切る猫など)や背景よりも,強く感情を掻き立てる主題を優先的に強化させたのだ。
>>>

睡眠中に強化されるのは感情的な記憶だけではないようです。

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特定の課題を出された被験者に,その課題について睡眠後にテストする,あるいはしないと伝えると,それが睡眠中に起きることに影響することを示した。訓練の翌日に,被験者をテストすると,予想どおり,テストすると伝えていた情報に関してのみ成績が向上した。対照的に,午前中に訓練した被験者をその日の夕方にテストした場合,テストすると伝えておいた情報とそれ以外とで成績に違いは見られないようだ。つまり,覚醒ではなく睡眠が,私たちの脳が重要だと考える記憶を選択的に強化するのだ。
>>>

トラウマは,自分の生命身体にかかわる危険を回避するという「重要」な目的のための記憶の機能が過剰になって,生活上の支障を生じているものです。

死んだ猫に関する情報は,トラウマを形成するに至らない程度のものですが,情動に作用し,危険を回避するために記憶すべき重要な情報であるというスイッチをオンにするのでしょう。

後でテストしますと言われることは,自分の記憶力を試され,結果が悪いと落ちこぼれとされてしまう危険をはらんでいるという意味では,重要な情報と言えるでしょう。これも結局は感情にかかわる記憶と理解できます。

両者の違いを明らかにするためには,脳のどこが活動しているか調べる等,もっと正確にそのあたりを確認する実験を行う必要があるように思います。

茶々を入れてしまいましたが,情動にかかわる記憶は睡眠を経ても残りやすいというのが今日のポイントです。

猫の死体の記憶映像を忘れたい場合など,情動にかかわる記憶を阻害する方法の一つとして,テトリス療法が考えられます。

徐々に記憶をコントロールする方法が見つかってきているようです。

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2018年11月26日

外界がわかること30

このシリーズも今日でエピローグとなりました。

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問うべきは,「植物は知っているのか?」であり,その答えならイエスだ。植物は光や色の微妙な違いを知っており,赤色と青色,遠赤色,紫外線を見分け,それぞれに反応する。植物は周囲に漂う香りを知っており,空中にある微量の揮発性物質に反応する。植物は何かに接触したときそれを知り,感触の違いを区別できる。重力の方向も知っていて,芽を上に,根を下に延ばすよう姿勢を変えることができる。過去のことも知っている。以前に感染した病気や耐え忍んだ気候を憶えていて,それをもとに現在の生理作用を修正する。
>>>

この本の筆者は,植物とヒトなどの動物との共通点について詳細かつ科学的に示してくれました。しかし,それと同時に違いも認識すべきであるというように結んでいます。

私の関心は,ヒトにおけるPTSDのように,適応のために獲得してきた危険感受性が,環境からの限度を超える刺激を機に過剰に働いて結果的に適応を害するなど裏目に出る,いわば自己免疫のようなことが植物にもあり,植物を研究することでこの問題を解決するためのヒントが得られるのではないか,というところにありました。

トラウマのような記憶が植物にもあるというところまでは書かれていましたが,そこからもう一歩踏み込んで,植物がトラウマによって適応困難になり,それに対して新たな戦略で対応して克服したというような事例が紹介されていることを期待していましたので,この点については求めていたものは得られませんでした。

現在,そのような研究がどこかで行われていて,その成果をPTSDの治療に応用できるようになる日が来ることを願っています。

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2018年11月25日

外界がわかること29

20181125 鎌倉岩瀬
これはシロイヌナズナではない植物の写真です。今日出かけて撮ったものです。本文とは関係ありません。

グルタミン酸受容体の活量を変える神経刺激性薬剤にシロイヌナズナが敏感に反応することを発見したというニュースに衝撃が走りました。

ヒトの脳にあるグルタミン酸受容体は,神経伝達,記憶形成,学習に欠かせない物質で,神経刺激性の薬剤の多くはグルタミン酸受容体を標的にしています。(参考までに,抑制性に働く薬剤はGABAです。)ヒトのニューロンにおける情報伝達に用いられるのと同じような仕組みが植物でも活用されているというのは驚きです。

植物においては,ヒトのような意味記憶やエピソード記憶はありませんが,手続き記憶のような仕組みがあるということは,このシリーズの中で紹介してきたとおりです。

読み進めている本で引用している,ある文献には次のように記載されています。「手続き記憶に特徴的な最低レベルの意識(無意識)が外部刺激および内部刺激を感知しそれに対応できるという能力を指すのであれば,すべての植物および単純な動物には最低レベルの意識があるということになる。」

最低レベルの「知能」と言って良いものなのでしょうか?

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2018年11月24日

外界がわかること28

紫外線や病原体による攻撃などが植物にストレスを与えると,その個体のゲノムに変更が生じてDNAの新しい組み合わせが出現します。

環境の変化に対応するためには,これまでの生き方を捨てて,新しい生き方を求めなければならないのです。新しい生き方が,環境に合わなければ生き残れない。それだけです。生き残れるように変化できたもののみが子孫へとつなぐことができるということです。

新しい生き方は,DNAの配列に起こる変異だけでないというのが昨日からのお話です。上記のDNAの新しい組み合わせとは,遺伝子のDNA配列ではなく遺伝子の活性状態のことです。以下も同様です。

<<<
ストレスを受けた植物がDNAの新しい組み合わせを作り出しただけでなく,その子孫が,直接そのストレスを受けていないにもかかわらず,同じDNAの組み合わせを作っていた
・・・(中略)・・・
子は親のトラウマを憶えていて,親と同じように反応する
>>>

ストレスによって誘発されるエピジェネティックな変更は,すべての細胞にいっせいに起こります。花粉の細胞にも,卵細胞にも。

親から子に引き継がれる「記憶」は,エピジェネティックな変更と関係しているものと考えられていますが,それ以上のことは現在究明の過程にあります。植物のみならず,動物においても次々と報告が上がっているようです。

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2018年11月23日

外界がわかること27

エピジェネティクスについてわかりやすく書かれている一節です。

「春化」という言葉は,現在では種子に人為的に低温処理をほどこすこと,あるいは自然にそうなることを指す一般用語となっています。

シロイヌナズナにも春化が必要な生態型の北の地域で育つものがありますが,南の地域の生態型は春化なしでも花を咲かせることができます。これらは,DNAは同じですが,北方生態型のみ春化が必要となるよう遺伝子が符号化されているのです。

春化が必要かを取り仕切っているのは,開花遺伝子座C(FLC)という遺伝子です。FLCを受け継いだシロイヌナズナは,春化を経るまで花を咲かせません。この遺伝子が開花を抑え込んでいるからです。一定期間の寒さを経験すると,FLC遺伝子がオフになります。

遺伝子のDNA配列を変えずに遺伝子の活性状態だけを変え,しかもその変更を親から子へと伝える働きのことをエピジェネティクスと言います。

どうすればDNA配列を変えずに遺伝子の活性状態だけを変えることができるのでしょうか。

DNAの二重らせんは,ヒストンという蛋白質を包み込んで,クロマチンというものを形成しています。クロマチンはさらにねじれて,DNAと蛋白質を小さくきつく縛った状態の構造にしています。クロマチンの部分部分は,ある時はほどけ,ある時は縛りなおされます。活性化した遺伝子は,ほどけたクロマチンの部分にありますが,オフになっている遺伝子は縛られた部分で眠っているのです。

クロマチン

種子を冷やすという春化処理は,FLC遺伝子の周囲にあるヒストンの構造を変え(これをメチル化と言います),クロマチンをきつく縛ります。すると,FLC遺伝子はオフになり,開花することができるようになるのです。

遺伝子の周囲にあるヒストンの形状の変更(エピジェネティックな変更)は,次世代へと引き継がれます。この仕組みは,植物に限らず,生物のさまざまな生理作用や病気を引き起こす原因として世代間で引き継がれるのです。

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2018年11月22日

外界がわかること26

気になる,植物におけるトラウマ,について見ていきます。「形態形成記憶」がキーワードです。

形態形成記憶とは,植物の姿かたちに将来的に影響する記憶です。
・・・植物なのに記憶という言葉が使われています。
植物はある時点で葉が裂けたり枝が折れたりといった外部からの刺激を経験すると,そのときは影響を受けなくても,環境条件が変わったときに過去の経験を思い出して成長のしかたを変えるのです。
・・・過去の経験を思い出すというのも,擬人的です。

アマという植物を用いた実験で形態形成記憶が明らかにされました。

アマの芽は地上に姿をあらわすとき,子葉という二枚の大きな葉を出します。
二枚の子葉の中心には頂芽(ちょうが)があり,それは中心線上にある茎から上向きに生長します。
頂芽が成長するとその下から,二つの側芽(そくが)がそれぞれ子葉と同じ側に出てきます。
側芽は普通休眠状態にあり,生長しません。
しかし,頂芽が損傷を受けたり切り取られたりすると,側芽は二つとも生長し始め,生長した新しい枝に,それぞれ新しい二つの側芽を付けます。これにより,頂芽が二つになるのです。

頂芽が側芽の成長を抑制しているのです。これを「頂芽優勢」と言います。

普通の状態なら,頂芽が刈り込まれると側芽は二つとも均等に育ちますが,頂芽を切り取る前に,子葉の片方を取り除いておくと,残っている子葉に近い方の側芽しか生長しません。

別の研究がそれに続きます。

(頂芽を切り取る前に)子葉の片方を取り除くまでしなくても,針で4回つつくだけで,側芽の非対称生長が引き出せることが分かりました。

さらに,子葉を傷つけてから頂芽を切り取るまでの時間を延ばして実験を重ねました。二週間あけても,同じ結果が出ました。傷つけられた子葉から遠い方の側芽だけが育つのです。

この記憶はトラウマになぞらえられます。二週間前の傷つきが成長に影響するのです。

続きがあります。片方の子葉に針を刺し,その数分後の両方の子葉をむしり取り,そのあとに頂芽を切り取ると,刺された使用と反対側の側芽が,同じ側の側芽より勢い良く育ちました。

情報がどのように保存されているかは,この時点ではまだ不明です。仮説との一つとして,オーキシンというホルモンの存在が関係しているという説があるそうです。

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2018年11月21日

外界がわかること25

植物の短期記憶(様の機能)についての研究です。概ね20秒程度の記憶の例を紹介します。

ブツはハエトリグサです。以前にハエトリグサについて紹介していますので,そこでも書いてあると思いますが,ハエトリグサは,獲物が葉の内側にある大きな黒い毛に接触すると葉が閉じる仕組みになっています。そのとき,黒い毛への接触が1回だけでは葉は閉じず,概ね20秒以内にもう1回触れることによって,初めて葉が閉じるのです。適当な大きさの獲物のときだけ作動する仕掛けです。

20秒程度の短期記憶です。

その過程を記憶の用語で整理すると,何かが1本の毛に触れたという情報を符号化します。これが記憶の形成です。次に,この情報を一定の時間(この場合は概ね20秒)格納します。これが記憶の保持です。そして,別の毛に触れたという情報に基づき,1本目の毛に触れた情報を回収し(これが記憶の想起です),2本目であることを認識します。

さて,ハエトリグサの中で何が起こっているのでしょうか。答えは,二度のカルシウムイオンの濃度変化です。つまり,一定の量に達した電流が葉を閉じるための信号となっているのです。

<<<
一度目の接触が活動電位を生じさせ,それは細胞から細胞へと伝わる。その電荷はイオン濃度の上昇という形で一時的に保存されるが,20秒後には拡散してしまう。しかしこの間に二度目の活動電位が発生すると,累積電荷およびイオン濃度が罠を作動させるのに十分なレベルに達する。一度目の活動電位の発生から二度目までに時間がかかると,植物は一度目の記憶を「忘れて」いるため,罠は作動しない。
>>>

ヒトでもハエトリグサでも,細胞膜にあるイオンチャンネルが開いてはじめて電気信号が細胞を通過できるので,このチャンネルをブロックすると,電気信号は遮断されます。化学物質を用いてチャンネルをブロック(阻害)すると,ハエトリグサは何をしても葉を閉じることはありませんでした。

さて,次はいよいよトラウマが取り上げられそうです。

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2018年11月20日

外界がわかること24

植物の記憶について見ていきます。

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エンドウマメから巻きひげを切り取って,その巻きひげに光と水分を十分に与え続けた。そして,その切り取った巻きひげの根元部分は,指でなでるだけでくるりと丸くなることを見出した。しかし,同じ実験を暗がりでやってみると,指でなでても丸くならない。巻きひげは,あの不思議な回転をするのに光を必要とするようだった。ここで興味深い問題が起こった。暗いところで触った巻きひげを,1,2時間後に明るい場所に移すと,その巻きひげはさわらなくても勝手に丸まるのだ。
>>>

暗い中で触られたという情報を何らかの形で保存して,明るいところに出たときにそれが呼び出されているようです。これは,ヒトの記憶で言えば,手続き記憶のようなものです。

ヒトの記憶の種類について,先で出てきそうな気配が漂っているので,整理しておきます。

感覚記憶:感覚器官からの入力を受け取り,ふるいにかける
短期記憶:数秒間,およそ7つの対象を意識上に保持する
長期記憶:最長で人が死ぬまで記憶を貯蔵する
このほかに,
筋肉運動の記憶:靴ひもの結び方など無意識のうちに習得するような手続き記憶の一種
免疫記憶:過去の感染を忘れずにいる・・・これのみ,脳によらない記憶です。


ところで,このシリーズはずっとカテゴリでをEMDRとしていますが,これはまさにトラウマという記憶への関心からです。トラウマは,単に長期記憶というにとどまらないものです。いずれこれについて,もっと深い考え方が示されることを期待しています。

次回は,植物における短期記憶を取り上げることになるでしょう。

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2018年11月18日

外界がわかること23

植物は,生長する方向を決めるために複数のセンサーを持っていることが分かっています。例えば,窓の横に置かれた植物は,光がやってくる窓の方向に伸びようとしますが,同時に,重力と反対方向である上方向へも伸びようとします。結論的には,それぞれの方向へのベクトルから割り出された方向へと伸びることになるようです。

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ヒトも植物も,重力に似たような方法で対応しており,位置と平衡の情報はそれを知らせてくれるセンサーから取り入れている。しかし,ヒトは動くとき,体の各部位がお互いにどんな位置関係にあるかを知っているだけでなく,動きを憶えている。だからこそ,その動きを何度も繰り返すことができる。
>>>

植物は,過去の動きを憶えているのでしょうか。記憶が次のテーマになります。


以下は余談です。
今日,窓の外を見ていて気が付きました。若葉色の葉っぱが,あちこちにあるのです。今年は,台風による強風や塩害で,多くの葉が茶色くなってしまいました。ダメージを受けたことを木が知ることができることはここまでに読んできた通りです。そうすると,現状のままでは光合成によって得られるはずの栄養を確保することが難しくなるので,緊急避難的に新たな葉を追加して,光合成させようとしているのではないか,などと考えたのでした。

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2018年11月17日

外界がわかること22

植物は結構動いているというところから話は始まって,宇宙にとんでいきます。

食虫植物やオジギソウのような速い動きではなく,低速度撮影で見えてくるような動きについての研究です。

低速度撮影ができるカメラがない時代から,植物の動きを記録した人がいます。植物の上方にガラス板を設置し,数分ごとに茎の先端の位置をマークしていったのです。どんな植物もらせん状に振れながら動くことがわかり,これは回旋転頭運動と名付けられました。そして,屈光性や重力屈性は回旋転頭運動の一種であるという説が生まれました。

これに対して,植物の回旋転頭運動は,重力屈性の結果に過ぎないという仮説が提示されました。植物は生長するとき,風などの物理的な作用によって茎の位置がずれますから,平衡石が位置ずれを起こし,姿勢を正そうとして動きます。しかし,動きすぎて,今度は逆に戻す必要がある・・・というようなことで動き続けるという考え方です。

重力によるかそうでないかを確認するために,スペースシャトル,コロンビア号にヒマワリが乗って宇宙に行きました。重力がほとんどなくても,回旋転頭運動が観察されました。しかし,それでよいのかという反論が出ていました。地上で芽を出したヒマワリだったからそうなったのであって,宇宙で芽を出すようにしたら結果は違うのではないか,というのです。

その確認は,宇宙への長期滞在が可能となった国際宇宙ステーションで行われました。宇宙で発芽したシロイヌナズナは,ごくわずかに旋回運動を示しました。もう一押しということで,宇宙ステーションの中で,遠心機を使って疑似重力を作って様子を見ました。すると,シロイヌナズナは重力を感知するや否や,大きく旋回しました。

回旋転頭運動は,植物に生来備わった振る舞いであるという説は正しいけれども,その力を完全に発揮させるためには,重力の助けが必要であるというのが結論です。

宇宙ステーションの中で何をやっているのかと思ったら,こんなことをやっていたんですね。



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2018年11月16日

外界がわかること21

植物のセンサーについて見ています。ここ最近見ているのは,重力センサーです。重力を感知して,根は下へ,芽は上へ伸びることを確認しました。

以前,芽の先に光センサーがあることを紹介しました。重力センサーも芽の先にあるのかと思いきや,それは間違いであることが,あっさりと示されました。芽の先を切り取って横に向け,光センサーが働かなくなっても,向きを変えて上に伸びて行くのです。

植物の根と茎とでは重力の捉え方が違うようなのです。そこで,変異させたシロイヌナズナを大量に調べました。縦に育てて,途中から横にするのです。ほとんどは,根を下,茎を上へと向きを変えます。しかし,向きを変えないものや,根だけ下に向くもの,茎だけ上に向くものなど,色々出てきました。片方だけが向きを変えるということは,それぞれが違う仕組みで向きを変えているということです。

遺伝学研究により,「スケアクロー」という遺伝子に変異が生じていたことが分かりました。

後に,スケアクロー遺伝子は,内皮の形成に欠かせない遺伝子であることが明らかになります。内皮とは,植物の維管束組織を包み込んでいる細胞集団です。この内皮が作られなくなると,根は短く弱くなりますが,それでも下に伸びていきます。根の先端にある重力センサーにはもともと内皮がないからです。しかし,茎の場合は,重力センサーを持っている内皮細胞がないと重力を感知することができません。

根の場合は,根冠の細胞内に「平衡石」というヒトの耳石と同じようなものがあり,それが移動して重力を感知します。茎の場合は,平衡石を持っているのが内皮細胞だけです。内皮においては,根冠と同じような仕組みで重力を感知します。

では,無重力の宇宙空間においては,植物はどのような振る舞いをするのでしょうか。次回その答えがわかると思います。

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2018年11月15日

外界がわかること20

重力が上から下に働いているとすると,芽は下から上へ,根は上から下へと伸びます。

植物は地球の重力を感知しているのでしょうか。重力と一致しない力を用いて実験を試みます。重力と一致しない力とは,遠心力です。植物を水車のような大きな構造物に固定し,回転させます。植物は,重力と同じ方向に遠心力を捉えることもありますが,重力とは逆の方向に捉えることもあります。数日水車を回転させると,すべての苗の根は遠心力の働く外側へ,芽は遠心力とは逆の水車の中央に向かって伸びていることが確認できました。

では,植物はどの部位で重力を感知しているのでしょうか。ある研究者(じつは著名なダーウィン)が,根の先に重力受容体があると仮定して実験を行いました。

キュウリの根の先をいろいろな長さで切り取って,湿った土の上に横たえました。根は伸び続けましたが,土の下の方には向かいませんでした。根の先っぽを0.5ミリ切断するだけで,植物は重力に対する感度を失ってしまいました。

「外界がわかること」の初めの頃に,屈光性の実験を紹介しました。光を感知するのは目の先ですが,曲がるのはその情報を受け取った茎の中央部でした。そうすると,根の先端はなくとも,その情報を受けていれば曲がるのではないか。

根を出したばかりのマメを土の上に横向きに置き,90分待ってから根の先を切りました。すると,根の先端がなくても,下に向かうことがわかりました。根の先端は,重力を感知して,どちらに曲がるべきかについての情報を全身に送っていたのです。

その後の分子遺伝学研究によって,根の最先端(根冠)の細胞が重力を感知していることが分かっています。

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2018年11月14日

外界がわかること19

順番に読み進めていくとすれば,次は植物の聴覚についてですが,トマティス物語で聴覚を扱ったのに続けてここだけ,今年の10月20日「毛を生やす」に書いていますので,スキップして先に進みます。

植物は,上下だけでなく,自身の枝葉の位置を知っていることが,数々の実験で確認されています。

どうやってそれらがわかるのかについて理解するために,まず人の固有感覚について見ていきます。固有感覚とは,私たちが体を動かしたときに体の各部位が互いにどんな位置関係にあるのかを,いちいち見て確認しなくてもわかるという感覚です。これは,五感の一つである触覚とは別の感覚です。

固有感覚は,他の感覚と違って,それを受け入れる期間はっきりと決まっていません。平衡感覚を伝える内耳の信号と,一感覚を伝える全身の神経からの信号が統合されてやってくるのです。平衡感覚は,内耳の三半規管や耳石などによって重力の方向などを感知してその情報を脳に伝えます。全身に張りめぐらされた固有感覚神経はすべてを統合した状態を維持し,固有感覚受容体が手足の位置情報を脳に伝えます。固有感覚神経は,圧や痛みを感じる触覚神経とは別物で,筋肉や靱帯,腱など体のもっと奥深いところにあります。

固有感覚には大きく二つのはたらきがあります。一つはじっとしているとき(静止時)に体の各部位の相対的な位置を知ること,そしてもう一つは動いているとき(動作時)に体の各部位の相対的な位置を知ることです。固有感覚は平衡感覚だけでなく,連携された動作をするのにも欠かせません。たとえば,手を振るという単純なものから,平均台の上で宙返りをするというような非常に複雑なものまであります。

この,静止時と動作時の体の位置を知るという二つのはたらきは,植物にも当てはまるそうです。植物の動作時?
・・・ここの疑問は,次の章で明らかになるものと思われます。

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2018年11月13日

外界がわかること18

植物は動物と違って,痛みを回避するような対応はできません。しかし,周囲の環境に合わせて生長を調整するような対応は可能です。

トマトを例として取り上げます。以前から,トマトの葉は一枚が傷ついただけで,その信号が同じ木の無傷の葉にも送られることは知られています。その時の信号は,化学物質と考えるのがかつては一般的でしたが,電気信号ではないかと仮説を立てて実験的に確かめた人がいます。

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トマトの葉を一枚,熱した鉄のブロックで焼いた。そして,焼かれた葉から離れた茎のところで電気信号が検知されるのを見出した。葉と茎を結んでいる葉柄(ようへい)という場所を冷やしていても信号は検知される。葉柄を冷やすと葉から茎への化学物質の流れは遮断されるが,電気の流れは遮断されない。おまけに,焼いた葉の葉柄を冷やしても,ほかの健康な葉はあいかわらずプロテイナーゼ阻害遺伝子を転写していた。
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動物の神経系と同じように,植物でもこの信号は細胞から細胞へと伝播し,カリウム,カルシウム,カルモデュリンなどの通路の開閉を調整しているのです。

植物は危険から逃れるのではなく,一枚の葉がダメージを受けると,その葉がほかの葉に潜在的な危険を警告して準備を促すことで被害を抑制するという戦略を取っているということでしょう。

frrev at 20:24|PermalinkComments(0)

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