職員からは不満の声も
「実は、亀田病院の医療従事者向けに確保されたワクチンを利用したのです。ファイザー製のワクチンバイアル(瓶)1つから5回分の接種ができますが、少しだけ余ります。これをかき集めて接種するという、医療関係者が“闇打ち”と呼ぶやり方です」
亀田総合病院は、国内有数の優良病院として知られる。米週刊誌『Newsweek』が患者満足度などをもとにして毎年発表する「World's Best Hospitals 2021」で東大医学部附属病院、聖路加国際病院に次ぐ国内第3位にランクイン。昨年1月には、中国・武漢からの政府チャーター機第一便の帰国者の初期対応を請け負った。同病院を率いるのが、医療法人「鉄蕉会」理事長の亀田隆明氏で、同氏は、一昨年、『カンブリア宮殿』(テレビ東京)に「革新経営者」として登場するなど有名だ。その亀田理事長が野田夫妻の接種を決めたという。
同病院の職員数は3500人に及ぶが、4月下旬当時、ワクチン接種はまったく終わっていない状況で、「現場の接種が済んでいないのにVIP優先はヒドい」などの不満の声が職員の間からあがったという。野田夫妻に取材を申し入れると、オービック総務部担当者がこう答えた。
「私どもは亀田病院を産業医にしています。社内でコロナ感染者が複数出て、心配した隆明理事長が高齢の野田会長夫妻に対し『早く打たれた方が安心では』と話をした。野田会長はそれが可能なのか確認したが、(亀田)理事長は『大丈夫』とのことだったので、ご厚意で打っていただいた」
亀田総合病院は書面で概ね以下のように回答した。
「周囲の反対意見があったことは事実ですが、あくまでも一意見で、理事長が反対を押し切って行ったことはない。野田ご夫妻には亀田医療大学設立当初から理事にもなっていただき、以来個人として寄付をいただき何とか経営が成り立っています。野田氏の側近を含む(オービック)社員のコロナ感染の現状や、ご夫妻の年齢を考慮し、早めのワクチン接種は不可欠と判断しました。接種のタイミングは、一部反対意見があったことも考慮し、当院職員の接種希望者全員分のワクチン確保の目途が立った上で、余剰分を使用しています。当院配布分の『対象となる医療従事者等』の枠を使用しました」
医療従事者へのワクチン接種が遅れる中、ルールを逸脱して多額の寄付者を優先して接種させた亀田総合病院と、それを了承した一部上場企業トップのあり方は今後、論議を呼びそうだ。
5月19日(水)16時配信の「週刊文春 電子版」および5月20日(木)発売の「週刊文春」では、亀田総合病院のVIPへの優先接種のさらなる詳細や、他の首長や地方議員によるワクチン「コネ接種」の実態、愛知県西尾市で問題になったスギホールディングス会長夫妻の意外な素顔など、「ワクチン狂騒曲」の実状を詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年5月27日号)