オービック会長夫妻が医療従事者用ワクチンを「闇打ち」接種 多額の寄付者を優先
2021年05月19日 17時38分 文春オンライン
2021年05月19日 17時38分 文春オンライン
2021年05月19日 17時00分 文春オンライン
亀田総合病院
東証一部上場のシステム関連会社で、「勘定奉行」のCMなどで知られる「オービック」の代表取締役会長・野田順弘氏(82)と、妻で取締役相談役のみづき氏(86)が、亀田総合病院に割り当てられた医療従事者枠のコロナウイルス・ワクチンを4月に接種していたことが「週刊文春」の取材でわかった。野田夫妻が接種した時点で、同病院の医療従事者の接種は完了していなかった。
野田夫妻が1回目の接種をしたのは4月20日、2回目は5月12日。接種場所は千葉県鴨川市にある亀田総合病院だった。同病院関係者が明かす。
「野田夫妻は、当病院にとって最高ランクのVIPです。毎年多額の寄付を受けており、2012年に亀田医療大学が開学できたのは、野田夫妻の支援があったからこそ。みづき夫人は同大学の理事も務めています。病院はそんな上客のために、ルールをすり抜けて新型コロナのワクチンを優先的に接種したのです」
オービックの連結売上高は800億円、時価総額は2兆円を超える。一代で巨万の富を築いた野田氏の保有資産は約4700億円。米経済誌『フォーブス』の今年の長者番付では国内11位だった。
政府はワクチンの優先順位として①医療従事者、②65歳以上の高齢者、③基礎疾患がある人の順に定めている。医療従事者は勤め先から接種券が渡されるが、野田夫妻が該当する「高齢者」には、居住する自治体から発送される。夫妻が暮らす東京・大田区で高齢者への接種券発送が始まったのは5月17日。2人は、その約1カ月も前にワクチンを接種できたことになる。大田区感染症対策課に尋ねると、
「(居住地以外の)かかりつけ医で接種するにしても、通常、接種券が来た段階で病院に予約を入れます。ワクチンの記録・管理のため、(正式な)接種券がなければワクチン接種はできないことになっています」
しかし――。前出の病院関係者が語る。
■職員からは不満の声も
「実は、亀田病院の医療従事者向けに確保されたワクチンを利用したのです。ファイザー製のワクチンバイアル(瓶)1つから5回分の接種ができますが、少しだけ余ります。これをかき集めて接種するという、医療関係者が“闇打ち”と呼ぶやり方です」
亀田総合病院は、国内有数の優良病院として知られる。米週刊誌『Newsweek』が患者満足度などをもとにして毎年発表する「World's Best Hospitals 2021」で東大医学部附属病院、聖路加国際病院に次ぐ国内第3位にランクイン。昨年1月には、中国・武漢からの政府チャーター機第一便の帰国者の初期対応を請け負った。同病院を率いるのが、医療法人「鉄蕉会」理事長の亀田隆明氏で、同氏は、一昨年、『カンブリア宮殿』(テレビ東京)に「革新経営者」として登場するなど有名だ。その亀田理事長が野田夫妻の接種を決めたという。
同病院の職員数は3500人に及ぶが、4月下旬当時、ワクチン接種はまったく終わっていない状況で、「現場の接種が済んでいないのにVIP優先はヒドい」などの不満の声が職員の間からあがったという。野田夫妻に取材を申し入れると、オービック総務部担当者がこう答えた。
「私どもは亀田病院を産業医にしています。社内でコロナ感染者が複数出て、心配した隆明理事長が高齢の野田会長夫妻に対し『早く打たれた方が安心では』と話をした。野田会長はそれが可能なのか確認したが、(亀田)理事長は『大丈夫』とのことだったので、ご厚意で打っていただいた」
亀田総合病院は書面で概ね以下のように回答した。
「周囲の反対意見があったことは事実ですが、あくまでも一意見で、理事長が反対を押し切って行ったことはない。野田ご夫妻には亀田医療大学設立当初から理事にもなっていただき、以来個人として寄付をいただき何とか経営が成り立っています。野田氏の側近を含む(オービック)社員のコロナ感染の現状や、ご夫妻の年齢を考慮し、早めのワクチン接種は不可欠と判断しました。接種のタイミングは、一部反対意見があったことも考慮し、当院職員の接種希望者全員分のワクチン確保の目途が立った上で、余剰分を使用しています。当院配布分の『対象となる医療従事者等』の枠を使用しました」
医療従事者へのワクチン接種が遅れる中、ルールを逸脱して多額の寄付者を優先して接種させた亀田総合病院と、それを了承した一部上場企業トップのあり方は今後、論議を呼びそうだ。
5月19日(水)16時配信の「週刊文春 電子版」および5月20日(木)発売の「週刊文春」では、亀田総合病院のVIPへの優先接種のさらなる詳細や、他の首長や地方議員によるワクチン「コネ接種」の実態、愛知県西尾市で問題になったスギホールディングス会長夫妻の意外な素顔など、「ワクチン狂騒曲」の実状を詳報している。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年5月27日号)