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【Web版】アレクサンダー英雄戦記 ~最強の土魔術士~ 作者:なんじゃもんじゃ

四章

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030_防衛

 


「森を抜けてくることから重装備の兵は少ないと思っていましたが、予想通りでしたな」

 騎士ダンテが床几(しょうぎ)の上に置かれた地図に敵軍を表す赤い駒を置いていく。

 帝国軍は森の入り口付近に再集結しているという情報が入ってきた。


「夜襲はありますかな?」

 騎士ハルバルトが地図を見つめながら聞いた。

「まぁ、良将なら撤退。普通の将なら夜襲。愚鈍な将なら様子見。でしょうな」

 騎士ダンテが3つの可能性を示した。

「今回の指揮官はどれですか?」

 正直言ってアレクにはさっぱり分からない。分からないことは聞くに限るのだ。


「おそらく、普通か愚鈍のどちらかでしょう。良将なら自分たちが夜襲をしかけられた時点で多少の犠牲を覚悟してヘルネス砦を囲む帝国軍との合流を目指すでしょう」

 アレクはそういうものなのかと、分かったような、分からないような感じである。

 その後、夜襲の警戒はするが、休憩もとることになった。

「夜襲に備え、各自休憩をとるように」

「はっ!」

 フォレストが簡単な指示を出すと解散した。


「アレク」

「何? 父さん」

 解散後、アレクはフォレストに呼び止められた。

「大丈夫か?」

 アレクの顔色が悪いのを気にしたのだろう。

「ちょっと疲れたかな……」

「ハルバルトもいるんだ、無理はするなよ」

「うん、分かっているよ」

 右足を引きずりながら歩いていくアレクの後姿は苦しそうである。

 しかし、将来デーゼマン家を継いだら帝国との戦いの矢面に立つこともあるかもしれない。

 今のうちから少しずつでも慣れていくしかないのだ。


 交代制で休憩しながら深夜を迎えると、帝国軍が動いたと報告がありフォレストやアレクは起こされた。

 フォレストは兵士を前に仁王立ちした。

「帝国の奴らを歓迎してやるぞ!」

「おうっ!」

 フォレストの激励で、兵士たちが気炎を吐いた。


 アレクはフォレストから東門を任されているので、東門に向かった。

 アレクの部隊は30人。補佐としてトーレスがついている。

「アレクサンダー様、この東門へ向かってくる敵の数はおよそ200です」

「けっこうこっちにきたね。それにしてもラクリスは足音だけでよく分かるね」

「これもアレクサンダー様のおかげでございます」

 銀色のサラサラの髪の毛をたなびかせるラクリスは、メイド服ではなく革鎧を着てアレクよりも凛々しく見える。

 アレクも革鎧を着ているが、どうも似合っていないのだ。

 それもアレクが着ている革鎧は、あのドラゴンの皮で造ったものだからかもしれない。

 防御力は素晴らしいものがあるが、ドラゴンの革鎧の存在感が強いことでアレクのほうが負けているのだろう。

 最初はドラゴンの皮でフォレストの革鎧を造る話になっていたが、革鎧の軽さを考えるとアレクの革鎧を造ったほうがいいということになったのだ。


 ラクリスはウサギの獣人なので、銀髪の上にはピコピコ動く長いウサギの耳がある。

 その長い耳で敵の足音を聞き分け人数を把握することができる。

「魔術士はいるかな?」

「おそらく2人が魔術士です。鎧の音がしません」

 一般的に魔術士は鎧を着ないので、それで聞き分けることができる。

 アレクは革鎧をきているが魔術師だ。これはアレクが領主であるフォレストの長男だから、体面というものがあるので革鎧を着ているのである。


 ラクリスは魔術士がいそうなあたりを綺麗でスラッとした白い指で示した。

 初めて会った時はガリガリにやせ細っていたが、今ではちゃんと食べているので肉づきがよくなっている。

 そのことを言うとラクリスはちょっと不機嫌になる。アレクは女心が分からないのだ。

「指揮官と思われる人はあそこにいます」

 ラクリスは魔術士から少し離れた場所の、兵たちの一番後ろのほうを指し示した。


 体調が戻ったラクリスはアレクに恩義を感じて、こうしてアレクのそばにいることを選んだ。

 そんなラクリスのスキルは料理と魔闘術。

 ラクリスは元々料理を持っていたが、あのドラゴンの血から作った薬を飲んで魔闘術を得たのだ。

 もしアレクが飲んでいたら魔闘術はアレクのものだったはずで、後悔しないと言えば嘘になるがそれでよかったと思っている。

 今考えたら、アレクが魔闘術を得たとしても敵兵や魔物と直接戦うなんてことはできなかっただろう。


 アレクが任された東門にも帝国軍が押し寄せてきた。

 すると、帝国軍の進路上で土煙が上がった。アレクが設置しておいた落とし穴に帝国兵が落ちたのだ。

「20人ほどが落とし穴に落ちました」

 200人のうち、20人が落とし穴に落ちてくれたのだから、そこそこの効果だと言えるだろう。

 アレクはたった30人の兵でこの東門を防衛するのだから、これくらいはしないとやっていられない。

 アレクは戦いが苦手だし嫌いだが、だからといって手をこまねいているほどお人よしでもない。


「トーレスさん、弓兵の間合いになったら攻撃を」

「分かりました!」

 トーレスは20人の弓兵に矢を番えるように指示した。

 もうすぐ距離が200メートルで、弓兵の間合いだ。

「撃てっ!」

 敵兵が距離200メートルを越えてきて、騎士トーレスが命令を下した。

 矢が弧を描いて飛んでいく。

 その矢が帝国兵に降り注ぐ寸前に矢が弾かれてしまった。

「敵は防御魔術を展開しているようです」

 騎士トーレスの言葉を聞き、アレクはラクリスを見た。

「やはり、あの2人が魔術士です」

 ラクリスの耳によって防御魔術を展開している魔術士は2人で確定した。

「トーレスさん、敵の防御魔術が切れたら一斉掃射を」

「了解しました!」

 トーレスは弓隊に矢をいつでも射ることができるように待機を命じた。


「魔術筒隊、前に!」

 魔術筒隊は過去の賢者が開発した魔術筒を運用する部隊だ。

 魔術筒の生産はアレクが行い、魔術弾の生産をマリアが受け持った。

 防御魔術を展開しているのが2人の魔術士なら、魔術筒の攻撃で負荷を与えればすぐに魔力が尽きて防御魔術を展開できなくなるだろう。

「防御魔術を展開している敵の魔術士は2人なので、ガリガリと削ってやりましょう。構え!」

 アレクの命令で10人の兵士が魔術筒を構えた。


「撃て!」

 10丁の魔術筒の先に魔法陣が展開し、魔術弾が放たれた。

 魔術弾は直線的に飛んでいき、防御魔術に命中すると燃え上がった。

 今回使われているのはファイアジャベリンの魔術弾だ。

 着弾時のダメージ範囲は限定的だが、フレイムストームよりも貫通力は高い。

 轟音が響き帝国兵の悲鳴が聞こえた。

「防御魔術が消えました」

 ラクリスが防御魔術が消えたのを確認した。

 防御魔術は矢や攻撃魔術を防ぐたびに魔術士の魔力を削っていく。

 10人分の魔術攻撃を一度に受ければ、2人で展開している防御魔術はすぐに消失するのは当然のことだ。


「トーレスさん、撃ちまくって」

 帝国兵も弓を持っているが、防壁の上にいるアレクたちには届かない。

 デーゼマン軍は10メートルもある防壁の上から長弓で攻撃しているので、帝国軍が装備している短弓よりも射程距離が長く、さらに高低差によって射程が伸びているのだ。


「了解です! 構え! ……撃て!」

 矢が飛んでいき、帝国兵に降り注ぐ。

 帝国兵は盾で矢を防いでいるが、軽装なので小型の盾だ。盾で防げない矢もあり数人の帝国兵が倒れた。

 20人の弓隊なので、一度の掃射では大きな被害を与えることはできない。

 だから、弓隊だけではなく、魔術筒隊も攻撃する。訓練された魔術筒隊は10秒もかからず次弾を装弾する。

 費用のことを気にせずに魔術弾を使いまくって、厳しい訓練に耐えてきた兵士たちだ、ここでその訓練の成果を遺憾なく発揮しなくて、いつするのか。今でしょ!


「撃て!」

 帝国軍に向かって魔術弾が飛んでいく。

 真っすぐ飛んでいった魔術弾が帝国兵に命中する。

 今度はフレイムストーム弾が帝国兵を苦しめる。このフレイムストームは広範囲魔術であることから、帝国軍の被害者数はどんどん増えていく。

 矢とは1発の有効範囲が違うため小型の木の盾ではフレイムストームの攻撃は防げない。

 騎士トーレスの方も矢を撃ちまくり、合計で5回の魔術弾を浴びた帝国軍は撤退を開始した。

 アレクは自分ならもっと早く逃げ出す自信があると思って苦笑いをする。


 帝国軍が撤退を開始したので北門が気になったアレクは伝令を走らせたが、それは要らなかったようだ。

「北門も帝国軍は撤退したようです」

 ラクリスだ。

「そんなところの音まで聞こえるの?」

「喧騒が引いていきますので北門の帝国軍も撤退したと思われます」

 この耳のよさがスキルではないのがすごい。


「それだけ分かればいいよ」

 アレクは東門に見張りの兵を残して北門へ向かった。

 指揮所で皆の無事を確認すると、少しホッとした。

 そこでアレクはフォレストに戦果を報告する。

「では、味方の被害はゼロなんだな?」

「帝国軍は防壁に取りつく前に後退しました」


 

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