「それはコンパニオンの派遣代ですね」約7割の予算は飲み会や旅行などに…地域消防団による“不正請求”の実態
文春オンライン / 2021年5月18日 11時0分
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災害時に消防署と協力して、自分たちの町を守るための組織である「消防団」。自治体によって実態は異なるものの、年額報酬、出動手当などが団員に支給されることで組織活動が支えられている。報酬・手当の財源は、もちろん私たちの税金だ。
町を守ろうと尽力してくれる人たちに適正な報酬が支払われることはいたって当然のことといえる。しかし、近年は実際には活動していない幽霊団員を利用した水増し請求が問題化している。そうした幽霊消防団の問題に迫った一冊が、毎日新聞記者の高橋祐貴氏による『 幽霊消防団員 日本のアンタッチャブル 』(光文社新書)だ。ここでは同書の一部を抜粋。消防団員である浅井さん(仮名)の証言をもとに不正請求のカラクリを詳らかにする。(全2回の1回目/ 後編を読む )
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国民の目は不正受給に厳しいのになぜ?
消防団員に支給される報酬・手当はどれくらいだろうか。調べてみると、ちょっとした副業の収入程度はもらえることが分かった。
消防団を置いていない大阪市を除き、道府県庁所在地45市の消防局・消防本部・一部事務組合では、活動実績にかかわらず、条例で定められた報酬(一般団員の場合、年間1万3000~5万円)が支給される。これとは別に、消火活動や訓練などへの参加があれば、1回数千円程度の出動手当が支払われている。階級が上がれば報酬の支給額も増え、10万円以上に上るケースもある。浅井さんの所属する分団では役職者になると、年間15万円以上の報酬が支給される。幽霊消防団員は、一般団員であるケースがほとんどで、手当の水増し請求頻度にもよるが、少なくとも1人あたり5万円以上が支払われることになる。
私は、いとも簡単に水増し請求ができることが不思議でならなかった。公金の不正支給に関して、国民の目は厳しい。例えば、新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化した企業に最大200万円が支給される「持続化給付金」では、事業を実施していないにもかかわらず申告するなど、不正に申請・受給する行為が続出して、検挙もされている。
経産省は、不正受給と判断された場合の処置として、給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額の返還請求と、申請者の氏名などを公表するとしている。
一方、消防団の報酬・手当の不正受給については、内容が悪質な場合には刑事告発が検討される場合もあるが、返還請求時にペナルティーの額が上乗せされるようなことは聞かない。
浅井さんは詰め所の居間でパソコンを開き、団員の報酬や手当の集計資料の作成を始めた。各部からの報告をもとに統一フォーマットに記入し直す。作成した資料は期日までに所管する消防署に提出し、自治体の決裁が下りれば、指定の口座に手当・報酬が振り込まれる流れだ。本来であれば、活動対価として個人に支給されるはずだが、こうした事務作業も実質、無償扱いだ。
浅井さんは別の詰め所にも案内してくれた。今度は、住宅地外れの幹線道路沿いにあった。空き瓶やスナック菓子などが散乱している状態ではなく、コの字型に並べられた机とノートパソコンが数台あるだけだ。ただ、冷蔵庫の中をのぞくと、こちらもビール、チューハイ、焼酎などがそろっていた。真夏だったこともあり、ソフトドリンクを飲もうと思っても、近くの自動販売機に買いにいかなければならず、拍子抜けしてしまいそうだった。
特定の管理者しか入力できない報告書
詰め所で浅井さんが作成した出動報告書を見せてもらった。各部、班ごとにA4・1枚の用紙にまとめていて、縦列には部長、副部長、班長などと役職順に団員の名前が書かれてある。横列には、活動日の日付が書かれてあり、参加した日の欄に○印を記入する簡単なフォーマットだ。横列の端には、1月あたりの支給額の合計も書かれていた。多い人で2万円弱だった。
数年前までは、火災や訓練の出動時に点呼を取って、参加者の名前をメモしておき、後日まとめて整理していた。しかし、メモを紛失した場合は記憶をさかのぼって報告書を記入しなければならず、不正請求の温床になりかねないとして、携帯電話やスマートフォンを使った簡単な出動報告システムを導入した。デジタル化を進めたことで、以前ほど不正請求の数自体は減ったものの、特定の管理者しか出動報告の入力ができないため、分団によっては毎回1~3人を水増し請求しているケースが複数あるという。一般団員からは、報告の中身は分からない。
各分団がシステムを使って入力した内容などをまとめていると、仕事の都合で転勤していたり、体調不良などで長期間参加できなかったりする事情があるにもかかわらず、火災や訓練などに参加している団員が浮かび上がってくる。
転勤や体調がすぐれないといった個人にまつわる話は、飲み会のネタにもなるため、他の部や班の話でも勝手に情報が入ってくる。厳しく追及すると、団全体に変な噂が広がりかねないので、不正に疑問を感じても簡単な問い合わせをする程度にとどめている。
「信頼」につけ込む
不正請求のカラクリについて、取材をもとに東京消防庁の幹部に伝えてみると、
「消防団との関係は信頼関係で成り立っている。記憶ベースによるいい加減な申請はないと思っているし、出された書類を信頼して手当を支払うしかない」
と毅然とした態度で話す。ただ、幽霊消防団員や実際にその日の活動に参加していない団員の欄に架空の○印をつければ、いとも簡単に不正請求が可能になる。東京消防庁の幹部の言葉を借りるならば、「信頼」につけ込んだ水増しが起きていた。
浅井さんによると、こうした不正請求は会計担当になった時からすでに始まっていた。以前は実際の参加人数より数倍に膨らまして請求する事例もあったが、幽霊消防団員の問題が明らかになりつつある中、極めて悪質な請求はほとんどみられなくなった。
不正を正したい思いはあるものの、地域から「村八分」にされる可能性を考えると、思い切って口火を切れない。階級社会のため、上級の団員にたてつくことは難しい。
「水増し請求をしている分団が一部にとどまっていることがせめてもの救いかもしれません」
と言いつつ、浅井さんは不満気だ。軽度の水増し請求は頻発している。
公金はコンパニオンの派遣費用にも
浅井さんはある特定の団員の不正請求が続いていることを不審に思い、その人が書いているブログをチェックし続けていた。すると、書類上は出動しているにもかかわらず、ブログでは仕事の都合で数日間にわたって他県に滞在していたことが明らかになった。浅井さんは、出動報告書とブログを照らし合わせながら熱心に説明してくれた。
「なんとか、この不正を表沙汰にしたいんですが袋だたきにあうのが怖くて」
問題の団員は、浅井さんとは部・班が違うものの、同じ分団に所属していて、さまざまな会計書類を次々に印刷しながら語ってくれた。疑わしい事例は、水増し請求だけにとどまらなかった。
例えば、ある研修会名目の旅行費は約175万円にも及ぶ。団員から一部会費を徴収していたが、団にプールした報酬・手当の約80万円が充てられていた。
特筆すべき項目は、支出の項目だ。宿泊費約44万円とは別に諸経費(懇親会330分)に63万円もの費用がかかっている。
「それは、コンパニオンの派遣代ですね」
約7割の予算が飲み会や旅行などに
即答だった。書類の表記は研修会と書かれているにもかかわらず、題目に関する支出はまったく見当たらなかった。他には、ビンゴ・景品代9万円、食事代12万円、交通費(大型バス)18万円、車中持ち込み飲食代7万円と並ぶ。会計書類は丁寧に事細かく書かれていた。支出報告書では、どの経費に報酬・手当を充てたのかは記載されていないが、こうした娯楽費に公金があてられている可能性は高い。
また、北信越地方で発生した火災の焼損範囲などを視察する研修会の見積書には、明確に「ご宴会費用 コンパニオン 単価1万6200円 120分」と記載されていた。見積書の表題「大規模火災視察」とまったくかけ離れた内容になっていた。1・2次会の飲み会、カラオケ代と合わせると約35万円にも及び、1泊2日の研修旅行費の約2割が宴会費で占められていた。ちなみに、他の研修旅行と同様に、研修そのものの内容は記載されていない。浅井さんと同じ分団に所属する男性は、
「この時は珍しく火災現場までバスで行ったものの、観光協会のガイドの人が地元を案内してくれただけだった」
ある年の収支報告書によると、分団自体の年間予算は約250万円。予算の内訳は、徴収した報酬・手当だけでなく、町内会からの寄付金なども含まれている。地域には使途が説明されていて、同意を得られているのか疑問が拭えなかった。
一方、予算の歳出を見ると、最も高い支出は必要な備品の購入ではなく、交際費の約70万円。次に、団本部の研修会の負担金(60万円)や、幹部研修費(50万円)と続く。こうした研修会や団本部負担金の中には、それぞれの忘年会や歓送迎会費も含まれていて、慰安旅行も該当する。約7割の予算が飲み会や旅行などに充てられていた。研修会名目の旅行は、形や参加者を変えて年に数回あることも判明した。この年、実際に操法大会費用や訓練費の名目の支出は、記載されている限りだと計25万円だった。
【続きを読む】 《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊消防団員」の“深い闇”
《元団員が告発》活動歴のない348人に計1460万円の報酬が支払われていた「幽霊消防団員」の“深い闇” へ続く
(高橋 祐貴)
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