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言葉 ( 講演録等 )

平成19年全国暴力追放運動中央大会講演

 

「変貌する暴力団─反社会的勢力との新たな闘い─」

 
日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会 副委員長
疋田 淳

 


1.はじめに(自己紹介をかねて)

 
 ご紹介をいただきました大阪の弁護士の疋田と申します。よろしくお願いいたします。 
 まず、本日この中央大会において各賞を受賞された皆さま方におめでとうと申し上げたいのですが、私もいただいていますので、自分で自分を褒めるのも変なことだと思います。 
 私は主に大阪で民暴活動に取り組んでいるわけですが、今日は同じ暴追活動をやっている皆さまの前でお話しさせていただく機会を得たことを大変うれしく思うと同時に、どういうお話をさせていただけばいいのか非常に戸惑っております。 
 今日は「変貌する暴力団」というテーマを挙げました。暴対法が施行されて15年たっています。本大会、そして暴追センターも15年という節目の年を迎えている我々が考えなければいけないのは、暴力団から不法勢力、反社会的勢力へ変質していっている、また実際に変質している新たな暴力団に対し、どう対応すべきかということです。それについてお話ししたいと思いますが、その前に、自己紹介を兼ねて民暴活動とのかかわりをお話しさせていただきます。 
 私は平成4年に、大阪で民暴委員会の副委員長を仰せ付かりました。15年前、ちょうど暴対法施行の年に民暴委員会に入ったわけです。そこまでは全く普通の弁護士でございました。どうしても私はその手向けの風貌で(笑)、誰がどう見ても「あいつは民暴専門や」と思われております。しかし、この世界に足を踏み入れたのは、ちょうど暴対法施行の年でございます。 
 弁護士になる前に、司法修習生として弁護士のところで勉強をさせてもらいます。私が配属された修習先は、亡くなりましたが、「民暴の鷹」と言われた宮﨑乾朗先生のところでした。いわゆる民暴のはしりです。伊丹十三監督の「ミンボーの女」の監修もしておりましたが、生まれて初めて見る弁護士が、まさしく暴力団が恐れるような迫力のある方であったわけです。ご存じの方はご存じでしょうが、私どころではない(笑)。暴力団が見てもビビるというような男のところで修習をしました。 
 その後は普通の弁護士をやっていたのですが、平成4年に引きずり込まれまして、以後、主に民暴弁護士として暴力団の明け渡し事件を始めました。また、暴対法ができるきっかけになったと言われる山下事件があります。NTT職員の山下さんが、暴力団幹部と間違われて自宅で射殺されました。そこで五代目の渡辺に対し、我々が初めて使用者責任訴訟を提起したわけです。その山下事件にも関与させていただきました。その後、最高裁の判決までいただくことができました藤武事件にも関与させていただいております。 
 またその間、これは非常に象徴的な事件であったのですが、先ほど来賓として挨拶された日弁連の山田副会長が弁護団長、私が事務局長として、高島屋の株主代表訴訟をやりました。これは何かと言いますと、皇室御用達のバラのマークで有名な高島屋デパートが総会屋対策として、現役暴力団組長に対して年間8000万円ものカネを供与しておりました。それを大阪府警が摘発し、我々が株主代表訴訟を提起したという事件です。 
 その後、神戸製鋼事件等多数の総会屋事件が発生し、株主代表訴訟の形で提起しておりますが、経営者に対して責任を問うという株主代表訴訟の先駆けとなった、高島屋株主代表訴訟も経験させていただきました。 
 昨年は非常に大変な年でございました。東日本の方たちはあまり関心がないのかも分かりませんが、西日本の人間にとっては非常に大きな問題であるところのえせ同和の事件が、昨年多数発生しました。 
 昨年5月、新大阪の近くにあるえせ同和団体飛鳥会の小西邦彦という男が大阪府警に逮捕されました。この事件で我々も弁護団を組んだのですが、実は新大阪駅の近くにある西中島の駐車場を、彼は30年間にわたって大阪市の外郭団体と随意契約し、莫大な利益を得ていたわけです。小西は11月9日に亡くなりました。口の悪い連中は「おまえに殺された」と言っておりますが、決して私が殺したわけではありません。 
 この小西の事件はまた後で触れるかも分かりませんが、これを契機として、昨年はえせ同和撲滅元年と私は言っております。これも本日のテーマである暴力団の一つの顔として、実は小西の飛鳥会事件が起こったわけです。 
 私は平成9年から昨年まで、整理回収機構の顧問をさせていただいておりました。そこで特別回収部というところがございます。これはどういうところかと言いますと、まさしく反社会的勢力からの回収ということをうたっております。私は整理回収機構にいた約10年間、暴力団等を相手に回収活動を続ける中で、いかに金融機関が暴力団、反社会的勢力へ湯水のごとくカネを流していたかという実態を見ました。次から次に金融機関がつぶれました。その多くの金融機関の、例えば不良貸付債権の半数以上が暴力団関係者と暴力団という金融機関もありました 
 ご存じのように、整理回収機構には国民の多額の税金が投与されました。結局、反社会的勢力、暴力団へ湯水のごとく流れたカネを国民の税金でもって回収し、そのツケが我々国民の税金に回ってきている。こういう実態でございました。また、暴力団が不法占拠するということもたくさん経験いたしました。警察のご尽力を得ながら、暴力団の占拠を排除することも多数手掛けてまいりました。その中で彼らの組織実態というものがどんどん明らかになってきたとは思います。 
 いま私どもでやっていることをご紹介させていただきますと、広島に共政会という指定暴力団があります。映画「仁義なき戦い」のモデルになったという、非常に過激な指定暴力団組織です。この守屋という組長に対して私どもは弁護団を構成し、実は明日、裁判があるのですが、不当利得返還の裁判をやっております。 
 守屋は、広島地区における解体の仕事に目を付けて解体業協会を押さえ、解体の仕事を請け負った業者から請け負い金額の1割を守屋組に上納させるというシステムを作りました。広島県警はこの守屋を何とかしようということで、都合7~8回の逮捕を繰り返しております。我々はその被害者の依頼を受け、いま広島地裁で不当利得の返還請求を行っています。 
 なぜ大阪の私が広島まで行っているのかと言いますと、広島の地区では、当初この事件を担当した弁護士の事務所に、弾撃ちと言いますが、発砲事件があったのです。広島の弁護士だけでやるのは非常に危ない。大阪の疋田であれば弾よけになるだろう(笑)。したがって、いま弾よけとして行っております。 
 また、10月に判決が出たのですが、大阪市の土地の上に暴力団が組事務所を作っているという事例がございます。公営住宅に暴力団が入っているというのではありません。市の土地の真上に、借地契約を締結して暴力団が組事務所を持っている。 
 この事件の時、当初、大阪市の顧問弁護士は何と言ったか。「いや、借地契約があるのだから、賃料を払っている以上、無理です。追い出せません。次の契約更新の時に何とか考えてみましょう」。こういう眠たいことを言いました。 
 もちろんこれはマスコミに非常にたたかれました。確かに法律上の問題として、借地契約がある。建物の所有目的の土地利用ですから、暴力団組事務所があった場合に契約が解除できるかというと、非常に難しい問題があります。しかし一般の市民の目線、市民感覚で考えた場合、そんなことはあり得ない、あってはいけないと思うのではないかと思います。私もそう思いました。ですから、「これは絶対に解除できる」と私は豪語し、「あとの理屈は若い弁護士が考えろ」と投げ掛けたわけです。おかげさまで先月、勝訴判決を得ることができました。 
 当たり前のことです。裁判所も当たり前のことだと考えた。暴力団組事務所がある。しかもそれが公共の財産の上にある。これは信頼関係を破壊するもので、契約の解除は当然できます。ところが、市の顧問は「そんなことはできない」と言っていた。身内のことを言うとあれなのですが、そんな程度であったのです。 
 飛鳥会の事件もいま第2次の訴訟を提起しております。また、和歌山では、これは整理回収機構の案件ですが、山口組直参の暴力団の組事務所を競売に掛けております。直参の組事務所を何とか和歌山市から撤去したい。そういうことでいま訴訟も競売もやっております。


2.変貌する暴力団

 
 こういう形で私どもはいろいろやっておりますが、果たして暴力団は変貌したのか、していないのか。答えはイエスであり、またノーでもあると思います。つまり、組織犯罪者集団としての暴力団の本質は変貌することはないでしょう。しかし、その活動形態は、先ほど警察庁長官が言われたように変貌しております。これは警察庁も認識しているところです。
 そこで私は、三つのキーワードを皆さんにお示ししたいと思います。一つは、よく言われている暴力団のマフィア化。二つ目が、最近の言葉ですが、暴力団の勝ち組。もう一つがヤクザマネーということです。
 暴対法は、指定暴力団制度をした上で、暴力団の不当要求行為を中止命令で排除しようという法構造になっています。そうすると当然、看板の付け替えが出るだろう。これは暴対法ができる時から言われていました。
 事実、暴対法施行の時は、山口組総本部から各直参組長に対し、「各直参組長は必ず法人を作れ」という指令が行っております。せっかちな暴力団組長は、自分の組名をそのまま付けて「○○組株式会社」にするという笑い話もありましたが、彼らも当然、指定逃れを考えたわけです。
 案の定、地下潜行という形で彼らは地下に潜ることになりました。昨年の「警察白書」の統計で初めて準構成員が構成員を上回ったというのは、まさしくそのことを表していると思います。構成員は全国で4万1500人であるのに対して、準構成員は4万3200人です。
 したがって警察が当初懸念していたとおり、警察統計の上でも彼らは、仮装脱退、仮装破門等を経て、暴力団構成員そのものから暴力団周辺者へとなっていったのです。一部はフロント企業と言われる企業舎弟になりました。また、先ほどお話ししましたように、飛鳥会をはじめとするえせ同和、そして社会標榜活動と言いますが、えせNPO活動として彼らは形を変えていったわけです。
 はっきり言って、これは当たり前のことだと思います。ヤクザの世界というのはしのぎができる人間が偉いのです。人を殺すとか、どうこうするということではありません。彼らが一番大事に考えているのは、しのぎができるかどうかです。
 カネがすべてなのです。カネがあれば組織は維持できるし、大きな組織になります。また、大きな組織にしなければ暴力団の威圧力がない。非常に簡単なことだと思います。したがって、暴力団の看板でしのぎができにくくなったら替えればいいのです。そしていざという時に、「実はわしはこうや」と言えばいいわけです。非常に簡単なことだと思います。
 そしてやはり懸念されていたように、山口組の一極集中があります。全国の暴力団の約半数が山口組になった。これも私に言わせると当たり前です。ヤクザの世界では数は力です。カネが力であり数が力であるという、非常にシンプルな彼らのポリシーがあったと思います。
 このような形で山口組が寡占化を始める。そして暴力団が地下に潜行する。そのことによって、これから申し上げるような膨大な資金源で武装化する。そして政治経済へ進出する。これがまさしくマフィア化と呼ばれているものです。


3.えせ同和について

 
 えせ同和について少しお話ししますと、我々はこれを今まで、行政対象暴力という範疇で考えてきておりました。また、同和問題というのは非常に神経を使うものです。大きな声で同和問題を論じる人はなかなかいませんでした。マスコミもタブーとしておりましたが、昨年5月に小西が逮捕された後は、せきを切ったようなマスコミ報道です。「あんたら、それぐらい口出しするなら何で今まで問題にせんかった」と私があるマスコミの方に言いましたら、「いや、それを書くのは上がなかなか認めてくれなかったのです」と言っておりました。 
 えせ同和がどういう形で暴力団の資金源になるかというと、例えば小西は某銀行から80億もの債権の返還訴訟をされています。その時の彼の抗弁はどうか。「こんなもん銀行も分かっとるやないか。わしが借りたの違う。これは全部ヤクザにいっとるカネやがな。それは銀行も知ってやったことや」とはっきりと言っております。それで争っているわけです。つまり銀行は、小西に貸すということではなく、そのカネは小西を通じて暴力団に流れることが分かっていながら融資を行っていた。それが実態でございます。 
 また、これは昨年、私が顧問をしている八尾市で発生した事例です。丸尾という男は地域のボスとして、ゼネコン等からいわゆる地元対策費として、1公共工事について数千万単位のカネを吸い上げておりました。そして、山口組の山健組の健竜会というところに判明しただけでも2000万円もの上納をしていた。そういう資金源の流れも出てまいりました。つまり、えせ同和の小西にしろ、丸尾にしろ、彼らは有力な暴力団の資金源であったわけです。 
 大阪の人はご存じかと思いますが、阪南畜産の浅田という男がおります。BSEの狂牛病の時に逮捕されました。我々の中では「あいつは五代目の渡辺の資金源」と認識しておりました。五代目の渡辺は、歴代暴力団組長の中で初めて死なずに六代目の司忍に譲っております。その理由の一つは阪畜の浅田が逮捕されたことです。 
 浅田の保釈金は20億です。この保釈金20億を即座に積みました。どこにそんなカネがあるのでしょう。BSEの詐欺で50億もうけたと言われていますが、彼の資金力はそんなものではない。その多くが渡辺に上がっていた。恐ろしい実態です。 
 小西は警察の調べに対してどう言ったか。「同和はカネになる」。分かりやすい言葉です。結局、暴力団というものは、先ほどから言っていますようにカネになれば何でもいいわけです。いつまでも暴力団、暴力団と言う必要はない。えせ同和であれ、えせ右翼であれ、何でもかんでもやります。


4.勝ち組やくざ,ヤクザマネー

 
 えせ同和名古屋の弘道会の司があれだけ力を持ったのは何か。この前、捜査がありましたが、彼は司政会議という右翼団体を通じてカネを吸い上げていた。そして名古屋の公共工事に深くくい込んで、カネの力で六代目を襲名したわけです。 
 こういう司をはじめとする勝ち組ヤクザというのは、旧来の暴力団の、いわゆるショバ代、麻薬、売春等による不法収益を目的とはしていません。彼らのターゲットはもっと大きなものです。 
 先日、NHKが「ヤクザマネー」という番組をやりました。非常にショッキングな番組です。デイトレーディングと言いますが、日々、株式取引をし、数千万、数億のカネをもうけているというのは、私どもも以前から聞いてはおりました。それを初めて映像で見たわけです。あるマンションの一室に十数台の株式ボードを備え、株式の専門トレーダーを雇ってやらせている。この実態がNHKで出ました。こういう報道をしてくれるなら受信料を払いたいと思ったぐらい、すばらしい報道でした。彼らは堂々とトレーディングをしているわけです。 
 その時に非常に象徴的な言葉として記憶に残ったのが、「規制緩和はすき間を作った」というヤクザの言葉です。なるほどと思いました。すき間を作れば、そこに暴力団が入っていける。まさしくそうでしょう。 
 ここで政治の話をするのもどうかと思いますが、小泉改革と言われる中で、オリックスの宮内さんをはじめ国を挙げて、構造改革、構造改革と言った。その結果、現在問題になっているような格差社会を生み、莫大な利益を上げる暴力団装置が出来上がってしまったわけです。 
 ITバブルとヤクザマネー。これは何が問題であったか。ヤクザマネーはノータックスです。我々は本当にまじめに働いて、大した収入もないのに確定申告をさせられる。きれいに税金を取られ、日々生活をしております。ヤクザマネーはノータックスです。ここを考えてほしい。そしてこの株式投資はもう一つ、マネー・ローンダリング、いわゆる資金洗浄にも役立っているわけです。 
 この番組で非常に象徴的だったのはIT企業の社長の話です。銀行が相手にしてくれない。とにかくカネが欲しい。カネには色が付いていないから、誰からでもいい。「なんぼ欲しいのや。3000万か、5000万か? 明日、用意するで」。ヤクザはそう言ってアタッシェケースにカネを入れます。これでそのIT企業はまさしくヤクザが支配する企業になるわけです。 
 インサイダー取引も頻繁に行われています。そして匿名組合方式というのがあります。まさしく匿名ですから、誰がカネを出しているのか分からない。ホリエモン事件。村上ファンド事件。昨年はいろいろ問題になりました。こういうファンドをめぐる問題の背景には必ず、タックスヘイブンをはじめとする複雑な資金のやりとりがあり、匿名組合という形が作られることになります。匿名ですから、誰がカネを出しているのか分からない。その多くがヤクザマネーでもあるのです。 
 昨年ですか、大阪府警が梁山泊という、株価操作の事件を摘発しました。山口組の元暴力団員であった男が、パチンコ攻略本などを出していた梁山泊というところを乗っ取りました。次から次といろいろな会社を乗っ取り、それを上場させるわけです。 
 本来、ヤクザの経営する会社が上場するというようなことはあり得ません。ところが、できるのです。裏口上場と言いますか、上場している会社を買収すればいいのです。ジャスダック、ヘラクレス、マザーズは、これも構造改革でしょう、非常に多くの新興市場を作ってしまいました。作ってしまったという言い方はいいかどうか分かりませんが、これを利用する。従業員が一人、二人の会社でも上場できるわけです。 
 そういう会社の企業オーナーは、先ほどの話ではありませんが、明日のカネが欲しい人間です。そこへ暴力団が接近すれば簡単にM&Aができます。M&Aを利用し、今度は上場をさせる。そして次から次といろいろな企業を買収する。とにかく赤字の企業でもいい。なぜか。売上があればいいのです。それを利用して、今度は株価操作で莫大な利益を得るわけです。梁山泊には40億、50億というカネが流れています。 
 また、この前のNHKの番組で警察庁は「共生者」と言っておりましたが、ファンドマネージャーと言われる連中が暴力団の手先となり、買収する企業を次から次に探してくる。これがシステマティックに出来上がってしまっているのです。 
 共生者という言い方をしていますが、ファンドマネージャーにとっては何の罪の意識もない。一方でカネを必要としている企業がある。一方では、表に出せないカネがあるが、何とかもうけたいというヤクザマネーがある。「これを付けるだけだから、全然問題はない」。罪の意識がないわけです。 
 これがまさしく今の株式市場の問題ではないでしょうか。ある暴力団が言っておりました。「証券市場は国家公認のばくち場である」。すごいことですね。規制緩和、構造改革という名の下でいろいろ行われてきた結果、すき間ができた。そのすき間を勝ち組ヤクザが利用したのです。賢いです。 
 肩で風を切って繁華街を歩いているのは暴力団ではありません。私などよりずっと紳士ぶって、スーツを着ている。スーツを着た暴力団が勝ち組であり、その勝ち組がファンドを使い、ワンクリック数千万の利益を簡単に得てしまう。そういう構造がもう出来上がってしまっているのです。 
 この結果、顔の見えない強大な暴力装置が誕生し、経済社会に浸透する。彼らは確実に、そして着実に力を付けて、まさしく我が国の根幹であるところの企業、企業社会というものを利用しているわけです。これが現状です。


5.新たな捜査手法を

 
 こういう新たな反社会的勢力に対してどう対応すべきなのかということです。 
 私は昨年の飛鳥会事件以後、いろいろな感想を持ちました。例えば、えせ同和の問題にしても、これをタブー視していた。マスコミは全く書こうとしなかったし、行政もまったくタッチしようとしなかった。こういう社会のタブー視、マスコミの放置、行政の怠慢が三位一体となって、同和の場合は問題となったわけです。同じ構造は証券市場の問題にもあるかと思います。 
 そういう中で、ようやくこういうところで同和の話もできるようになったのはやはり、一番基本の刑事摘発があったからです。この刑事摘発を通じて初めて社会風潮が変化します。この刑事摘発を通じて国民は、「おかしいじゃないか。人権問題でも何でもない。そのお金が暴力団に流れている」ということに気付きます。刑事摘発をすればマスコミは追い掛けて報道します。マスコミが報道することによってみんなが知りますから、「えせ同和は許せない」という大きな流れ、風潮になり、行政もこれを見直そうという動きになってきたわけです。 
 そのきっかけは何かというと、やはり刑事摘発です。この刑事摘発を受けて、社会がその実態を知るきっかけとなったのです。 
 反社会的勢力の最大の敵は何か。古典的ではありますが、私は刑事摘発だと思います。10年以上前であれば、阪南の浅田、飛鳥会の小西を警察が立件するとは我々は思いもしなかった。はっきり言って、できないだろうと思っていました。それができたではありませんか。 
 そういう意味で私は警察に期待をしたいと思います。ヤクザは何が怖いか。企業や行政、ましてや弁護士は怖くも何ともない。何とも思っていません。やはり警察です。刑事司法しかないと思います。 
 それでは、このように巧妙化する反社会的勢力にどう対応するのか。我々は警察に頼るだけでいいのかということです。前提として我々はまず、「暴力団等の組織犯罪集団は国家国民の敵である」と認識しなければいけません。当たり前のことです。ここにおられる皆さんはまさしくそのために、地域や職域で活動なさっているわけです。しかし、「ヤクザは嫌いだ。暴力団はもちろんなくなったほうがいいけれども、表立ってやっても怖いし」というのがほとんどの国民で、実態は知らないだろうと思います。 
 いま九州でドンパチをやっています。あるワイドショーを見ていましたら、テレビコメンテーターの方が、「指定暴力団という言葉がありますが、指定暴力団と指定しているだけで何にもしてないんですよね」とおっしゃっていました。 
 もちろん暴対法はそうではありません。指定暴力団を指定することによって不当要求行為を封圧しようという法構造なのですが、一般の人から見るとやはりそうなのでしょう。「指定暴力団? 国家が指定して、それだけか? おかしいじゃないか」。それが素朴な国民の意識なのではないかと思いました。 
 現在、新たな捜査手法がいろいろ検討されています。組織犯罪というものは、特に六代目以降になってからそうなのですが、実態が不明瞭です。内容が分かりません。密行しています。そして表面的には適法取引を装っている。また、今は沈黙のおきてと言いますか、六代目の下では暴力団情報が一切取りにくくなっています。そういう中で、民事、刑事で彼らを封圧しよう、摘発しようとなったら、私ははっきり申し上げたいのですが、単に警察に取り締まれと言うだけでは駄目で、立法が要ると思う。武器を与えるべきだと思います。 
 こういうことを言うと、我々の業界はわりと警察に盾突く連中が多いので、私も弁護士として非常に肩身が狭いのですが、国家国民の敵を封圧するという当たり前のことをするには、その装置は警察にしかないのです。そうだとしたら、警察がもっと有効で強力な捜査手法ができるように立法を改正するのは当たり前のことではないでしょうか。何が人権抑圧になるのでしょうか。そんなことはありません。 
 いま警察等を含めて検討されていますのは、一つは刑事免責制度です。組織犯罪を立証するためには何が大事なのか。どういう組織であるかを立証しなければいけないのですが、物証が乏しい。結局、組員の口を割らせるしかない。より上位者の責任追及をするためには何が必要か。刑事免責を取り入れることによって上位者への責任追及をしようではないかということです。 
 イタリアでは、マフィアの構成員が供述した場合は、義務的に刑期が3分の1から2分の1に減刑されます。いわば組織の頂点、トップをつぶさなければいけない。末端の“鉄砲弾”を立件することではなく、その背後にいる、より力のある組長や幹部を立件することなのです。そのためには刑事免責を導入する。自らの刑が軽くなれば、組織上位者の関与を供述することができるわけです。 
 同じように司法取引も当然考えられていいでしょうし、有罪答弁という制度も考えられていいと思います。 
 また、おとり捜査というやり方もあります。この捜査自体は適法であるという最高裁の判決があります。潜入捜査と言って、警察官が身分を偽り、暴力団組織の中に入って捜査をするという方式ですが、我が国の国民にはなかなか理解が得られにくいのかも分かりません。しかし、巧妙化する暴力組織を有効に立件するためには、おとり捜査なり潜入捜査なりは活用されていいのではないかと思います。 
 電話の盗聴に対して通信傍受法案というものができました。しかし、これはなかなか有効に利用できていません。警察関係の方は、大変な時間がかかるわりにはなかなか立件できないとおっしゃっていますが、いま言ったような形で、もっと有力な捜査手法が真剣に検討されていいと思います。 
 我々がこういうことを言うと、人権派と称する人たちは、「そんなことをすると、それこそ警察国家になって、次々に違法捜査が行われる」という架空の話をします。そんなことはあり得ない。国民はばかではありません。これだけ強大な力を持った暴力装置に対応するには、警察にそれだけの武器がなければできないわけです。これは決して人権の問題ではない。私はそう断言したいと思います。 
 この根本的な犯罪を抑圧するという立法については、何よりも社会、国民の広い理解が要るかと思います。皆さま方には日々、地域、職域で地道な努力をしていただいております。また私どもも、弁護士の立場で被害者救済を含めてやっております。暴力団組事務所の明け渡し、大阪市の市有地の問題もやりましたが、「追い出したとしても、また隣にできるのか」という気持ちをいつも持っています。 
 しかし、地域住民のために組事務所の明け渡しはやらなければいけない。いたちごっこだろうと何だろうと、我々は地道にそういう活動をしなければいけないのです。また、その活動をすることにより、地域の皆さんに「暴力団というのは怖いのだ。街にあってはいけないのだ。こんなものは絶対にいけないのだ」と分かっていただける運動にもなる。したがって、そういう地味な活動が必要だと思いますし、そのことによって社会的なコンセンサスができていくのだろうと思っています。 
 先ほど捜査手法の話をいたしましたが、その捜査手法をさらに超え、RICO法というものがございます。組織犯罪の結社に加盟すること自体を罰する法律です。最終的には、暴力団構成員ないしは反社会的勢力者であれば、それ自体を処罰する。我々としてはそこまでやっていかないと、これだけ強大な組織犯罪集団とは対峙できないのではないか。 
 皆さま方はそういう実態を多く知っておられますが、私があちこちでこういう話をすると、多くの国民の方は「あの弁護士、何てオーバーなことを言っているのだ」と思われる。しかし、いろいろな事例や実態をよくお話しすると、「大変だ。暴力団はそこまで社会に巣くっているのか」と理解していただけます。 
 そういう中でもう一つ思うのは、これは裁判所も含めてなのですが、厳罰化が必要であるということです。裁判官というのは世間知らずで、世の中の実態をよく知りません。非常に刑が軽い。その結果、彼らは「どうせ何年か務めて出てきたらええやないか。逆に箔が付くやないか」と言います。しかし、社会を防衛する、治安を維持する、そして安全・安心な社会をつくっていくということからすると、厳罰化は当然であると思います。 
 誤解を恐れずに申し上げるならば、ヤクザには人権はない。暴力団には人権はない。人の人権を踏みにじるやつらには人権はない。それぐらいの気持ちをもって敢然と向かっていかないといけない。これは闘いです。国家として、国民として、暴力団をはじめとする反社会的勢力と闘う。そういうことではないですか。だとすると、そういう意識をもってやっていかなければいけない。


6.最後に

 
 こういうことを言ってもなかなか票にはなりませんから、残念ながら政治家は言いません。しかし、何度も申し上げますが、我々は国民、国家の敵であるヤクザを撲滅するためにどうあるべきかということを含めて考えていかなければならないわけです。
 十何年前ですか、大阪府警の少年課の人と話をしていたら、その方が「先生、今後は少年問題が一番大きいですよ」と言われました。私はその時、「はあ、そうですか」と聞いていたのですが、やはりその言葉は正しかった。これだけ少年犯罪が多発し、これだけ悪質化するとはまだ私は思っていなかったわけです。結局それも教育問題と軌を一にするのでしょう。
 そういうことから考えますと、この反社会的勢力の問題は非常に根が深いことであり、時間もかかると思います。国民の中には、「そんなに一生懸命言ったって、ヤクザなんかなくなりませんよ」と言われる人がいます。そんなことでいいのでしょうか。いけないのではないかと思います。
 この前、入院していた男性がいきなり殺されました。ただ病院に入院しているだけで、いきなり誤って殺されてしまう。こういう社会のどこが安心・安全なのでしょうか。それぐらい治安の悪化は深刻な問題ではないかと思っています。
 あれは九州の負け組ヤクザの連中のことでしょう。しかし、負け組だって生きていかなければいけないから、それこそ組織の維持のためにメンツをかけて相手のタマを取りに行きます。タマを取りに行けば当然、発砲事件に巻き込まれる人が増えます。市民が被害者になる。このことをもう一度考えていただきたいと思います。
 我々は、勝ち組ヤクザも負け組ヤクザも要りません。この人たちを封圧する。そして、何度も言いますが、有効な手段、武器を立法によって国民の意思で警察に付与し、国を挙げて反社会的勢力と新たに闘う。今こういう次元に来ているのではないかと思います。
 大変早口で話があちこち飛び、非常に過激な発言も多々ありましたが、いわば身内の人ばかりだと思って安心してお話ししております。
 最後までご清聴をいただきまして、本当にありがとうございます。