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星の煌き
Episode 01 -昼星-
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<ネルフ王国の田舎町>

時に2015年。セカンドインパクトにより人類の文明は完膚なきまでに滅び去り、人
々の生活は10世紀もの後退を余儀なくされ、再び絶対王政が復活していた。

ここに、1人の少年が歩いている。彼の名を碇シンジ。本来であれば、この国の王であ
る碇ゲンドウの王子として裕福な暮らしを営んでいるはずだったが、父親との確執が元
で勘当されたわけではないが、互いの距離を置く為の放浪の旅を続けている。

また、復活したのは絶対王政だけではなく、奴隷制度なども復活。更に、石油などの燃
料の消滅が原因で、科学的な文明の80%が滅んでしまっていた。

化石燃料を使う自動車などは王族しか持っておらず、電子機器も水力発電で発生可能な
電力しか利用できない為、電気もあまり利用できない状態だった。

「いらはい。いらはい。」

商人の声が聞こえて来る。周りに裕福な身分を示す身形をした人々の人だかりができて
いる。

こんな所で?
何だろう?

行商とは無関係そうな身分の高そうな人が集まっているので、興味が沸いた少年は人混
みを掻き分けその中へ入って行く。

「いらはい。いらはい。うちは、正規の奴隷商だぜっ! 質がいいぜっ! さぁっ! 次の
  奴隷はこいつだっ! 見てくれぃ!」

始めて見たよ。
あれが奴隷商人なんだ。

奴隷商も国から認可を受け、奴隷を法律に乗っ取って調教し13歳以上になってから売
る正規の奴隷商と、モグリの奴隷商がいる。

正規の奴隷商は、身分の高い人をターゲットとしているので、高価な商品として傷をつ
けず奴隷を調教するが、モグリの奴隷商の奴隷は悲惨で、性的屈辱を受けるくらいなら
まだしも、酷い時には臓器売買をされ腎臓や肺の1つが無い者までいる。

こんな世の中になったのも父さんがいけないんだ。
あんなの言い訳だよっ!
ぼくは、父さんを許せない。

数ヶ月前、国の制度について揉め、父親の言い分が納得できず互いの間は破局を迎えた。
そのうちの1つが奴隷制度だ。今の制度では、奴隷は4つの利用用途が認められている。

奴隷種別1-肉体労働用。

肉体労働を目的とした使用方法で、この目的で利用される奴隷は死ぬまで労働力として
利用される。他の目的で利用された奴隷も、最終的にはここに行き着き死ぬことが多い。

奴隷種別2-性奴。

性的欲求解消に利用される奴隷で、奴隷が若い間はこの目的で利用されることが多い。
歳をとると、肉体労働用に回されるのが常だ。

奴隷種別3-メイド。

身分の高い人間が利用することが多い種別。実際は、性奴として扱われることも多いが、
対外的に対面が良い。それでも、奴隷に取っては最も待遇の良い利用目的である。

奴隷種別4-チルドレン。

中世には存在しなかった奴隷使用用途。人工の狂暴な生命体である使徒とのチルドレン
ショーと呼ばれる戦闘ショーを目的とした奴隷で、闘犬などと同じ様に扱われる。年齢
制限が18歳までであり、過酷な戦闘の中で早くに死ぬ奴隷も多い。

ショーを面白くする考慮から、主人も奴隷とシンクロして戦う必要がある為、利用する
者は少ないが、最終戦まで勝ち抜いた場合は莫大な賞金が出る利点がある。

また、他の種別との最大の違いは、最終戦まで勝ち進んだ奴隷は名誉市民として認めら
れ奴隷から開放されることであった。

「どーでーい。このたまはっ! 性奴としちゃーもってこいだぜっ!」

シンジが顔を上げると、首に鎖を付けられた髪の長い青い瞳の少女が、ぐいぐいと野良
犬の様に台上に引っぱり上げられていた。

ひ、酷い・・・。
あんな女の子に。

知識では知っていたつもりだったが、この時初めて奴隷を売る現場を目撃するシンジ。
そして、初めて売られている奴隷を見たのが、その少女であった。

「こいつは、5歳の時から飼育してんだっ! もちろん、初売りだっ! だから値が張る
  ぜっ!」

調教期間が長ければ長い程育成に金が掛かるが、反面奴隷としての質が上がる為、値段
が高くなる。更に女性の場合初売りとなると、誰も性的に手を出していない証明書が付
く為より一層値段が跳ね上がる。

「「「おおっ! こいつはすごいっ!」」」

周りの人間から、感嘆の声が漏れる。

「こいつは、300万ゴールドでぃっ! どうだっ! 買う奴はいるかっ!?」

「300万は、いくらなんでも高いんじゃないのかっ!?」
「そうだっ! 奴隷に300万なんか出せるかっ!」

「よく見ねぇっ! これだけのたまだぜっ!」

「200万なら買うぜっ!」
「俺なら210万だっ!」

辺りの人間が値段の引き落とし始める。そんな中、台の上で手錠と首輪をされ鎖で繋が
れた少女は、がっくりとうな垂れてじっとしていた。

「ぼ、ぼくが買うよっ!」

そんな少女を見ていたシンジは、いてもたってもいられず思わず声を上げてしまう。

「おっ! 兄ちゃん。そんな金あるのか? その若さだっ! やりたい気持ちはわかるけ
  どよぉっ!」

「「「「わははははははっ。」」」」

周りの人間が一斉にシンジを見て、大笑いする。しかし、仮にも王子であり父親と会い
たくないから旅をしていても、国の後継ぎであり勘当されたわけでも無いので、多少の
金は持っていた。

「お金ならあるよっ! これで文句無いだろっ!」

1万ゴールドを300枚、乗ってきたホロ付きの荷馬車からポンとシンジが出してきた
ので、周りの人間はもとより奴隷商も驚きの声を上げた。

「お前、どこぞのお坊ちゃまかい。まぁいいや。高くてなかなか売れなかったんだが、
  300万の価値はあるぜっ! 持って行きねぇっ!」

少女の首に掛けられた鎖を手渡されたシンジは、金を払い少女と一緒に台を降りて行く。
他にも奴隷の少年少女がいたが、それ以上養う力が今の自分にはとても無い為、縁が無
かったものとして諦めて貰うしかなかった。

「さぁ、行くよ。」

「はい。」

「あの荷馬車で旅してるんだ。あそこまで来てくれるかな?」

「はい。」

髪の長い奴隷の少女を連れて乗ってきた荷馬車に乗り込むと、この場から早く離れたく
て直ぐに馬を走らせた。

「御主人様の御名前を、教えて頂けますか?」

「ぼくは、シンジ。君は?」

「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーと言います。申し訳ありませんが、奴隷の登録
  をして下さいませんか?」

奴隷を買った主人は、自分の所有物であることを役所に届け出をしなければならない。
奴隷には専門の機関でなければ絶対に外せないインターフェイスヘッドセットが付けら
れており、奴隷種別や主人の有無をそれを見れば一目瞭然で分かる。

主人がいる場合、その奴隷に傷を付けると主人に対して器物破損罪が問われるが、捨て
られたなどの理由で主人がいない奴隷は、殺しても罪にはならないので、奴隷は身を守
る為主人に登録を申し出る。

「あぁ。いいよ。好きな所へ行ってくれても。ぼくと旅してもいいけどね。」

「こ、困ります。主人がいなければ、アタシどうなるか・・・。」

「あっ、そうか・・・ごめん。」

「そんな・・・。アタシのせいで御迷惑をお掛けして申し訳ありません。」

「とにかく、急いで届け出に行こうっ!」

シンジはその町にある役所へ、馬車の馬を歩かせる。この街の道は舗装道路になってい
るので、馬の足が傷む為走らせることはできない。

<役所>

役所までやってきたシンジは、書類に奴隷取得の必要事項を書き込んで行く。アスカは
奴隷である為、中には入れないので外で待っていた。

奴隷種別か・・・。
アスカと相談しよう。

シンジは書類を持って市役所を出て行き、外で待っているアスカにそれを見せながら、
どの種別で登録すべきか相談する。

「ねぇ。種別なんだけどさ。どれにしようかと思って相談に来たんだ。」

「アタシには決めれませんが、できれば・・・メイドにして頂ければ。」

当然の回答であろう。奴隷の身分の者が最も望んでしかるべき種別である。しかし、シ
ンジはその答えに渋い顔をした。

「あっ、あの。性奴が御所望であれば、それでも・・・。」

「違うんだ・・・。ぼくはチルドレンにしようと思うんだけど・・・。」

「!!!!」

アスカの顔が青褪めた。奴隷としては最も過酷な種別である。下手をすれば1月と生き
ていられる保証が無い。

「ご、御主人様が、御所望でしたら・・・それでも・・・。」

声が震えるアスカ。しかしシンジは、強い調子で言い聞かせる様にゆっくりと話し始め
た。

「メイドは楽さ。でも、それじゃいつまでも君は奴隷のままだよ?」

「・・・・・・。」

「奴隷という闇の世界にいる君にも、夜空の星みたいに僅かな光があると思うんだ。」

「・・・・・・。」

「でも、どうせ輝くなら昼に輝こうよ。」

「・・・・・・。」

「明るい世界で輝くのは大変だけど、昼の世界に出て行こうよっ!」

「・・・・・・昼の星。」

「ぼくも、精一杯協力するよっ! チルドレンで優勝して、昼の世界に出て行こうよっ!」

チルドレンとは、奴隷にとってオール オア ナッシングの勝算の低い掛け。しかし、シ
ンジの言葉を聞いたアスカの瞳は、星の煌きの様に輝き始めた。

「わかりましたっ!」

「一緒に頑張ってくれるかな?」

「はいっ! アタシを、チルドレンにして下さいっ!」

「うん。頑張ろうっ!」

アスカの了解を得たシンジは、役所でアスカをチルドレンとして登録する。チルドレン
の場合、主人へシンクロする必要があるので、アスカも専門の施設に入りインターフェ
イスヘッドセットにシンクロ機能を付けられる。

シンクロとは、A10神経という愛情を司る神経で主人と一体化し、主人が命令するマ
ジックと言われる特殊武器を使う為の物だ。チルドレンショーと言われる使徒との戦い
のショー性を高める為、主人が参加できる様にそういった仕組みになっている。

「終わったよ。じゃ、行こうか。」

「はい。御主人様。」

<荷馬車>

先程から気になっていたのだが、アスカの言葉を聞いてシンジはおもむろに嫌そうな顔
をしながら、荷馬車にアスカと共に乗り込む。

「あのさ。御主人様とかさ、そういう言葉遣い止めてくれないかな?」

「犯罪になりますから・・・。」

奴隷は、一般市民のことは敬称を付け敬語で話さなければならないという法律があった。
もちろん法律違反をすれば、犯罪となり奴隷の場合は犯罪をすれば即死刑だ。

「そうか・・・。じゃぁさ、人前は仕方ないけどさ。2人だけの時は、敬語も止めて、
  シンジって呼んでくれないかな?」

「そ、そんな・・・。」

驚いた顔をするアスカ。5歳から奴隷として調教されてきたアスカには、好きな所へ行
って良いと言い、自分のことを考えチルドレンとして登録してくれることといい、更に
は敬語を使うなというシンジが信じられなかった。

「敬語じゃなくても話せるだろ?」

「はい。奴隷同士では、敬語使いませんから。」

「じゃ、それと一緒でいいよ。」

「でも、貴方様は御主人様ですから・・・。」

「何言ってんだよ。ぼく達は、パートナーさ。チルドレン戦を勝ち抜く為に協力するパ
  ートナーだよ。」

「・・・・・・。」

「だから、御主人様とかおかしいじゃないか。」

「・・・・・・。」

「ね。」

「では・・・その・・・。」

「うん。」

「シンジ。」

少しビクビクしながら名前を呼ぶアスカに、シンジはニコリと微笑みを返す。

「ほら。その方が自然だよ。アハハハハハ。」

「シンジって・・・変わった御主人様ね。」

「だから、御主人様は言わないって言ったじゃないか。」

「あっ、そっか。ハハハ。」

荷馬車は揺れる。主人として登録されたシンジと、奴隷として登録されたアスカを乗せ
てゴトゴトと揺れる。

「5歳で奴隷になったって聞いたけど、その前はどんな暮らししてたの?」

「貴族だったの。でも5歳の時、ママが死んじゃって・・・。」

「母さんが? ぼくもさ、5歳の時に母さんが死んじゃったんだ・・・。」

「そうなのっ? そうなんだ・・・。」

最初、自分が奴隷になる切っ掛けとなった母の死を辛そうに話していたアスカだったが、
自分と辛さを共感できる主人なのだと知り、少し安らかな顔をする。

「それを切っ掛けに借金が増えてね。新しいママが、奴隷商人に売っちゃったの。」

「そうなんだ・・・。」

「でも、いいのっ!」

やっぱり聞くんじゃなかったと辛そうな顔をするシンジに、アスカは元気良く声を掛け
てくる。

「奴隷になったおかげで、アンタと会えたんだもん。新しいママといたときより、ずっ
  と楽しいもの。」

「そう言ってくれたら、嬉しいけど・・・。」

「アンタってほんと変わってるわね。奴隷なんかの為に、そんな顔しちゃって・・・。」

「その・・・あまり奴隷って言わないでくれないかな。パートナーなんだから。」

「・・・ア、アンタ。」

「ね。」

「ありがとう・・・。アンタが買ってくれて、アタシ本当に良かった・・・。」

今迄聞いてきた仲間の奴隷の話と比較して・・・いや一般市民の同年代の女の子と比較
したとしても、なんと幸せな巡り合わせなのかとアスカは天に感謝した。

<宿場町>

夜の帳が降りた頃、ホロを被せた荷馬車は小さな宿場町に辿り着いた。

「お腹減ったね。何か食べようよ。」

アスカを連れて飲食店に入ろうとするシンジ。しかしその時、店頭に立っていたウエイ
ターがシンジの前に立ちはだかってきた。

「困りますねぇ。奴隷の持ち込みは禁止なんですが? そこに書いてあります。」

「えっ?」

ウエイターが指差した所に目を向けると、確かに”犬,猫,奴隷の持ち込みは、他のお
客様のご迷惑になりますので、ご遠慮下さい。”と書いてあった。

「どうしてだよっ! 同じ人じゃないかっ!」

「お客さーん・・・。」

困った顔でシンジを見返してくるウェイター。その時、シンジの服の裾をアスカがくい
くいと引っ張った。

「御主人様。アタシは外で待っていますから。」

「そ、そんなの・・・。」

人前なので、敬語を使うのは仕方無いとしても、アスカ1人を外で待たせて自分だけ店
の中でご飯を食べることなど、シンジにできようはずもない。

「もういいよっ! 」

頭にきたシンジは、自分も店に入ろうとせずアスカと共に出て行く。その後ろ姿を、ウ
エイターはやれやれという感じで見送っていた。

「シンジだけでも食べてきて。アタシ待ってるから。」

「嫌だ。アスカと一緒に入れる店探す。」

「そんな店・・・無いわ・・・。」

しかし意外とシンジは頑固な所があり、その後いくつも飲食店を回ったのだが、その全
てが奴隷とペットの持ち込みを禁止していた。

今迄、奴隷と接することが少なかった為、認識が薄かったシンジは今の世の中の酷さを
改めて痛感する。

「もうアタシはいいから・・・ぐずぐずしてたら、お店みんな閉まっちゃうし。」

「やだ。」

「仕方ないでしょ?」

「やだ。アスカと食べる。」

「シンジ・・・。」

しかし、どう頑張っても店には入れそうにないので、シンジは仕方なくまだ開店してい
るスーパーを見つけ、幾つかのパンとソーセージなどを買い荷馬車へ戻って来た。

「お店は無理だったけど、ここで食べたら誰も文句言わないさ。」

アスカは手渡されたパンとソーセージを両手に持ってじっと見つめる。記憶の彼方にあ
る、奴隷になる前の豪華な食事とは程遠い物だったが、それが掛け替えの無い貴重な物
に思えてくる。

「お腹減っちゃったよ。早く食べよ。」

「うん。頂きます。」

ぱくっ。

「美味しい。」

「そう。良かった。」

シンジと始めての夕食。たかがパンであったが、アスカはそれを大事に持って一口一口
噛みしめる様に食べていった。

「ふぁぁ。そろそろ寝ようか。」

今日は色々なことがあったので、シンジは早々と小さな荷馬車の中に布団を敷く。奴隷
と一緒に泊まれる宿も無いので、ここで寝るしか無い。

「おやすみぃ。狭いけど我慢してね。」

シンジはそう言って、できるだけアスカのスペースを開けようとホロを被った荷馬車の
隅に体を寄せ、背中を向けて寝始めた。

「寝るって・・・ア、アタシは?」

「アスカも早く寝た方がいいよ。明日から修行もしなくちゃいけないだろ?」

「そうじゃなくて・・・普通、男の人が女の子の奴隷を買ったら・・・。」

「そんなつもりで買ったんじゃないよ。おやすみ。」

ぼーっと荷馬車の隅に中腰で立ち、自分の寝る場所とシンジのことを交互に見つめるア
スカ。自分に手を出さないにも関わらず、一緒に布団で寝かしてくれるというのだ。

アンタって・・・。

何年振りかに布団の中に身を潜らせたアスカは、隣に感じるシンジの背中に身を寄せそ
の温もりを感じながら眠っていったのだった。

翌朝。

アスカが目を覚ますと、荷馬車の中にシンジの姿はなかった。荷台から顔を出して外を
見てみるが、朝も早いと言うのに何処にも姿が見えない。

「シンジっ!? シンジっ!?」

1度親に捨てられたアスカは、シンジが自分のことを重荷に思って捨てたのではないか
と恐怖し、必死で辺りを探す。

「シンジ・・・あっ・・・御主人様っ! 御主人様っ!?」

外で主人を呼び捨てにすれば犯罪になる為、言い方を変えて探すが、何処にもシンジの
姿は見つからない。

「御主人様っ! 御主人様っ!」

大声を出してシンジのことを呼んでいると、それを聞きつけた朝まで夜遊びしていた不
良達3人がぞろぞろと近寄ってきた。

「おい。奴隷が独りでうろついてるぜ。」
「なかなか上玉じゃねーか。」
「でも、コイツ主人がいるぜ。」
「かまいやしねーって。殺しちまえば、ばれねーよ。」
「やっぱ、やばいよ。」
「こんな、朝早く誰も見てねーって。」

奴隷と言えど主人がいる場合、傷つけると犯罪だが、そんなことはおかまいなしに取り
囲んでくる不良達。

「うっ・・・。」

奴隷が市民に手出しをすれば即死刑であり、下手をすれば主人にまで被害が及ぶ。手を
出せないアスカは、恐怖に顔を引き攣らせジリジリと荷馬車の方へ下がる。

「おいっ! 何してんだよっ!」

丁度そこへ、シンジが荷物を一杯持って帰ってきた。アスカは即座にシンジの元へ駆け
寄りその背中に隠れる。

「あんなガキの奴隷だってよ。」
「あいつにゃ、勿体ねぇよな。」

欲に目が眩んだ不良達は、3人掛かりでシンジに襲い掛かる。だが、仮にも家出をする
数ヶ月前まで英雄加持リョウジに訓練を受けていたシンジの腕は、少し名のある戦士く
らいまでには上達していた。

「こ、こいつ強いぞっ!」
「逃げろ。」

何度か剣を交え、シンジの強さを知った不良達は、そそくさと逃げ帰って行く。シンジ
は後を追うこともなく、ゆっくりとアスカの元へ歩いて行った。

「ごめん。朝市へ買い物に行ってたんだ。でも、勝手に外に出たら駄目だよ。危ないじ
  ゃないか。」

「だって・・・だってっ! だってっ! また捨てられたのかと思って。」

「そうか・・・ごめん。でも、そんなこと絶対しないよ。これを買いに行ってただけさ。」

「これは?」

「アスカのアクティブソードと、アクティブシールド。マジックリングに、プラグスー
  ツだよ。これからの戦いに必要だろ?」

「ありがとう。でも、アタシも一緒に連れて行って欲しかった・・・。」

「ごめん・・・でも・・・。」

しかし、シンジは言いよどんでしまう。武器などを売る店や朝市には暴動を避ける為、
奴隷は入れないのだ。

「あっ! そ、そうね・・・。」

「こんなことになるとは思ってなかったから・・・ごめん。」

「アタシに気を使ってくれたのね・・・・。あっ! 早速これ着てみるっ。」

「うん。ぼくはこっち向いてるから。」

「別に・・・。」

奴隷は主人が脱げと言えば脱いで当然であるにも関わらず、アスカはシンジの態度を見
て、つくづく良い意味で変わった主人だと改めて思う。

「着替えたわよ。」

「どう? サイズは・・・うっ・・・それがプラグスーツなんだ。」

初めて見るプラグスーツ姿の女の子に赤面してしまうシンジ。一方アスカは、シンジが
買ってきた真っ赤なプラグスーツをかなり気に入っている様だ。

「サイズもぴったりよ。胸もきつくないし。」

「よくわかんなかったんだけど、良かったよ。」

「うん。」

シンジは荷馬車のホロを畳んで、買って来た食料や生活用品を積むと、馬に鞭打って走
らせ始めた。

「ねぇ、シンジ? そのお馬さんの名前はなに?」

「ペンペンだよ。」

「馬なのにペンペンなの?」

「うん、昔飼ってた温泉ペンギンが死んじゃってね。丁度入れ替わりにやってきた馬な
  んだ。だから、生まれ変わりみたいな気がして。」

「そうなんだぁ。立派なお馬さんねぇ。」

「そうかな・・・。」

その馬はとても一般市民が持てるとは思えない、真っ白なサラブレッドである。あまり
詳しく話をすると、嫌な父親の話になるので適当に話をはぐらかす。

「朝ご飯まだだろ? その袋にパンが入ってるよ。」

「ありがとう。」

袋からパンとミルクを取り出して、揺れる荷台で食べ始めるアスカ。その間も、シンジ
は黙々と馬を走らせている。

「ねぇ、アンタはどっかで食べて来たの?」

「ううん。朝は食べないんだ。」

「そうなの? 体に良くないわよ?」

「そうかな?」

「そうよ。半分だけでも食べて。」

自分のパンを半分千切ってアスカはパンを渡した。パン自体よりもその好意が嬉しかっ
たシンジは、普段朝は食べないが喜んで口に入れる。

「ミルクも飲む?」

「ミルクはいいや。」

「そうね。奴隷が口付けちゃった物だし・・・。」

「そうじゃないよ。嫌いなんだ・・・ミルク。昔から。」

「え? そうなの?」

「うん。」

「それだけ?」

「うん。」

「じゃ、飲んで。」

「えっ?」

「駄目よ。骨が強くならないわ。」

「でも・・・。」

「飲むのっ!」

「・・・うん。」

しぶしぶ嫌いな牛乳に口を付けたシンジは、鼻を摘まんで少しだけ喉を通した。

「どう?」

「やっぱりまずい・・・。」

「でも、これからは少しづつでも飲まなくちゃダメよ。」

「うん・・・そうする。」

「アハハハ。」

「どうしたの?」

「だって、奴隷の言うことを聞く主人なんて、アンタくらいだろうなぁと思って。」

「はは・・・そ、そうかな?」

照れ笑いを浮かべてポリポリと頭を掻くシンジを見ていたアスカは、パンを食べおわり
中腰で荷台を前の方へ出てきた。

「横、座っていいかしら?」

「気を付けてね。」

「うん。」

馬に鞭打つシンジの横へ、まわりに掴まりながらそろりそろりと荷台から移動してくる
アスカ。

「アタシっ! チルドレンとして頑張るっ!」

「そうだねっ! 昼の世界へ出ようよっ!」

「うんっ! 絶対に優勝してみせるねっ!」

「そうさ。同じ人間なんだ。市民にならなくちゃっ!」

「うーん・・・アタシの目標は、もっと高いんだけどなぁ。」

「え? そうなの?」

「今のアタシにとっては、とてつもなく高い目標よっ!」

「何? 教えてよ。」

「まだ、な・い・しょ。」

アスカはニコリと笑顔を見せながら、横に座るシンジにぽてりと凭れ掛る。

こうして、2人のチルドレンショーに勝ち抜く為の修行の旅が始まった。

チルドレンショー。それは、A10神経によりシンクロする奴隷が、主人に向ける愛情
の強さが勝敗を決めることから、”愛の戦い”とも呼ばれる戦いである。

To Be Continued.
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