この魔術師に祝福を!   作:混沌の覇王

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この魔術師に機動要塞を! ブリーフィング

「逃げるのよ!遠くへ逃げるの!」

 

装備を整えて広間に戻ると、いろいろと物をひっくり返しているアクアと小さな鞄を横に置いて、お茶を飲んでいるめぐみんがいた。

 

「もう、ジタバタしたって始まりませんよ。住む所も全て失うなら、もういっそ魔王の城にカチコミにでも行きましょうか」

 

「変なことを言うのは止めてくれる、めぐみん?」

 

とんでもない事を口走っためぐみんにツッコミを入れる。

 

「・・・・・・えっと。どうしたお前ら。何だこの状況は?緊急の呼び出しを受けてるんだぞ、準備を整えてとっとと行こうぜ」

 

「カズマったら何を言ってるの?ひょっとして、機動要塞デストロイヤーと戦う気?」

 

「カズマ。今この街には、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる、最悪の大物賞金首、機動要塞デストロイヤーが迫ってきています。これと戦うとか、無謀も良いところですよ?」

 

「ねえ、私の可愛い信者達がなぜそんな風に言われているの?こないだウィズにも言われたんだけど、どうしてウチの子達ってそんなに怯えられているのかしら。みんな普通のいい子達ばかりなのに!?」

 

「崇めてる御神体がろくでもないからじゃない?」

 

「どういう意味よおぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「自分の胸に聞いてみたら!?」

 

掴みかかってくるアクアと取っ組み合いになる。

 

「なあ、それはめぐみんの爆裂魔法でどうにかならないのか?名前からして大きそうだし、遠くから丸分かりだろ?魔法で一撃じゃダメなのか?」

 

「無理ですね!デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています。爆裂魔法の一発や二発、防いでしまうでしょう」

 

めぐみんの爆裂魔法を防げるとか、硬すぎだよデストロイヤー。

 

「ねえ、ウチの信者はいい子達よ!めぐみん聞いてよ、巷で悪い噂が流れてるのは、心無いエリス教徒の仕業なのよ!みんなエリスの事を美化してるけど、あの子、アレで結構やんちゃな所があるのよ!?悪魔相手だと私以上に容赦がないし、結構自由奔放だし!案外暇な時とか、地上に遊びに来てたりしてるかもしれないわ!アクシズ教を!アクシズ教をよろしくお願いします!」

 

「アクア、日頃神の名を自称してるだけじゃ飽き足らず、更にはエリス様の悪口まで言うなんてバチが当たりますよ?」

 

「自称じゃないわよ!信じてよー!!」

 

アクアは組んでいた手を離して目の前で仰向けになってジタバタと駄々をこねる子供みたいになった。

 

「・・・・・・遅くなった!・・・・・・ん、どうしたカズマ。早く支度をして来い。お前なら、きっとギルドへ行くんだろ?」

 

広間に入って来たダクネスは普段の鎧の上に鎖を編み込んだマントを羽織って、左手の籠手に盾を着けていた。

 

「おいお前ら、こいつを見習え!長く過ごしたこの屋敷とこの街に、愛着は無いのか!ほら、ギルドに行くぞ!」

 

「・・・・・・ねえカズマ、今日はなぜそんなに燃えているの?なんか、目の奥が凄くキラキラしてるんですけど。ていうか、この屋敷に住んで、そんなに経ってないんですけど・・・・・・」

 

「やけに今回は乗り気だね、カズマ」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「お集まりの皆さん!本日は、緊急の呼び出しに答えて下さり大変ありがとうございます!只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の、緊急クエストを行います。このクエストには、レベルも職業も関係なく、全員参加でお願いします。無理と判断した場合には、街を捨て、全員で逃げる事になります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、よろしくお願い致します!」

 

冒険者ギルドには重装備の冒険者達が集まっていた。気のせいか、男性冒険者の比率が多い気がする。

 

「それではお集まりの皆さん、只今より緊急の作成会議を行います。どうか、各自席に着いてください!」

 

職員の指示に従って、手近な席に座る。それにしてもかなりの数の冒険者だ。駆け出し冒険者の街だからこんなに人がいるんだろうか。

 

「さて、それでは。まずは、現在の状況を説明させて頂きます!・・・・・・えっと、まず、機動要塞デストロイヤーの説明が必要な方はいますか?」

 

職員の言葉に僕とカズマを含めた数名の冒険者が手を挙げた。それを見た職員は頷いた。

 

「機動要塞デストロイヤーは、元々対魔王用の兵器として、魔道技術大国ノイズで造られた、超大型のゴーレムの事です。国家予算から巨額を投じて作られたこの巨大なゴーレムは、外観はクモの様な形状をしております。小さな城ぐらいの大きさを誇っており、魔法金属をふんだんに使われ、外観には似合わない軽めの重量で、八本の巨大な足で、馬をも超える速度が出せます」

 

この世界だとデストロイヤーは有名なのかほとんどの冒険者が頷いている。

 

「特筆するのは、その巨体と進行速度です。凄まじい速度で動く、その八本の脚で踏まれれば、大型のモンスターとて挽肉にされます。そしてその体には、ノイズ国の魔道技術の粋により、常時、強力な魔力結界が張られています。これにより、まず魔法攻撃は意味をなしません」

 

魔法が効かないなら、残された手段は直接デストロイヤーに乗り込んで機関部を破壊するしかないのか。

 

「魔法が効かない為、物理攻撃しか無いわけですが・・・・・・。接近すると轢き潰されます。なので、弓や投石などの遠距離攻撃しか無いわけですが・・・・・・。元が魔法金属製のゴーレムな為、弓はまず弾かれ、攻城用の投石機も、機動要塞の速度からして、運用が難しいと思われます。それに、このゴーレムの胴体部分には、空からのモンスターの攻撃に備える為、、自立型の中型ゴーレムが、飛来する物体を備え付けの小型バリスタ等で撃ち落とし、なおかつ、戦闘用のゴーレムが胴体部分的上に配備されています」

 

騒がしかった冒険者達が静まり返っている。雰囲気で言えばお通夜だ。魔法が効かない、デストロイヤーに乗り込む前に轢き潰される、遠距離攻撃も実質的には意味が無い。この街にいる冒険者ではどうしようも無い。

 

「現在、機動要塞デストロイヤーは、この街の北西方面からこちらに向けて真っ直ぐ侵攻中です。・・・・・・では、ご意見をどうぞ!」

 

職員の言葉にギルド中が完全に静まり返る。・・・・・・屋敷を捨ててこの街から逃げることも視野に入れとおかないとダメかも知れない。

 

「・・・・・・あの、その魔道技術大国ノイズって国はどうなったんです?そいつを造った国なら、それに匹敵する何かを造るなりなんなりできなかったんですか?あと、機動要塞の弱点ぐらい知ってたりとか・・・・・・」

 

「滅びました。デストロイヤーの暴走で、真っ先に滅ぼされました」

 

自滅じゃないか。

 

「そんなの、街の周りに巨大な落とし穴でも掘るとか」

 

「やりました。多くの『エレメンタルマスター』が集まって地の精霊に働きかけ、即席ながらも巨大な大穴を掘り、デストロイヤーを穴に落としたまでは良かったのですが・・・・・・。機動性能が半端なく、なんと、八本の脚を使い、ジャンプしました。上から岩を落としてフタをする作戦だったそうですが、その暇も無かったそうです」

 

ギルド内から音が完全に消えた。打開策が無い以上、街から避難するしかない。

 

「おい、カズマ。お前さんなら機転が利くだろう。何か良い案は無いか?」

 

近くのテーブルに座っていたテイラーがカズマに無茶ぶりした。カズマは腕を組んで、少し考えた後、アクアを見る。

 

「なあ、アクア。ウィズの話じゃ、魔王の城に張られている魔力結界ですら、魔王の幹部、二、三人が維持したものでも、お前の力なら破れるとか言ってなかったか?なら、デストロイヤーの結界も破れないか?」

 

「ああ、そういえばそんな事言ってたわね。でも、やってみないと分からないわよ?結界を破れる確約はできないわ」

 

なるほど・・・・・・アクアの魔法で結界を破るのか。破った後に後衛職の魔法でデストロイヤーを破壊するわけか。

 

「破れるんですか!?デストロイヤーの結界を!?」

 

「いや、もしかしたらって事で。確約はできないそうです」

 

「一応、やるだけやっては貰えませんか?それができれば魔法による攻撃が・・・・・・!あ、いやでも。機動要塞相手には、下手な魔法では効果が無い。駆け出しばかりのこの街の魔法使いでは、火力が足りないでしょうか・・・・・・」

 

「やってみる価値はあるんじゃない?どのみち今のままだと時間を無駄にするだけだしさ。それに、火力持ちならこの街にいるじゃないか。アクセル一の魔法使いがさ」

 

そう言って僕はめぐみんに視線を飛ばす。めぐみんは意味が分かったのか胸を張って、どや顔で立ち上がろうとする。

 

「そうか、頭のおかしいのが・・・・・・!」

 

「おかしい娘がいたな・・・・・・!」

 

「どうしてそうなるのですか!?」

 

他の冒険者達からのあんまりな言い草にめぐみんがキレた。めぐみんはガシャン!と椅子を倒して勢いよく立ち上がった。

 

「せっかくシュウが場を整えてくれたというのに!誰が頭のおかしい娘ですかっ!?良いでしょう!!誰の頭がおかしいのか今ここで証明してみせましょうっ!!」

 

「お、落ち着けめぐみん!こんな所で爆裂魔法を使おうとするんじゃない!」

 

暴れるめぐみんをダクネスが羽交い締めにして抑える。日頃、爆裂魔法を撃ちまくっているせいで頭のおかしい娘扱いされ始めたのか・・・・・・。落ち着きを取り戻しためぐみんは人々の期待の眼差しを受けて顔を赤くしていく。

 

「うう・・・・・・わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない・・・・・・と、思われ・・・・・・」

 

めぐみんの言葉にギルド内が再び静まり返る。打開策は浮かんだ。問題のデストロイヤーの魔力結界をどうにか出来る目処は立った。だけど、唯一デストロイヤーを破壊出来る可能性がある爆裂魔法のめぐみんが破壊は無理だと言う。

 

「すいません、遅くなりました・・・・・・!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに・・・・・・」

 

ギルドの扉が開いて入って来たのは、いつも店で着けているエプロンを着けているウィズだった。

 

「店主さんだ!」

 

「貧乏店主さんが来た!」

 

「店主さん、いつもあの店の夢でお世話になってます!」

 

「店主さんが来た!勝てる!これで勝てる!」

 

前にウィズから魔道具店の店主をする前は冒険者をしていて、かなり名が知れていたらしいという話を聞いたことがある。なら、他の冒険者達が喜んでいるのに納得だ。ウィズは中央のテーブルに案内されて、着席する。

 

「では、店主さんにお越し頂いた所で、改めて作戦を!ええと、店主さんが来たのでもう一度まとめます。・・・・・・まず、アークプリーストのアクアさんが、デストロイヤーの結界を解除。そして、おかし・・・・・・、めぐみんさんが、結界の消えたデストロイヤーに爆裂魔法を撃ち込む、という話になっておりました」

 

「・・・・・・爆裂魔法で、脚を破壊した方が良さそうですね。デストロイヤーの脚は本体の左右に四本ずつ。これを、めぐみんさんと私で、左右に爆裂魔法を撃ち込むのは如何でしょう。機動要塞の脚さえ何とかしてしまえば、後は何とでもなると思いますが・・・・・・」

 

デストロイヤーの機動力を奪ってしまえば後はどうとでもなるって訳か。残った本体はめぐみんの日課の爆裂魔法の的にでもすれば良い。どのみち、僕に出来ることは無さそうだ。

 

「では、結界解除後、爆裂魔法により脚を攻撃。万が一脚を破壊し尽くせなかった事を考え、前衛職の冒険者各員はハンマー等を装備し、デストロイヤー通過予定地点を囲むように待機。魔法で破壊し損なった脚を攻撃し、これを破壊。要塞内部には、デストロイヤーを開発した研究者がいると思われますが、この研究者が何かをするとは限りません。万が一を考え、本体内に突入もできる様にロープつきの矢を配備し、アーチャーの方はこれを装備。身軽な装備の人達は、要塞への突入準備を整えておいて下さい!」




・簡単なオリ主設定。

名前・蒼崎秋

年齢・十五歳

職業・ルーンナイト

主な使用武器・白と黒の夫婦剣、黒鍵、ルーンを刻んだ小石

好きなこと・読書、鍛練、魔術の鍛練

嫌いなこと・残虐な行為、魔術の師の車の運転

カズマとアクアの異世界転生に巻き込まれた被害者。秋の場合は転生ではなく転移。当初は一人で魔王を倒しに行こうと考えていたが、なんだかんだとカズマ達と一緒にいるのが楽しくてずっとパーティーを組んでいる。

好きな女性のタイプは歳上の女性。今でも初恋の女性のことを引き摺っているので、攻略難易度は高め。

元いた世界では魔術協会に所属していない魔術使い。本人は『根源』に興味はない。魔術師の行う残虐な行為は嫌いだが、自分も大概なのでろくでもない死に方をすると考えている。

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