この魔術師に祝福を!   作:混沌の覇王

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この魔術師にパーティー交換を!

――――――僕が死んでから数日後。僕を除いた全員が満場一致で休養を取ることに決まり、久しぶりのギルドで掲示板の手頃な依頼を探していると――――――。

 

「おい、もう一度言ってみろ」

 

カズマが拳を握って必死に怒りを抑えている。

 

「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティーにいながら、もう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前が足を引っ張ってるんだろ?なあ、最弱職さんよ?」

 

カズマに絡んでいる金髪の戦士風の冒険者は同じテーブルの仲間と笑っている。ことの発端はカズマが荷物持ちの依頼書を持ってきた所から始まった。このパーティーは良くも悪くも目立つ。それが気に入らなかったのだろう。

 

「おいおい、何か言い返せよ最弱職。ったく、いい女を三人も引き連れて、ハーレム気取りか?しかも全員上級職ときてやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?そこの兄ちゃんもどうせ最弱職だろ?録な防具も着けてねぇじゃねぇか。良いよなぁ上級職が三人もいるパーティーは!!最弱職が二人いてもクエストがクリア出来るんだからなぁ!!」

 

金髪冒険者の言葉にギルド内で爆笑が巻き起こる。中には顔をしかめている冒険者も何人か見受けられる。・・・・・・この世界の人間はあれか?防具を着けてなかったら最弱職の冒険者と思うわけ?確かに防具らしい防具は着けてないけどさ。

 

「カズマ、シュウ、相手にしてはいけません。私なら、何を言われても気にしませんよ」

 

「そうだカズマ、シュウ。酔っ払いの言うことなど捨て置けばいい」

 

「そうよ。あの男、私達を引き連れてる二人に妬いてんのよ。私は全く気にしないからほっときなさいな」

 

三人が無視するように言ってくる。このパーティーは上級職が三人いてそれも全員美人美少女だ。他のパーティーの男からしたら羨ましいだろう。金髪冒険者を無視して、いつもの受付のお姉さんのカウンターに行こうとして、金髪冒険者がカズマの特大の地雷を踏み抜いた。

 

「上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ!おい、俺と代わってくれよ兄ちゃん達よ?」

 

「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおっ!!」

 

カズマは大声で叫んだ。うん、僕も叫ばないけど同じ気持ちだ。

 

「・・・・・・えっ?」

 

カズマに絡んでいた金髪冒険者がカズマの予想外の反応にマヌケな声を出した。

 

「代わってやるよって言ったんだ!おいお前、さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばっか抜かしやがって!ああそうだ、確かに俺は最弱職だ!それは認める。・・・・・・だがなぁ、お前!お前その後なんつった!」

 

ここまで怒り狂うカズマは初めて見た。よっぽど金髪冒険者の言葉が腹に据えかねたのだろう。アクア達もビックリしておろおろしている。

 

「そ、その後?その、いい女三人も連れてハーレム気取りかって・・・・・・」

 

「いい女!ハーレム!!ハーレムってか!?おいお前、その顔にくっついてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなのか?どこにいい女がいるんだよ!俺の濁った目ん玉じゃどこにも見当たらねえよ!お前いいビー玉つけてんな、俺の濁った目玉と取り替えてくれよ!」

 

「「「あ、あれっ!?」」」

 

アクア達は自分を指差しながら驚いている。・・・・・・うん、まあ見た目は美人美少女だからね。

 

「なあおい!教えてくれよ!いい女?どこだよ、どこにいるってんだよコラッ!てめー俺らが羨ましいって言ったな!ああ?言ったなおいっ!」

 

・・・・・・そろそろ止めた方が良いかな?アクアが泣きそうになってるし。

 

「カズマー、そろそろ戻って来なよ」

 

「しかもその後なんつった?上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?苦労知らずだああああああ!?」

 

カズマは僕の言葉が聞こえないほど怒っているのか金髪冒険者の胸ぐらを掴んで前後に揺さぶっている。

 

「・・・・・・そ、その、ご、ごめん・・・・・・。俺も酔ってた勢いで言い過ぎた・・・・・・。で、でもあれだ!隣の芝生は青く見えるって言うがな、お前さん達は確かに恵まれている境遇なんだよ!代わってくれるって言ったな?なら、一日。一日だけ代わってくれよ冒険者さんよ?おい、お前らもいいか!?」

 

金髪冒険者はテーブルの仲間に確認を取った。

 

「お、俺はいいけどよお・・・・・・。今日のクエストはゴブリン狩りだし」

 

「あたしもいいよ?でもダスト。あんた、居心地が良いからもうこっちのパーティーに帰ってこないとか言い出さないでよ?」

 

「俺も構わんぞ。ひよっ子二人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、良い土産話を期待してるぞ?」

 

金髪冒険者の仲間達からの了承を得てしまった。

 

「ねえカズマ。その、勝手に話が進んでるけど私達の意見は通らないの?」

 

「通らない。おい、俺の名はカズマ。今日一日って話だが、どうぞよろしく!」

 

「「「は、はぁ・・・・・・」」」

 

金髪冒険者の仲間達は戸惑い気味の返事をした。

 

「はぁ・・・・・・カズマのことが心配だし、僕は向こうについていくよ。三人とも無理しちゃダメだからね」

 

・・・・・・まあ、アクアがいるし多少の怪我ならどうにかなるだろう。カズマを追いかけようとして、誰かに服の袖を引っ張られた。

 

「・・・・・・ねえ、シュウ。このままカズマと一緒にパーティーを抜けたりしないわよね?また、戻ってくるわよね?」

 

アクアは不安そうな目で見てきた。

 

「大丈夫だよ。僕もカズマもアクア達を切り捨ててまで他のパーティーに移るつもりなんて無いからさ」

 

カズマも好き勝手言われて我を忘れているだけだろうし少し時間が立てば頭も冷えるだろう。僕も元々このパーティーを抜けるつもりも無いしね。・・・・・・このパーティーもなんだかんだ居心地が良いしね。絶対に皆の前で言わないけど。アクアとか調子に乗りそうだし。

 

「・・・・・・うん、分かった」

 

アクアは服の袖を引っ張るのを止めてくれた。今度こそカズマを追おうとして、金髪冒険者に用があるのを思い出して、金髪冒険者の方に歩いていく。

 

「ねえ」

 

「あっ?なんだよ?」

 

金髪冒険者はチンピラみたいな反応で僕の方を向いた。金髪冒険者の肩に手を置いて、耳元で囁く。

 

もしアクア達が死ぬような事があったら――――――その玉、二度と使えないように潰すから

 

「ひいっ!?」

 

金髪冒険者は自分の股間を押さえて、後ずさった。

 

「それじゃあくれぐれも三人の事をよろしくね?」

 

「は、はいっ!!お、お任せください!!」

 

金髪冒険者は顔を真っ青にしながら返事をした。そんなに怯えなくて良いのに・・・・・・。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

金髪冒険者に軽く脅しをかけてから、カズマを追いかけるとすぐに追い付いた。その時に軽く自己紹介も済ませている。僕の職業がルーンナイトだというと驚かれた。

 

「俺はテイラー。片手剣が得物の『クルセイダー』だ。このパーティーのリーダーみたいなもんさ。成り行きとはいえ、今日一日は俺達のパーティーメンバーになったんだ。リーダーの言うことはちゃんと聞いてもらうぞ」

 

「勿論だ。というか、普段は俺が指示する立場だったから、そっちに指示してもらえるってのは、楽だし新鮮でいい。よろしく頼む」

 

「よろしく。僕は前衛兼遊撃だから好きに使ってくれて構わないよ」

 

僕とカズマの言葉に驚いた表情をした。

 

「何?あの上級職ばかりのパーティーで冒険者がリーダーやってたって言うのか?てっきり他の上級職の誰かか、シュウがリーダーだと・・・・・・」

 

「僕は誰かを指示するのは不向きだからね。基本的にカズマが指示するようになってるんだ」

 

「・・・・・・たまには代わってくれよ」

 

「断る」

 

カズマが掴みかかろうとして来るが、ひらりと避ける。

 

「あたしはリーン。見ての通りの『ウィザード』よ。魔法は中級魔法まで使えるわ。まあよろしくね、ゴブリンぐらい楽勝よ。あたしが守ってあげるわ、駆け出し君たち!」

 

リーンと名乗った少女はにこりと笑った。

 

「俺はキース。『アーチャー』だ。狙撃には自信がある。ま、よろしく頼むぜ?」

 

弓を背負って笑うキースという男。

 

「じゃあ改めてよろしく。俺はカズマ。クラスは冒険者。・・・・・・えっと、俺も得意な事とか言った方がいい?」

 

「いや、別にいい。というか、荷物持ちの仕事を探していたんだろう?カズマは俺達の荷物持ちでもやってくれ。ゴブリン討伐くらい俺達とシュウでどうとでもなる。心配するな、ちゃんとクエスト報酬は五等分してやるよ」

 

テイラーがからかう様に言う。

 

「僕ももう一度挨拶しとこうかな。僕はシュウ。職業はルーンナイト。パーティーでは前衛兼遊撃を担当してるんだ。カズマ共々よろしくね」

 

テイラーが立ち上がって僕とカズマを見る。

 

「ああ、よろしく頼む。本来、冬のこの時季は仕事はしないんだがな。ゴブリンの討伐なんて、美味しい仕事が転がってきた。という訳で、今日は山道に住み着いたゴブリンの討伐だ。今から出れば深夜には帰れるだろう。それじゃあ新入り達、早速行こうか」

 

立ち上がってギルドの出口に向かっていると、背後から視線を感じた。振り向くとアクアが不安そうな目で見てきていた。アクアに向かって手を振るとアクアも振り返してきた。・・・・・・たまにあんな反応するからアクアに甘くなっちゃうんだろうな、僕。普段からあんな風なら、人気も出るだろうに・・・・・・。


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