この魔術師に祝福を!   作:混沌の覇王

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この魔術師と盗賊にダンジョンを! 2F

「端から会話出来るとは思ってなかったけどいきなりか!」

 

「きゃっ!?」

 

クリスを担いでその場から飛び退く。棍棒は僕らがいた場所を抉った。・・・・・・当たったら挽き肉どころの騒ぎじゃないね。

 

「ちょっとシュウ!!自分で立てるから下ろしてくれないかな!?」

 

肩に担いでいるクリスがバタバタと暴れるがとりあえず無視する。

 

「クリス、あの巨人が何かわかる?」

 

「・・・・・・ごめん、わからない。アタシもいろんなダンジョンに潜ってきたけどあんなの初めて見た」

 

ダンジョンに潜っている回数が多いクリスが知らないとなると、アクアが転生させたとか言う日本からの転生者の誰かが、このダンジョンとあの巨人を作ったのかもしれない。

 

「■■■■■■――――――!!」

 

巨人は滅茶苦茶に棍棒を振り回して僕たちを追いかけてくる。棍棒を避けつつクリスをどうするか考える。クリスを担いだままだと動きにくいし・・・・・・一度、下ろそうか。

 

「クリス、俊敏のステータスには自信ある?」

 

「盗賊だから自信はあるけど・・・・・・何するつもり?」

 

「あのデカいのを倒すだけだけど?」

 

「・・・・・・ごめん、爆音で上手く聞き取れなかったや。もう一度言ってくれる?」

 

「あのデカいのを倒すだけだけど?」

 

「・・・・・・・・・・はぁ!?君なに言ってんの!?」

 

「耳元で叫ばないでくれる?」

 

クリスの大声に顔をしかめる。

 

「耳元じゃなくても叫びたくなるよ!あんなのアタシ達だけで倒せないよ!?一度ギルドに戻って報告して、討伐隊を組んで倒せるような相手だよ!?」

 

「・・・・・・本当はそれが正しい判断なんだろうけど、時間もない。相手がどんなスキルを使うかも解っていれば対策も練れる。それに・・・・・・巨人種と戦えるなんて滅多にないしさ」

 

「後半が本音だよね!?前半は思ってもない建前だよね!?」

 

失礼な。二割ぐらいは本音だ。

 

「あぁもうっ!!アタシも一緒に戦うから、ギルドに戻ったら何か奢ってよね!!」

 

・・・・・・驚いた。てっきり二人で逃げ道を探そうとか言うと思ってたけど、まさか一緒に戦うとい言い出したのは予想外だ。

 

「・・・・・・いいよ、ギルドに戻ったら好きなだけ奢らせてもらうよ」

 

肩に担いでいるクリスを下ろす。クリスは腰にさしていた短剣を抜いて構えた。・・・・・・とは言え、身体能力は明らかに向こうが上。持久戦にもつれ込むとこっちが不利。上級魔法は威力が強すぎて崩落の危険性があるから使用不可。中級魔法だと逆に決め手に欠ける。ルーン魔術もどこまで通用するかは不明。僕が使える支援魔法も多くはない。そうなると・・・・・・宝具しかないのかな。あまり使いたくないけど。

 

「クリス。君に支援魔法をかけるから、少しだけ時間を稼いでほしい」

 

「良いけど何するつもり?」

 

「ちょっとだけ本気出すだけだよ」

 

クリスに『ウインドカーテン』という風の支援魔法を使う。本来は矢とか飛び道具を弾く魔法だ。瓦礫の破片ぐらいなら問題なく防げるだろう。

 

「それじゃあお願いするね」

 

クリスに時間稼ぎを頼み、腰から吊るしている魔導書を手に取る。魔導書はひとりでに開き、ページをめくっていく。ページは一人の英霊のページで止まった。ページは淡く光。右手に真紅の魔槍を握っていた。魔導書を腰に戻して、魔槍を構える。

 

「――――――宝具劣化展開」

 

魔術回路を魔力が走る。魔槍から禍々しい紅い魔力が漏れ出す。魔力を感じたのか巨人を引き付けていたクリスも、クリスを追い掛けていた巨人も、両方が僕の方を見た。魔槍をやり投げをするように持つ。

 

「■■■■■■――――――――――!!!!!」

 

巨人は僕が握っている魔槍が危険と判断したのか地面を揺らしながら走ってくる。

 

刺し穿つ(ゲイ)――――――」

 

巨人は棍棒を振り上げる。今から放つはケルト神話に記された英雄、クー・フーリンが影の国の女王から授かった魔槍。因果逆転の魔槍。その名は――――――。

 

「――――――死棘の槍(ボルク)!!」

 

投げた真紅の魔槍は巨人が振り下ろした棍棒を貫いた勢いのまま心臓を抉る。因果逆転の魔槍ゲイボルク。『心臓に命中する』という結果を先に作り、『槍を放つ』という原因を後から持ってくる魔槍。この魔槍に貫かれた心臓はどんな手段でも修復することはできない。巨人は心臓を抉られたことで絶命し、倒れた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「なに・・・・・・あれ?」

 

巨人の注意を引いていたアタシは今まで感じたことがない魔力を感じて足を止めてしまった。いつの間にか秋は紅い槍を構えていた。魔槍から肌に突き刺さるような、禍々しい魔力が漏れている。アタシを追いかけ回していた巨人も足を止めている。巨人はアタシからシュウに目標を変えたのか、シュウに向かって走っていく。シュウは向かって来る巨人を見据えている。

 

「――――――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

投げられた槍は巨人の胸を貫通、巨人の胸から血が吹き出る。棍棒は真ん中から折れている。

 

「――――――先に進まないの?」

 

呆然としていたアタシにこの状況を作り出した張本人は涼しい顔をしながらそう言って、巨人が通ってきた通路を進んでいく。

 

「あっ、ちょっと待ってよ!」

 

アタシもシュウを追いかけて巨人が出てきた通路を進んでいく。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

巨人が通ってきた通路は一直線に続いていた。あの巨人はこのダンジョンの防衛装置か何かだったんだろう。このダンジョンを作った人物はよっぽどあの巨人に自信があったようだ。

 

「・・・・・・ねえ、シュウ」

 

「さっきの槍のことなら教えないよ」

 

聞いてくるだろうと思っていたから先に釘を刺しておく。

 

「えー、別に良いじゃん!教えてよー!」

 

「ダメ。それよりほら、ゴールが見えてきた」

 

通路の奥から光が見える。おそらく通路の出口なんだろう。通路の奥には大きな空間が広がっていた。部屋の真ん中には鉄製の宝箱が置いてあった。

 

「あっ!宝箱だ!」

 

盗賊職だからなのか、クリスは宝箱に駆け寄った。

 

「ほら、シュウもこっち来てよ!一緒に開けよ!」

 

クリスが手を振って呼んでくる。クリスに呼ばれて近づいてみると、宝箱はかなり古いようでところどころ錆が目立つ。これなら宝箱の中身も期待できそうだ。

 

「開けるよ。せーの!!」

 

クリスが勢いよく宝箱の蓋を開ける。宝箱の中を二人で覗きこむ。そこには――――――

 

 

『残念でしたー(笑)!』

 

 

――――――明らかにこちらを馬鹿にしているとしか思えない文字が書かれた紙切れが入っていた。

 

「「舐めんなっ!!」」

 

二人揃って宝箱を蹴り飛ばした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ・・・・・・巨人に襲われるは宝箱の中身に馬鹿にされるわで散々な目にあったね」

 

「・・・・・・そうだね」

 

クリスが前を見ずに、体を後ろに歩いている僕の方に向けながら歩いている。

 

「ギルドには何て報告する?」

 

「そうだなー、何もなかったで良いじゃないかな?あのダンジョンの主ぽかったモンスターは君が倒したし。それにしても・・・・・・あったのはこの紙切れだけかぁ」

 

クリスは宝箱に入っていた紙切れをヒラヒラと振っている。あのダンジョンを作った人物はよほど底意地が悪いようだ。

 

「せっかくの未発見のダンジョンだからお宝には期待してたのになぁ」

 

「・・・・・・クリス。君、もしかしてダンジョンの調査よりお宝の方が目的だった?」

 

クリスの肩が少し振るえた。・・・・・・図星か。

 

「あ、あははははは!や、やだなぁ!そんなつもりは微塵も無かったよ!?あ、あは、あはははははっ!」

 

クリスが引きつった笑みを浮かべながら汗を流している。

 

「そ、それより早く街に帰らないと日がくれるきゃっ!?」

 

クリスは前に振り返ろうとして、足下に延びている木の根に足を取られて転びそうになる。

 

「ちょっ!?」

 

慌ててクリスの手を掴んだが、僕もクリスに引っ張られて倒れこんだ。

 

「――――――ぁ」

 

目の前にクリスの顔がある。クリスの上に僕が覆い被さってる、もしくは僕がクリスを押し倒したように見えなくもない。いや、むしろ後者として捉えかねない。

 

「・・・・・・大丈夫?結構派手に倒れたけど」

 

誰かに見られるかも知れないのですぐにクリスの上から退いて、クリスを立たせる。

 

「だ、だいじょうぶだヨ?あは、あはははははっ」

 

クリスは前を向いて歩き出した。動きが油の切れたロボットみたいな事になっている。夕陽で分かりにくかったが、クリスの顔が赤くなっていた。・・・・・・(うぶ)なんだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

アクセルの街につく頃には日がくれてすっかり夜になっていた。

 

「そ、それじゃあアタシは報告してくるから!お、お疲れ様!?」

 

「うん、お疲れ様。また今度何か奢らしてもらうよ」

 

クリスはいまだロボットみたいにぎこちない動きで受け付けに歩いていった。

 

「あれ?」

 

ギルドの酒場の隅の席に佐藤君たち四人がこの世の終わりみたいな顔をして座っていた。普段ならアクアが酔っぱらって騒いでるはずなのに、今日はおとなしい。

 

「どうかした?」

 

「「「「っっっっっ!!!!?」」」」

 

四人の肩が一斉にびくっと振るえた。四人は頭を突き合わせて何か話始めた。

 

(どうすんだよ!?言い訳思い付く前に秋が戻って来ちまったじゃねえか!?)

 

(し、知らないわよ!?カズマさんがさっさとアイデアを思い付かないのが悪いんでしょ!?)

 

(ふっざけんな!ならお前も何か案を出せよ駄女神!!)

 

(あああああぁ!!カズマが駄女神って言った!このヒキニート!女神の恐ろしさを味わいなさい!!)

 

・・・・・・何か、アクアが涙目になりながら佐藤君の首を絞め始めた。一体何してるんだろう?

 

(お、落ち着け二人とも!ここは正直に言って、素直に謝ろう!)

 

(そうですよ。シュウもちゃんと理由を話せば分かってくれる筈です。という訳で、カズマ。あなたからシュウに話してください)

 

(何で俺なんだよ!?爆裂魔法撃ったのはめぐみんだろうが!!)

 

「あ、あのねシュウ。怒らないで聞いてくれる?」

 

(((あっ!)))

 

内緒話が終わったのか、アクアが恐る恐る口を開いた。アクアから聞かされた話はそれはそれはショックなものだった。

 

「・・・・・・借金一億エリスとか君ら何してんの?」

 

佐藤君たちが請けたクエストは『暴れ猛牛の討伐』というそこそこ難易度が高いクエストだ。暴れ猛牛は群れで行動する習性があり、畑を荒し、家畜を襲うことがある。その討伐のさい、めぐみんが撃った爆裂魔法が暴れ猛牛の群れもろとも近くの風車二つを破壊した。

 

「はぁ・・・・・・起きたことは仕方ない。ベルディアを倒した報酬の六千万エリスには手をつけてないからそれを返済に当てて、残りは四千万エリス・・・・・・」

 

・・・・・・どうやら僕には金運が無いようだ。黄金律のスキルが欲しい。

 

「「「「ごめんなさい」」」」

 

四人に謝られた。四千万エリスの返済・・・・・・長い道のりになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

フリークエスト発生

 

 

借金四千万エリスを返済せよ!

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

某所。広い空間の中にポツンと置いてある椅子に長い白銀の髪に白い肌、修道服のような服を着た少女が目を閉じて座っている。少女はゆっくりと目蓋を開けた。

 

「うぅ・・・・・・っ!」

 

少女は一瞬で顔を真っ赤にして、両手で顔を隠すように覆う。

 

「アオザキ・・・・・・シュウさん」

 

誰かの名前を呟いた。




・宝具劣化展開

宝具本来の担い手ではないため、威力が下がり魔力消費が多い。

・暴れ猛牛

気性がものすごく激しい牛。群れでの突進は脅威。尻尾が三本ある。群れの長は尻尾が四本ある。

・クリス

盗賊っ娘。秋に初めてを奪われた(R―18ではない)。押し倒されたことで少し意識している。なお、ダクネスの次に好感度が高い。

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