魔王軍幹部のデュラハンが襲撃して一週間が経った。アクアのいう通り僕には呪いがかかっておらず、死ぬこともなかった。
「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」
「「えー・・・・・・」」
アクアの突然の言い出しに佐藤君とめぐみんが嫌そうな声を出す。
「私は構わないが。・・・・・・だが、アクアと私では火力不足だろう・・・・・・」
「僕もパスかな。貯えはそれなりにあるし、急いでクエストを請ける必要もないしね」
ダクネスが佐藤君とチラチラ見てるのを視界の片隅に捉えながらこの世界の武具のカタログのような物を読んでいる。
「お、お願いよおおおおおお!もうバイトばかり嫌なのよお!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからあぁっ!!」
アクアの『全力』は当てにできないんだよね。そう言いながらいつも空回りしてるし。
「クエスト、一応カズマとシュウも見てきてくれませんか?アクアに任せておくと、とんでもないの持ってきそうで・・・・・・」
「・・・・・・だな。まあ私は別に、無茶なクエストでも文句は言わないが・・・・・・」
「ダクネス。君、常識人ぶってるけど君も大概問題児だからね?」
「!?」
ダクネスが驚いた顔で見てくるけど、ダクネスが自分を常識児だと思ってるのに驚きだよ。クエストボードに貼り出されているクエストを真剣に吟味しているアクアの横に立ってクエストに目を通す。
『クリスタルゴーレムの討伐。クリスタルゴーレムが炭鉱の前を徘徊していて作業が進みません。仕事に支障がでるので大至急討伐してください。報酬は七十万エリス』
クリスタルゴーレム。名前の通り全身がクリスタルで出来たゴーレム。クリスタルゴーレムから採れるクリスタルは良質で、魔導具の部品として重宝される。ただ、全身クリスタル製だからとにかく硬い。魔法防御力も高いから魔法も効かない。その硬質な体から放たれるパンチは上級冒険者も一撃で沈める事が出来るらしい。
「アホか!」
クエストの内容を確認していたら隣から佐藤君の叫び声とバンッ!と何かを叩き付ける音が聞こえた。見ていた紙をクエストボードに張り直して、佐藤君が叩き付けた物を見る。マンティコアとグリフォンの二匹同時討伐というクエストだった。間違いなく全滅するね。個人的に興味はあるけど。
「何よもう、二匹まとまってるところにめぐみんが爆裂魔法食らわせれば一撃じゃないの。ったくしょうがないわねー」
アクアは渋々と他のクエストを探し始めた。・・・・・・今度野良グリフォンを探しに行こ。
「ちょっと、これこれ!これ見なさいよっ!!」
アクアが指差したクエストは湖の浄化という物だった。報酬は三十万エリスとモンスターの討伐無しで中々に高額だ。
「・・・・・・お前、水の浄化なんてできるのか?」
「バカね、私を誰だと思ってるの?と言うか、名前や外見のイメージで、私が何を司る女神かぐらい分かるでしょう?」
「宴会の神様だろ?」
「違うわよヒキニート!水よ!この美しい水色の瞳とこの髪が見えないのっ!?」
僕も宴会芸の女神だと思ってた。
「シュウなら私が水の女神だって分かってくれてたわよね!ねっ!?」
アクアが僕に聞いてきた。・・・・・・ここで分からなかったって言って騒がれても面倒だし、適当にあわせておこうか。
「もちろん分かってたよ。アクアの髪は水色で綺麗な色してるから、何となく分かってたよ」
「どうよカズマ!シュウは私が水の女神だって分かってくれてたわよ!」
「アクア、お前顔赤いぞ?秋に褒められて照れてんのか?」
「て、てててててて照れるわけないじゃない!私は女神よ!?褒められ慣れてるに決まってるじゃない!!バカにしないでちょうだいヒキニート!!」
アクアが佐藤君と取っ組み合いの喧嘩をしているアクアの耳は赤くなっていた。
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場所を移動して街の郊外にある湖に僕らパーティーは来ている。
「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるからー!」
「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」
アクアは希少なモンスターを閉じ込めるためのオリに入れられて、湖の真ん中に体育座りしながら浮かんでいる。アクアが触れた液体は何でも浄化されるらしく、佐藤君はアクアの体質を利用して湖を浄化しようと考え付いたらしい。・・・・・・内容はアクアにとってあまりにも酷だけど。
「何だか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」
「私もクルセイダーだから、トイレは・・・・・・トイレは・・・・・・。・・・・・・うう・・・・・・」
何を彼女達は張り合ってるんだろうか。
「僕はルーンナイトだけどトイレに行くよ。人間だからね」
「おい、それだとトイレに行かない私達が人間じゃないみたいな言い方じゃないか」
右目を紅く光らせて僕に掴みかかろうとするめぐみんを避けながら湖のオリに顔を向ける。
(・・・・・・・・・・ん?)
オリの周りに影が見えた。影の形からしてブルータルアリゲーターと呼ばれるワニ型のモンスターだ。それも一匹や二匹では無く、かなりの数のワニがオリを囲んでいる。
「カ、カズマー!シュウー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」
アクアの泣き言が聞こえてきた。ワニはアクアが閉じ込められているオリに噛みつき始めた。
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「ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーションッッ!」
アクアは自分の体質だけじゃなく、浄化魔法まで使って湖の浄化を続けている。
「ピュリフィケーション!ピュリフィケーションッッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立ててるんですけど!?」
ワニがアクアの周りに集まっているからめぐみんの爆裂魔法で一掃するわけにもいかないから、僕らは遅めの昼食を食べながら見ることしか出来ない。
「アクアー!ギブアップなら、そう言えよー!ハムッ、そしたら鎖引っ張ってオリごと引きずって逃げてやるからー!」
佐藤君がカエル肉を挟んだサンドイッチを食べながらアクアに向かって叫ぶ。
「イ、イヤよ!ここで諦めちゃ今までの時間が無駄になるし、何より報酬が貰えないじゃないの!それよりあんた何食べてるのよ!?私の分も残しておきなさいよ!!・・・・・・わ、わあああーっ!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」
ワニは僕らの方に目もくれず、オリに噛みついている。
「・・・・・・あのオリの中、ちょっとだけ楽しそうだな・・・・・・」
「「・・・・・・
・・・・・・この女騎士はいろいろと手遅れのようだ。
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湖の真ん中にオリだけが浮かんでいる。ブルータルアリゲーターは湖が綺麗に浄化されて、山へと向けて泳いでいった。オリにはワニの歯形がびっしりと残っていて、オリの中のアクアは膝を抱えている。
「・・・・・・おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」
「・・・・・・ぐす・・・・・・ひっく・・・・・・えっく・・・・・・」
泣くぐらいなら途中でリタイアすれば良いのに。
「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。ダクネスとめぐみん、秋で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の三十万、お前が全部持っていけ」
佐藤君が言ったとおり、このクエストの報酬は全てアクアにあげることにした。・・・・・・それぐらいしないとアクアがあまりにも不憫だからね。
「・・・・・・おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないから」
「・・・・・・まま連れてって・・・・・・」
アクアが小さな声で何かを呟いた。
「なんだって?」
「・・・・・・オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
・・・・・・・・・・どうやら今回のクエストはカエルに続くトラウマをアクアに植え付けてしまったらしい。