キャベツ収穫から幾日か過ぎた。ある程度資金が貯まった佐藤君はアクアを連れて防具を買いにいった。今までジャージ姿だったしね。僕も誘われたけど断った。僕の防具は魔術の師である人から貰った魔術礼装『七天』がある。
「おじゃましまーす」
夜からのクエストを受けている僕らパーティーはそれぞれが夕方まで自由行動になっている。僕は暇を見つけてはウィズの店に行っている。その時は大抵食べ物を買っていっている。
「あっ、シュウさん!いらっしゃってくださったんですね!」
「うん、夜からのクエストを受けたから昼間は暇なんだ」
「そうなんですか。夜は強力なモンスターの活動時間ですから気をつけてくださいね」
ウィズに差し入れのケーキを渡して店内を見て回る。相変わらず用途不明なアイテムが多い。
(また変なのが増えてるし・・・・・・)
以前来たときには無かった商品が増えている。商品名は・・・・・・トランスポーション?効果は一時的に性別が変わる・・・・・・誰が買うんだこんなの。
「シュウさん、お茶にしませんか?」
「あ、ありがとう。いただくよ」
トランスポーションを棚に戻して、店内に設置されている休憩スペースに行く。テーブルの上には紅茶と差し入れで持ってきたケーキが用意されていた。
「最近はどう?繁盛してる?」
「そ、それは・・・・・・相変わらずと言いますか」
客入りは相変わらず悪いようだ。正直な事をいうとウィズには商才がない。それも建築デザイン事務所を経営してる僕の師なみに商才がない。いや、あの人の場合はそこら辺が大雑把というか、興味が無いというか。
「値段を少し下げるとかしてみたら?」
夕方になるまで僕はウィズの店で店の相談に乗ったり、魔導具の話をしながら時間を潰していた。・・・・・・悲しいことに僕がいるあいだ、他の客は一切来なかった。
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夕方になり、僕らパーティーは街外れの丘の上でバーベキューをしている。僕らが受けたクエストはゾンビメーカーというモンスターの討伐。何でも死体を操る悪霊らしく、数体のゾンビを操って行動するらしい。そのモンスターが街外れの墓地に現れたらしい。
「ちょっとカズマ、その肉は私が目をつけてたヤツよ!ほら、こっちの野菜が焼けてるんだからこっち食べなさいよこっち!」
「俺、キャベツ狩り以来どうも野菜が苦手なんだよ、焼いてる最中に飛んだり跳ねたりしないか心配なんだ」
(その気持ちはわかる)
たまにギルドで注文した生野菜のサラダが動いているのを見かけることがある。ただ、ダクネスの話だと王都ではキャベツをデフォルメにした人形が人気らしい。
「シュウ。コーヒー作るけど飲むか?」
「飲む」
この世界にもコーヒー豆はあるようで、佐藤君が街で売ってたコーヒーの粉を買ってきていた。
「・・・・・・すいません、私にもお水ください。っていうかカズマは何気に私より魔法を使いこなしてますね。初級魔法なんてほとんど誰も使わないのですが、カズマを見てるとなんか便利そうです」
佐藤君はキャベツ狩りで仲良くなったらしい魔法使いに初級魔法を教わったらしく、今も初級魔法で二人分のコーヒーを作っている。
「ほい、出来たぞ」
「ありがとう」
佐藤君からマグカップを受け取る。ミルクやシロップといったものが入って無いからか、やはり苦い。そこら辺は追々解決しよう。
「『ウインドブレス』!」
「ぶああああっ!ぎゃー!目、目があああっ!」
佐藤君をからかったのか、目を擦りながら地面を転げ回るアクアを見ながらコーヒーを啜った。
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「・・・・・・冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデットが出そうな予感がするんですけど」
時間が深夜になった頃。アクアがそんな事を呟いた。確かに時間帯的にはアンデット系統のモンスターが出やすい時間だ。元いた世界でもこの時間によく
「何だろう、ピリピリ感じる。敵感知に引っかかったな。いるぞ、一体、二体・・・・・・三体、四体・・・・・・?」
佐藤君が敵感知スキルに反応した数を数えているのを聞きながら、墓地の中央を観察する。
「・・・・・・誰かいるね」
「むっ?誰かいるようには見えないが・・・・・・それに暗くて誰かいても見れないと思うのだが」
「魔法で視力を強化したから、多少は暗くても見えるんだよ」
墓地の中央にうっすらとだが、人の輪郭が見える。目を凝らしてみていると、墓地の中央が青白く光った。青い光を発しているのは地面に書かれた魔方陣。あの魔方陣・・・・・・元いた世界でも見たことがあるような気がする。なんだったかな?
「・・・・・・あれ?ゾンビメーカー・・・・・・気が・・・・・・するのですが・・・・・・」
術者と思われるローブを着た人物と、魔方陣を囲んでいる死体が数体いる。
「突っ込むか。ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間にいる以上、アンデットに違いないだろう。なら、アークプリーストのアクアがいれば問題ない」
「そう・・・・・・だね。アクアの数少ない活躍の場になるだろうし」
「・・・・・・お前、たまに辛辣だよな」
何故か佐藤君に同意したのに辛辣扱いされた。それよりもあの魔方陣が気になる。何かの魔導書で見た気がするけど、なかなか出てこない。
「あ――――――――――っ!!」
魔方陣を必死に思い出そうとしていると、アクアが叫んだと思ったら魔方陣の方に走っていった。
「リッチーがノコノコこんなところに不届きなっ!成敗してやるっ!」
リッチー。この世界だと魔法を極めた魔法使いが体を捨ててなるアンデットモンスターらしい。元いた世界でもそれに似たような事をする魔術師が何人かいるらしい。
「や、やめやめ、やめてええええええ!誰なの!?いきなり現れて、なぜ私の魔方陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!」
・・・・・・あれ?この声・・・・・・聞き覚えがあるような。
「うっさい、黙りなさいアンデット!どうせこの妖しげな魔方陣でロクでもない事企んでるんでしょ、なによ、こんな物!こんな物!!」
腰に超大物モンスターのリッチーにしがみつかれながら、アクアは魔方陣を踏みにじっている。・・・・・・もうちょっと観察したいんだけどな。
「・・・・・・あっ、思い出した」
全体的に初めて見る魔方陣だけど、部分部分に元いた世界の降霊術に似た物があった。魂を呼び出す・・・・・・よりは、魂を送り返す送還術の魔方陣だ。
「『ターンアンデット』!」
アクアが神聖魔法を使うと、アクアを中心に光が溢れ、魔方陣の近くにいたゾンビを消滅させる。魔方陣の上に漂っていた人魂も消し去った。リッチーも例外ではなく、体が薄くなっていく。
「きゃー!か、体が消えるっ!?止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃうっ!」
リッチーが自身の身体が薄れているのに気付き、慌てているとローブのフードが取れた。ウェーブがかかった茶髪に色白な肌、見たことがあるどろこか夕方まで話をしていた相手だ。
「・・・・・・ウィズ?」
「ふぇ・・・・・・っ?シュ、シュシュシュシュシュシュシュウさん!?ど、どうして此処にいるんですか!?」
いろいろな意味で慌てているウィズはフードを被り直して蹲った。どうしてウィズが墓地にいるのか、どうしてウィズの体が薄れているのか、いろいろ聞きたい事があるけど・・・・・・その前にあの女神を止めないと。ズボンの後ろポケットから革手袋を左手だけはめる。
「いい加減にしようかアクア」
「あはははははあ痛っ!?」
魔力を流した革手袋に『硬化』のルーンが起動し、そこそこ硬くなった左手でアクアの頭を叩いた。
――――――――――――――――――――――――――
「なるほどねぇ・・・・・・ウィズは元アークウィザードのリッチーで、この墓地には拝金主義のプリーストの代わりに現世に彷徨う魂を天に還してたってこと?」
「・・・・・・えっと・・・・・・その・・・・・・はい」
ウィズはものすごく言いにくそうにしながら頷いた。ギルドに置いていた『必見!初心者冒険者の心得!』なる本にもリッチーの事が書いてあった。詳しいことは省くが強力な魔法耐性に触れるだけで状態異常を起こせるなど、様々な能力を持っている。うん、今の僕らパーティーなら全滅してた。
「な、なあ、秋?お前、その人と知り合いなのか?えらく親しげだけど?」
僕とウィズが親しげに会話しているのを見ていた佐藤君が聞いてきた。めぐみんもダクネスも顔に気になると書いている。アクア?頭を叩いたのがよほど効いたのか、頭を押さえて蹲っている。
「うん。この人はウィズ。僕がよく行く店の店主なんだ。・・・・・・リッチーっていうのは今初めて知ったけどね」
「はうっ!?そ、それは!隠していた訳じゃなくて・・・・・・!」
「冗談だよ。人にな隠し事があるものだからね。別に気にしなくて良いよ」
実際、僕も佐藤君たちに話していないことは山程あるからね。たぶん、僕がしてきた事を知れば、皆は僕の事を拒絶するだろう。
「シュウさん?」
・・・・・・少し考え過ぎてたみたいだね。
「いや、何でもないよ。ウィズ、こっちの三人と奥で頭を押さえて蹲っているのが僕のパーティーメンバーなんだ」
三人とウィズにそれぞれが紹介を済ませ、いまだに頭を押さえているアクアに近づく。
「アクア。いつまでそうしてるつもり?拗ねてるなら街戻ったら何か奢ってあげる・・・・・・」
から、とは続かなかった。何故なら――――――
「スカー・・・・・・スカー・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
どうやら頭を押さえている内に眠ってしまったららしい。身悶えている内に眠気に襲われてそのまま寝てしまったのだろう。・・・・・・起きたら起きたで面倒だからこのままにしておこう。