この魔術師に祝福を!   作:混沌の覇王

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この魔術師に盗賊&クルセイダーを!

めぐみんがパーティーに加入した翌日。

 

(頭が痛くなってきた・・・・・・)

 

目の前で起きている光景を見て、僅かに頭痛がしてきた。

 

「ヒャッハー!当たりも当たり、大当たりだああああああああああ!!」

 

白いレース生地の女性用パン・・・・・・もとい女性用下着片手に腕をブンブン振り回す佐藤君。

 

「いやああああああああああ!!パンツ返してええええええええ!!」

 

ズボンを押さえて涙目で絶叫する少女。とりあえず・・・・・・。

 

「なにやってんの君」

 

「ぐふっ!?」

 

佐藤君に腹パンをくらわす。呻き声を出しながら腹を押さえて踞る佐藤君から下着を奪い取って、目をつむりながら少女に返す。

 

「はいこれ。君のだよね」

 

「ぐすっ・・・・・・ありがとう」

 

ウィズの店に寄ってからギルドに来たのに、どうしてその道で佐藤君は下着なんて振り回していたんだろう。とりあえず危ない目をしてたから腹パンくらわせたけど。

 

「・・・・・・もう良いよ」

 

少女の許しが出たので目を開ける。いまだ涙目でズボンの裾を押さえながら佐藤君を睨む少女。銀髪の短い髪、頬に刀傷がある。軽装なことから盗賊職ないしはそれに近い職業だろう。

 

「僕の仲間がセクハラしたみたいでごめんね。ほら佐藤君。立ってあの人に謝る」

 

「ぐおぉぉぉぉぉっ!おま、本気で殴ったろ!?衝撃が内臓まで届いたぞ!?」

 

「全然本気じゃないけど?」

 

本気で殴ってはいない。正確に鳩尾を殴っただけだ。

 

「え?なにそれ?レベル差ってこんなところでも差がでるの?」

 

レベル差云々はそこまで関係していないと思う。

 

「なんで君が彼女の下着を持ってたのかは知らないけど、セクハラしたんだから謝るのは道理だよ」

 

「いやいやこれには訳があるんだよ。そもそも俺はクリスからスキルを――――――」

 

「ちょっと待って!今なんて言ったの?」

 

佐藤君が何か説明しようとすると少女が遮ってきた。

 

「セクハラしたんだから謝るのは道理って言っただけだけど?」

 

「そこより前!あたしのことなんて言ったの!?」

 

「変なこと聞くね。君女の子だよね?ぱっと見た感じ男に見えなくもないけど、声の高さに線の細さとかでわかったんだよ。まあ、君が女装癖がある男だったら別だけ・・・・・・ど?」

 

最後まで言い終わる前に少女に手を握られた。

 

「ありがとう!!君で二人目だよ!一目であたしのことを男じゃなくて女だって気づいてくれたのは!」

 

「ああうん、それは良かった」

 

少女はよっぽど自分が女だと気づいてもらえた事が嬉しいのだろう、涙目で手を握ってブンブン上下に振られる。昨日といい今日といい手を握られる事が多い気がする。

 

「あ!自己紹介はまだだったね!あたしはクリス!職業は盗賊だよ!よろしくね!!」

 

「ああうんよろしく。僕は蒼崎秋だ」

 

クリス・・・・・・ね。地球だとクリスは欧米圏の男性に多い名前だし、男に間違われることもあるか。

 

「はぁはぁ・・・・・・!これが放置プレイという物かっ!んぅっ!」

 

・・・・・・一人鼻息が荒い女騎士がいるんだけど。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

ギルドに入ると酒場で他の冒険者に囲まれているアクアがいた。普段のアクアならちやほやされて上機嫌になってるのに、今は迷惑そうな顔をしている。クリスとはギルドの入り口で別れた。なんでも稼ぎがいいダンジョンに参加するらしい。今度、ダンジョン探索に二人で行こうと誘われた。

 

「ところで・・・・・・あなたはクリスについて行かなくて良かったのかい?」

 

佐藤君がアクアを回収しに行くのを見ながら、同じテーブルに座っているダクネスに尋ねる。

 

「・・・・・・うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、盗賊はダンジョン探索に必須な割りに、地味だから成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要なら幾らでもある」

 

確かにギルド内を見回しても前衛職とおぼしき冒険者が半分。あとはウィザードにプリーストといった後衛職が半分といったところだ。クリスのような軽装な冒険者は見当たらない。

 

「この馬鹿女神!お前どれだけ問題を起こせば気がすむんだよ!?」

 

「ちょっと!今回は私は悪くないわよ!!ちょっとだけ私の宴会芸スキルで場を盛り上げようとしただけよ!謝って!私のせいにした事を謝って!!」

 

冒険者に囲まれていたアクアを回収した佐藤君が戻ってきた。二人の後ろを歩いていためぐみんが佐藤君の服を引っ張る。

 

「カズマカズマ。スキルは無事に覚えられたのですか?」

 

「ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、スティール!」

 

佐藤君がめぐみんに向かって右手を突き出し、スキルが発動する。佐藤君の右手には白い布が握られている。それに対してめぐみんの顔が赤くなって、涙目でスカートを押さえている。

 

「・・・・・・なんですか?レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?・・・・・・あの、スースーするのでパンツ返してください・・・・・・」

 

・・・・・・クリスの下着を持ってたのはこのスキルが原因か。

 

「あ、あれっ!?お、おかしーな、こんなはずじゃ・・・・・・。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 

スキルとしては優秀だけど、下着しか奪い取れないのは欠点なんじゃないだろうか。・・・・・・いや、相手が女性限定ならアリか。

 

「やはり。やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、なんと言う鬼畜・・・・・・っ!是非とも・・・・・・!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」

 

椅子を倒しながら立ち上がったダクネスがそんな事を口走った。

 

「いらない」

 

「んんっ・・・・・・!?く・・・・・・っ!」

 

佐藤君の即答にダクネスが頬を赤くして体を震わせた。あっ・・・・・・この人変態だ。それも一級品の変態だ。

 

「ねえカズマ、この人だれ?昨日言ってた、報酬貰いにいってる時に絡まれた人?」

 

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」

 

佐藤君が断りたいのも分かるけど、前衛職が欲しいのも事実。悩みどころだね。まあ、このパーティーのリーダーは佐藤君だから、佐藤君が決める事だけど。

 

「・・・・・・実はなダクネス。俺とアクアと秋は、こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

なるほど。魔王に挑む事をダクネスに言って、パーティーに加入させないつもりか。

 

「丁度いい機会だ。めぐみんも聞いてくれ。俺とアクアと秋はどうあっても魔王を倒したい。俺達はそのために冒険者になったんだ」

 

ダクネスを加入させない様にしつつ、初耳であろうめぐみんをパーティーから追い出すつもりだ!姑息にも程がある!

 

「特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」

 

「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場が決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」

 

「「えっ!?・・・・・・あれっ!?」」

 

ダクネスの力強い肯定の言葉に思わず佐藤君と一緒に僕まで声を出してしまった。

 

「えっ?・・・・・・なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」

 

しかも本人は至って真面目なようだ。佐藤君はダクネスの説得を諦めてめぐみんの方を見る。

 

「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺たちは。そんなパーティーに無理して残る必要は・・・・・・」

 

椅子を蹴り倒しためぐみんが立ち上がって、マントを翻す。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

勇ましいと言うかなんと言うか・・・・・・。自信満々に宣言するあたり、爆裂魔法にそれだけ自信があるのか。

 

(ただまあ・・・・・・古今東西、お伽噺で魔王や神、ドラゴンを倒すのは勇気と知恵を振り絞った人間と、仲間と騒ぎながら、最後まで自信を胸に秘めて立ち上がる人間なんだから。めぐみんの自信もダクネスの変態的性癖を隠さないあたり、魔王を倒せる逸材なのかもね)

 

今も佐藤君が二人を必死に説得しているのを見ながら小さく笑う。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

どうやら、仕事の時間みたいだ。


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