奥様は時折寂しがって、子供達にチェーンメールまがいのお便りを送り続けて居るみたいだ。そのせいで引っ越したばかりの下の子と言い争いになり、ウィスキーグラスを片手に通訳まがいのことをさせられる昨今である。
とは言えグラスを片手にウィスキーの味を楽しむなど、つい1週間前では考えられない状況だった。酔いたくて飲んでる状態だったから、極端な話がエチルアルコールでも問題なかった訳だ。
そんな訳で奥様と子供達とのやりとりを見ながら、ゆっくりとグラスを傾けている。
今回飲んでいるのは『グレンギリー12年』である。実はこの酒は下のお子様と京都方面に受験放浪の旅に出た時、あの辺りでは有名な大手酒販店にこっそりと立ち寄って、何時か来るであろう我が子の春に開栓しようと買っていたものなのだ。
ということは結果が悪ければ、永久にお蔵入りしてしまう可能性もあった訳だ。それを今こうやって飲めるというのは慶賀の至りですな。
グレンギリー蒸留所は1785年に創業された東ハイランド地方に建つ蒸留所である。そしてハイランド地方最古の蒸留所にも数えられる。だが水源の確保が出来ないと言う理由で操業に困難を来したとか、何度か所有者を変えながら操業をしていたという。最近になってサントリーの傘下に入ってから、しっかりと常時稼働しているらしい。
ボウモアの時もそうだったが、サントリーさんが買収した蒸留所は「味が変わった」とか言われがちである。私はあながちその事について否定的ではなく、稼働を止めてしまうより余程良いと考えている人間である。
今回はどんな酒なのか興味が湧いたのも、そんなどうでもいい蘊蓄のなせるワザかも知れない。
色は綺麗な琥珀色。香りは最初華やかな印象だが、芯にはしっかりしたピート。スコッチを飲んでいることをしっかり意識させる。飲み口は柔らかいが、味の輪郭がハッキリしてくるまでに時間を要する。口の中で遊ばせないで飲み込むとスパイシーさだけを感じる。
これは度数が48%ある故の事だと思われる。ニッカのザ・ブレンドの時にも書いたが、度数が高いと甘さを感じるまでにタイムラグがある。でも口の中で遊ばせておくと甘さの山が緩やかに立ち上がる。そして同時にスパイスもやってくる。
若干加水して様子を見てみる。華やかな香りと燻煙香が峻別出来るようになる。そしてピートの香り。サントリーのHPでは『そよ風のようなピート』とあるけど、結構しっかりしたピートで好印象。甘さの山はとても良く感じる。そして良く焙煎された麦の香り。その後に少し強めのスパイスとビター。それもピリピリした唐辛子ではなく胡椒。ビターはそれほど強くなくアッサリした印象。
余韻は飾り気のない木の香り。こんな感じも嫌いじゃない。
この酒はストレートで飲めば揮発性の高さとピートの香りや甘さの変化が面白いし、加水したら若干挙動が柔らかくなって味の複雑さを楽しめる。スコッチらしい煙臭い木の香りのするスパイシーな酒を求める人には、この上ない良い酒であろう。
正直な話、私の好みの良い酒である。
前記サントリーの買収した蒸留所の酒については賛否ある所だけれど、ボウモアの時と同じく個性のハッキリした良い酒であり、良い仕事をしていることが感じられる。
まあ日本人向けには件の性格の酒を造り、スコッチを好む人は本場のスコッチを飲んで下さいという事なのだろう。一つの見識ではある。
どっちに転んでも自社の酒が売れるという上手い商売だが、マッカランやボウモアだけじゃなくてこの酒もしっかり宣伝して貰いたいものである。
需要掘り起こしのためのハイボールはもう良いから…。
今は常飲しているフロム・ザ・バレルやピュアモルトの黒と並べて、交互に味を確かめることを楽しむ余裕が出来ている。何とも豊穣な時間。
時代劇のセリフではないが、それぞれに五臓六腑に染み渡る気がする。
ただ少し肝臓に対しては手心を加えないと…。
この記事へのコメント
三友亭主人
まあ、最近は本当にウイスキーのコマーシャルを見なくなりましたね。一昔前・・・いや、ふた昔前はなかなか味わいのあるコマーシャルが見られたものですが・・
そういえば、身の回りを振り返ると、職場の宴会なんかで、料理がなんであろうとスタートからウイスキーっていうおじさんがかなりおられましたが、最近は焼酎に押されて滅多に見かけなくなりました。
Nori
確かにウィスキーをそのまま飲むようなCMは少なくなりましたね。
僅かに小栗旬がやっているくらいではないでしょうか。
それこそ以前は開高健やらポール・アンカやら、ハリウッドの俳優なんかも目白押しでしたね。
仰有るように焼酎に押されたということなんでしょうが、最近は焼酎もあまり安くなくなってきています。ビールが少しずつ失地回復をしてるんではないでしょうか。
それでも最近の若い人から「ウィスキーを飲むのはちょっとお洒落」だという話を聞きますので、少しずつ回復をしてくるんじゃないかと思います。
まあ売れたら売れたで別の心配も発生して来るような気もします。
只野乙山
〈グレンギリー12年〉は知らなかったです。サントリーが扱っていることさえ知りませんでした。ボウモアもラフロイグもサントリーの資金が入っているのは知っていました。サントリー系列(特約店)のバーにはたいてい置いてありますものね。グレンギリー、なかなか良さそうなスコッチだと思いました。
Nori
すみません。この間は終日メンテナンスをしていたようで、私もなかなか管理画面に辿り着けませんでした。こんな事は夜中にやってくれればいいと思うんですけどね。
この蒸留所はモリソン・ボウモアの傘下に入っていたために、ボウモアが買収された時自動的にサントリー傘下になったようです。
案外手頃な値段で12年物のシングルモルトが手に入るのですから、掘り出し物というかお買い得のような気がしております。
飲んでみても決して悪い酒ではなく、スコッチの個性を感じられる良い酒でした。
余り派手な香りや樽香も無いので、乙山先生好みの酒かも知れませんね。
それとサントリーが扱う酒の良いところは、大手の酒販店やスーパーで入手しやすいというところでしょうか。
飲みたくても売ってないという状況は有りがちですから。
それとそちらのブログの『プレミアム角』の記事の時にコメントを差し上げようと思ったのですが、如何せん心に余裕が無くてご無礼をしてしまいました。
又改めてコメントをさせて頂こうと考えております。
あ
ラフロイグが飲みたいなあ…手が届かなくなってしまった。
Nori
諸般の事情があってコメントするのが遅くなってしまい、大変申し訳ありません。
記事とお返事が滞っているのは、公私共に色々とありましてパソコンに向かえなかった事に起因しています。
因みにグレンギリーはとても良い酒ですよね。
派手なものはありませんが、きっちりとスコッチの風味のする旨い酒です。そして手頃な値段で入手出来るのは何よりかと。
仰有る様にラフロイグやボウモアは、なかなか手を伸ばしにくい値段になってしまいました。
普段飲む酒ではなくなってしまったので、少し残念な気がしております。
ブームが落ち着くまで様子を見るのが良いかも知れません。
buunyann
困ったことに国内終売らしいです
表向きは原酒の枯渇とか言ってますが
山崎とか白州とか響とかよりも安い値段で
売ってしまったらマズいと思って止めてしまうと考えるのは
下衆の勘ぐりでしょうか
Nori
そうですか、この酒もとうとう終売になってしまうのですね。
値段のわりにとても良い酒で、家に1本置いておくには丁度いい酒でして、あまり派手なものは無いけど、しっかりスコッチを飲んでいる感じがして私の好みだったんですけどね。
輸入元の会社は過去にもダルマなどにスコッチを使用していたようですし、自社ブランドの酒にここの原酒を使っていたのかも知れません。
ウィスキーの消費拡大のために沢山広告を打つのはいいんですけど、これ程原酒不足になるという想定はしてなかったのだと思います。
まあ、これまでも色々な事をやってきた会社でもありますから、何か裏があると考える方が多いのも仕方のない事なのだと思います。
もっと良心的な品物を良心的に売ると評価も変わってくるんでしょうけど。
しかし何にしても残念な話ですよね。