偽ギル様のありふれない英雄譚   作:鼠色のネズミ

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王、親友を得る

「王よ!兵の一人が謎の高熱で倒れました!」

 

「王よ!座商が増え、トラブルが多発しております!」

 

「王よ!帝国から使者が訪れました、如何致しましょう!」

 

「王よ!夕食は魚料理でよろしいでしょうか!」

 

 

王に就任してから早い物で一年は経つ。

するべき事は多すぎて、過労死する気持ちが良く分かった。けれど原作のギルガメッシュはこれより遥かに多い仕事をこなしたのだから自分の未熟さを痛感した。

王になった「あの日」のスピーチは大成功で、正直言って暴君レベルでヤバい事話した記憶がある。

 

「我に全てを捧げよ」とか「貴様等を導いてやる」とか…もう完全なブラックヒストリーになろうかとしている記憶。もしもこれが「ギルガメッシュ」以外の体で話していれば民から見捨てられる事待ったなしだが、ギルガメッシュには不正レベルで他者を懐柔する力があった。

 

 

カリスマ【A+】

 

 

ギルガメッシュが持つスキルの一つで、B以上あれば国を治めるに十分な数値というのが公式の説明だ。

では、A+ともなればどうなるのか?

Fateシリーズの顔とも言えるセイバーこと、アルトリア・ペンドラゴンはBのカリスマスキルを持っている。分かるだろうか?彼の高名なアーサー王でもBという数値なのだ。それ以上となればどうなるのか、公式では「呪い」レベルで人を率いる才能を持つと言われている「カリスマ」のスキル。

 

その肉声を国民全員が聞くとどうなるか?

 

結論は今、驚きと安心の支持率100%である。この一年間で大きなやらかしこそ無かったが、一つや二つくらいはミスをしてしまった。にも関わらず、支持率は下降の一片も見せない。

ぶっちゃけ俺がこれから公衆の面前でどじょうすくいを始めだしても許されるまである。本当に恐ろしいスキルだ。

 

 

「その熱を出した兵は隔離せよ、同じくして接触をした者もだ。感染症の可能性が有る。

 座商は喧嘩両成敗だ。状況を見て判断し善悪の区別が付かぬなら罰金を双方から取れ。

 使者は手厚く饗せ、用件だけを聞き都合の良い時間を改めよ。

 夕食は何でも良い。もう何度もしたぞこのやり取り」

 

 

「「「「かしこまりました!!」」」」

 

 

どたどたと、我の前から人が過ぎ去り少しだけ静かになる。僅かに流れた額の汗を腕で拭って一息つく。

ふと宮殿の中から外を見れば既に日が傾いている。実はを言えば我はどうしても言えない悩みを抱えていたりします。

それは…

 

 

親友(エルキドゥ)が来ない!

 

 

という事である。

何を些細な、と思われるかもしれないが此方側からすれば死活問題だ。

この世界、多分Fateシリーズの何処かだけれど、もしかしてエルキドゥや他のサーヴァントにも出会えないのかと、平行世界の自分を見てみた結果。普通に居た。

ある平行世界ではエルキドゥと性能を競い合い、イシュタル様エレ様の板挟みにされている。

羨ましい。聞こえるまで何度だって言おう、羨ましい。だって皆強いからエヒトの方からビビって来てないし、何よりメソポタミア勢大集合じゃないか。

 

……やはり暴君にならないと駄目か!?

 

エルキドゥはギルガメッシュの親友だが、生まれつき一緒と言う訳では無い。

王になった当初は暴君であったギルガメッシュを戒める為の役割を持って泥から生まれた「兵器」だ。

泥から生まれた素朴な兵器と、神と王の血を引いた黄金の王。その対比が相まってこの二人の友情は絶大な支持を得ている。

話を戻すが、つまりエルキドゥはギルガメッシュが暴君だから生まれたのだ。一方我は?普通に政治して国を治めてます、エルキドゥが来る理由がありません。

納得が行かない。何故暴君になった我にエルキドゥが来て真面目な我の方には来ないのか。世界というのは時々酷い贔屓をする。

もう今からでも暴君になってしまおうか…いや、でもそれじゃあ民に迷惑が掛かるし…

 

 

「王よ、何を唸っておるのですか?」

 

 

そう言って我の部屋に何の断りも入れずに入ってきたのは、俺の側付きであるシドゥリ。

FGOでの第七特異点で初登場し、その不憫過ぎる最期から皆のトラウマとも呼ばれる美しい褐色の女性。ちなみに我が王になった日に言葉を掛けてくれていたのも彼女だ。

 

 

「んん…何でも無い。ただこの国の事を考えていたまでよ」

 

「まあ…!流石は王です、本日の職務を終えてもこの国を想われるとは!」

 

「フハハハハ!そう褒めるで無いわ、シドゥリ」

 

 

ここ一年で全力で練習した高笑いを披露しながらシドゥリと話す。

ぶっちゃけ言ってシドゥリが居なかったら我は大分早く限界が来ていたと思う。話すと基本的に全肯定してくれるし、包容力と言うか年上のお姉さん感がヤバい。めちゃくちゃ有能だし本当、人を駄目にする為に生まれてきたのでは無いかと思う程だ。

 

英霊では無いとは言え、彼女も素晴らしい人材。我の仕事の多くを肩代わりしてくれる有能オブ有能。

両手にバランス良く持った石版がドサドサと我の前に落ちる。羊皮紙も有るのだが雰囲気は大事。

 

 

「明日の分です、此方に置いておきます」

 

「お、おう…」

 

 

決して王とOhを掛けたギャグでは無い。

ただ終わりなき雑務の戦いを目の当たりにして、それしか言えなかったのだ。

はぁ、と誰にも聞こえない程の大きさで溜息をつく。玉座から体を起こせば全身の骨が軋み、固まった形が崩れていくのを感じる。

 

 

「王よ!ご報告致します!」

 

「戯け!ノックをせぬか!」

 

 

どうやら我の仕事は残業の様だ。

 

 

「も、申し訳ありません…緊急でしたので…」

 

「疾く報告せよ、場合によっては不問にする」

 

「はっ……実は――」

 

 

 

 

 

 

 

ハイリヒ王国、南郊外の森。

時刻は既に深夜付近となっており、森の中では獣の呻き声一つ聞こえない。何処と無く不気味な雰囲気を纏う森を我は歩く。ふと空を見れば太陽も月も空には浮かんで見えない。星の粒がただ砂金のように煌めいている。

一歩一歩を踏み出す度に、自分の体が震えてはいなかと心配になる。森を案内してくれている騎士の為にも情けない姿を見せたくない…いや、ギルガメッシュの情けない姿を見せたくないのだ。

 

 

「この先か?」

 

「はい、今は騎士達が足止めをしております…」

 

 

――正体不明の魔物が現れました!

 

その声を聞いた時、我は何を感じたか。

不安、恐怖、高揚、歓喜、全てを混ぜ合わせた様な意味も分からぬ気持ち。

その感情の正体は未だ不明。森の中を彷徨くに連れて薄れていった。

 

 

「王よ!アレです!あの魔物が…!」

 

 

突然、それは現れた。

 

体に纏う暴力的なまでの生命力

 

切り倒した木株の年輪の様な模様

 

樹木をそのまま生やしたのと何ら変わらない双角

 

 

「■■■■――!!」

 

 

魔物とは、一線を画した狂犬

 

それが我の脅威として現れた。

 

 

「……貴様に告げる、騎士を連れて即刻戻れ」

 

「っ!?王よ、我等は貴方様に…」

 

「戯け、貴様等にあの化け物の相手が務まるとでも言うか。

 我の足枷と為るでない、貴様等を庇い戦う気もせんわ」

 

「……かしこまりました……ご武運を!」

 

 

多くの者が我の前から姿を消す。

息をせぬ者、腕を曲げた者、血に塗れて今世と来世の間に粘る者。多くの者が我の目の前で傷を負い、失われた命も有る。

 

 

「■■■■――!!」

 

 

そして目の前の凶獣、「兵器」と呼ぶに相応しいヤツは標的を定めず、我に襲い掛かる。

不意に、時が止まる。そんな錯覚を覚えると同時に心の淵底から先程の感情が再び巻き上がる。

 

不安、自身の力が通じるかの不安

 

恐怖、まだ姿も見えぬ正体不明の魔獣への恐怖

 

高揚、どれだけ力を振るおうと咎められない高揚

 

そして――歓喜、漸く全力を出せる相手との邂逅に沸かぬ筈が無い

 

 

「『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

 

 

十を超える黄金の扉が開き、剣、槍、魔術が姿を現す。並々ならぬ光煌を放つそれらは決して多くは存在しないモノ。市場に売れば真面目に働くことも馬鹿らしくなる大金が転がり込むような宝物。

それらが――凶獣に牙を剥く。

 

 

「■■■!!」

 

 

途端、咆哮。

地を揺らし大地を崩す意味を成さない叫び。

その叫びに呼応するように土塊が蠢き、形を作り出していく。一つは剣、一つは槍、一つは形も無き力の奔流。全てが空中でぶつかり合い、金銀の業物は土塊の武具に相殺された。

 

おのれ、と小さく悪態を吐く。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』に収められた武具や道具の中には、並やそれ以下のモノは存在しない。

ギルガメッシュが持ち得る得物の一つ一つは超越の領域に踏み込んだ、強くも美しく儚いモノ。この世の総てを知り、覗き、自身のモノとした功績から生まれた宝具。その名が『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

故に、放たれた武具は一つ一つが、唯一無二の宝具だった。

にも関わらず、この凶獣はそれら全てを打ち返してみせた。

 

規格外、その言葉が相応しい。

 

ギルガメッシュを人と神の王と言うなればこの獣は自然の王。

両者に共通する事と言えば、互いに強者である事だけ。それ以外は鏡に映したかの如く真逆の一人と一匹。

 

 

「雑種が、我が宝物を土塊で防ぐか」

 

「■■■■■――!」

 

「まあ良いわ――次は倍行くぞ」

 

 

しかし強者と強者の決闘は一朝一夕では終わらない。

 

陽が昇り、両者の戦いは加速し――次のラウンドへと至る。

 

 

 

二日目

剣の全てが凶獣に打ち込まれた。

破滅の黎明(グラム)が、初めて担い手を選んだ剣(メロダック)が、空間を捩じ切る剣(カラドボルグ)が。

しかし凶獣に起きた変化と言えば右腕を切り落としただけだった。

 

 

 

三日目

今回打ち込まれたのは全ての槍。

オーディンの主槍(グングニル)が、五つに別れた勝利を齎す槍(ブリューナグ)が、クランの番犬の愛槍(ゲイボルク)までもが。

今度は化け物の左腕を奪った。

 

 

四日目

流石に疲れ、黄金の空飛ぶ船(ヴィマーナ)から多くの宝具を放つに終わった。

何時の間にか、化け物の両腕は復活したがヒトの物となっていた。

 

 

五日目

宝物庫にあるモノを無差別に放った。

万象無に帰す海嘯(ウトナピシュティム)が大波を上げ、災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)が炎を吐き出し、永久に熱知らぬ地獄(ヘルヘイム)が空間ごと凍らせ、辺りには立つ事も出来ぬ宝具の墓標が立っていた。

獣は両足を喪い、ヒトの物へと変えた。

 

 

六日目

ついに宝物庫から一振りの剣が抜かれる。

その名を乖離剣エア、ギルガメッシュが宝物庫の中で「担い手」である数少ない宝具。

天地開闢を成した最古の武具は醜い獣の頭部を吹き飛ばし、麗しい緑のヒトのモノに変えた。

 

 

 

そして――今

獣は居なかった。残るは意味も無く暴れ回る、緑の美しいヒトだけ。遂には武具の尽きた宝物庫から取り出されたのは歪な形をした布製の作り物の心臓。

 

 

偽りの桃布心(ティンズ・ハート)

 

 

多くに親しまれる童謡、「オズの魔法使い」その中で心を持たないブリキ人形が手に入れたモノである。

心を持ちたいと願った彼の願いは、心を得る事では無く冒険の中で生まれた。そして旅路の果てに大魔法使いオズが彼に与えた、柔い布の偽りの気高い心臓。

 

 

「■■■■■■――!?」

 

「さあ…心を得よ!今こそ我が親友(とも)となるのだ!」

 

 

其奴は声を上げる。拒絶とも、否定とも、何にでも捉える事の出来る生命の奔流を擬声化したモノ。

何でも良い……その声が何を意味していようが……!

 

 

「我と……共に歩めと言っておるのだぁぁ!!」

 

「■■■■■しゅ…」

 

 

偽りの心臓が完全に埋まった途端、「それ」は確かに顔を綻ばせて笑った。

 

ただ、無邪気に純粋に、友を得たのだと、そう言っている気がした。

 

「それ」の意識は長くは持たずに暗転する。体から全ての力が抜け落ち、倒れてしまう。

しかしそれは我も全くの同じで、剣を背もたれに「それ」の側へと座り込む。

 

 

須臾の後、見守っていた風は漸くこの場を去った。

 




次回、謎魔獣視線

そして原作突入予定

エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?

  • 私は一向に構わんッ!
  • 判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ

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