ありふれた陰の実力者で世界最強   作:KyaNa

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お楽しみ下さい。


解放軍

 七陰のメンバーと共に建物内に潜入したイプシロンは、少しでも情報を得ようと単独行動を行っていた。

 

 建物内部はひどく静まり返っており、未だに誰一人とすれ違っていない。その事を不気味に感じながらも、イプシロンは調査を続けた。

 

 そして、建物内のホール辺りで、イプシロンはそれを目撃した。

 

 辺りは瓦礫が散らばっており、警備兵の男たちが地に伏して死んでいた。

 

 それならば、別に良いのだが、問題はその死に方だ。

 

 まるで、憎き相手を殺すかのように、腹は何度も刺されており、兵士の顔は絶望に歪んでいた。

 

「惨いわね……」

 

 イプシロンは死体の近くにより、傷跡を確認した。

 

 その中でイプシロンはある事に気が付いた。

 

 大半の者は短剣のような刃物で切り裂かれているが、その他は見事な一太刀で、斬り伏せられていたのだ。

 

 シャドウガーデン内部でも、確かに教団に恨みを持つ者は居るが、計画を崩してまで教団の者を殺す者はいない。

 

「一体誰が……?」

 

 イプシロンは辺りを探索し、資料室を見つけた。

 

 情報は少しでもあった方が有力だ。

 

 そう思い、イプシロンは資料室を調べ始めた。

 

 幾枚もの資料を机に並べ、全てに目を通す。

 

 資料には暗号化された文字が記載され、素人が目にすれば、間違いなく理解できない代物ばかりだ。

 

 しかし、イプシロンの諜報に長けた能力は、資料の謎を紐解き、真実の答えへと導いた。

 

 その中でイプシロンは一枚の資料に目を付ける。

 

「これって、まさかッ……」

 

 イプシロンは目を見開き、驚愕した。

 

「教会は、一体何をしようとしているのよ……!」

 

 イプシロンは念話を発動させ、この情報をアルファへ通達しようとする。

 

 その時だ。

 

 月明かりが射し込んだと同時に、建物内の影が揺らいだ。

 

「ッ──ライムッ!」

 

「キュウウ!!」

 

 咄嗟の相棒による防御により、イプシロンは『ガキンッ』という金属音を耳にしながら、スライムソードを構えた。

 

「スライム? ……面白いものを持っているわね」

 

 女性の声だ。

 

 イプシロンは声の方へ視線を向ける。

 

 そこには細身の剣を所持した赤髪の女性が立っていた。瞳だけが見えるようフードを被り、右肩に何かの紋様を載せている。

 

 頬を冷や汗が伝う。

 

 イプシロンのプライドは高い。それは七陰の中でも随一であり、逆に返せば自身の強さ(プライド)に絶対の自信を持っていた。

 

 そんな彼女が得意とするのは諜報活動や隠密行動。

 

 しかし、目の前にいる彼女は、まるで霧のように気配を散乱させ、剣までも自然に溶け込んで見えなかった。

 

 自身のプライドが潰された感覚に、イプシロンは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

 そして、目の前に居る女性が、自身よりも遥かに強い強敵だと認識する。

 

「貴方、何者……? 教団にスライムを使役する奴なんて初めて見たわ。それにそのスーツ……興味深いわね」

 

 幸いにも目の前の彼女は直ぐには追撃を仕掛けて来なかった。

 

 戦いはこちらが不利。

 

 イプシロンは話しに乗じる事にした。

 

「私はシャドウガーデンの一人、イプシロン……」

 

「シャドウガーデン……? 聞いた事がないわね。それで、貴方たちの目的は?」

 

「私たちの目的は……『エヒト教団』の壊滅」

 

「……そう、貴方たちも」

 

 彼女は何処か遠くを見るように目を細めた。

 

「同胞に傷は付けたくないわ……去りなさい」

 

 そう言って彼女は暗闇の中へと消えようとする。

 

「待って!」

 

 それをイプシロンは制止した。

 

「私は質問に答えたわよ。今度はこっちの番よ」

 

 震える体に気合いを入れて、イプシロンは、いつもの様に堂々と告げる。

 

「貴方たちは何者なの……? そして、目的を教えなさい」

 

 メアリーは顔だけを向けて、口を開いた。

 

「私は“解放軍”所属、メアリー。私たちの目的は世界を変えること──それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 そう言うとメアリーは暗闇の中へと消えていった。

 

 イプシロンは彼女が消えていった後をじっと見つめて、力が抜けたように腰を下ろした。

 

「ああん〜もう、何なのアイツ! どんだけ化け物じみてんのよ! ぐぐぅぅ〜、いつか、いつか絶対に越えてやるんだから!!」

 

 悔しさに歯噛みしながら、イプシロンは気を取り戻し、アルファに念話を送った。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 スラム街の路地裏を赤髪のメアリーと、白い仮面を付けた集団が歩いていた。

 

「メアリー、アイツを逃して置いて良かったのか?」

 

 白い仮面を付けた一人の男が、メアリーの背中を見つめて言う。

 

「今は良いのよ。彼女は同胞だったのだから」

 

 路地裏を踏み進め、メアリーから白い吐息が漏れる。

 

「シャドウガーデン……聞いたことがないな。本当に教団と敵対するつもりなのか……?」

 

「分からないわ。だけど、それが嘘か真実でも、私たちの進むべき道は決して変わらないわ」

 

「……そうか」

 

 男はそれ以上何も言わなかった。

 

 メアリーはイプシロンと名乗った少女の事を思い出す。

 

 教団の連中でも為す術なく殺られた自身の剣撃。

 

 力を抜いてたとは言え、完全に不意を捉えた一撃だった、それを彼女は遅れながらも反応して防いでみせた。

 

 あの時は顔には出ていなかったが、内心は驚いていた。

 

 そして、あの精細で、緻密な魔力制御……。

 

 メアリー自身も彼処までの使い手は数人しか見たことが無い。

 

「末恐ろしいわね……イプシロン。次に会う時を楽しみにしているわ」

 

 態度が異様に高かった少女にメアリーは微笑んだ。




メアリー

元悪魔憑きであり、隠密、剣技が得意。解放軍の幹部メンバーの一人。

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