ありふれた陰の実力者で世界最強   作:KyaNa

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R3.2/13…若干の修正。


エヒト教団爆誕!!!

 

「……と思って色々と実験してたら、いやぁ、驚いたな」

 

 夜風が吹き、肉塊だった者の髪を巻き上げる。

 

「まさかあの肉塊が……金髪ハーフエルフだったとは……」

 

 リスクなしの実験に心躍らせて、ああでもない、こうでもないと楽しみながら魔力制御をぶっ続けでやっていたら、いつの間にか肉塊が金髪ハーフエルフに変化しているなんて。……うん、ハッキリ言って意味がわからない。

 

 しかも手の甲辺りに刻印見たいのが出来てるし、何それかっこいい。

 

「嘘……あれ程腐り果てていた身体が、元に……元に戻った……!?」

 

 金髪ハーフエルフが震えながらこっちに視線を向ける。

 

「な……なんとお礼をすれば言えばいいか分からないわ。この恩は生涯をかけて返します……!!」

 

「あー、いいよ別にそういうの重いし……」

 

 いや、別に助けてないから。“魔力制御”の賜物だから、そんな眼差しを向けないでほしい。 

 

 ん……? 待てよ。生涯をかけて恩返し? これってもしかして使えるのでは?

 

「つまりそれは僕の、陰の実力者の配下になると……?」

 

「……え?」

 

 え? 当然の反応。そりゃそうだ。急に陰の実力者の配下とか言われても意味不明だ。具体的な目的くらいは今後も必要かな。彼女も乗っかかりやすい設定がいるな……。

 

 僕はこの世界に来る前も、この世界に来た後も、僕の考えた最高の『陰の実力者』設定を常に考えて組み合わせてきた。それが今、打ち明けられる時が来た。

 

「……よし……決めた。今日から君の名は『アルファ』。僕の配下となり共に働いて貰う」

 

「アルファ……分かったわ」

 

 彼女は頷いた。金髪、蒼穹な瞳、色白、美人、古典的なハーフエルフだ。

 

「それで僕達の仕事は……」

 

 ここで一度無言になってから場の雰囲気に真実味を増していく。僕くらいになればそれっぽい雰囲気を醸し出すのなんて朝飯前だ。

 

「『邪神エヒト』が目論む魔人誕生の阻止だ」

 

「邪神エヒト!?」

 

 アルファは驚愕の表情を浮かべた。

 

「君も知っているだろう。『遥か昔、神の力を持った反逆者達が神殺しをなそうとし、神の言葉“神託”によって滅んだ』というお伽話を……」

 

「……知っているわ、でもあれってお伽話じゃないの」

 

 アルファが鋭い瞳で凝視してくる。

 

「いいや、本当にあったことさ。もっとも、事実はお伽話よりもずっと複雑だが……」

 

 さて、ここからが重要だ。理由に信憑性がないなら、この話は嘘だとバレて信じて貰えなくなる。だから僕は常に考えてきた『陰の実力者』設定の後付けを披露する。

 

「反逆者達は邪神エヒトが人々を駒にし“神の遊戯”として弄んでいる事を知り、邪神エヒトを倒そうとした」

 

「なッ!」

 

 アルファが大声を上げる。

 

「皆知らないがこれは本当にあったことでね……話には実は続きがある」

 

 さあ、締めに入ろうか。

 

「邪神エヒトは生き残った反逆者達に呪いをかけた。それが〈エヒトの呪い〉だ」

 

「〈エヒトの呪い〉? ……そんなの聞いたことないわ」

 

「〈エヒトの呪い〉は存在する。〈悪魔憑き〉……君の体を蝕んでいた病のことだ」

 

「え、そんな……」

 

 驚愕に目を見開くアルファ。

 

「邪神エヒトを倒そうした反逆者たちは、この病に長く苦しめられた。しかし、昔は〈悪魔憑き〉は治せるものだった。今のアルファのようにね」

 

 さっきまで〈悪魔憑き〉であったことが信じられないほど、アルファは元の美しい体を取り戻しているのが何よりの証拠だった。

 

 まぁ、大嘘なんだけど。

 

 僕は地面に落ちている木の枝を掴み地面に今までの流れを書き出す。

 

「つまり〈悪魔憑き〉は〈解放者の子孫〉である証明だ」

 

 アルファは驚愕のあまりか、口を抑えながら此方を見てくる。

 

 いいね、アルファ君。そのリアクション……最高だよ。

 

「ど、どうして……? あ……貴方は……一体何者なの……」

 

 神を倒して人々を解放するから『解放者』。……少し安直だったかな? まぁ、それっぽい設定だし、別にいいか。

 

 それと僕の名前か、陰の組織の統治者になるんだったら……そうだな。

 

「……我はシャドウ……陰に潜み陰を狩るもの……」

 

「……」

 

 アルファは蒼穹な瞳で僕の瞳を覗き込んでくる。

 

 しかし、凄いものだ。僕のお話(妄想)をここまで付き合ってくれるなんて。……アルファ、君がこんな天才演技をしてくれるなんて僕は感激したよ。

 

 僕は感謝の念を向けながら、曇りのない瞳で見つめ返す。

 

「ッ……そう……」

 

 アルファは眉をピックと動かしたあと、一瞬だけ僕から視線を逸らした。

 

「君が知らないのも無理もないさ、世界を救おうとした反逆者達の証明も呪いの治療法も何者かが歴史ごと消し去って、塗り変えたんだからね」

 

「ッ……! 一体誰が!!!」

 

「それこそが邪神エヒトの手足であり、世界を滅ぼす魔人を作り出そうとする者……『エヒト教団』」

 

「ッ……エヒト教団!」

 

 アルファは憎しみを表現しているのか歯噛みを始めた。

 

「それが僕らの敵。教団は決して表舞台に姿を現さず、陰で邪魔者を始末している。だから僕も同じように陰で対抗を続けている」

 

 僕は夜の空を見上げながらゆっくりと立ち上がる。そして、月明かりをバックにして肝心の組織名を口にする。

 

我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩る者……

 

「シャドウ……ガーデン……」

 

 アルファは息を呑んだ。

 

「魔人の誕生の阻止はとても困難な道のりだ。だが我々が成し遂げなければ世界は『邪神エヒト』の手によって滅びてしまう。協力してくれるね?」

 

「……エヒト教団。歴史を隠蔽してしまえる程の影響力を持つ存在……となると敵は権力者ね」

 

 アルファは美しい顔をしながらも瞳に覚悟の意思を宿し立ち上がった。

 

「私の様に真実を知らずに殺される者も沢山いる……そんなの許されることじゃないわ……!!」

 

 アルファは誓いのつもりなのか僕の前に跪いた。

 

「話は分かったわ。ならば私はシャドウガーデンの為にこの命を懸ける。そして咎人には死の制裁を……!!」

 

 よっしゃ! このハーフエルフちょろいわ! 

 

 僕は心の中でガッツポーズを思いっきりした。

 

 今日この瞬間、『シャドウガーデン』が設立され、神の手足、『エヒト教団』が誕生した。

 

 今言ったことほぼ適当に考えた設定で、実際はエヒト教団も魔人も邪神エヒトも存在しないんだけどね。ま、引き続きこんな感じでやっていくか!。

 

 「魔人の誕生が近い……」とか「邪神が動き出した……」とか言ったりして。ああ、夢が広がっていく。

 

「ま、とりあえず魔力制御を鍛えつつ剣の練習をしますか。その前に……」

 

 僕はアルファに向かってお手製のスライムボディスーツを投げる。それをアルファは驚きながらも掴み取った。

 

「これは?」

 

「これは僕お手製のスライムボディスーツだ。とりあえず。その格好から着替えないとね……」

 

 僕がそう言ってアルファは気付いたのか自分の格好を確認した。次の瞬間、アルファは真夜中でも分かるほどに頬を赤く染めた。

 

 だって布切れ1枚だけだもの仕方ないよね。

 

「ま、ままま、待ってなさいよ!」

 

 そう言ってアルファは少し離れた森林へと入った。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 着替えを終えたのかアルファが出てきた。

 

「これは……本当にすごいわね……」

 

 と言いながらアルファはボディスーツを手で触れながら確かめる。

 

 月光がアルファの金色の髪が照らす。スライムボディスーツを着ることで彼女のスタイルの良さが強調されているのが分かる。

 

「……」

 

 流石の僕もこれには見蕩れてしまった。

 

 しかし、それもつかの間。僕は頭を振って、アルファに向かって模造剣を投げる。

 

「ありがとう」

 

 そう言いながらアルファは模造剣を掴み、軽く素振りを行い始めた。

 

「ふむ……」

 

 太刀筋から見るに剣に覚えがあるのか、素直で真っ直ぐな剣だ。おそらく、誰かに指南でも受けていたのだろう。良い師匠を持ったね。

 

「それじゃあ、先ずは軽く手合わせをしようか」

 

「分かったわ」

 

 そう言って、僕とアルファは軽く打ち込む。僕が打ち込んでアルファが捌き、今度はアルファが打ち込み僕が捌く。それを何回か繰り返す。

 

 うん。やっぱり筋がいい。

 

 剣の腕はまだ片生りだけど、伸びしろがあるし、センスもある。もしかしたら、予想よりも早く、アルファは戦力になるかもしれないな。

 

 因みに魔法が使えるなら僕の練習相手にもなって欲しい。魔法戦はあまりした事が無いし、経験は多く詰んでおきたい。

 

 そんな事を彼女に期待しながら、僕は剣や魔力制御をアルファに教えていく。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 今の僕は魔力制御中のアルファを観察している。

 

 彼女は秀才なのか一度教えれば大半は理解してくれるのだ。さっきは僕が指南してたけど、今、行ってる魔力制御もものの数分で理解して、今では一人で魔力操作まで行っている。

 

 それに加え、僕は教えることがなくなった。

 

 今世で魔力を手にしたとは言え、魔法にも魔力量にも肉体にも、なに一つさえ、突破している才能がなかった僕だ。

 

 教える事となれば、魔力制御や剣のコツなどの基礎中の基礎で単純な過程だけだ。

 

 だが、その単純な過程こそが大切だと僕は思う。

 

 この世界は地球とは違い、魔力によって動いてる世界だ。そのせいか“魔力制御”に関しては酷い。“身体強化”を発動するまでの過程で1割で良い魔力を10倍にして行使するのだから、魔力の無駄遣いだ。地球で言うなら、1万円で1円を買う所業だろう。

 

 まぁ、この世界には“天職”や“技能”が存在するから、それで大部分をカバー出来ているのもあるのだろう。高位の魔術師や神殿騎士ぐらいになれば、多少はマシにはなるかも知れないけど、それでも気量範囲内のギリギリぐらいだろう。

 

 そんな事で基礎中の基礎の魔力制御はとても大切なのだ。

 

 しかし、最初はこれを教えようかと迷った。

 

 それはこの世界が“天職”や“技能”こそが絶対的な強さであり、“努力しても越えられない壁”というのが人々に認知されていたからだ。

 

 だからアルファも僕の修行内容を聞いて、反論や態度に現れるかと思ったけど杞憂だった。アルファは秀才でもあるせいか、周りの価値観には従わない性なのだろう。エルフが見た目よりかも早熟ってのは嘘じゃないみたいだ。

 

 しかし見ているだけじゃ暇だな……。何か暇つぶしになりそうなことは。あ、そうだ!

 

 僕はアルファに近寄り声をかける。

 

「アルファ。課題は終えたかい?」

 

「えぇ。なんとか、一人で操作をできるまでは」

 

 流石と言うべきか先程よりも魔力制御が一段階上がっている。これなら次の段階に移行しても良いかな?

 

「そっか。なら、最後の課題を出そうかな?」

 

 アルファが張り詰めた顔でこっちを見てくる。

 

 まぁ、最後の課題って言うけど、ただ僕がやりたい事なんだけどね。

 

 それに僕は緊張感を持たせながら声を発した。

 

「君の実力を見せてくれないか?」

 

 

 




次からオリジナルに入ります。感想等お待ちしております。

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