R3.3/7…大幅な修正。
この世界に転生してから多分10年ぐらい経ったと思う。なぜ分かるかって? だって今日は僕の誕生日だからだ。
僕の目の前にはいつもの食事より豪勢な物ばかりが添えられてる。母さんの料理はバランスの良い食事だが、今日のはちょっと気合いが入りすぎている。
「こらシド! 外しちゃ駄目でしょ!」
とクレア姉さんが僕が目隠しをしてない事に指摘する。いや、そもそも目隠し渡させてないけど?
「ふぇ~ん。……ごめんね、お姉ちゃん」
取り敢えず僕は謝る。どんな時にも情けないモブ弟という形は崩さないのだ。
「ハハハ、クレアはしっかりお姉さんだな」
とうちの親父。ダンディな顔付きで悪くない。これで毛があったらな……。結婚する前はかなりの冒険者だったらしいけど、本当だろうか?
「あらあら、クレア。今日はシドの誕生日なのだから、優しくしてあげなさいよ」
とクールビューティな雰囲気を出してる母さんだ。
「ええ、分かっているわ。……オッホン。それじゃあシド! 誕生日おめでとうー!!!」
「「おめでとう~」」
という訳でシド・カゲノー。この世界に転生してから10歳になった。前世の半分以上は過ぎてる筈なのにあっという間に感じる。これも全て魔力の鍛錬が充実しているからだろう。
そんな事を思いながら食事を一口。
「うん。おいしい」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
腹を満腹にさせた僕は自室へと戻り、この世界の歴史について調べていた。この世界に来てから何も調べなかった僕ではない。この10年間、ここがどういった世界なのか、そしてこの世界に存在する“魔力”や“魔法”とはなんなのかを調べていった。
まず、ここがどういった世界かと言うと、この異世界は『トータス』と言われる世界らしい。文明レベルは中世ヨーロッパ辺りだろうか、煉瓦で積み立てられた建造物や世界各国に『聖教教会』と言われる人間族最大宗教があるらしい。なんでもこの世界を創造した神様、『創世神エヒト』を唯一神として人間以外の種族の排斥を掲げているらしい。まさに中世って感じでテンションが上がる。
そして、この世界トータスには大きくわけた三つの種族があるらしい。
親父に聞いた話では、
1つ目が僕が住んでいる北の一帯 “人間族”
2つ目が東にある巨大な樹海 “亜人族”
3つ目が南の一帯に居るであろう “魔人族”
書籍や聞いた話だと人間族と魔人族は、長年から戦争を繰り広げていたらしい。今までの戦力は拮抗していたらしいけど、近年から魔人族が“魔物”を使役するようになって、最近は戦況が大きく傾いてきているらしい。噂だと聖教教会から“神代魔法”に目覚めた者やそれに連なる“固有魔法”に目覚めた者を“神の眷属”として保護する、という話も耳にしている。
そう、この世界には『天職』と『固有魔法』というの物が存在しているのだ。
簡単に言うと“天職”と“固有魔法”はいわば、その人の“才能”や“異能”の印みたいなもので“天職”は『戦闘職』と『非戦闘力』の2つに別れている。ちなみに僕は戦闘職の『魔剣士』という“天職”を持っている。
しかもこの“天職”には自分の魔力も大きく関わってくる。戦闘職であるなら通常の人よりの2倍から5倍まで、“天職”がより上位の職であるほど“固有魔法”や“技能”が更に強くなるのだ。
だからこの世界では『ステータス』というのが“絶対的な強さ”だと定着しているのだ。
そして“神代魔法”と言うのは、神の力の一部を受け継いだ者のことらしい。今ではお伽話になっているけど、数千年前には“神代魔法”使いである7人が神様に反逆をして返り討ちにあったとかないとか。まあ、その人たちは例外なく常人とは掛け離れた力を有しているらしい。
僕もいつか、『陰の実力者』として
さて、そんな事を考えている僕だが10歳になったので社交界やらダンスを覚えなくてはいけない。一応、うちは末端でも貴族なのでそう言った行事は参加しないと行けないのだ。
だけど、僕は気が楽だ。何故かと言うと
この世界は魔力が扱えれば女でも強いし、跡継ぎになるケースが多々あるのだ。それに姉さん、常人よりも魔力量が著しいから、カゲノー男爵家の期待のポープとしても収まっている。これはもう確定だね。僕が入る隙間なんてこれポッチもなし、本当に有難いよ。
コンコン
突然のノック音と共に扉が開かれる。姉さんだ。
「シド、私からの誕生日プレゼントよ」
「えっ……お姉ちゃん。……怪我とかしてない?」
「今の言葉、じっくりと聞きたいとこだけど、勘弁してあげるわ。シド、稽古の時間よ」
僕は横目で窓を見ると辺りは夜になっている。
「お姉ちゃん。外は夜だよ?」
「いいから立ちなさい。私からのプレゼントなんだから」
そう言いながら姉さんは微笑む。いやいやいや、弟の誕生日に剣の稽古とか……いや、この世界では当たり前なのか?
「さあ、みっちり鍛えてあげるわよ」
姉さんに腕を掴まれ引きづられながら庭へと連れていかれる。その道中、ワインを片手に添えた親父と目が合う。
「グッドラック!」
親父はサームーズアップの微笑みで僕を見送っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カンっ! キンっ!
家から少し離れた鍛錬所で僕と姉さんの模造剣が火花を散りながらぶつかり合う。
今の僕は姉さんの
ガキンっ!
僕と姉さんの剣が正面からぶつかり、鍔迫り合いに入る。ここで不意に下がれば間合いの隙を付かれるだろう。
なので、ここからは互いの力量と“身体強化”の差の勝負になる。当然、“身体強化”は僕の方が上なので姉さんを弾き飛ばすことはできるが……僕は自ら片足を引いた。
それに気付いたのか、姉さんが素早く動き、僕の剣を弾き飛ばす。
「たぁっ!」
「うわぁぁ!」
僕は剣の角度を微細に調整しながら、
ここまでは完璧だ。あとは宙に舞った剣が僕の後ろ側である斜め45度のラインに突き刺さると同時に……。
「ふぇぇ……やっぱりお姉ちゃんは強いよ〜」
尻もちを着きながら情けない声を上げるモブ弟。ああ、我ながら完璧な絵面だ。
こうしながら、今の僕は姉に勝てない平凡弟を演じきっている。
「ったく、情けない声を出さないで。弟はいえ、こんな剣撃も避けられないなんて。我がカゲノー家の名折れだわ……」
と言いながら姉さんがため息をつく。
「いい? うちは代々強力な“魔剣士”を輩出する貴族家系。それは重々理解してるわね?」
「勿論だよ、お姉ちゃん」
「なのに貴方は魔力の扱い方が全くの素人。というより、心技体全てが平凡ね。それじゃ、いつまで経っても見習いのままよ」
すると姉さんの身体から徐々に魔力が高まっていく。どうやらお手本とやらを見せてくれるらしい。
「魔力を駆使して剣や身体を強化すれば……!」
姉さんが近くにある岩に歩み寄り、剣を横に一閃。
すると岩が真っ二つに割れて崩れ去った。
「岩を砕く事だって簡単なの」
「おお──っ!! 流石お姉ちゃん! 僕にもコツを教えて!!」
「あんたにはまだ無理。もう遅いから、今日の稽古はここまでね」
空を見上げると深夜帯なのか星空が綺麗に見える。
「その岩、片付けときなさい」
「ええ──っ!!」
「……何かある?」
「言えなにも」
「よろしい。早く終えなさいよ」
そう言ってお姉ちゃんは家へと歩いていく。僕は姉さんが消えるまでその後ろ姿を眺め続けた。
「はぁ……やれやれ、我ながら今日も中々の平凡さを演じきれたな」
僕は身体に魔力を宿らせ〝身体強化〟を発動させる。当然、僕は魔剣士なので戦闘職の“技能”はそこそこ使える。
「魔力の扱い方なんてとっくの前にマスターしてるよ」
そう言って頭ほどの岩を掴んで一箇所に集める。
「……とはいえ流石に核には敵わないけどな」
僕は魔力は扱えるが魔法は少ししか使えない。使えると言っても属性を剣身に宿らせる程度だ。外側に放つ直ぐに魔力が分散してしまうのだ。
それはまだ僕の鍛錬が足りない証拠なのだろう。
だけど、やはり魔力はすごい。人間の限界を軽く超える動きができるのだ。岩とか余裕で持てるし、馬の倍速で走れるし、家より高く飛べるのだ。しかも魔法という現代でならバランスブレイク間違いなしの物まである。“技能”によっては地球兵器並の火力も出せるし、魔法の才能が高い人ほど、より強力な魔法が放てるようにもなる。
そして
魔法を使えば核に匹敵する何かを生み出せるじゃないか、ってね。だけど魔法に関して才能がない僕だから魔法での核再現は無理に近い。
なので、僕は魔法に関しては気にしないようにした。悩んでいても仕方がない。それに最初から僕は魔力を求めていた訳だし、魔法というこの世界の副産物に今更すり替える気もなくなった。
魔法が無理なら魔力で核を目指す。
よって僕の目標は核に勝る力を身に付けることだ。
そうして僕は集めた岩を目立たない隅へと隠して、作業終了。
「さてと、片付けも終わったことだし、夜中にトレーニングだ。近頃廃村に盗賊が住みついているらしい。丁度いい機会だ。スライムボディースーツの検証も兼ねてそいつらでも斬りに行こうか」
僕は実験に心を躍らせながら簡易アジトへ歩を進める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目的地の廃村に訪れると灯りを中心に盗賊らしい風貌をした男達が高笑いを上げている。
「お前らもっと呑め呑め!!」
「流石です! ボス!!」
「今日の襲撃は大成功だ!!」
「ギャハハハ!!」
どうやら商隊を襲った後なのか盗賊達は宴を上げて喜んでいるようだ。
うん。とても運がいい。盗賊は計画性がないから奪ったら直ぐに使う。だがら襲撃直後じゃないと良いものを持ってない。盗賊のモノは僕のモノ。だから盗賊が嬉しがるほど僕も嬉しくなるのだ。
僕は気配を消しながらゆっくりと盗賊達へ近づく。
「美術品をあんなに積んで森の夜をほっつき歩いてるたぁ、不用心な商隊をいたもんだぜ」
「まったくですぜぃ!」
「あの護衛の最後の顔を見やしたか!?」
「ああ『俺には娘がいるからどうか〜』ってバカみてェだったな。だから言ってやったんだ。『命惜しくば金目のモノを……』」
僕は真正面から堂々とその宴会に突っ込んだ。不意打ちはしない。今回は検証もあるからだ。
「ヒャッハー!! やいテメェらァ! 命惜しくば金目のモノを出せー!!!!」
僕は宴会の中心で叫んだ。
「「「「な……ッ! なんだコイツ!!?」」」」
「いいから金だせつってんだろう!!」
そう言って近くにいる若い男を蹴る。
チャリン♪
「ホラ今チャリンってつったぞ、チャリンって!」
「本当になんなんだ!! コイツ!?」
そう言いながら蹴られた若い男が起き上がる。それに合わせて他の盗賊達も剣を取り出した。
「おい、てめェ! 俺たちが誰だか分かって……!」
「オラァッ!!」
ごちゃごちゃ言っている男の首を軽く斬り飛ばす。もちろん剣もスライムでいつでも取り出せる優れもの。しかし、このスライムソードはまだまだ便利機能が隠されている。
便利機能その1、伸びる。
「おらおらおらおらぁぁぁぁ!」
スライムソードを鞭のように伸ばしながら、鋭利な斬れ味で盗賊達を斬っていく。
「てっ、てめェ!!」
「魔法で奴を殺せ!!」
「「「ここに焼撃を──」」」
離れて惨状を見ていたフード姿の盗賊達が何やら魔法の詠唱を唱え始めた。それに合わせて残りの盗賊達が怒りを顕にしながら斬りかかってくる。
「「「死ねェェェェエッ!!」」」
僕は盗賊達が放つ、スローモーションの斬撃を避けながら、斬りかかってきた盗賊の頭をカウンターで斬り飛ばす。
「「「──望む。“火球”!!!」」」
その間に詠唱が終わったのかフード姿の3人組が僕に向かって魔法を放ってきた。
僕は丁度いいと思いながら、火球を真正面から受けてみる。
「はっ! 3つ同時の“火球”を直に喰らいやがった!」
「俺たちトライアングル兄弟が居た、この盗賊団に手を出した運のなさだったな」
「ありゃ、比喩じゃなく骨も残らな──」
僕は周囲に渦巻いている炎を左手で前方に打ち払うように薙いだ。
「ふむ、こんなものか……」
そうすると僕を包んでいた炎は一瞬で散じた。
「「「なッ! なにィィ!!?」」」
「うん。そこそこやるようだけど、生憎、うちの父さんの方が上だね」
僕は死に体を晒している自称トライアングル兄弟達の首を斬り落とす。
「あれ?」
調子に乗って斬りまくっていたらいつの間にか静かに。あれ、あと1人しかいなくね?
「て、てめぇよくも……っ!」
「なんだもう1人か。なら便利機能その2は君で試そう」
「な、何言ってやがる……!?」
「君はこの盗賊団のボスらしき存在だろう? 君が勝つことは万に1つもないけど、実験相手になれたら1分は生きられると思うから頑張ってくれ」
「な、舐めてんじゃねぇぞ! 俺はこれでも闘技大会2回──」
「はいはい、無駄口叩かないでかかってきなさい」
「て、てめェェェェッ!!!」
ボスがとろくさい斬撃を放ってくるが僕はその場から半歩ズレる事でボスの間合いから外れ、攻撃を次々に避ける。
「なぜだ、なぜ俺の剣が当たらない!」
「親父より弱いなぁ……。まぁ、姉さんよりかは強いけど、あと1年で追い抜かれるかな?」
「ク、クソ餓鬼があああぁぁッ!!!!」
怒りに任せて振るうせいか、先程よりも剣筋が酷くなってる。僕はそんなボスAの斬撃を避けながら懐めがけて駆ける。
「なっ! さっきまで持ってた剣はどこに──」
僕は足のつま先をボスAの腹目掛けて突き上げる。
「がッ! がっはァ、ぐ、あ、ぁぁ、な、んで……?」
ボスAは痙攣しながらその場に倒れ込んだ。
仕掛けは簡単、僕の爪先にアイスピックのような鋭い刃が伸びていたからだ。スライムソードの便利機能そ2、好きなときに、好きな場所から刃を伸ばせる。
と言うことで攻撃も防御も良好で無事実験は終わった。スライム君達の犠牲は決して無駄ではなかった。そんな事を証明した後、僕は盗賊達の戦利品を漁る。
「絵画や状態のいい骨董品があるといいな」
戦利品は馬車数台分あった。そして複数の商人達の死体。
「盗賊共、随分派手に奪ったみたいだな。商人たちよ仇は取った。この荷物は陰の実力者になる為の軍資金に活用させて貰──」
ガタッ
ん……? 残党でも居たのかな?
物音がした方向に視線を向けてみる。
「檻……なのか?」
割と大きくて頑丈そうだ。
その瞬間、僕はこの中にお宝があるかも知れないと思い。覆いかぶさっている布を思いっきりに取ってみる。
「これは……予想外」
中には……お宝というより、腐った肉塊のような物があり、こっちをみてピックと少し震えた。かろうじて人型の原型は留めているが、容姿や年齢が分からない。
もしかしてこれ〈悪魔憑き〉ってやつか?
王立図書館で見た事がある。ある日を境に肉体が腐り出しじきに死ぬという奇病……。
聖教教会がその〈悪魔憑き〉を神の言葉と称し引き取るが、裏では虐殺しているとか。ないとか。
どうぜいずれ死ぬのなら僕の手で楽にさせて上げようと思い、僕はスライムソードを檻の隙間から差し込む。
そしてあることに気付いた。
この肉塊、その内に大量の魔力を内包しているのだ。今の僕を上回るほどの魔力量。そしてこれは……。
「この波長……魔力暴走!?」
僕も過去の実験で自力で魔力暴走を起こしたことがある。成功すれば魔力が身体に馴染み、魔力操作が爆発的に上がると考えたからだ。しかし、流石に堪えて実験は途中で断念した。流石に自分の身でやるのは危険すぎたのだ。
しかし、僕の目の前にいるのは今にも死にそうになっている肉塊。
やったぜ! 教会にやるくらいなら僕の魔力実験に使っちゃおっと!!!
僕はリスクなしの実験に悩まず、肉塊に手を伸ばし己の魔力をガンガンと流し込んでいく。
君は誰が好きかな?
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アルファ
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ベータ
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デルタ
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ガンマ
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イプシロン
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イータ
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ゼータ