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サイバー空間の悪質組織「恒心教」(こうしんきょう)の攻撃対象になり、アダルトビデオ(AV)の購入履歴を晒された過去を持つ法科大学院生、石渡貴洋さん(27)。ひた隠しながら生きることもできたが、今回、実名で「ネットリンチ」の実態を告発した。「恒心教が悪いだけでなく、法整備の欠如も問題」という主張や、被害当事者となり初めてわかった「戦う気持ちすら持てなくなる」実感について聞いた。

●社会に問題を顕在化させたかった

――公にするのが極めてはばかられる「AV晒し」も含め、実名で取材に応じた理由は?

主に2つあります。AVの件も含め、一度ネットに上がった情報は消せません。恒心教が使う掲示板などで、あれこれ言われるならば、自分からオープンにしてしまったほうが清々します。

昔から、冤罪事件に関心を持ってきました。高校のときには、足利事件で無罪判決を得た菅家利和さんに直接会って話を聞きました。最近では、袴田事件の袴田巌さんにお目にかかっています。

「誰かを犠牲にして、人知れず闇に葬り去ることは許せない」という思いが強いから、こうした関心を持つのでしょう。今回受けた被害を何とか消化しようとしたとき、取材に応じて、問題を社会に顕在化させる手段が僕にとっての最適解でした。

――もう1つの理由は?

もちろん加害者たる恒心教は悪い。ですが、同時にネットリンチに遭った被害者が、社会で、いろいろなところにSOSを出しても、誰も助けてくれない問題に直面しました。AV晒しにつながるアカウント乗っ取り前に警察に相談したのですが、まったく対応してもらえなかった。

こうした事態を招く、法整備の欠如を指摘したい。法整備がされない背景には、市民が無関心であった経緯もあります。この流れを断ち切るために、恥を忍んで実名で応じました。

●パンドラの箱を開けたかもしれない

――法科大学院で法律を学んでいる立場から、どんな「法整備の欠如」を指摘するか?

2020年5月、女子プロレスラーの木村花さんが、SNS上での誹謗中傷を受けて自殺しました。この事件を受けて、政府もようやく対応や議論を加速させています。

昨今議論されている法改正には、一定の評価はしています。芸能人や著名人への誹謗中傷に、ある程度は役立ちそうだからです。

しかし、ネットの悪用に長けている人々には効果が期待できません。

恒心教は、2019年には新潟県警のサーバーに、2020年にはコロナ禍の国立感染症研究所のサーバーに侵入しています。彼らはTor(トーア)と呼ばれるツールなどで海外サーバーを経由し、自分たちの通信に足がつかないことを知っています。

また、恒心教は誹謗中傷を書き込む掲示板やサイトを「防弾ホスティング」に立ち上げます。このサーバーは、利用者情報などを外部に一切情報提供しない契約にあります。主に海外のものが使用されるため、特定が非常に困難になります。

恒心教に対しては、今の政府の対応方針では、被害者救済はまったく見込めません。

それどころか最悪のシナリオは、恒心教の手口が一般化することです。先ほど、今回の法改正が「芸能人や著名人への誹謗中傷にはある程度役立つ」と申し上げましたが、実は、パンドラの箱を開けたかもしれない危惧もしています。

●あえて「ブロッキング」を提案する

――恒心教対策としてできることはあるか?

特定のサイトに接続させない「ブロッキング」(接続遮断措置)を誹謗中傷の場面でも真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。

児童ポルノでは効果を上げています。自主規制として一般社団法人「インターネットコンテンツセーフティ協会」(ICSA)がおこなっています。

――健全な批判と悪質な誹謗中傷の線引きなど、実施にはかなり難しい問題がありそうです。

僕自身、考えうる限りの悪口をネットで書かれましたが、やはり「表現の自由」は重視する立場です。

その前提のうえで、あえてブロッキングを提案します。

児童ポルノと同様、民間団体による緊急避難的な自主規制が望ましいです。

同時に裁判官による差止令状のような制度を創設する。そして民間団体のリストから漏れた違法サイトに関しては、被害者の相談を受けた警察官が差止令状の発付を受けて、さらにリストに追加させるなどの仕組みが考えられます。

●恒心教徒の特徴

――被害を受けて、何かご自身が変わったことは?

被害者の心情を理解しないといけないと特に感じました。

先ほど、少年のころから冤罪事件に興味があったことを話しましたが、やっていないのにやったと言ってしまう「冤罪の構造」も身に染みた気がします。

実際に不条理な被害に遭うと、間違っていることに毅然と発言する気持ちや、降りかかる不正義に悠然と立ち向かう気力が、一切生じなくなります。僕の場合、ただただ面倒で、何もかもが嫌になりました。

そうした悪循環が、自殺を選択させることに繋がります。

――そこまで追い込んできた恒心教とは何者なのか?

詳しいことはわかりませんが、そのメンバーは入れ替わり立ち替わりしているようです。2010年代の始めごろに唐澤貴洋弁護士をからかい始めてから、ずっと活動している人は稀だと見ています。

一方で、共通の特徴があります。

僕だけでなく、ほかの被害者に対する攻撃も踏まえた見解ですが、まず、弁護士だの社長だの学歴だのと攻撃対象の「肩書」にこだわります。

妬みの感情も強いです。リンチする対象より、自分たちのほうが優れている、と感じていたいのでしょう。たとえば、僕がPCを自作していると掴んだときにも、彼らは若干ざわついていました。「石渡のくせにPCを自作してるなんて」とでも言いたいような反応でした。

人間関係にも食いつきます。いろいろな被害者に対して「友だちが多いと言ってるけれど、本当はいないだろう」「こんな奴に彼女や妻がいるわけないだろう」とか。

自己顕示欲が強く、独りぼっちで、子どもか、あるいは大人になりきれていない大人であることが見て取れます。

●誹謗中傷された人に寄り添ってほしい

――今回の記事が出ることで、そんなメンバーから再度ネットで叩かれる可能性もある。

もちろんそのリスクはあるでしょうが、仕方ありません。

取材を受けている今や、法科大学院で過ごしている時間はリアルです。一方、恒心教から被害を受けているのは、バーチャルになります。

しかし、このリアルとバーチャルは分断している別の世界でなく、どちらも並列で起きている現実です。だからこそ、現実から目をつぶって逃れるよりも、受け入れざるを得ません。

そうした点からも、誹謗中傷を受けた人には「ネットなんて見なければ良い」とアドバイスしてほしくない。「それは辛いね」と寄り添ってあげてほしい。その対応こそ、バーチャルで誹謗中傷を受けている「現実」に向き合ってあげることに繋がります。

――多くの人がネットに費やす時間を増やす中、そうした考えは賛同できる。

ネットで大炎上をしても、人生は切れ目なく続いていきます。

私は、2016年にすい臓がんで亡くなったジャーナリストの竹田圭吾さんが好きでした。

彼はがん発覚後、「ちょっと種類が違う人生が、その後に続くだけ」という発言を残しています。進行したがんが見つかっても、「人生終わりというわけではない」と前を向いていました。

炎上を経験した僕にも、すごくしっくりくる言葉です。

僕だけでなく、炎上で苦しんでいる人が大勢います。被害者になったからこそ、こうした人を心底理解できる。

これからの人生では、自分の居場所で、できることや求められたことをしていくつもりです。そうすることで、僕の「ちょっと種類が違う人生」も、きっと価値のあるものになるだろうと信じています。

【はじめから読む #1】
ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生
https://www.bengo4.com/c_23/n_12985/
【#2】きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生
https://www.bengo4.com/c_23/n_12986/
【#3】恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた
https://www.bengo4.com/c_23/n_12987/