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「その昔、トライナリーというソシャゲがあった」───拡張少女系トライナリーにおける画期的なスキームおよび強力なコミュニティの紹介とその継承
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「その昔、トライナリーというソシャゲがあった」───拡張少女系トライナリーにおける画期的なスキームおよび強力なコミュニティの紹介とその継承

2019-06-08 21:16

    0.前提

    (1)本記事は拡張少女系トライナリーを数あるソシャゲの一つとして捉えている。したがってメタ的な記述が多く、所謂「トライナリーは現実」というスタンスは取っていない。

    (2)筆者はトライナリーのソシャゲ本編を十分にプレイしていない。その深い世界設定や物語あるいは人物像を熟知していないため、あらゆる箇所で拙い文章になっていることと思うがご容赦願いたい。

    (3)本記事ではアニメーションとしての拡張少女系トライナリーは取り扱わないものとする。あくまでも日本におけるソシャゲシーンへの問題提起を主題としている。

    1.前段

     2010年台以降、日本でもスマホが広く普及していった。新しい文明が定着したあとに人々が望むものは古来より娯楽と相場が決まっている。その代表格であるソシャゲは爆発的に数を増やし、人々の娯楽に入り込んでいき、定着し、そして多くが死んでいった。ソシャゲの多くはオンラインコンテンツであるため、常にサービス終了の影がちらつく。思い入れのあるソシャゲほどその影は死の恐怖となって付き纏う。プレイヤー、デベロッパ、パブリッシャ、メディアなど、さまざまな人々がさまざまな場所でさまざまな思いを懐きながらその影と葛藤していく。ソシャゲの最大の特徴と言っても良いだろう。

     本記事ではそんなソシャゲの一つである拡張少女系トライナリー(以下トライナリー)について内外から2つの側面から触れていきたいと思う。アルトネリコなどを世に送り出した土屋暁氏が原案を努めた本作は2017年4月12日にサービスを開始した。アニメーションとの同時進行、有名イラストレータおよび各種IPとのコラボにも意欲的であり、何よりも土屋氏を支持してきた熱狂的なファンによる支援もあったが、惜しむらくは2018年8月31日にサービスを終了した。現在はアプリをダウンロードすることも出来ないし、アプリを起動してもサーバに接続することが出来なくなっている。ソシャゲとしてのトライナリーは死んでしまったのだ。

     あの頃を思い出すにも手元に残された材料は少なく、脳に刻まれた記憶は時を刻むごとにすり減っていく。せめて全てを忘れる前に、自分のココロと記憶の整理を目的に今、筆を執っている次第である。

    2.画期的なスキーム

     ここでは筆者がトライナリーをプレイする上で印象に残っている仕組みを紹介する。

    (1)ファーストフラグ

     トライナリーは度々提示される選択肢から任意の項目を選びながら物語を進めていく。所謂アドベンチャーゲームによくあるアレだ。だがトライナリーはひと味違う。一度選んだ選択をなかったことにすることは出来ない。例え最初からやり直してもその選択肢にはファーストフラグが付与され、それは刻印として残り続ける。アドベンチャーゲームといえばオフラインが主流であり、セーブロードを繰り返してあらゆる選択肢を選びながらエンディングを回収するのがお約束のようになっている。そんな中でトライナリーはオンラインで全プレイヤーのフラグを管理し、セーブロードを許容しない。ソシャゲならではのストイックな仕様には舌を巻いた。

    (2)総意

     前項のファーストフラグに絡めて、それは物語を進行する上で運命を決めるような重大な選択でも例外ではない。全プレイヤーが選んだ選択肢の結果(多数決)によって物語が分岐することもあるのだ。本編では総意システムと呼ばれていた。このシステムのせいでシナリオを書き溜めて置くことは出来ない。毎週更新されていたトライナリー本編での無数の選択肢を見てしまうと、土屋氏を始めとした開発陣の苦労を推し量るには想像に難くないだろう。執筆現在、このような仕組みを採用しているソシャゲは幾つか散見されるようになったが、いずれにしてもトライナリーが先進的であった事実に変わりはない。

    (3)ツイッターよる掛け合い

     トライナリーにはメインヒロインとなる女の子が5人登場する。本編以外でも5人全員が(実際の!)ツイッターアカウントを保有しており日常的に掛け合いが行われていた。これにより本編以外でも彼女たちの性格や様子をうかがい知ることができ、トライナリーという大枠でのライブ感を創出することに成功している。このツイッター上での掛け合い、控えめに言って尋常ではない文量と頻度であり人によっては彼女たちだけでタイムラインが流されるのではと心配になるほどであった。そこらのなりきりアカウントとは次元が違う。未だかつてツイッターをここまで有効に活用したソシャゲ広報を筆者は見たことがない。現在でも彼女たちのツイッターアカウントとツイートは残されているため、遡って当時の掛け合いを眺めることができる。(外部リンク

    3.強力なコミュニティ

     ここでは筆者がトライナリーと接する上で印象に残っているソシャゲ本編以外での動きについて紹介する。

    (1)ツイッターによる掛け合い

     前項と同じ内容だが、ここでは彼女らではなくトライナリーを話題にする人達によるツイッターを始めとしたSNS上での活動について記述する。特に筆者はツイッターのサーチストリームを利用してトライナリーに関する動きを収集していたが、なかなかに訓練された光景が広がっており感心した。問題を提起する人、考察を披露する人、ファンアートを投稿する人、何気ないことをつぶやく人、自分から何かしらを発信する人自体が多く他のソシャゲには無い活発な印象を受けた。

     大抵のソシャゲの場合、サーチストリームにかけるとガチャの結果を上げるだけの人、アカウント売買を希望する人、そもそも公式含めて1日近く全く動きがない事もある。そんなソシャゲの現状に諦観の念さえ覚えてた中で、トライナリーを取り巻くコミュニティは筆者にとって一筋の光だったのかもしれない。

    (2)多様なグッズ販売

     ソシャゲも近年では本編だけでなく、あらゆる方面での収益化を狙うことが当たり前になりつつある。トライナリーでも(ガストのお家芸とも言える)様々なグッズが販売された。関連書籍、CD・BDといった基本的なものから、手紙、食器といった独特なものもあった。その中でも度肝を抜いたのが2018年5月に受注を開始したオルゴールである。このオルゴール、完全オーダメイドで約9万円する代物だがツイッターを監視している限りではかなりの人数の猛者が購入した様子。筆者は流石に手が出なかった。(外部リンク

     他のソシャゲにはない強力なコミュニティ。トライナリーにはまだ可能性がある。少なくとも筆者はそう感じていた。そしてこの翌月に、トライナリーのサービス終了が発表されることとなる。

    (3)外部メディアでの取扱

     トライナリーは有難いことに様々なメディアでも取り上げて頂いた。ファミ通では(ソシャゲ専門誌のファミ通Appではなく)週刊ファミ通本誌で何度も特集が組まれた。本誌で取り上げられるソシャゲはパズドラ、グラブル、デレステなどのモンスター級コンテンツが多い中でトライナリーはある種の異彩を放っていた

     電撃PlayStationではユーザによる年間投票が行われたが、2017年アプリ部門でトライナリーは見事3位を獲得した。アズレン、ガルパ、ミリシタなど名だたるソシャゲがトップ10にランクインする中、はっきり言ってトライナリーは場違い感が半端なかったのだが、それでも本誌でトロフィー授与の様子とインタヴューを掲載してくれた。いずれもトライナリーを取り巻く人達による熱い(熱すぎる?)思いが為せる技だろう。(外部リンク

    4.後段

     トライナリーを知らない人にもイメージしやすいテーマを選定し、文章にも気を遣ったつもりだったが如何だっただろうか。振り返ってみると冗長で無駄に文字数の多い記事となってしまった。他にもまだ言いたいことはある。だが、筆者のココロと記憶の整理だと銘打っても、外部に公開する以上ある程度の節度は必要だ。タイトルにもあるように本記事はサービス終了と同時に消えゆくソシャゲ界隈を憂いて、せめてトライナリーというソシャゲがあったということを紹介し、後世に継承するためという理由に端を発している。

     そんなソシャゲに筆者は懐疑的な立場を取っている。「ソシャゲのゲはゲームのゲだが、ソシャゲはゲームではない。」「ソシャゲは遊んでもいいが、遊ばれてはいけない。」これらはソシャゲに望む際に忘れずに心に留めている銘である。

     開発費の高騰、メディアミックス前提の戦略、ユーザの嗜好の多様化など、ソシャゲ界隈はかつてよりも成熟しているように感じるが現在でも粗製乱造の傾向は見られる。ユーザを裏切り続ける界隈に未来はあるのだろうか。ユーザはますます保守的になるのではないのだろうか。保守的なユーザに革新的なソシャゲを提供するデベロッパは今後現れるのだろうか。執筆現在、聖域ともされる日本のソシャゲ界隈ですら中国デベロッパの影がすぐそこまで見えてきているのだ。

     そんな情勢の中でトライナリーには人を惹きつける魅力があった。革新性があった。ライブ感があった。コミュニティの育成も順調に進み、他のソシャゲにはない様々な独自性を獲得することに成功したと言っても良いだろう。だが、何故1年半でサービス終了という憂き目に遭わなければならなかったのだろうか。その理由は現在も明らかにされていないし、明らかにしなければいけない理由もないだろう。我々が出来ることは、ただただ、年老いたおじいさんのようにつぶやき続けることだけなのだから。

     「その昔、トライナリーというソシャゲがあった」と。


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