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 AI(人工知能)を組み込んだOCR(光学的文字認識)である「AI OCR」を提供するベンダーが、自治体向けに新型コロナウイルスのワクチン接種管理業務を支援するため、新しい製品やサービスを相次ぎ提供している。2021年4月以降、高齢者をはじめとする住民を対象にした大規模な接種が始まることを見据えた動きである。ワクチン接種業務をスムーズに進める上で、心強い援軍になりそうだ。

 AI OCRソフト「AIRead」を手掛けるアライズイノベーションは2021年3月下旬にも、接種管理業務向けの新製品「AIRead+予診票読取オプション(スタンドアロン版)」の提供を始める。AI OCRサービス「DX Suite」を提供しているAI insideも2021年1月25日、自治体向けに「ワクチン接種管理業務ソリューション」の提供を始めると発表した。NTTデータも2021年2月以降、自治体向けサービスを通して接種管理業務の支援策を強化していく。

 3社とも2020年前半、紙文書を扱うことが多かった特別定額給付金の申請受付業務の効率化策として、自治体向けにAI OCRをそれぞれ提供してきた。今後本格化する新型コロナワクチンの接種管理業務の支援にも、その経験をつなげていきたい考えだ。

 3社が提供する製品やサービスの対象は、新型コロナワクチンの接種が済んだ住民の予診票や接種券といった紙文書から、接種したワクチンなどの情報を読み取って管理システムなどに入力する事務作業だ。今回の新型コロナワクチンについても従来の定期接種と同様に予防接種法に基づいて、これらの業務が自治体に求められる。

 特に新型コロナワクチンの接種は大規模に実施することになる。自治体職員は「予診票などを見ながらパソコンにデータを打ち込む」といった作業を繰り返す負担の急増が懸念される。そこでAI OCRベンダーは、新型コロナワクチンの事務を支援する製品やサービスを投入。紙の書類を複合機などでスキャンし、AI OCRで書類の内容をテキストデータに自動変換して職員の作業負荷を減らす。

シール画像の傾き補正、入力時間を4分の1に

 AI OCRベンダーは新しい製品やサービスに独自の工夫を凝らしている。アライズイノベーションは予診票に書かれた手書きを含めた文字の読み取りに加えて、予診票に貼付されるワクチンのロット番号が書かれたシールも読み取れるようにする。

アライズイノベーションが開発中の「AIRead+予診票読取オプション(スタンドアロン版)」の画面イメージ。予診票に斜めに貼られたワクチンのロットシールも的確に読み取れるようにする
アライズイノベーションが開発中の「AIRead+予診票読取オプション(スタンドアロン版)」の画面イメージ。予診票に斜めに貼られたワクチンのロットシールも的確に読み取れるようにする
(出所:アライズイノベーション)
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 読み取り精度を高める工夫も凝らす。「新型コロナワクチン事務処理が始まると、ワクチンのロットシールを予診票に斜めに貼る可能性も出てくる。そこでシール画像を切り出して傾きを補正する新機能を盛り込んで、正しく読み取れるようにしている」と、アライズイノベーションの清水真社長CEO(最高経営責任者)は説明する。

 OCRソフトは一般に、書類の記入欄に沿って書かれた文字や画像でないとうまく認識できないことがある。アライズイノベーションの工夫は認識できない状況を未然に回避することを狙っているわけだ。ロットシールを含めて読み取ったデータは、自治体の管理システムなどへ連携できるようにする。政府が整備の検討を進めている接種した人を管理するデータベースとも連携できるようにするという。

 アライズイノベーションは個人情報が外部に漏洩するリスクを回避するため、自治体内のパソコンにインストールして利用するオンプレミス版でまずは新製品を提供する。オンプレミス版を自治体が導入した後も、読み取り精度を高めたAIモデルやOCRの読み取り部分などを指定する定義ファイルを随時更新して利用できるようにしていくという。

 清水社長CEOは「予診票のデータ入力に関わる作業時間を4分の1程度にしたいと考えている。オンプレミス版は通常のインフルエンザや小児用ワクチン接種などの予診票なども読み取れるので、(新型コロナ以外のワクチン接種業務にも)継続的に利用できる」と説明する。2021年4月以降は、サーバーで動く製品や、インターネットとは隔離された自治体専用の「LGWAN(総合行政ネットワーク)」を介して利用できるサービスも提供していく予定だという。