ヤクザと刺青の親和性が日本文化に残る限り、温泉と刺青が完全な和解をする日も来ないと思います。
まず、議論の対象となる施設は、民間企業が営利目的で経営するスーパー銭湯などの公衆浴場(以下その他の公衆浴場と呼称)とさせていただきます。町中の銭湯(普通公衆浴場)や公営の日帰り入浴施設は現在でも刺青やタトゥーを入れた人(以下刺青者と呼称)の入場を原則として断っていません。また旅館業法により、ホテルや旅館は例外的なケースを除き、宿泊者の利用を断ることができません。ただし、旅館やホテル内にある大浴場などの施設の刺青者の利用に関しては各旅館によって取り扱いに差があります。ただ、旅館における刺青者の取り扱い関してはその他の公衆浴場に準じるものとしてここでは論じたいと思います。
次に、刺青者にも複数属性がありますので、以下のカテゴリーに分けたいと思います。
カテゴリーA:日本在住のアジア人で日本国籍を有し和彫りを入れている者
カテゴリーB:日本在住のアジア人で外国国籍を有し和彫りを入れている者
カテゴリーC:日本在住のアジア人で全身にタトゥーを入れている者
カテゴリーD:日本在住のアジア人でワンポイントでタトゥーを入れている者
カテゴリーE:海外在住のアジア人以外の外国人で全身にタトゥーないし和彫りを入れている者
カテゴリーF:海外在住のアジア人以外の外国人でワンポイントでタトゥーないし和彫りを入れている者
刺青者の中で日本在住の「広い意味での日本人」はABCDで、「外国人」はEFとします。そう分けた理由は以下の通りです。一つは知ったうえで刺青を入れたか否かです。刺青に関する日本のその他の公衆浴場での取り扱いについて、悪意(知っていた)なのがABCDで善意(知らなかった)なのがEFとします。また外観的特徴から日本人と外国人と分けられる人種的な外観をもとに、日本人と外国人とを分けています。日本には在日コリアンなど、言われないと外国人だと分からないアジア人がそれなりに暮らしているからです。彼らは外国人というよりに「広い意味での日本人」と見做す方が議論はしやすくなります。
さて、前置きが長くなりました。ここからがご質問に対する本論です。
その他の公衆浴場では刺青者の利用は施設利用者によって制限されている場合がほとんどです。これは言うまでもなく、日本という社会では長い間、刺青がヤクザの代名詞だったことに依存します。ヤクザは怖い。ヤクザは一般人の敵。という認識が日本人の潜在意識に深くあり、そのシンボルである刺青を日本人は忌む傾向が強いです。ヤクザも刺青も風呂文化も共に日本の文化であり、長い年月を経て今の状態に至っています。ですから、これは既存の文化の問題でもあるわけで、それを変えるにはなにか時代的な正当性が必要となるわけです。「一般人の利用する施設であるその他の公衆浴場に反社と分かる人間は利用して欲しくない」そうその他の公衆浴場の経営者や客の一般人が思うのは仕方のないことです。ここは是非ご理解ください。日本のその他の公衆浴場における刺青者に対する扱いを変えるには、刺青やタトゥーが反社とは結びつかない社会を得る必要があるでしょう。現状では残念ながらそういったことにはなっておりません。
厳密に言えば、ヤクザと親和性の高い刺青は全身の和彫りです。ですから、外国由来のタトゥーや、刺青でもワンポイントのものはヤクザのシンボルとは言えないのではないかという主張もあります。ただ、残念なことに、ここ数十年の暴力団に対する社会的取り組みにより、いわゆる暴力団の構成員という伝統的なヤクザは縮小傾向にあり、ヤクザと同様の性質をもつが、ヤクザらしい風貌をもたない、いわゆるマフィア的な反社会組織の構成員や、いわゆるギャングに近い性格をもつ半グレのような暴力性、反社会性の強い日本人の集団が日本社会に台頭しており、彼らはタトゥーを好んでいるということです。おそらく、刺青のもつ示威性は欲しいが、ヤクザとは同一視はして欲しくないという、彼らのアイデンティティのよりどころとしてタトゥーが選ばれているのではないかなと思います。つまり、海外とは異なり、日本社会においては、和彫りであってもタトゥーであっても、等しく反社会組織の構成員を疑われる要素が今も根強くあるということです。したがって、その他の公衆浴場が風紀的な問題にかんがみて、ABCDに属するアジア人在住者を断るのはある意味仕方ないと言えます。もちろん、自分は刺青者だが反社組織に関与していないという人もいるでしょう。ただ、その人たちは皆、日本国内における刺青の扱いについて悪意(知って入れた人たち)なのです。反社と同一されるリスクを承知の上刺青を入れたことになります。反社か否か、それを外観的に区別する術をその他の公衆浴場の管理者や一般入浴者は持ちえません。であれば、仮に反社でなかったとしても、自分が承知であったことを理由に、反社のシンボルマークを入れれば、反社と同一視されるというハンデを背負うべきではないかと思います。このことから、ABCDの刺青者に関しては例外なく、現状の扱いは甘んじて受けるべきではないかと思います。
一方、海外では日本ほど反社会性と刺青、タトゥーが紐づけられておらず、タトゥーをいれるハードルが日本より低いのは事実です。ただ、自らの体を傷つけて染料を流し込むというのは和彫りもタトゥーも同じですので、やはり海外においても、タトゥーをいれている人はどこか、荒っぽい人が多いのもまた知るべき事実かと思います。決してタトゥーは外国人のマジョリティではないのです。特に彼らにとって遠い外国である日本に来るような一定以上の所得水準のあるような外国人に刺青者は少ないです。日本で目にする外国人の刺青者で多いのは米軍基地関係者です。正直やや不良外人といったアメリカ人が多く、沖縄などでは度々米軍関係者による事件がおこり問題となっています。ただ、海外在住の外国人の刺青者に関しては確かにヤクザでも半グレでもない可能性が高いです。そのような刺青者が日本のその他の公衆浴場を利用したい場合、その管理者はいかに対処すべきかが問題となります。「外国籍」という理由ではカテゴリーBの在日コリアンのヤクザの入場を防げませんので、難しいです。「白人のみ」とすれば、当然、人種差別だといわれるでしょう。外国人には白人も黒人も黄色人種もいるわけですからね。当然彼らの存在を理由として刺青者全ての利用を許可するのは問題があるでしょう。EFに属する人たちは、その他の公衆浴場を利用する圧倒的多数である一般的な日本人からみれば、ずっとマイノリティの外国人観光客であり、その外国人観光客の中でもマイノリティに属する外国人がタトゥーを入れているのです。極々少数の例外的事例のために、反社の人間をその他の公衆浴場に招き入れるリスクはとれないでしょう。
もしかしたら、有志で、外国人観光客でタトゥーを入れた人間に、入国時に「自分は反社会的な人間ではありません」という申告をしてもらって、特別な「タトゥー免状」なるものを発行し、その所有者に関しては滞在期間中、それを提示することで本来刺青不可としていた一定の施設への入場を許可するということはありかもしれません。ただ同時に一般の日本人入浴者はタトゥーを入れた外国人がいきなり浴室に入ってくれば驚きはさけられませんので、そういった周知も十分必要かと思います。日本人であろうが、外国人であろうが、自分はタトゥーを入れた人と一緒に入浴をしたくないという人への配慮も当然必要となるからです。それは日本人でもOKでは?と思われるかもしれませんがそれは違います。さきほど述べたように日本在住の刺青者は日本での刺青の取り扱いについて悪意なのです。善意の外国人に対する優遇を彼らにする必要はないと考えます。
また、これは日本人が得てして忘れがちなことですが、外国に行けばその土地の文化や風習に対してリスペクトを払うべきというのは国籍を問わず言えることです。例えば、飲酒がイスラム法によって禁止されている国で許可された場所以外で飲酒を行うのは彼らに文化をリスペクトしていないことになります。チップを置くのが義務となっているアメリカなどの国でチップを置かずに立ち去るのは日本人だからといって許されることではありません。このことから分かるように、実は日本を訪れる外国人もタトゥーと温泉の取り扱いについては、「これは日本の文化でリスペクトしなければならない」という認識をもっている人が大多数です。ですから、別に、日本にいる外国人を刺青NGの例外にする必要はないのです。彼らのガイドブックにはタトゥーで利用できる施設が一覧できるようになっている場合が多く、それらの情報をもとに彼らは風呂に行っているわけです。もちろん民間企業であるその他の公衆浴場の経営者が、外国人のタトゥーOKとすることでより市場開拓につながり、利益を上げられると考えているならば、そうすれば良いですし、実際そういった施設も増えてきています。それを止める権利も、理由もありません。契約自由の原則というのがあるわけですから、それが嫌ならそこを利用しなければ良いだけです。