『さあ、飛ぶわよ!』
今の環境はドロシー抜きドロシーですが、初投稿です。
遂にノース校との友好デュエル日の当日となった。
そして、ノース校代表団が港に来る筈のため、お出迎えとしてデュエルアカデミアの生徒が集まっているのだが――。
『なんで肝心な代表の十代さんが居ないんですかねぇ……』
「超がつくマイペースな上、緊張とは無縁の男ですからねぇ。まあ、丸藤が探しに行きましたし、すぐに来るでしょう」
既にノース校の移動手段であり、目のマークがちょっと可愛い潜水艦が港に乗り付けられており、クロノス先生と、鮫島校長が、ノース校の一ノ瀬校長に対応している。
「校長先生。挨拶はその辺にしてさ。早く、俺の相手紹介してよ!」
すると、クロノス先生と鮫島校長からするりと、十代が生えるよう現れ、雑談しつつ握手を交わす2人の校長らの会話に入った。
『………………最早、才能ですね』
「まあ、十代のそういうところは長所であり、短所ですからねぇ」
あんな感じだから主に中等部から進学したオベリスクブルーや、ラーイエローの成績、プライド、しきたり等を重んじる生徒に反感を買い続けたんだろうな。それに、本人が一切気づいておらず、気にもしていないのだから質の悪い話だ。
郷に入っては郷に従えとか、空気を読めとか、デュエルするなとか十代にはそもそも苦手なのだろう。
『あれ……? おかしいな……? ブーメランかつツッコミ待ちですか?』
「俺はちゃんと1人ずつデュエルで話し合った上で、好きにやっているので、全員了承済みですよ」
『十代くんや、十代くんらを普通にオベリスクブルー寮に入れるマスターによい感情を抱かない生徒を、片端からデュエルで叩き潰していただけなんだよなぁ……最近は"覇王"とか呼ばれ始めてますし』
いいんだよ。そもそも校則上は他の寮の出入りについての制限は一切ない。唯一、男子生徒が、女子寮に入る際は予め、許可や申告が必要というか、流石にしないと不審者として捕まり兼ねないぐらいだからな。
『ただし、イケメンは顔パスですけどね、あの寮。丸藤亮さんとか勿論、たぶんマスターが入っても何も言われてないでしょう』
「いや、流石にそれはないんじゃないか……?」
カイザー先輩だって無断で堂々と入れば捕ま……る姿は想像出来ないが、ダメだろ多分……。
『マスターだって、顔だけはいいんですから大丈夫ですよ』
「お前、本当そういうところだぞ」
『あっ、"お母さん"! リックさん! お久しぶりです!』
ヴェノミナーガさんと他愛もない雑談をしていると、凛とした聞き覚えのある声が聞こえたため、そちらに向くと、白い服装の魔法使い――サイレント・マジシャンがヴェノミナーガさんが浮かんでいるのと同じ高さを、ふよふよと浮いていた。
『あらら? サイレント・マジシャンちゃんじゃないですか? 3ヶ月前に退学した万丈目さんについて行ったのに戻ってきたんですか?』
このサイレント・マジシャンは、5年前にI2ジュニアカップで当たった対戦相手――万丈目準に対し、藤原に憑依中のヴェノミナーガさんが渡したカードであり、見ての通りの精霊である。
そのときなんとなく、ヴェノミナーガさんの魂のひと欠片を複製・転写して生まれた精霊であるため、"性格は私とそっくりなんです!"……とは本人談だが、正直、ギゴバイトと、ゴギガ・ガガギゴぐらいはテキストの設定まで含めて違うレベルなので、鳶が鷹を生んだようにしか感じない。正直、ヴェノミナーガさんと交換して欲しいところだ。
というか、最初に聞いたとき、精霊がそんな適当な生まれ方でいいのか……と思ったが、ヴェノミナーガさんが首を傾げて、当然のような顔で――"私、デュエルモンスターズの神様ですよ?"と言ったため、そう言えばそうだったなと久しぶりに思い出したりしたことも覚えている。
ちなみに、万丈目がデュエルアカデミアにいることは知っており、何度も見掛けたが、結局一度もデュエルは仕掛けず、会話をすることもなかった。
というのもサイレント・マジシャンに"マスターが会いたがっていないので、なるべくデュエルはしないで欲しいんです"と、入学してすぐに頼み込んできたため、真っ先にデュエルを吹っ掛けようとしていた俺だったが、仕方なく止めたのである。実際に生活していると、明らかに万丈目は俺を避けているようであり、結局退学までデュエルも会話もほとんどせずに今に至るのだ。
『ち、違いますよ! えへへ……遂にマスターが、私を見えるようになったんです! それに今回のノース校代表は、マスターなんですよ!』
「なんだって……?」
『あらら、それはまた、随分と面白いことになっていますねぇ……』
すると、ノース校の潜水艦から取り巻きを引き連れ、黒いコートを纏った万丈目が現れる。
そして、こちらが眺めていると、万丈目は俺と目を合わせ、今度は退学前と違い、いつかデュエルリングで対峙したときのような挑戦的な目を向け――。
――斜め上に浮かぶヴェノミナーガさんに目を向け、しばらく目を点にした後で絶叫した。
『あ、あれ……? お母さんのことはちゃんとマスターに伝えておいたんですけど……?』
「なんて?」
『はいっ! 常に活気と生命力に満ち溢れ、生き生きとして艶々な長い髪をし、綺麗で堂々とした素晴らしい女性だと!!』
「君の瞳に映る世界は何もかもがさぞ美しく見えるんだろうね」
『なんでや、サイレント・マジシャンちゃんひとつも間違ったこと言ってないでしょう!?』
そんな会話をしていると、風と駆動音を感じたため、何かと思えば、突然港のヘリポートに"万"というマークが刻まれたヘリコプターが着陸し、テレビ関係の者がわらわらと現れ始める。
目を丸くしつつ静観すると、どうやら万丈目の2人の兄が、万丈目には全く伝えずにテレビで生中継をすることにしたらしい。
「…………なんだが、キナ臭くなってきたな」
『知りもしない大手グループの犬も食わない家族の問題に首を突っ込んでもろくな結果にはなりませんよ?』
それでもデュエルは、デュエリストとデュエリストの魂のぶつかり合いだ。それに水を差す輩がいるのなら……少しぐらい後押ししてもバチは当たらないだろう。
勝ち気で、傲慢な程にプライドが高く、そのわりには傷つき易い、口は悪いが困っている人間を放っておけるほど悪人でもない。一度、デュエルし、その後は遠くから見ているだけだったが、俺の知る万丈目はそのような奴であり、また俺の前に立つのを楽しみにしている相手のひとりなのだから。
◆◇◆◇◆◇
「そこで今日はお前をプロモートし、カードゲーム界のスターにするのが、我らの狙い」
万丈目は、デュエルアカデミア本館の男子更衣室にて、長兄の万丈目長作と、次兄の万丈目正司に囲まれ、万丈目グループが政界、財界、そしてカードゲーム界の覇権を握る野望について聞かされる。
「準、クロノス教諭とかに聞いたが、お前……3ヶ月前にここを退学したそうじゃないか」
「それは……」
万丈目の側にいつもいるサイレント・マジシャンの精霊は今日に限って何故かおらず、それに万丈目は無意識のうちに僅かばかりの心細さを覚えていた。
「いいか準! お前は元々、俺たち兄弟の落ちこぼれ!」
「我が万丈目グループ主催でテレビ中継するからには! 絶対に負けることは許さん!」
その剣幕は相当なもので、執念とまで言えてしまえるほどの並々ならぬものが見られた。
「ここには、俺と兄貴が金にものを言わせたカードが山と入っている。これを使い、最強のデッキを組み立てるのだ! いいな準? 決して、万丈目グループの顔に泥を塗るようなことをするなよ?」
「準!」
「準!」
その言葉に万丈目は答えることが出来ずに重圧を受け、それに答えなければならないことに足が震えていた。
「彼が"落ちこぼれ"ですか……」
すると万丈目にとって、とても聞き覚えがある声が投げ掛けられる。
2人の兄が声の方向を見ると、ロッカールームの扉の前に背が高く、やや筋肉質な好青年、遊城十代や、三沢大地よりも、万丈目にとっては打倒しなければならない最終目標の男――プロランク4位ナイトメア、リック・べネットの姿があった。
(な――!?)
そして、彼を見下ろしつつ守るように神話のゴルゴーンの怪物のような女性モンスターがおり、見ているだけで万丈目は、2人の兄がまるで気にならなくなるほどの威圧感と絶望感を抱いた。
また、その女性モンスターからは、絶えず赤黒と黒紫色をした闇のような力か溢れ出ており、精霊が見えるものならば、誰しもが決して関わってはいけない存在だということを本能的に直感するには余りあり過ぎる風体をしている。
いるだけで、本能的な恐怖と絶望を与えるそのオーラ足るや尋常ではなく、
しかし、そんな悪魔以上の何かを万丈目は、出迎えの時にも目にしているため、そこまでの驚きはなかった。そのため、何に驚いているのかと言えば――。
何故かサイレント・マジシャンがいつも被っている帽子を、怪物が被っており、怪物の隣に自身の精霊であるサイレント・マジシャンがいたからである。
それでも次の瞬間に、サイレント・マジシャンが頭から怪物に食べられてしまうビジョンがありありと目に浮かぶため、万丈目は非常に焦る。
「盗み聞きするような真似になってすみません……私はリック・べネットと申します。ロッカールームに忘れ物をしてしまい、取りに来たところ、ドアの外で貴殿方の声が聞こえたのでどうしたものかと考えていると、気になる言葉が聞こえたので思わず入ってきてしまいました」
「ぷ、プロランク4位のナイトメアか……」
「兄者……私でも知っているよ」
二人の兄は彼に対して驚いた様子である。
(や、やはり見えていないのか……)
「そうか、無断で学舎の一角を借りている私たちにも非があった。すぐに出て行こう」
「いえいえ、別にいつでもいいものだったので、ごゆっくり。ただ、私が少しだけ思ったことは、そこの万丈目くんは、少なくともデュエルに関して落ちこぼれでは決してないということです」
「ほう……それはそれは……」
(え…………?)
万丈目は自身のことなど、歯牙にも掛けていないであろうと無意識に思っていた相手からの予想だにしていない発言に思考が止まった。
「私、これでも何百・何千とデュエルを重ね、デュエリストを見る目だけは持っているつもりです。そして、その中でも彼のデュエルに対する姿勢は目を見張るものがあります。私が、I2ジュニアカップで彼と当たったあの日の試合を今も覚えているほどにはです」
(覚えていたのか……?)
それに万丈目は目を見開いて驚く。何せ今や時の人であるナイトメアにとって、プロになる前の些細な試合のひとつなど、仮に自分ならば一考にすら値しないものであると思っていたからだ。
そして、少しだけ嬉しく思った瞬間――。
『ほー、ふーん……やはり兄似というだけあって2人とも万丈目さんによく似てらっしゃいますねぇ』
「な――!?」
突如として、怪物が樹の幹のように太い蛇の下半身をくねらせて、ずるずると床を伝いながらあっという間に2人の兄を体で囲んでしまった。
2人の兄は、カードゲーム界で、事実上のトップに極めて近い知名度と実力を備えた男である彼に、ほぼプライベートで直接会えたため、コネクションを作ろうとしているようだ。
無論、B級映画の大蛇のような体躯に囲まれながら触れられようとも怪物に対して全く気づく様子はないが、思わず万丈目は声を荒げる。
「に、兄さんたちから離れろ……!!!?」
「な、なんだ準……? 失礼だろ」
「どうしたんだ準……?」
「あっ……ち、違っ……な、なんでもありませんっ!」
万丈目を褒めるナイトメアと話し、万丈目から他の話題に切り替え始めた頃に、突然万丈目が叫んだため、2人の兄は眉間に皺を寄せた。
2人が見えていないことを思い出し、俯いて少し足元を見つめてから万丈目は顔を上げ――。
『へぇ……この私に指図ですか』
「う――ッ!?」
怪物と視線が交じり、蛇に睨まれた蛙のような面持ちでか細い悲鳴を上げた。
そして、怪物はナイトメアと話し始めた2人からは離れたが、万丈目の方に興味を示し、その巨体で彼を囲むと、血のように赤い宝石にも似た輝きを帯びる双眼で見据えて、後数cmのところまで顔を近づけて来る。
さらに髪の代わりとなっている蛇が蠢き、万丈目を頭を避けつつも、触れずになぞるように顔を囲む。
怪物の表情は笑顔のように見えるが、喜とはあらゆる他の表情にも見えるため、万丈目に背筋を凍らせるほどの恐怖を抱かせたであろう。
『なるほど……傲慢なだけでなく、恐れつつもそれでも立ち向かう気概……マスターが認めただけはありますね。私の名前は"ヴェノミナーガ"です。コンゴトモ ヨロシク……』
怪物――ヴェノミナーガは何故か最後だけ片言になり、目を三日月のように歪ませると、髪の代わりの蛇の1匹から出た舌が頬をなぞる。
それだけ終えると、最初にいたナイトメアの背後に戻り、サイレント・マジシャンと何か話し込み始めた。
2人の兄もナイトメアと話しており、極めて平穏な様子で談笑を続ける。
尤も、ナイトメアの背後の上方から2人を何を、考えているのかわからない眼光と表情で眺めるヴェノミナーガをただひとり見ることが出来る万丈目は、気が気ではなかった。
◇◇◇
3分ほど万丈目が居心地の悪い時間を過ごした後。いつの間にか、長兄の万丈目長作は少し浮き立った様子でナイトメアとの会話をしており、何かを渡し、ナイトメアがそれにペンを走らせている。
そのうちに次兄の万丈目正司は、万丈目の元に来ると、小さく耳打ちした。
「まさか、ナイトメアと友人だとは……パイプの方は既にしっかりと作っていたのだな。見直したぞ準。そのまま、今日のデュエルも頼んだぞ」
その後、ナイトメアは走らせていたペンを止め、それから少し万丈目長作と話した後、2人の兄は万丈目に一声掛けてからロッカールームを後にする。
友人というものもナイトメアが語ったものであろうが、そこまでの関係として紹介されるとは微塵も思っていなかったため、困惑するばかりだ。
そのときによく見れば、万丈目長作の手に、どこから持ってきたのかサイン色紙が握られており、ナイトメアのサインと、走り書きの割には妙に上手いホワイト・ホーンズ・ドラゴンの絵が描かれていたが、万丈目は色々なことが重なり過ぎたため、それに気づくことはなかった。
「………………」
「………………」
バタリとロッカールームの扉が閉じ、これで正真正銘人間は万丈目とナイトメアの二人のみとなり、何とも言えない時間が流れる。
そんな静寂を打ち破ったのは、案の定ナイトメアの方であった。
「クククッ……少しは、実兄たちに迫られていた時よりもマシな顔になったじゃないか。というか、ヴェノミナーガさん? 笑いそうになったから会話中にあんなことするのやめてください」
『前向きに検討します』
「そんな事実上の拒否をして全く……」
ナイトメアの顔はこれまでの好青年のものから、どこか人を食ったような笑みに変わり、相変わらずあらゆるものを犯す闇のようなオーラを撒き散らすヴェノミナーガと、まるで友人のように冗談を交えて会話をし始めていた。
そして、すぐにナイトメアは万丈目へと向き直り、口を開く。
「随分、紆余曲折した兄弟愛……いや、家族愛だな。まあ、少なくともあの2人は万丈目のことを考えての行動のようだから、部外者があれこれ言えることもない。話していて、彼らなりに万丈目を愛していることがよくわかった」
「何をしに来た……俺を笑いにでも来たのか……?」
「生憎、俺はデュエル以外で他者を
『デュエル以外で嬲る趣味ないとかウッソだろお前!?』
そう言いながらオーバーリアクションで驚いた様子を見せて吐かれたヴェノミナーガの呟きを無視しつつ、胸ポケットからカードを取り出すと、ロッカールームの至るところから紫色の目玉が現れ、ナイトメアの周囲に集結した。
モンスター・アイ
星1/闇属性/悪魔族/攻 250/守 350
1000ライフポイントを払って発動する。自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚を手札に戻す。
雑魚モンスターと呼べるそれは、ナイトメアにとって文字通り目を任されているらしい。
「――!? 精霊の力か……悪趣味だな」
「よく言われるが、キャラ的に今さらだ。それに精霊を見える人間か、精霊以外にはわかりはしないさ」
そんなことを言いながらナイトメアは椅子に座り、万丈目に背を向けつつ2の兄が持ってきたアタッシュケースを開けると、中身を眺め始めた。
「うわ……"
そして、万丈目を他所に中身の感想まで伸べ始めるナイトメア。その気ままにしか見えない姿を見せつけられ、万丈目は徐々に自分のペースを取り戻していき、沸々と怒りがこみ上げ始める。
「お前には――」
そして、自身に課せられた万丈目グループの男としての責務の重圧により、絶対に勝たねばならないというプレッシャーを受けているにも関わらず、万丈目にとっての夢である場所に立ちながら、ふざけた様子のナイトメアに思わず、思いの丈を吐き出した。
「お前にはわからんだろうな!? 俺の背負っているモノの重さなんて!!」
「………………」
それを聞き、アタッシュケースのカードを捲っていたナイトメアの手が止まる。そして、カードを戻して、アタッシュケースを畳むと再び言葉を吐いた。
「2人の兄、万丈目グループ、勝ち続けなければならない重圧ねぇ……。お前が背負っているモノの重さなんて俺には未来永劫わからないだろう」
「キサマ……!」
「何せ俺は最初からデュエルモンスターズが好きで、デュエルをするのが愉しい、愉しくて堪らない。ドローの1枚にすら快感を覚える。そして、以前のデュエルよりも面白いデュエルをひたすらに求め続けていたら、気づけばこうなっていただけだ」
「楽しい……面白いだと……?」
世界最高クラスのデュエルタクティクスを持つ、ナイトメアともあろうプロデュエリストがデュエルをする理由が、万丈目が忌み嫌った遊城十代とそう変わらなかったことに彼は目を見開く。
「まあ、俺のような考えは流石に極論だな。だが、最初から重圧や、プレッシャーや、使命感などに駆られてデュエルを始めた奴なんて誰も居ない筈だ。カードゲームならば純粋な夢、情熱、楽しみ……そういった感情が必ずどこかにあった筈だろう。それだけはどんなデュエリストでも忘れてはならないと俺は思う」
「…………何が言いたい?」
万丈目がそう言うと、ナイトメアは小さく笑い、年相応の朗らかな表情になった。
「少なくとも自分のためだけにデュエルをしている俺より、自分とそれ以外の何かのためにデュエルが出来る万丈目の方が、俺よりもよっぽど上等なデュエリストなんじゃないかと思うぞ」
「――――――ッ!?」
「俺はマナーを守って楽しくデュエルが出来ればそれでいいからな。まあ、流石に世界を滅ぼしてもデュエルが出来ればいいとは思わないけどさ」
そう言ってくつくつと笑うナイトメア。万丈目はわざわざそんなことをいいに来たのかと思いつつ、"彼なりに万丈目を激励するためだけに来た"ことに今更ながら気付き、気恥ずかしさで少しだけ顔を赤くした。
しかし、素直ではない万丈目はそれを口には出さずに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるばかりだった。
「結局、己の心の痛みなんて、それこそ自分自身しかわからない。というか、そもそもお前は慰めやら、共感やらをされたいとも思っていないだろう? だったらこれだけ聞くぞ?」
ナイトメアは大きく手振りをして自身を示し、次に万丈目を指し示す。
「俺は俺――リック・べネットだ。さて、お前は誰だ?」
その答えは言うまでもなく、ずっと昔から決まりきっており、万丈目はナイトメアを手で指し、魂から言葉を絞り出した。
「俺は――万丈目さんだッ! 待っていろよナイトメア! 十代の次は必ず貴様を倒す!」
その宣言に対し、ナイトメアは心底嬉しそうに笑みを強めるとただ一言――"楽しみにしている"とだけ呟いて、ヴェノミナーガを同伴し、この場から立ち去って行った。
気がつけば万丈目から今日のデュエルへの恐れや震えは消え、ただ真っ直ぐに上だけを見据えていた。
◇◆◇◆◇◆
「お前たち! この俺を覚えているかァ!」
ノース校とのデュエルの直前。万丈目と十代は既にデュエルリングで対峙しており、開始前に万丈目がデュエルアカデミア本校の生徒に対して啖呵を切っている。
『雑草みたいな子ですよね彼』
「言葉を慎みなさい」
ヴェノミナーガさんを嗜めつつ、俺は大きな溜め息を吐いて彼らのやり取りを眺めた。
「この学園で俺が消えて、清々したと思っている奴! 俺の退学を自業自得だとほざいた奴!」
『今考えていること当ててあげましょうか?』
「…………なんですか?」
「知らぬなら言って聞かせるぜ……その耳かっぽじってよく聞くがいい! 地獄の底から不死鳥の如く復活してきた俺の名は――ッ!」
『十代くんと三沢くんとついでに校長をデュエルでぶっ飛ばしてでも、学校の代表になればよかったとか思っているでしょう?』
ははははは、やだなぁ……鮫島校長の前に天上院と、藤原と、ツァンと、天音ちゃんをデュエルで倒してから乗り込みますよ。
「一っ! 十っ!」
『百っ! 千っ!』
「万丈目サンダー!!」
『うぉぉぉ!! 万丈目ッサンダァァァァ!!!!』
そのとき、ノース校の生徒全員が手を掲げて叫び、それによって空気の振動を感じるほどだった。この短期間で、どれほど万丈目がノース校で慕われていたのかがよく分かる。
「俺はッ!?」
『サンダァァァァ!!!!』
『マスター、せーの――』
おう――。
「万丈目!!」
『サンダァァァァ!!!!』
『サンダァァァァ!!』
「サンダァァァァ!!」
「うわっ!? リックさんアニキじゃなくて、万丈目くんを応援してるんスか!?」
「うん……? もちろん、どっちもだよ」
ああ、やっぱりいいねぇ……真のデュエルだとか、闇のデュエルだとかなしに……デュエルモンスターズって言うのは見る方もやる方も楽しくなくちゃな。
こうして、遂にノース校との代表デュエルが幕を開けたのだった。
代表デュエル(デュエル本編があるとは言っていない)
~QAコーナー~
Q:お前、サンダー好きだろ?
A:うん、大好きSA!
Q:なんで今さらヴェノミナーガさんがこんなに邪悪なオーラを纏っているの? 急にイメチェン?
A:
○ヴェノミナーガさんのを見たとき声を上げた人の様子
・コブラ(お、お前は……いったい?)
・ペガサス・J・クロフォード(アンビリーバボー! ナイトメーアー! モンスター!)
・遊城十代(絶叫)
○他のヴェノミナーガさんを見た精霊が見える者の性格
・茂木もけ夫(何事にも物怖じしない超マイペース)
・藤原雪乃(唯我独尊スリル狂)
・獏良天音(メンヘラストーカー)
・リック・べネット(暗黒面にカンストしているらしい)
○万丈目の性格
・自尊心は極めて高いが、相対的に常識人で、元々精霊には懐疑的。