幼馴染みと甘い恋。
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噛み合わないmgrくんとwtnbさん。
dt様にプロローグとエピローグをやらせたかっただけのお話。
実在する人物、団体とは全く関係ありません。
たまたま同じ名前の人がいてもそれはまったく赤の他人ですよろしくお願いします。
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「目黒、好きな奴がいるらしいんだよね」
そう呟きながら窓の外を眺める幼馴染みの目は、一体何を映しているのだろう。
■
初めて違和感に気が付いたのはちょうど一年程前。
メンバー全員での仕事中、たまたま目に付く位置に翔太がいた。
普段はメンバー全員を満遍なく見ているつもりだけど、その時は目線の先にいる翔太をなんとなく長い時間観察してしまっていたような気がする。理由なんてない。本当にたまたま。
そうしたら自然と気が付いてしまった。
翔太の視線が、ある特定の人物に集中していることに。
その『特定の人物』がよく発言するタイプだったり、あるいはよく動き回ったりして周囲の注目を集めるタイプだったのなら、頻繁に見ていたとしてもさして違和感はなかったのだろうけど。
残念ながらその人物は前述した特徴を一切持っていなかった。
むしろ、発言数は少なく、動きも控えめ。
ワンテンポ遅れ気味に大笑いしたり、時々大袈裟なまでに驚きを表現することはあるものの、ほとんど聞き役に徹して発言者の方をじっと見つめるタイプの、どちらかといえば静かな男。
そんな男に向けて、何度も何度も、恐らく無意識に送っているであろうその視線から焼ける程の熱さを感じて少し驚いた。
見られている本人が鈍感な人間じゃなかったら、もうとっくにすべてが筒抜けになっているんじゃないだろうか。
そういう点で、翔太は目黒蓮という男の鈍感さに感謝しなければいけない。
そしてあの日、たまたま、翔太が俺以外からはあまり注目されない位置にいたことに関しては、神様……あるいは席順を決めたスタッフの方々に感謝するべきだと思う。
……前置きが長くなってしまって申し訳ない。
つまり何が言いたいのかというと、
約一年前のその日、俺は、自分の幼馴染みが同じグループのメンバーに片思いしていると気付いてしまったのだ。
■
そして、現在。
「珍しいね。翔太が俺に目黒の話するの」
撮影を行っていた建物の一角。
大きな窓ガラスから差し込む光が暖かい休憩所の端っこで、パイナップルジュースを一口飲んでから向かいの席に座る幼馴染み兼メンバーへ微笑みかけた。
窓の外を見ていた顔が一瞬こちらを向いたかと思うと、バツが悪そうな表情をしてまたすぐにふいっと横を向く。
基本、翔太が俺に恋愛話をすることはない。
俺は彼の片思いに気付いてしまったし、彼もまた、俺が気付いたことにわりとすぐ気付いてしまった。
だけど、お互いあえてその事については話さないまま今日まで過ごしてきている。
稀に。本当にごく稀にこうして目黒のことを話すことはあったけれど、それは決して相談などの類ではなく、ただの独り言に近いものだった。
今回に関しても相談をするつもりで話したわけではないのだろう。
どこかで吐き出さずにはいられないようなどろどろとした感情を胸に抱えていて、自分の恋愛事情について少なからず把握している男が目の前にいて……。そんな状況に、ついぽろっと口から零れてしまった。
そんなところだろう。
わかっているのにわざわざこんな言い方をしてしまうのは、ひとえに幼馴染みの反応が面白いからだ。
「好きな人がいるって、目黒がそう言ってたの?」
あえて翔太の方は見ず、ジュースの入ったグラスに視線を落としながら尋ねた。
そうすると、少しだけ間を置いてからぽつりぽつりと話し出す。
「いや……なんか、ラウが……。さっきちょっとだけラウと二人だった時に……そういえば、つい最近めめと恋バナしたんだけどぉ、みたいなこと……いきなり話し出して……」
「うん」
「……めめ、片思い中の人に猛アピールしてるのに全然相手にされなくて毎日が失恋気分なんだって、ちょー可哀想じゃない?しょっぴーどう思う?とか、なんとか言って……」
「うん」
「……いや知らんし、としか返せなかったけど……そっか、目黒好きなやつがいたんだなぁって…………」
「なるほどね。」
話しながらだんだん落ち込んでいってしまったのか、顔は俯きがちだし、声のトーンが沈んでる。
それも仕方が無いことだろう。
誰だって、片思い中の相手に好きな人がいるだなんて話は知りたくないし、ましてやそれについて意見を求められたくなんてない。できれば嘘だと思いたいくらいだろう。
だけど悲しいかな、情報源が確か過ぎる。
本人から直接聞いたという仲間の発言は、もはや本人から直接聞かされるのと大差無い。
そして確かに、翔太の想い人には好きな相手がいる。
これはラウールだけじゃない、俺も知っている事実だ。
「それで、翔太はどうするの?」
「…………どうするって」
「目黒のこと、諦めるの?」
ズバリ聞けば、目を見開いたまま固まってしまう。
ここまで直接的な問い掛けをされるとは予想もしてなかったから驚いているのだろう。
翔太が目黒のことを好きだと知ってからも、俺から翔太に目黒の話題を振ったりだとか、恋の進展具合はどう?なんて尋ねたりすることは一切してこなかったから。きっと、俺は適当に相槌を打つだけに留めると思っていたはず。
大きく見開いた目の中、眼球が左右に行ったり来たりしているのは何か言葉を探しているからか。
「……諦めるも何も、最初から期待とかしてないし」
見開いていた目をゆっくり伏せながら、今度はどこか拗ねたように口を尖らせる。
表情がコロコロ変わる姿はまるで幼い子供のようで、見ていて微笑ましい。正真正銘本当の子供だった頃よりも今の翔太の方が何倍も幼く見えるのは俺の気のせいだろうか。
こんなことを言ったら機嫌を損ねるどころの話じゃなくなってしまうから、絶対口には出さないけれど。
強がってみせる割には精神的にそこまで強くない幼馴染みをあまり落ち込ませ過ぎても良くないなと思い、翔太、と呼びかけて視線がこちらに向くのを待ってから俺なりの助言をする。
「翔太は、もう少し自惚れてみてもいいと思うけどね」
こういったことは第三者があまり多くを語るのも違うような気がするし、そして何より、目黒を好きだという翔太の背中を勢い良く押してやれるだけの勇気が、今の俺にはまだなくて。
俺は俺なりの言葉で伝えてみる。
察しの良い相手なら、これはもう答えにも近い助言なんだろうけれど……
「……何の話?」
目の前の幼馴染みは、その想い人に負けず劣らず鈍感だから笑ってしまう。
これはラウールが動きたくなる気持ちもわからなくないな、なんて心の中で頷きながら、少し汗をかいたグラスから冷たいパイナップルジュースを喉へ流し込む。
甘いなぁ、と零した声は幼馴染みには届かない小ささだった。