プレスリリース・お知らせ

衆議院法務委員会における当会会長・柳瀬の意見陳述について

2021年04月22日  お知らせ
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平素よりAAR Japan[難民を助ける会]の活動にご理解・ご支援を賜り、ありがとうございます。

2021年4月21日の衆議院法務委員会における「出入国管理及び難民認定法」(入管法)改正をめぐる審議で、当会会長の柳瀬房子が以下の通り、参考人として意見陳述いたしました。柳瀬の発言は、日本における難民申請者の迅速な保護を主旨としたものでしたが、様々なご意見をいただいていることから、以下に全文を掲載いたします。
本意見陳述は、柳瀬個人が「難民審査参与員」また「収容・送還に関する専門部会」の委員としての経験をもとに述べたもので、難民を助ける会で機関決定したものではないことを申し添えます。

当会は海外において、過酷な境遇にある難民・国内避難民一人ひとりの尊厳を守るための支援活動を今後も続けてまいります。また、日本国内における難民支援は、当会の姉妹団体である社会福祉法人「さぽうと21」 別ウィンドウで開きます に事業を引き継ぎ、現在も支援活動に取り組んでおります。

案件:出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(204国会閣36)

衆議院法案委員会 参考人意見陳述(2021年4月21日)

「難民を助ける会」の柳瀬房子でございます。難民審査参与員も務めております。また、「収容・送還に関する専門部会」の委員でもありました。本日は、法務委員会での参考人としてお招きいただき貴重な機会をありがとうございます。
   
 初めに、私が会長の任にある「難民を助ける会」について、お話し致します。この会は、1979年に、難民支援を目的に作られたもので、政治、宗教、思想に偏らない人道的見地に立った市民団体です。
インドシナ難民の定住や教育の支援からスタートし、現在41年目の活動になります。私自身、設立準備の段階から関わり、責任ある立場で、会の企画・運営に携わり、また紛争や災害の現場に赴いて方針を出すなど、してまいりました。

現在は世界の紛争や災害における緊急支援をはじめ、対人地雷や感染症や水対策、障がい者の自立支援などの活動を継続しております。
例えばシリア難民・避難民が生活しているトルコ、またロヒンギャ難民の避難先であるバングラデシュや、ウガンダやケニアなどをはじめ、内外15ヵ国に拠点を置き、個人個人からのご寄付をはじめ、日本政府、国連や国際機関その他の内外の助成機関からの資金、年間約20億円の予算で活動しています。

なお、難民条約、これはご承知のように、1951年の難民の地位に関する条約と、67年の難民の地位に関する議定書のことですが、条約ができてから約30年もの間、日本はこの条約に加盟していませんでした。1979年、会の創立当時のことですが、私どもは政府に対して早急な加入の働きかけをいたしました。

それでは、先ず日本の難民認定の手続きにつきましてお話いたします。ある外国人が、難民認定申請をした場合に、まず、入管の難民調査官が、事情を調査し、認定をするかどうかを判断します。ここまでを「一次審」と呼びます。

この「一次審」で、難民認定をしないという判断が出た場合、申請者は、不服申立てを行うことができます。この不服申し立てを「審査請求」といいます。「審査請求」に難民の認定に関する意見を提出するのが参与員の役割です。

つまり専門的知識や豊かな経験を持つ第三者として、意見を述べます。
参与員は、判事や検事、弁護士、外交官、国連や難民支援NGOの役員、また、地域研究・国際法・国際政治などを専門とする学者、そしてジャーナリストなどから成っています。法務大臣が任命します。3人1組でこれまでの案件の記録を検討し、必要があれば、証拠を求め、また、申請者本人の意見を聴き、質問をし、その意見を踏まえ「審査請求」に対する判断がされます。「審査請求」から法務大臣の判断までを「不服審査」と呼びます。
   
それでは、私が難民審査参与員として経験したことについてお話しします。
参与員制度が始まったのは2005年からですので、私は既に約17年、参与員の任にあります。その間に担当した案件は2000件以上になりますが、一次審の難民調査官による結論を覆し、難民と認定すべきと判断したのは6件です。また難民とは認められないものの、人道上の配慮が必要と考え在留特別許可を出すべきとの意見を提出したのは12件あります。

みなさま如何ですか? 2000人審査して在留を認めたのは18人という数字を聴いて、とっても少ないとお感じになるのではないでしょうか?実は、参与員になるまでは、入管はどのようにして難民認定を行っているのか、詳しく知りませんでした。
「入管は、最初のインタビューを簡単に済ませてしまっているのではないか。とか、難民と認定すべき人をわざと認定しなかったのではないか」とさえ思っていました。
「日本政府はやはり難民に冷たい」のではないかと考えていました。ですから私は、申請者1人1人から丁寧に話を聴き、難民の蓋然性、「難民らしさ」ということですね、何とか難民としての蓋然性のある人を必ず見つけて救いたい」という思いで、参与員の職務に当たってまいりました。しかし、難民認定すべきと意見書を提出できたのは、先ほど申し上げたわずかな数にとどまっているのです。
   
まず、入管が行う一次の審査においてですが、調査官は、申請者それぞれに時間をかけて、しっかり話を聴き、その膨大な内容をしっかり調書にしていました。
数日にわたり話を聴いている案件も、少なからずあります。またインタビューをするためには通訳の方が必要です。その調書も、通訳の方を介して申請人に読み聞かせ、内容に間違いないか確認してサインをもらっています。時間と費用をかけた、丁寧な審査という印象を持っております。

実際の申請者
さて、私どもの参与員による審理ですが、改めて第三者として、申請者の意見を徹底的に聞き直します。しかし、実際には、入管が認定しなかった申請者の中から、あらたに難民だと思える人にはほとんど出会えないのが実態です。その人たちは、概ね以下の5つに分類できるかと思います。

まず一つ目「参与員の前で入管調査官の前に言った主張と、全く違う主張を行う申請者」についてです。調査官の審査では、迫害を受けた時期や場所、その状況について、ある特定の時期や地名を明確に主張していましたが、参与員の前では、全く違う時期と場所を主張している、そんなケースがしばしば見られます。しかも、パスポートを確認しますと既に日本に来ていたのに、本国で迫害されたと時期的に矛盾している場合も少なくありません。

また、迫害の主体は、母国や警察だと主張していたのに、参与員の審査では、その主体は、元の仲間だとか、地元の暴力団であるとか、選挙で勝った候補者の側だと供述が変わった人もいます。
私は、「入管の調査官の前では、緊張して本当の話ができなかったのかもしれないとか、何か言いたくない事情があったのかもしれない」と考え、違う主張になった理由を訊いてはみますが、結局は参与員の前でも難民と思えるような話はしてもらえませんでした。

次に「他の人と全く同じ主張をする申請者」です。
通訳の方の手配の都合で、同じ日に同じ国籍の申請者の審理を入れることがあります。一人目が例えば「同性愛者で、母国に戻ると迫害される」という主張をしており、「それは迫害にあたるかも」と考えていたところ、 二人目の申請者も、細部まで全く同じ主張をするということがあります。
また、提出された申請書は、コピペと思われる文書が、いくつも続くケースがあります。
宗教上の迫害を主張するケースでも、同様な例がよくあるのです。「こういう主張をすれば、認定されるはずだ」というブローカーの誤解が申請者の間に出回っているということだと思わざるを得ません。

3つ目の「本人の主張が真実なら当然説明できることが 説明できない申請者」です。
例えば、「迫害を受け、母国から逃げ出し、他の国に逃げ込んだ」と主張する申請者に対して、辿り着くまでの時間や、通過した都市や地名など、覚えている範囲でよいので、と尋ねたところ、明らかに何日もかかるはずの距離を「数時間で着きました」と答えたり、その大都市や町を通過しなければたどり着けない地名の一つも、こたえられない人は、多々おります。

また、「母国から逃げて、難民キャンプに辿り着いた。」という主張をしている申請者がいたのですが、その難民キャンプには、私どもの事務所もあり、申請者がいたと主張している時期に私も行ったことがある場所で、広大な敷地にあり、難民がひしめき合うような状況にはないにもかかわらず、「狭場所に多くの難民がごちゃごちゃいて地獄のようでした。」と答えられたこともありました。
   
また、キリスト教に改宗し、熱心に教会に通っているというので、例えば「クリスマスはどのような日ですか?」と問いますと、「サンタクロースの誕生日です」とか、「イースターは?」と、問いますと、「えーっと、イースターと、ウエスターがあり・・・」などと返答されますと、本当に改宗を認めるべきか迷います。

そして4番目は「難民条約上の、迫害とは全く異なる内容で、難民であると主張する申請者」です。よくある主張としては、「借金取りに殺される」という主張や、「不倫して、不倫相手の夫や妻、また親から殺される」「隣の家との敷地争い」「相続に関する兄弟の争い」という主張は、大変多くみられます。また、単に「日本で働きたいから難民申請した。この申請書を提出することが就労の手続きと聞いていたので、自分は、難民ではありません」と主張するケースさえもしばしばみられます。

そして最後は「合理的な理由がなく、難民認定申請を繰り返している申請者」です。
その主張の内容は、難民とは認定されず、参与員も認定できないと判断し、再度処分を受けた後、何も事情が変わっていないのに、同様の主張で新たに申請を繰り返して、何年も日本に残り続けるケースもございます。

参与員として、入管が見落している難民を探して、認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません。先ほど、難民が6件、在留特別許可が12件と申しましたが、この中に複数回の申請者はおりませんでした。   
私だけではなく、他の参与員の方も(現在100名近く居られますが)、難民と認定できたという申請者は、ほとんどいないのが現状です。

日本には、航空機か船舶で来日するしか術はありません。
また観光、留学、技能実習などの正規ビザで入ってきた後に、本来の目的から外れた段階で難民申請をするケースや、また中には、不法滞在や犯罪で、退去強制手続に入ってから難民申請をするケースも多く、その中から真の難民を見出すのに時間がかかってしまいます。
また、UNHCRは、世界各地の難民の多くは、女性や子供が多いという統計を出していますが、我が国で難民申請する人たちの多くは青年・壮年の男性であることも事実です。
従って難民の認定率が低いという理由は、分母である申請者の中に難民がほとんどいないからだということをみなさまに是非、理解していただきたいと思っております。

私が参与員になったばかりの2000年代後半の頃は、申請者は、300人くらいでした。しかし、申請者に対して一律に就労可能な在留資格を認める運用を始めた2010年頃からは、申請者がぐっと増えました。
これまで述べましたように申請者の中に難民はほとんど見いだせないのですが、それでも、入管の調査官は、1件1件に時間をかけ丁寧に審査をしています。
そのため、審査に大変時間がかかってしまっています。待つ時間が長ければ長いほど、申請者は認定されるかもと期待を持ってしまうのは当然のことと思います。

改正法案について
さて、今回の改正法案では、難民認定申請中の送還を停止するという、いわゆる送還停止効に例外を設け、先ずは、3回目以降の難民等の認定申請者 また外国人テロリスト等、暴力主義的破壊活動者、そして3年以上の実刑判決を受けた者、は難民等の認定申請中であっても送還ができることとしています。
私は、この「送還停止効」の例外を設けることは、必要なことだと考えています。

以上、今回の法改正により、送還されるべき人が迅速に送還できるようになれば、審査期間の短縮にもつながり、真の難民の一刻も早い保護が可能になると思います。
改正法案が成立しましたら、運用面でも迅速な審査を行うための工夫をしていただければ、難民認定制度は、よりよいものとなっていくと思いますので、それを期待しております。
私は今後も、丁寧な審理を続け、難民の蓋然性が認められる方を絶対に見逃さないという思いで、難民審査参与員の職務を行ってまいりたいと考えています。

御清聴ありがとうございました。

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