栗村修の“輪”生相談<164>16歳男性「夜の営みは競技に影響を与えますか?」
16歳高校生男子です。下ネタではなく純粋な質問です。射精(夜の営み、自慰)は自転車競技、スポーツ全般に影響を与えるということはありますか?
自分はレースなどのため1年以上しなかった時期があるのですが、1カ月ぐらいは力が入りやすい、闘争心など影響を実感できることがあったのですが、そこからは実感できることはありませんでした。
ワールドツアー選手、プロ選手、実業団で活躍する選手などの、そこのところの事情を教えてください。
(16歳男性)
このご質問を拝見したとき、僕は5秒くらい固まってしまいました。
一瞬、見なかったことにして別のご質問に取り掛かろうとも思ってしまったのですが、いやいや、こういうお題にも果敢に挑んできたのがこの「輪生相談」だと思いなおし、答える決断をした次第です。とくに、16歳の多感な時期の少年が勇気を振り絞って質問してくれたんですから、今回は冗談なしで真面目にお答えします。真面目に。
まず第一に申し上げたいのは、この質問の内容は別に新しくはなく、僕の現役時代から諸説が飛び交っていたということです。もちろん男性選手限定でしょうけれど、みんな気にしていたんですね。
僕も色々な話を聞きました。ある選手は、レース前日に射精、というと生々しいので仮にオールアウトと呼びますが、オールアウト「寸前」まで持っていき、そこで止めるという行為をしていたそうです。寸止めですね。本人曰く、そうすると翌日のレースで普段以上に踏めるというのですが、まあ真似する必要はないでしょう。
このテーマについては大っぴらに語れない以上、経験則に基づく不確かな話しかないわけです。ですから質問者さんには申し訳ないんですが、僕のお答えにも医学・スポーツ科学的なエビデンスはありません。ごめんなさいね。チーム イネオスあたりには秘密の管理法があるのかもしれませんが、まさか今度、さいたまにやってくるベルナルに聞くわけにもいきませんしね…。
先に僕の常識に基づいて結論を申し上げると、オールアウトが悪影響を及ぼすことはないんじゃないかと思います。オールアウトしたくなるのは男性としてとても自然なことだからです。特に男性ホルモンが活性化しているアスリートなら、なおさらじゃないでしょうか。
しかしこれだけで質問者さんを安心させることはできないと思うので、もう少ししっかり考えてみます。もしオールアウトが悪影響を及ぼすとしたら、どういう形が考えられるか?
オールアウトに至る道は大きく分けて2つありますよね。ソロか、タンデムかです。
ではソロでの営みに、アスリートとしてどのようなリスクがあるでしょうか。
普通の方がソロでオールアウトを目指す場合、負担がかかるのは片腕です(特殊なフォームについては考慮しません)。したがいまして、ケイデンスを上げ過ぎた場合は片腕だけが疲労し、翌日のレースでブラケットが片方だけ握りにくくなったりスプリントのバランスが崩れたりするリスクが考えられなくもないですが、あまり現実的じゃありません。最中にお母さんに見つかってしまい心的ダメージを負うなどの落車事故も考えられますが、それはなんとかしてください。
というわけで、むしろ気持ちが落ち着いてよく眠れるとか、メリットの方が多いのではないでしょうか。問題はタンデムです。
タンデムの場合、レースと同じで相手がいますから、運動強度やレース展開を自由にコントロールできない恐れがあります。あまり強度を上げすぎると翌日のレースに影響を及ぼす可能性もゼロじゃない気もしますが、相手がよほどの強豪選手でなければ大丈夫でしょう。
ちょっと高度なお答えになるかもしれませんが、他のリスクとしては、フォームですね。自転車競技は左右対称のスポーツですから、バランスが崩れるような行為はできれば避けたい。したがって夜のレースでも、ひねり・ねじり、あるいは横向きとかアシンメトリーなフォームはやめたほうがいいかもしれません。あ、それから学校で勉強されたと思いますが、様々なリスクを回避するために、「ヘルメット」は必ず、正しい方法で着用してくださいね。
しかし僕がちょっと気になるのは、質問者さんが1年以上もしなかった時期があるという点です。ここまで我慢できることは尊敬しますが、率直に言って、あまり心身によくない気がするんですよ。僕が若い頃は「ソロでし過ぎると赤玉が出てくるぞ」と先輩から脅されたりもしましたが、現在はむしろ定期的に射精をした方が身体に良いという見解が主流となっています。質問者さんくらいの歳ごろだと、そういう行為を避けることがカッコいい、みたいな風潮が生じかねないですが、そんなことはないですからね。トレーニングと同じで、無理は禁物です。
ところで、この輪生相談に定期的に「下」に関する思いつめた質問が寄せられるのはなぜでしょうか(アクセス数はかなり跳ね上がる様です…)。僕がその道の専門家だと思われているのでしょうか。若い方の悩み解消のお手伝いをできるのは嬉しいのですが…。
一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。
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