インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
拙い本作ではありますが、今年も宜しくお願い致します。
そして“公式外伝”ISABのキャライラストで色々ズキューンと胸撃たれてしまった作者です。
節操無しと笑いたければ笑うがいい!!
でも後悔はしていません。
IS学園臨海学校、2日目。朝の8時過ぎ。
日本代表候補生である更識簪は、打鉄弐式を展開して海上に佇んでいた。
今回は試作装備の試験が目的である為、増加装甲も武装も全て取り外され、変わりに、背部に直径1mほどの円形状のパーツが取り付けられている。所々に見えるデータ送信用のアンテナが、正規品には無い、如何にも試作品という雰囲気を醸し出していた。
『かんちゃん。準備は良い?』
精神集中していた簪に、装備試験オペレーター、
『うん。良いよ』
『それなら、いってみよ~』
『じゃあ、始めるね』
するとイメージインターフェースが使用者のイメージを拾い上げ、周囲の水分子に対して干渉を開始。程なくして打鉄弐式の正面に、サッカーボールサイズの水球が形成される。
だが水球を維持できた時間は、そう長くなかった。すぐに見えない器が割れてしまったかのように、重力に引かれて落ちていってしまったのだ。
『本音ちゃん。何秒だった?』
『ん~とね、8秒』
『パラメーターを変更して、もう一度やるね』
『うん』
簪が仮想コンソールで装備のパラメーターを変更していくと、その情報は即座に本音が使用しているオペレート用PCへと送信され、画面にある機体情報が次々と更新されていく。
そしてこの光景を、もし何も知らない第三者が見たなら、本音が何故ここにいるのかを疑問に思っただろう。
本来の一般的な役割分担で言えば、パイロットが感じた事を、メカニックが機体パラメーターを変更する事で反映していく、というのが正しい形なのだ。しかし簪は、打鉄弐式の開発を行っていただけあって、パイロット役もメカニック役もこなせてしまう。
つまり本音が此処にいる意味が無い。
しかしそれは、
彼女は、のほほーーんとした雰囲気を醸し出していて文系少女に見えなくもないが、メカニックとしての腕は良いのだ。
故に――――――。
『あ、かんちゃん。今のパラメーター、もう少し負荷をかけても大丈夫と思う』
『そう。なら………このくらい?』
『うん』
『なら、この項目は?』
『そこは、もうちょっと負荷を下げた方が良いかな』
『ならこのくらいで』
『うん』
簪に対して、こういう指摘も出来るのだ。
しかし如何にパラメーターを弄ろうと、試作装備は試作装備。結果が出るとは限らない。
10回、20回、30回と修正し、何度繰り返しても、水に対する干渉力が強くならない。
生成される水球はサッカーボール程度。これでは当初望まれていた、“水分子を制御する事による限定的な気象コントロール”など、望めるはずもない。
『ん~、何がいけないのかな?』
『かんちゃん。煮詰まっても良い事無いから、少し休もうよ』
『でも、もう少しやってから』
『もうお昼過ぎだよ。疲れて当然。休憩しようよ』
『え、もうそんな時間なの? 分かった。今そっちに戻るね』
そうして簪が浜辺に戻り、本音と持ってきたお弁当を囲んでいると、近づいてくる人影があった。
「あ、しょーちんだ」
「あら、晶さんどうしたんですか?」
「装備試験、どうなっているのかと思ってね。見に来た」
この行動は、本来ならルール違反だ。
何故なら専用機持ちが試験を行っている装備は、企業の最新技術が詰め込まれているだけあって、機密レベルが高い。このため余程の緊急事態を除き、近づいてはいけない決まりがあった。これは生徒達に繰り返し言い含められており、場合によってはスパイ容疑の適用すらありえる、とまで指導していた。
しかし、この男の場合は別だった。
遠ざけるよりも近づいてもらった方が、遥かにメリットが多い。その為なら機密情報の1つや2つ程度、必要経費として割り切れる。各国や企業は、そう考えていた。
確かに、考え方の1つとしてはありだろう。
だがある程度の関係構築に成功している日本は、もう一歩進んだ考えを持った。
カラードに『試作装備試験の補助』という形で依頼を出す事で、確実にお近づきになれるように仕組んできたのだ。
なお表に出ている依頼人は日本政府の代理人だが、実際の発案者は更識楯無であり、実質的に
妹思いのお姉ちゃんからの、強力なバックアップだった。
加えて言うと、簪が臨海学校の班編成の際、素直に彼と別グループになったのは、この事を知っていたからであった。
最近少し姉に似てきたのか、黒いところは黒いのである。
閑話休題。
「全然ですね。水への干渉力が強くならなくて、困っているところです」
彼が来てくれたのは嬉しいが、簪は少しばかり疲れた表情で答えた。
今試験している装備は、イメージインターフェースを用いた思考制御型だ。まして試作装備となれば、発動に多大な集中力を必要とする。何時間も使っていれば、疲労して当然だった。
そして返答を聞いた晶は、開発初期にありがちな問題点について尋ねてみた。
「なるほど。稼働するにあたって、基礎データが足りないのかな?」
「試作品なのでそれもあると思いますけど、どう考えても干渉力が、理論値より低いんです。だけど原因が分からなくって………」
「アタリも付けられないくらいに?」
「装備のエネルギー伝達系や分子運動の演算系は色々弄りましたけど、改善なし。手を付けてないのはイメージインターフェースくらいですね」
「そこか………。仮にソコだったとしたら、ちょっと辛いな」
晶は事前に提供された情報を思い出しながら答えた。
今試験されている装備は、“水分子を制御する事によって限定的な気象コントロールを行う事”を目的としたものだ。
そしてこの装備は能力の発動を、ほぼ全面的にイメージインターフェースに依存している。
ここでイメージインターフェースとは何か、という事になるのだが、簡単に言えばパイロットが持つイメージを、機体へと伝えるものだ。これの完成度が、発動する能力に大きく影響する。
何故なら人間のイメージというのは案外適当なもので、基本的に強いイメージを持つ部分だけが明確にイメージされ、他の部分は“このくらい”という適当さで補完されたものだからだ。無論、人によって差はあるし、訓練によって明確になる部分を拡大する事も出来るだろう。だが余程突出した思考能力や記憶能力が無い限り、大多数の人間にこれは当てはまる。
つまりイメージインターフェースの仕事を正確に言うと、パイロットのイメージを補完して、機体側へと伝える事なのだ。従ってここの完成度が低いという事は、機体側に伝わるパイロットのイメージ情報が大きく損なわれる事と同義であり、明確なイメージが提供されなかった機体側は、能力を十全に発揮出来ないという事になる。
そして器械が“このくらい”というのを認識する為には、ある程度のデータ蓄積が必要であった。
また現在構築されているイメージインターフェースが、簪のイメージを確実に拾い切れているとも限らない。
試作装備だけに、手探りな部分が大きいのだ。
「はい。でもこの場でイメージインターフェースに手を入れるのは、流石に………」
「うん。得策じゃないと思う」
簪の言葉に、晶が肯きながら答える。
イメージインターフェースを疑うのは、試作装備の試験を行う以上は当然の事だ。だがそこに手を入れるという事は、システムの根幹に手を入れるの同じ。仮に行うなら、設備の整っている学園に戻ってからの方が効率的だった。
「ん~、どうしましょう?」
「そうだな………」
晶は暫し考え、1つ確認をとった。
「この装備、臨海学校期間中に仕上げなきゃならないとか、そういう事はないんだよね?」
「うん。あくまで試作装備だから、ある程度のデータが揃えば良いと思う。でもこのレベルじゃ、流石に………」
ノートPCに表示されている試作装備の起動率は、僅かに15%であった。
「だよなぁ。まぁ開発に近道は無いし、地道にやれる事をやっていこうか」
「どこから行きますか?」
「まずは原因の大まかな絞り込みをしよう。パイロットを変えて動かして、簪の時と差異が無いかを確認する。これでもし大きく差異が出るようなら、パイロットとイメージインターフェースの相性問題を考えるべきかな」
「確かに、その可能性もありますね」
「俺としては本音さんにお願いしようと思ってるんだけど、大丈夫?」
この時晶が心配したのは、簪の打鉄弐式に対する愛着だった。専用機を他人に扱われる事に、抵抗感を覚えるパイロットというのは、確かにいるのだ。が、2人の間では無用の心配だったらしい。
「本音ちゃんなら良いですよ。だってこの機体のメンテ、本音ちゃんもやってくれてるんですから。――――――という訳で、お願いしても良い?」
「いいよ~」
のほほんさんらしい、お気楽な返事が返ってくる。
すると簪は、打鉄弐式の設定を変更し始めた。専用機は特定個人での運用を前提としているため、他人が扱う場合は、他人用の設定を組み込んでやる必要があるのだ。
そうして準備か整うと、のほほんさんは打鉄弐式に乗り込み、ゆっくりと100メートルほど海上へ進み出た。
『本音ちゃん。準備は良い? 何か違和感は感じない?』
オペレーターとなった簪が尋ねる。
PC上の機体ステータスはオールグリーンだが、数値に出ない僅かな違和感というのは、確実に存在するのだ。
だからどれほど自己診断プログラムが進化しても、最後は人によって確認が行われる。
『大丈夫だけど~、もうちょっと、反応が鈍くてもいいかな~。私にはピーキー』
『なら反応係数は、このくらいでどうかな?』
簪がすぐさま弐式のステータスを変更し、本音が確かめるように機体の手足を動かす。
『うん。良い感じ~』
『分かった。なら、早速始めてみて』
『オッケ~。いっくよ~』
試作装備が起動し、イメージインターフェースが布仏本音のイメージを拾い上げていく。
すると打鉄弐式の前に、水球が生成され始めた。だが持続時間・規模、共に簪が試験した時と殆ど変わらない。
起動率にして±2%程度なら、誤差の範囲でしかないだろう。
だが一度上手くいかなかった程度で、手を休めるような真似はしない。
開発なら、トライ&エラーは当たり前なのだ。
簪の時と同じように、各種パラメーターを変更しながら試験を繰り返していく。
そんな中――――――。
『ん? んん~~?』
試験中の本音が、何やら首を捻り始めた。
『どうした?』
『ん~、なんか、引っ掛かる感じ~』
晶の言葉に、本音は自身でもよく分からない違和感を訴え始めた。
しかし機体ステータスはオールグリーン。試作装備の起動率は相変わらずだが、特におかしな所は見当たらない。
簪が念のため、機体ステータスを再度細かくチェックしていく。
だがそれでも、異常は見当たらなかった。
『どうする? 何か不安を感じるなら、原因が分かるまで一度中断するか?』
設備の整っている学園でなら無理も利くが、臨海学校で何かあれば今後に差し支える。
そう思い晶は中断も視野に入れるが、本音が感じたのは、そういうモノでは無かった。
『ん~とね、違うの。なんか~、こう、もうちょっとで歯車が噛み合いそうな感じ』
『そうか。なら、続けるか?』
尋ねながら、隣にいる簪へと視線を向ける。
『うん。もうちょっと続けてみる~』
パイロットの返答に合わせ、簪も肯く。
そしてこの決断が、布仏本音という少女の未来を決定づけた。
『分かった。何か異常を察知したり危険を感じたら、すぐに言ってくれよ』
『もちろんだよ~』
こうして続行が決定された後も、暫しの間は何も無かった。
起動率は相変わらずの低水準。持続時間も規模も、何もかもが実用レベルとは程遠い。実験室レベルと言い換えても良い。
だがそれが、イコール失敗とは限らない。
変化とは突然に、そして急激に起きる事もあるのだ。
初めに気付いたのは、晶だった。
海上にある弐式を見ていた簪の肩を叩き、尋ねる。
「今、弐式にダミーデータ流してる?」
「え? いいえ。リアルタイムデータですが?」
「そこの数値、おかしくないか? 右上から2番目」
「干渉力、ろ………え!? 60、70、80、90、100、まだ上がるの!? さっきまで、全然だったのに」
戸惑う簪を余所に、変化は続いていく。
試作装備が眠りから目覚めたかのように、各種パラメーターの値が跳ね上がり出したのだ。
2人の脳裏に、暴走という単語が過ぎる。
しかしどの値も、異常値を示している訳ではなかった。
むしろ実験室レベルでしか出ないような、理想値を示している。
そして最後に、晶と簪が最も注目していたパラメーターが更新された。
―――起動率280%
通信で、本音の声が聞こえてきた。
『そっか~。かんちゃ~ん。分かったよ。コレ、こう使うんだ~』
打鉄弐式の右腕が、スッと上へと向けられる。
たったそれだけの動作で、地上100メートルにも達する極太で巨大な水柱が立った。
次いで右手をゆっくりと降ろすと、水柱は水しぶきを上げる事なく、海中へと戻っていく。
更に左手を前に突き出して生成された水球は、僅か1秒で直径10メートルを超え、まるで見えない器に収まっているかのように、安定して空中に留まっている。
『おもしろーーーーい』
そのままステップダンスを踊り始めるの
合わせて、周囲を螺旋状にコントロールされた水が舞い始めた。
先程まで碌に動いていなかった事を考えれば、十分な成果と言えるだろう。
だが試作装備の性能は、こんなものではなかった。
上空に雷雲を作り出し雷を落としたかと思えば、瞬く間に雲を散らして青空に戻している。
自然環境下では、絶対に有り得ない動きだ。
そしてこの時、無邪気に喜んでいる簪を余所に、晶は先の事を考え始めていた。
(………これは、拙いな)
何が拙いって、この性能ならば試作装備の目標である“限定的な気象コントロール”は達成できたと言えるだろう。それは良い。しかしこの成功は、気象兵器という新たな兵器への扉を開くものでもあるのだ。
使い方によっては、巨大兵器やNEXTよりも恐ろしいものになる。
例えるなら恵みの雨も、過ぎれば水害となるように。
故に、晶の行動は早かった。
コアネットワークで束と楯無を呼び出す。
(―――2人とも、今良いか?)
(いいよ。もしかして、今の気象コントロールの件かな?)
(気象コントロール? もしかして弐式の試作装備の? あれがどうかしたの?)
束も楯無も、すぐに用件に気付いたようだった。
察しが良くて、実に助かる。
そして晶は、試作装備試験の成り行きを話した上で、本題を口にした。
(あの装備は抱え込んでおくべきだと思うんだけど、2人はどう思うかな?)
(答える前に、晶がどうしてそう思ったのかを私は聞きたいな)
束の言葉に、晶は素直な思いを口にした。
(おっと。すまない。気持ちが
(なるほど。それなら確かに、今のうちに押さえておいた方が良さそうだね)
(だろう。で、まず楯無に頼みたいのは―――)
続く言葉を、楯無が引き継いだ。
(日本政府と開発元を押さえる事ね)
(その通り)
(任されたわ。でもそうね。技術を押さえるなら、いっそのこと試作装備を運用するためだけの専用機を作った方が良くないかしら? 気象コントロールに悪感情を持たれる事を防ぐ、という目的があるなら、そうした方が効果的だと思うわ)
(考える事は同じだな。そこで束にお願いしたいのは、この試作装備を運用する専用機を仕上げて欲しいってこと)
(オッケー。でもコアとパイロットはどうするの? 流石に、コアの優遇措置まではしないよ)
(日本に出させる。発電衛星で大分美味しい思いをさせてるんだ。この位は呑んでもらうさ。で、パイロットだけど第一候補が布仏本音、第二候補が更識簪かな)
(理由は?)
(詳しくは追加の試験をしてみないと分からないけど、多分この装備、コア適性より装備そのものに対する適性の方が重要になるタイプだ。だから、装備を上手く動かした本音さんが第一候補)
(分かったよ。後で、今回の試験データを頂戴)
(了解だ。で、話が楯無に戻るんだが)
(何かしら?)
(可能な限り速やかに押さえて、カラード所属にして欲しい。横槍が入って泥沼、なんて事態は避けたい)
何せ気象コントロールを可能とする技術だ。
他も獲得に動き出して、競合する可能性は十分にあった。
(あら、かなり本気なのね)
(勿論だ)
(分かったわ。でも多分、大丈夫と思うわよ)
(何故かな? あの装備の有効性を考えれば、手に入れたい輩は多いだろう)
(普通ならね。でも貴方が、私達2人に頼んで事態を動かすのよ。逆らえる人間がいるなら見てみたいわね)
(油断は禁物、というだろう)
(それは勿論よ。どんな巨人も、ちょっとした油断で足元をすくわれる。だけど日本国内、それもIS関連で貴方と
(国外勢力が介入する、という可能性もあるぞ)
(確かにあり得るけど、貴方そんなことされたら、確実にやり返すわよね)
(当たり前じゃないか)
(でしょう。それだけで、並大抵の相手は手を引くわ)
(並大抵じゃない奴もいる。ついでに言うと、使い捨てをけしかけて、漁夫の利を狙う奴とかな)
(そんな事させないわよ。まぁ、すぐにコアを届けてあげる。だから
(何でアンタにそんな事を――――――あ、そうか。
(寂しいに決まってるじゃない。あ、でも貴女は今、晶と同じホテルにいるのよね?)
楯無は今更とばかりに、サラッと受け流した。
既に思いを伝え、幾度となく体を重ねた間柄だ。抵抗感など無い。
それどころか言葉を続け、速やかに反撃を開始した。
(で、臨海学校から戻ってきたら専用機の組み立て作業がある、と。ねぇ晶。愛しい人の作業を邪魔しないっていうのも、パートナーの大事な役割よね。天才様が作業に集中できるように、臨海学校が終わったら、暫く更識家に泊まれば良いと思うわ。未来の当主様が来たら、家の者も喜ぶと思うし)
(ちょっ!?
(あら、何を焦っているの? 貴女は今、晶と同じホテルにいるんでしょ? さぞかし楽しい思いをしてるんでしょうね。だから今度は私の番。何も間違ってないわよ)
ちなみに楯無は、束が織斑先生の部屋に泊まっている事を知っていた。
つまり同じホテルにはいても、自宅にいる時のような、甘々な雰囲気にはなっていないということ。
それを知った上での言葉である。
(いや、間違いだから。良い機体を仕上げる為には、適度な運動とリラックスとインスピレーションが必要なんだよ。つまりパートナーが必要ってこと)
(あら、そうなの? なら仕方ないわね。私も暫くご無沙汰だし、1日置きでどうかしら?)
(ダメ。
(それを言ったら晶が自宅に戻った後は、貴女はずっと一緒にいられるでしょ。だから1日置き)
この後譲らない2人の間で、ちょっとしたバトルが勃発した。
だが苦労するのは、挟まれたハーレム野郎只一人。余人にとっては関係の無い話である。
閑話休題。
そうして話が纏まった後の動きは早かった。
まず更識が日本政府と交渉を開始。
僅か2日という交渉期間で、配備されている量産型ISを1機解体し、専用機化する事が決定される。
本来なら有り得ないスピードであるが、これにはしっかりと裏事情があった。
その事情とは、予算に関わる事である。
というのも軍事予算の増額というのは、とにかく反発を招きやすい。どれだけ正当な理由があろうとも、反発する人間は常に一定数いるのだ。
だが同じ予算増額でも、災害の多い日本で、その被害を減らせる事に予算を注ぎ込むというのであればどうだろうか?
背景事情が読める人間であっても、表立っては反論し辛い。
これに表立って反論するということは、災害の多い日本で、災害の被害を許容するのと同じだからだ。
つまり災害対策という名目で、IS開発に多額の予算を注ぎ込める。
加えて言えば機体の組み立てと調整を篠ノ之束博士が行い、パイロットの育成を薙原晶が行うという情報が持ち込まれた時点で、日本側はこの計画に失敗は無いと判断した。
成功確実なところにしっかりと予算を注ぎ込み、確実に成功させるというのはマネージメントの基本である。
また更識楯無は、過去の失敗―――打鉄弐式開発時に、白式に開発リソースを奪われたこと―――を繰り返す気は無かった。
防御力に優れた打鉄弐式(※1)を、気象コントロール用ISの護衛機としても運用する、という名目で改良用予算を確保しておいたのだ。
実に妹思いのお姉ちゃんである。
次いで、束の行動も実に素早かった。
コアが学園に届いた後、1週間と掛からず機体を仕上げたのだ。
普通はコアを機体に馴染ませ、調整を繰り返すという数ヵ月単位の仕事である。
“天才”の名に相応しい卓越した手腕だった。
こうして生まれた専用機の名は“九尾ノ魂”。専属パイロットの名は布仏本音。
後の世において、“災害対策の切り札”と言われる存在の誕生であった――――――。
※1:防御力に優れた打鉄弐式
本作の打鉄弐式はフルアーマー+ターンブースター+ロケットブースター装備という突撃タンク仕様。
そしてフルアーマー各所には
武装は原作の超振動薙刀“
これに加えて射撃戦で決着がつかなかった場合は、フルアーマーをパージして高速格闘戦機へと変わるという変わり種の機体。
第128話に続く
“公式外伝”ISABでのほほんさんが専用機持ちとなったので、それに合わせて、こちらでも専用機持ちとなってもらいました。
そしてISABの設定は徐々に取り入れていこうかなぁ~と思っているのですが、全部そのまま取り入れるのは流石に難しいので、今考えているのとしては↓のような感じです。
・ISABで出たニューヒロインズは1年生。
・『絶対天敵(イマージュ・オリジス)』の登場については、まだ未定。
というところでしょうか。
流石に、物語を積み重ねた原作ヒロインズと新登場のヒロインズを同格には扱えないのです。(のほほんさんは2年1組にいるので、それなりにブーストあり)