新しいブックフェアの
可能性はどこにある?

 日本の出版社数は約3200社、その中の約8%が売上高10億円以上の会社だが、この8%の会社だけで業界の総売上の80%以上を占めている。TIBFの思い切った挑戦は、本のプロモーションに課題を抱える中小規模の出版社には朗報だったはず。読者への直接販売に手ごたえを感じたことだろう。しかし、残念ながら出版不況の中で大規模な国際ブックフェアを業界として盛り上げていくような余裕がないことは想像に難くない。出版社の興味がTIBFから離れてしまえば、休止に打つ手なしということなのだ。

 国際的な出版ビジネスは海外のブックフェアに出向いて行う傾向が強くなったと書いたが、それ以外にも新しい流れが生まれつつある。

「東京版権説明会」という形式で、中国、台湾、ベトナムなどアジアを中心とした海外の出版社や関連エージェントを日本に招いた版権商談会を、2015年から毎日新聞出版とダイヤモンド社が開始。次第に規模を拡大して、2018年は出版社だけでなく、IT系のベンチャーなど約50社が参加した。

 また、作家個人が出版事業を始め、国際的に版権のやりとりを行うケースも今では珍しくない。そのような流れを見ると、出版社という従来の企業だけが出版産業を支えているとはいえない時代になったと感じる。

 だからこそ、アートや絵本などジャンルや業界といった横つながりで開催するブックフェアだけでなく、縦横につながったTIBFのような総合的なブックフェアが日本全体の出版文化の成熟度を高め、出版をメディア産業として社会が認識するためにも必要ではないかと、樋口さんは言う。

 そして、書協としても国際ブックフェアの開催を諦めたわけではなく、新しい構想をいろいろと考えて関係者と交渉を続けているそうだ。書協の取り組みには期待をするものの、現実的には出版各社が、かなり厳しい経営状況であることは変わっていない。

 日本に国際ブックフェアは不要なのか?もしかしたらその答えを、出版社ではなく、国際ブックフェアの本の山をめがけてやってくる人々に求めることもあってもいいのではないか。その方法のひとつとして、本に熱い思いを抱く人々を主軸にした新しい国際ブックフェアの実現を、クラウドファンディングで呼びかけてみるというのはどうだろう。

 出版社にとっても、一般読者のリアクションを知ることは新しい国際ブックフェアの再開だけでなく、出版産業の本質的な在り方を考え直すことにもつながるはずだ。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)